三、ふかしの話

 前項で、私は喫煙を始めた。とは言ったが、初めの頃は、いわゆる「ふかし」をしていたに過ぎない。分かり易く言うならば、煙を肺には入れていなかった、ということだ。口に煙を入れて、暫く口内でそれを味わった後、そのまま吐き出す。一般的に「喫煙者」からすれば、これはあまり格好のよろしいものではない。「ふかしている」と言えば皆が一様に鼻で笑うような代物である。が、しかし、これはこれで悪くないものだ。と、私は思う。口に紫煙を含めば、そこらを漂う空気とは確かに異なる風味を感じられる。その風味が非現実を口や鼻に教えてくれる。「ニコチン」を摂取したいならいざ知らず、十分に「煙草」を楽しむことは出来る。いや、実際、出来ていた。しかも「ニコチン」に身体を蝕まれることもない。勢いよく吸いすぎてむせこむこともない。嗚呼、素晴らしきかな「ふかし」。

 さて、そんな「ふかし愛好家」とも称されかねなかった私が、この「ふかし」を辞め、肺に煙を入れ始めたのは、もう少し後のこととなる。とりあえず、私と煙草の最初の関わりとは、こんなものであった。

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