第51話 そっくりさんとの再会
ベラが道を歩いていると、懐かしい顔を見かけた。学校に通っていた頃の、同級生だった。あの頃と比べて随分たくましい身体になっている。確か、学校を出てからは、家業を継いでいたはずだ。
ベラは、こちらに越してきて、途中から学校に入ったこともあって、彼とほとんど話したことがなかった。だから、今更話しかける気にもなれず、素知らぬ顔で通り過ぎてしまおうと決めた。
ところが、ちょうど彼の真横を通った時、目が合ってしまったのである。僅かな時間が引き延ばされたように感じられた。やがて、相手が目を逸らし、何事も無かったかのように木箱を運び始める。
「魔女と目を合わせるなよ、気が狂うから」
頭の中に、ふと幼い男の子の声が聞こえて来た。騒がしい部屋の中で、自分一人、ぽつんと佇んでいる時の、惨めな、情けない気持ちがどっと押し寄せてきて、ベラは闇雲に走り出した。つま先が痛むのも構わなかった。黒くて重たい
彼女の目の前に人影が現れた。背の高い、若い男。立ち止まろうとしたが、前のめりになってよろける。相手は、それを受け止めた。ベラの顔に、僅かな温もりが伝わってくる。
「大丈夫ですか」
ベラはこの声を知っていた。真っ白になった頭の中で必死に記憶をたぐり寄せる。そう、ダリルの声だ。
男は、肩に手を当て、彼女を立たせてやった。相対してみると、相手は中性的な顔立ちの割に、がっしりとした腕をしていた。
「あ、あの、ごめんなさい」
「いえいえ。こんなところで会えるなんて、きっと運命ですね」
人混みに呑まれないよう、道の端に寄る。一息ついたダリルは、ベラの手を取り、うっとりした顔で囁いた。
「あの日出会った時から、貴方のことが頭から離れなかったんです」
ベラは顔を引きつらせた。アシュリーの元へ会いに行く自分の顔を水面に映したら、きっと今の彼と同じ顔をしていただろうと思ったからである。自分も貴方のことが気になっていた、と話したかったが、勘違いされては困る。
あくまで、私が好きなのはアシュリーよ、
高鳴る鼓動を押さえながら、心の中で唱える。
「良かったら、少しお話しませんか。すぐそこに良いお店があるんです」
少し心配になったものの、特に急ぐ用事がない。それに、目の前にいる青年が、本当にアシュリーの兄弟かどうか、確かめたいという好奇心には抗えなかった。
「是非」
と言いながら笑いかけると、彼は心底嬉しそうに顔をほころばせた。
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