四、銘柄の話

 さて、かくして私は一喫煙者となったわけであるが、煙草には数々の「銘柄」が存在する。まぁこれは一般常識であるから、その幾つかは非喫煙者であっても聞き覚えはあることであろう。マルボロ、エコー、ピース、ラッキーストライク、キャスター、メビウス等、様々である。コンビニのレジ裏に並んでいるのを見ればその種類の多さは一目瞭然である。

 では、私が吸っているのはどれか。選ばれたのは、「セブンスター」であった。通称「セッター」或いは「セッタ」。雪下駄のことではない。バレーも関係がないということは、言うまでもない。シンプルな白黒のデザインで、よく見ると無数の星が散りばめられている。価格は五〇〇円強。私は浮気もせず、セブンスター至上主義を貫いている。

 では、何故?ここで、私と切っても切れぬ軽音楽がまた登場することとなる。喫煙を始めた、といっても、最初は所謂「もらい煙草」が常であった。Tや先輩からお裾分けをしてもらっていたのである。喫煙がそこまで習慣化していなかった私には、自分で買わずともそれで十分だったのだ。が、暫くすると毎回お零れに甘えているのも申し訳なくなってくる。丁度私が申し訳なさに圧迫され、夜も昼過ぎまでしか眠れなくなっていた頃、機は来た。軽音楽部の夏合宿である。

 合宿は長野県の某所のスタジオ付ホテルを貸し切って三泊四日で行われた。詳細は省くが、各々が酒と練習とアルコールに明け暮れ、三日目にライブが執り行われる。そのライブに、「3markets(株)」という聞きなじみのないバンドのコピーが登場した。このコピーバンドは、メンバーが部の大御所で構成されていたため、入部間もないぺーぺーである我々は見逃すことなど出来なかった。して、披露されたのが「セブンスター」という曲であった。衝撃は今でも覚えている。何より大御所陣の演奏力あってこそだが、射抜かれた。幸い、憶え易いバンド名と曲名だったため、本家を見つけるのは容易かった。勘違いしないでほしいが、別に「セッターはマジで美味い」だのという歌ではない。なんなら歌詞内では、「びっくりするほど不味かった」なんて言われている。が、「セブンスター」に魅了されてしまった。結果、他にこだわる理由もない私はセブンスターを吸うようになったのである。もしも曲名が「マルボロ」ならマルボロを吸っていただろう。他の銘柄でも同様であろう。ただその曲に心打たれた、それだけのことであった。あとは星柄がかわいいし~、7って縁起よさそうだよね!程度である。なんとも馬鹿っぽい決断である。ニコチン云々の前に元から脳は委縮していたのかもしれない。馬鹿、万歳。

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