ニ、始まりの話

 さて、そもそも私が煙草というものを吸い始めたのは何故だったのか、、、。困ったことに、思い出せない。時期ならわかる。記憶が正しければ、去年の春、要は大学に入って暫くした頃であったはずだ。

 ここで、今後の話を分かり易くするために私の境遇を紹介しておこう。私は中学時代に姉の影響で吹奏楽、さらに言えばパーカッション(つまりは打楽器)を始め、メキメキと腕を上げた。そりゃもうメキメキと。が、高校入学後は吹奏楽で培った演奏力を武器に、軽音額に転向した。吹奏楽はしんどいのだ。六年間もやっていられるか。そうして、大学入学後もこうして軽音楽を続けている。言い方を変えるなら、音楽を捨てることが出来ないまま、今に至る。

 そう、そうだ、そうして晴れて大学生の私が入部した軽音楽部の新入生歓迎会かなんかの場で、私は初めての「喫煙」をするに至ったのだ。

 さて、では何故?という話になろう。これは、憶測にはすぎないが、いわゆる、よくあるような「先輩の勧め」というものではなかった。そもそも、大学に入ってきて間もない、フレッシュな「ピカピカの一年生」にいきなり喫煙を勧める先輩などいようか。ましてや未成年である。確か、日本では未成年の喫煙が禁止されているはずだ。私もこの国で暮らして、まだ19年程であるから、そこまで詳しくは知らないのだが。そんな未来ある若者に喫煙を勧める先輩などいようか。いや、いてたまるものか。

では、誰が?当然の疑問である。それは、おそらくは、いや、間違いなく、Tだろう。こんな文に実名などは書けまい。頭文字で呼ぶこととしよう。さながら夏目漱石の「こころ」である。まぁ、Tは自殺などしないが。Tとは、軽音部で知り合った同学年の男である。彼は、大学入学以前から喫煙者という、なんともタイムパラドクスな存在である。異国出身なのかもしれない。今度さりげなく聞いてみようと思う。

 その異国人、もといTは、件の新入生歓迎会でも、さも当然であるかの如く喫煙をしていた。そしてこれも当然だと思うが、新入生で煙草を吸えたのは彼だけであった。幸い、というかなんというか、この部には喫煙者が多かった。が、Tはやはり同学年でそれが自分だけであることに一種の寂しさを感じたのであろう。そこで誘いに乗ったのが私だった。それだけの話である。これは後述するが、私には「煙草」あるいは「喫煙者」に対する嫌悪感というものがなかった。それ故、過去の私がTの誘いに乗ったであろうことも容易に想像できる。かくして、私は晴れて「喫煙者」への一歩を踏み出したのである。まぁ恐らくはここで始めずとも、いずれは肺を汚すに至っていただろうが。運命は収束するのだ。

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