次なる依頼

 無事にクラテル迷宮を攻略した俺達は、少し休憩してからハンターズギルド・クラテル支部へ向かい、報告と買取を行った。

 守護者ガーディアンが終焉種だったことは予想通りでもあったからか、あまり驚かれはしなかったどころか納得されたんだが、さすがに第12階層の海中回廊階層や第13階層の箱庭階層は、階層構成もだが生息してる魔物があまりにも凶悪過ぎるってことで、大いに驚かれたな。

 あと買取だが、クラテル支部はクラテル迷宮に一番近いハンターズギルドだからここ数年は予算も多く支給されてるし、買取した素材も即売れする物が多いこともあって、資金は潤沢だ。

 それでもさすがにAランクどころかOランクモンスターまでいるとなると、さすがに全部は買い取れないと言われてしまった。

 まあ当然の話だし、俺達としてもクラテルで全部を売ろうなんて考えてはいないから、特に問題は無かったが。


 その日は報告を終えてからアルカに帰り、ゆっくりと休ませてもらった。

 この1週間クラテル迷宮の攻略にかかりっきりだったし、MランクやAランクのみならず、Oランクモンスターまで徘徊してやがったこともあって、疲労困憊って感じだからな。

 久しぶりにアルカのベッドで眠れたが、同行できなかったユーリにヒルデ、リカさん、アリアのお相手もあったから、ゆっくり眠れたかどうかは微妙かもしれない。


 そして次の日はベスティアの白妖城に向かい、ブリュンヒルド陛下にクラテル迷宮攻略の報告を行い、迷宮核ダンジョンコアを献上した。

 他にもいくつかの魔物も献上したんだが、あまり多くても困るってことでヴォルテクス・ドラグーンにノーチラス、そしてアビス・フロウの3匹に留めてある。

 もちろんOランクモンスターも素材の一部を献上する予定だが、まだ解体が済んでないからこれは後日だな。

 献上した魔物と同価値の対価、多くの場合は金銭が下賜されるんだが、現在妖都ベスティアはスラムを縮小し、新たに学生街を作っている最中だ。

 この学生街にはトラレンシアの総合学園とMARS施設が建設されてるんだが、ベスティアは1つの島の全域を使い切ってることもあり、開発は遅々として進まず、また予算も予想以上に必要となっている状況らしい。

 特に問題となっているのが、スラムの住人の住居と働き先なんだとか。

 現在も交渉は続いているみたいだが、どうもベスティアに開発余地が無いことはスラムの住人も知っているようで、交渉のたびに条件を釣り上げていっているようだ。

 さすがに横暴が過ぎるってことで、近いうちに強制立ち退きを行うとブリュンヒルド陛下は口にしていた。

 その際にはいくばくかの金銭は手渡すが、ベスティアへの立ち入りも禁ずるとも言ってたな。


 さらに翌日は天樹城で報告を行い、ここでも魔物の献上を行った。

 こっちはリヴァイアサンを含むOランクモンスターの魔石も献上予定だが、クラテル迷宮はトラレンシアにある迷宮ダンジョンだからって事で、量はトラレンシアより少なくなる予定だ。

 ただ、まさかこのタイミングで、新しい迷宮ダンジョン攻略を、それも早期にって依頼されるとは思わなかったが。


「バリエ迷宮ですか?」

「そうだ。旧レティセンシア地方はマナのラピスラズライト天爵家以外にも、いくつかの貴族子弟に拝領することになっている。その中でもバリエ迷宮を含むバリエ山脈一帯は、フォールハイト伯爵家に任せる予定だ」


 ああ、そういや旧レティセンシア地方は旧ソレムネ地方のように独立はさせず、アミスターの一地方として統治していく事に決まったんだった。

 皇都跡地を含む一帯を治めるラピスラズライト天爵家が中心となって、20近い数の貴族家が新たに興り、開発を行っていく。

 もちろん一気にっていうのは無理があるから、まずはラピスラズライト天爵家を含む数家だけになるが、その中の1つがフォールハイト伯爵家に決まったのか。


 フォールハイト伯爵家はミーナの実家で、現当主はフィールのサブ・オーダーズマスターを務めているディアノスさんになる。

 跡取りはレックスさんだが、現グランド・オーダーズマスターでもあるから領地経営どころか開発も難しい。

 だが幸いにも先日、レックスさんとローズマリーさんの間に男児が生まれたから、跡取りについては問題が無い。

 ラインハルト陛下も、その男児 アルバート君を初代領主にするつもりでいるから、それまでは開発というより現状維持でも構わないと考えているみたいだ。


 ただアルバート君が領主に就任するとしても、まだ20年近く先の話になる。

 そこまでの期間放置していれば、バリエ迷宮はまた氾濫を起こすかもしれないし、バリエ山脈という立地と合わせて考えると、コバルディア事変程とは言わないが、それでも数千単位の魔物が旧レティセンシア地方に溢れかえってしまうかもしれない。

 そもそもコバルディア事変の際にバリエ迷宮が氾濫していたかもしれないというのは、あくまでも予測推測の類でしかないし、いつバリエ迷宮が誕生していたのかもはっきりしていない。

 もしかしたらコバルディア事変時には、氾濫を起こしていないっていう可能性もある。

 だから危険は可能な限り早急に排除すべしとして、俺達にバリエ迷宮を攻略してもらいたいんだそうだ。

 俺としても甥っ子が領主になる土地を安全にするためだから、否やは無い。

 さらに今回は、自分の息子のためでもあるため、レックスさんとミューズさんも同行してくれるんだとか。

 さすがに産後間もないローズマリーさんとサヤさんは無理だが、これは当然だ。


「分かりました。じゃあみんなの予定も擦り合わせて、なるべく早く攻略に行けるように調整します」

「すまないな、またしても難事を押し付けてしまって」

「いえ、事情は理解できますし、俺としても領地関係の仕事をしてるよりこっちの方が気が楽なんで」


 これは俺の偽りのない本心だ。

 ミーナも甥っ子のためだから既にやる気を見せているし、他のみんなもフォールハイト家にはお世話になってるから、断ることは無いだろう。

 後はいつ行くかだが、早い方がいいって事だから来月か再来月辺りで調整するか。


Side・ミーナ


 天樹城でラインハルト陛下に依頼された、バリエ迷宮の早期攻略。

 その理由は、バリエ迷宮を含むバリエ山脈一帯を拝領することになる、フォールハイト伯爵家のためでした。

 バリエ山脈にはGランクモンスターも少なくない数が生息していると言われていますし、コバルディア事変の際の迷宮氾濫の影響もあってか、PランクやMランクモンスターも確認されています。

 その一帯を拝領するとなると、小さな村を作るだけでも大変な労力が必要となりますし、防衛力を疎かにしてしまえば一瞬で壊滅してしまうでしょう。

 兄さんは、暇を見て調査や間引きに足を運ぶ予定だと言っていましたし、先月生まれたばかりの嫡男アルバートもしっかりと鍛えると言っていました。


 ですから急を要するというワケではないのですが、コバルディア事変でバリエ迷宮も氾濫を起こしたかどうかは、現時点では確定していません。

 もしかしたら氾濫を起こしていなかったかもしれませんし、そもそもバリエ迷宮がいつ生まれたのかも分かっていないんです。

 普通なら近くの町があり、そこを拠点にハンターが入ることで迷宮氾濫を抑制するんですが、バリエ迷宮は旧レティセンシア地方にあり、しかもバリエ山脈の中腹にあるため、ノーマルハンターでは辿り着くことすら至難の業になります。

 しかも第1階層に生息しているのはTランクとIランクモンスターですし、とても広大な上に環境も厳しいですから、かなり深い迷宮ダンジョンではないかとも予想されています。


「なるほどね。もちろん私は賛成よ」

「マナ様の場合、他人事じゃありませんしね」

「ラピスラズライト天爵領とフォールハイト伯爵領は隣同士になりますし、万が一バリエ迷宮が氾濫を起こしたりしたら、間違いなく影響出ますからね」


 リディアさんとヒルデ様の仰る通り、フォールハイト伯爵領とラピスラズライト天爵領は隣接する予定ですし、迷宮氾濫が起きてしまった場合、進路によってはラピスラズライト天爵領に魔物が雪崩れ込む可能性は十分あり得ます。

 ですからマナ様にとっても、バリエ迷宮は早めに攻略しておきたい迷宮ダンジョンになります。


「それでそのバリエ迷宮ですが、いつ頃行く予定なのですか?」

「それを決めたいんだけど、みんなの予定ってどうなってる?」

「私とアテナは、特に無いですね」


 リディアさんとアテナさんは、特に予定無しですか。

 リディアさんはトレーダー登録もされていますが、お店を開いているワケでもありませんし、アテナさんはハンター登録しかされていません。

 ですから普段は大和さんに同行されるか、もしくは適当な場所で狩りをしていることが多いです。

 似たような理由で、クラフター登録をされているルディアさんも、時間の融通は利くそうです。


「私も事情をお話しすれば、何とか時間は取れると思います」


 フロルラグナ男爵となったフラムさんは、数年後には正式にプラダの代官に就任します。

 今はそのためのお勉強をされているのですが、そのお勉強は現代官のベラノ男爵が見て下さっていますし、フラムさんがエンシェントハンターとして依頼を受けることも想定されていますから、確かに事情をお話しすれば大丈夫でしょう。


「私はヒーラーズギルド次第だけど、今のところハイクラスの妊婦はいないし、特に厄介そうな症状の妊婦もいなかったはずだから、多分大丈夫だと思う」


 真子さんはマタニティ・ヒーラーとしてお勉強中ですし、唯一のエレメントヒーラーでもあります。

 しかもトラベリングという転移魔法も習得されていますから、フィールだけではなくフロートのヒーラーズギルド総本部からも、出産の補助依頼が出される程です。

 真子さん本人もマタニティ・ヒーラーとしてのお仕事にやりがいを感じていますから、ハイクラス以上の方の出産が近かったりしたら、その方が出産されるまで動くことはされないでしょう。

 私達としては凄腕魔導士の真子さんの援護が無くなってしまうと、攻略の速度がかなり落ちてしまうでしょうから、真子さんのセリフにはひとまず安心できます。


「わたくしは、月末ぐらいに纏めて休暇を取れそうです」

「お、ならそれに合わせるってのがベストか」

「ええ、そうね」


 そしてソレムネ地方統制官のヒルデ様は、どうやら月末に1週間ほどのお休みを取ることができるみたいです。

 ヒルデ様もエンシェントヴァンパイアに進化されておられますし、クラテル迷宮攻略に同行は出来ませんでしたから、次のバリエ迷宮攻略には参加されたいと考えておられるようですね。


 ちなみにプリムさんとマナ様ですが、お2人とも予定はどうとでもなると豪語されました。

 マナ様はフィールの代官でもあるのですが、最近は平和ですしユーリ様も学園が終われば帰ってこられますから、今のところは代官としてのお仕事は最低限でも大丈夫だというのが理由です。

 プリムさんはリディアさんと同じくトレーダーズギルドにも登録されていますが、リディアさんと同じ理由で予定は特に無く、しいて言えば子供達のお世話か狩りぐらいしかやることが無いとのこと。


「あとバトラーだけど、次はレックスさんとミューズさんも加わるから、エオスだけだと厳しいわよね?」

「ええ。さすがにクラテル迷宮程の難易度じゃないと思うから、マリサとミレイにも来てもらいましょうか」


 そういえばバリエ迷宮攻略には、フォールハイト伯爵領になるということもあって兄さんとミューズ義姉さんも同行されるんでしたね。

 それにクラテル迷宮攻略の最中、バトラーはエオスさんお1人でしたから、さすがに色々と大変そうでした。

 ですからマリサさんとミレイさんにも同行してもらうというのは、私も賛成します。


「アリスはどうする?」

「ノーマルクラスだと大変だと思うけど、シルケスト・クロウラー達の事を考えると、あの子もハイクラスに進化させておいた方がいいかもしれないわね」

「確かレベル40よね?」

「レベル42だったと思います」


 アリスさんも、ですか?

 確かにアリスさんはレベル42になっていますし、以前召喚契約したシルケスト・クロウラー達もいますから、Sランクモンスター辺りまでなら特に問題無く倒せたはずです。

 それにアリスさんはグラントプスとも契約していますから、獣車の牽引もお任せすることが出来ます。

 あと、これは私達の願望でもあるんですけど、できればシルケスト・クロウラー達を早くグランシルク・クロウラーに進化させてもらいたいです。

 グランシルク・クロウラーに進化させることができれば、安定して光絹を入手することが出来るようになります。

 光絹はエンシェントクラスどころかエレメントクラスでも安心して使用できる布ですから、私達としても凄く助かりますし。


「じゃあマリサさんとミレイ、それからアリスに来てもらうことにしよう。ただ、あんまりバトラーを連れて行くと残ったバトラーが大変になるから、エオスは残ってもらうか?」

「ヴィオラとフィレは学園に同行してるし、残るのがルミナとローレルだけになっちゃうものね」

「ホムンクルス達もいてくれるけどフロートのお屋敷の管理もあるし、確かにエオスは残ってもらった方がいいわね」


 こうして考えると、バトラーってもう少し雇った方がいいと思えますね。

 現在ウイング・クレスト所属のバトラーは9人ですし、普通なら多いぐらいなんですが、フロートやフィールのお屋敷の管理に専属侍女、さらにはアルカでのお仕事までありますから、人数は倍いてもいいかもしれません。

 まあ、そちらは大和さんやマナ様にお任せになるんですけど。

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