第13階層の大浮遊島

 グリフォン・シーザーを倒して1時間ちょい進んだ先に、丸ごとセーフ・エリアになっている浮遊小島があり、その日はそこで野営をすることになった。

 さすがに生粋のOランクが2匹も出てきたもんだから、みんな昂ってて夜は大変だったが……。

 だから翌日の出発が昼近くになってしまったのも、仕方のないことだと思いたい。


 ちなみに本日の探索の成果だが、どうやら浮遊島に生息している魔物の70%はAランクで、残りの30%はPランクとMランクが半々、さらに全体的には1%も無いと思うがOランクも生息しているような感じだった。

 そのおかげでグリフォン・シーザーをもう1匹倒せたから、俺にフラム、ルディア、真子さんは大歓喜だ。

 他に倒したOランクモンスターはO-Cランクのオリハルコン・コロッサスとヴリトラだが、オリハルコン・コロッサスは神金オリハルコンの在庫がほとんど無くなってきているから、これも非常にありがたかった。

 問題なのはヴリトラだが、どうやらこいつは雷系ドラグーンの災害種で、土系ドラグーンの災害種ファフニールとは別種になるようだ。

 なので素材はともかく、魔石は天帝家に献上だな。


「ファフニールに続いてヴリトラか。まさか他の属性の、ドラグーンの災害種もいるんじゃないでしょうね?」

「否定できないけど、いたらいたで倒すしかないんじゃない?」

「まあね」


 真子さんは何か気になってるようだが、アテナの言う通りいたら倒すか、もしくは逃げるしかないのも間違いない。


「それは私も反対しないけどね。それはそれとして、あれ、何だと思う?」

「何だも何も、守護者ガーディアンの間だろ?」

「だよね」


 その日の夕方、俺達は目的地としていた大浮遊島に到着したんだが、その大浮遊島は今までの浮遊島の3倍以上は大きい。

 浮遊島の面積はどれも小笠原諸島と大差ないぐらいだったし、セーフ・エリアのある小浮遊島は南鳥島と同じかそれより狭い感じだ。

 その大浮遊島は、マナが見つけた守護者ガーディアンの間があることからも分かるように、中心部はセーフ・エリアになっている。

 だが何より問題なのは、大浮遊島はほとんど全域が湖になっていたことだ。


「水で出来た浮島?第2階層の瀑布の火山に近いと言うべきかしら?」

「この階層や第12階層のこともあるからおかしいとは思わないけど、まさか空の上にも同じようなのがあるとは思わなかったわ」


 俺もまったく同感だ。

 大浮遊島は、下から見る分には普通の浮遊島と同じだし、小高い山もあるから同じ浮遊島からでも普通の島に見えた。

 なのに近付いてみたら、まさか中央の島以外は全てが湖だったとは思いもしなかった。

 水の通路があるから船は必要なさそうだが、最後の最後まで水かよと思った俺は悪くないと思う。


「とりあえず、セーフ・エリアに行こう。守護者ガーディアンの間もあるんだし、今日はここで野営して、守護者ガーディアン討伐は明日だな」

「了解よ」

「今日もOランクが出てきたし、早く休みたいしね」


 それについても全く同感だ。

 だけど大浮遊島にも魔物が生息してるだろうし、それがOランクモンスターっていう可能性も低くはない。

 ほとんど全てが湖だから、水属性ドラグーンの可能性が一番高いか。

 ああ、浮遊島にドラグーンの災害種が属性ごとに生息してるとしたら、こんな島があってもおかしくはないってことか。


「どうしたの、大和?」

「ああ、悪い。いやな、今まで土と雷のドラグーンの災害種を倒したろ?」

「ええ、どっちも先制攻撃が決まったから怪我とかも無く無事に倒せてるけど、まともに正面から戦ったら面倒なことになってたでしょうね」


 ファフニールもヴリトラも、デカい図体してるから俺達に向かってきてる姿は簡単に確認できた。

 だから先制攻撃が決まったんだが、もしこの大浮遊島に水属性のドラグーンが生息していたとしたら、今度こそ不意打ちを受けるかもしれない。

 水の透明度は低いし、海と違ってこの湖は潜る通路は無いようにも見える。

 しかも小島がいくつか浮かんでいて、そこには森とか山とかがあるようだから、空を飛ぶ魔物が襲ってくることも考慮しとく必要があるな。


「確かにその可能性はありますね」

「というか、大和さんの考えている通り、水属性のドラグーンの生息域として、大浮遊島があるんじゃないかって気がしてきます」

「島の大きさもだけど、この湖もけっこうな深さがありそうよね」


 みんなも同意してくれて一安心だ。

 ただ意見が一致したところで、進まないっていう選択肢は無い。

 守護者ガーディアンの間があるってことは守護者ガーディアンがいるってことになり、この第13階層が最深層ということになるからだ。

 なにせ俺達は、このクラテル迷宮を攻略するために来たんだからな。

 だけど時間も時間だし、今日はあのセーフ・エリアで野営して、守護者ガーディアンとの戦いは明日にしよう。


Side・真子


 さてさて、無事に守護者ガーディアンの間のあるセーフ・エリアに到着して、守護者ガーディアンの確認をしたまでは良かったんだけど、まさか守護者ガーディアンがあれとはねぇ。

 ああ、予想通りこの大浮遊島の湖には、水属性ドラグーンの災害種クエレブレがいたわ。

 大浮遊島に入った直後とセーフ・エリアの直前の2回の襲撃っていうのは、さすがに予想してなかったけど、おかげでクエレブレの魔石は2つ手に入ったことになるから、1つは私達が使えるのが嬉しい。


 だけど今問題なのは、明日戦う予定の守護者ガーディアンね。


「で、どうする?」

「どうするも何も、あたし達は攻略するために来たんだから、戦うしかないでしょう」

「海棲種っていうのも、前例はあるしね」

「問題なのはその守護者ガーディアンが、リヴァイアサンということですよね」


 ここクラテル迷宮の守護者ガーディアンは、O-Aランクモンスター リヴァイアサンだった。

 ええ、O-Aというランクが示す通り、終焉種よ。

 ただヘリオスオーブのリヴァイアサンは蛇じゃなく、プリオサウルスの終焉種になるみたい。


 だけど、守護者ガーディアンが終焉種かもしれないっていう予想は私達もハンターズギルドもしていたし、海棲種っていうのも前例がある。


 私達が驚いたのは、リヴァイアサンの見た目や種族ね。

 プリオサウルスはS-Nランクモンスターで、地球の首長竜とほぼ同じ姿をしている。

 プリオサウルスは、上位種や希少種のプレシオサウルスやエラスモサウルス程首が長いワケじゃないけどね。

 だからリヴァイアサンもそうなんだけど、首は太くなり、逆に胴は細くなっているから、東洋の龍に近い見た目になっていた。

 ヒレからは鋭い爪が生えてることも、龍に見える理由かもしれない。


「ニーズヘッグどころかケートスに匹敵するデカさだな。さすがにあれらに比べたら細いが」

「それでもあれを斬るのは、クラウ・ソラスでもない限り無理ね」


 リヴァイアサンの首回りや胴回りは、エレメントクラスのグランド・ソードでも斬るのは無理だと思えるぐらい太い。

 マナ様の言う通り、クラウ・ソラスの神話級術式マハ・ジャルグでもない限り無理でしょうね。


「倒すだけならマハ・ジャルグを使うけど、みんなは戦ってみたいんだろ?特にプリムとマナ」

「もちろん」

「私は直接終焉種と戦ったことは無いから、この機会にね」


 ああ、そう言えば確かにマナ様って、終焉種と戦った経験って無かったわね。

 本来ならガグン大森林のハヌマーン討伐戦で戦う予定だったんだけど、その直前にサキちゃんを妊娠してることが発覚しちゃったから、当たり前だけど戦線離脱。

 サキちゃんの出産後は飛鳥君と真桜が出張ってくれたし、私と大和君の刻印神器の試し斬りっていう理由もあったから、同行こそすれ直接戦ったことは無い。

 だからこの機会に、終焉種と戦ってみたいってことね。


「私達もレベルが上がってきてますし、もしかしたら進化出来るかもしれませんから、できれば戦いたいです」

「だね」


 リディアとルディアもレベル97になってるから、確かにリヴァイアサンを倒せば進化出来るかもしれない。


「じゃあクラウ・ソラスとアガート・ラムは生成しとくけど、神話級は緊急時以外は使わないようにしとくか」

「ええ。だけどいつでも使えるように、発動待機状態にはしといてよ?」

「それはもちろん」


 アガート・ラムの神話級術式ディアン・ケヒトは光の雨を降らせると言える術式だから、リヴァイアサンには効果が薄い気がする。

 神話級だから倒せることは倒せるだろうけど、時間は掛かるでしょうね。

 もちろんすぐに発動出来るように待機状態にはさせておくけど、速攻性ではクラウ・ソラスのマハ・ジャルグの方が上だから、そこは大和君に任せましょう。


 リヴァイアサンへの対策はひとまずこれで良しとして、明日に備えて今日はゆっくりと休みましょうか。

 ここ数日、野営はセーフ・エリアで過ごせたとはいえ、移動中は常に神経を張り巡らせていたから、みんなヘトヘトなのよ。

 地上や空ばかりか海中まで警戒しなきゃならず、しかも生息している魔物はMランク以上がほとんどで大型種も多かったし、海中通路なんて何度か壊されたこともあった。

 幸い私達は海中に投げ出されることはなかったけど、そういった事態も想定しておかないと、エレメントクラスであってもなす術なく死ぬことになるでしょう。

 水中呼吸の魔法は未だに奏上できてないけど、海中回廊階層なんてのがある以上は必須に近い。

 酸素ボンベみたいな魔導具が作れないかも、帰ったら試してみよう。


「じゃあ今日は、明日に備えてゆっくり休むか」

「ええ。この湖の調査もしたいけど、クエレブレが2匹もいたんだから、まだいてもおかしくないわ。さすがに明日の守護者ガーディアン戦に差支えが出るに決まってるんだから、今日は大人しくしとくべきね」

「はい。英気を養って、リヴァイアサン討伐に備えましょう」


 それは私も賛成。

 下手に湖の魔物に手を出してケガするなんて、バカのやることでしかないわ。

 少々のケガどころか四肢欠損でも私なら治せるけど、決戦前に余計な魔力を使いたくはないし、何より私にとっては、実は初めての守護者ガーディアン戦になるから、ちょっと楽しみなのよ。

 その守護者ガーディアンがリヴァイアサンっていうのは、さすがに想定外だったけどね。


 だけどリヴァイアサンは大きいから、素材もかなりの量が見込める。

 魔石を含めて天帝家と妖王家に献上する必要もあるけど、それでも相当な量になるわ。

 ただ何に使うかってことになると、正直悩むところなのよね。

 他の終焉種の革材も結構貯め込んでるし、そろそろクレスト・ディフェンダーコートを仕立て直してもいいかもしれないわ。

 これも今度、みんなと相談してみましょう。

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