魔石とMARS
ファフニールを倒してから休憩を挟んだ俺達は、第13階層の探索を再開した。
海中から海底まで行ってから海上に戻ったと思ったら、今度はその通路がそのまま空まで延びていて、小さな浮遊島に通じていたから驚いたな。
浮遊島がある以上はそこに行く手段があるってことなんだが、まさか海上に通じてる通路がそのまま海面にまで延びている雲と繋がっていて、しかもその雲が通路になってるとは思わなかったぞ。
何度かそんな雲を見かけたんだが、濃い霧か何かだと思って見逃しちまってたよ。
「雲の通路って、ちょっと考えたら想像できることだったわね」
「同感。何回見逃しましたっけ?」
「覚えてないけど、最低でも3回は確実ね」
真子さんも不覚を取ったっていう顔してるけど、俺も全く同じ気持ちだ。
プリム達は雲に乗るなんて聞いたことも考えたこともなかったみたいだが、俺や真子さんは地球でその手の話はいくつも見て知ってるから、それぐらいは考え付けよって話だろ。
「ってことは、もしかしてあたし達、大回りしちゃってるかもしれないって事?」
「大回りどころか無駄なルートを開拓してる可能性もあるわね。ここが最深層だと仮定してだけど」
本当にその可能性があるんだよな。
それは最深層であっても変わらず、低難易度となるタイプ1
俺達もこないだ、低階層高難易度となるタイプ2
「ですが調査も兼ねてるんですから、結果オーライってことにしませんか?」
「私もそう思います。こう言っては他の方に失礼になりますけど、私達以外のユニオンでは調査もままなりませんし」
「エンシェントクラスのみで、更にオーダーを巻き込んでアライアンスでも組まないと、調査どころか先に進むことすらできないでしょうね」
まあ、確かにそれはあるだろうな。
今回俺達は、エレメントクラス2人にエンシェントクラス8人の計10人で来ている。
プリムとマナが進化したからエレメントクラス4人、エンシェントクラス6人になっているが、それでもここまでの道中は険しかったし、少しの油断が命取りになる戦いもあった。
Mランク辺りなら、例え災害種であってもエンシェントクラスの単独討伐は可能だが、Aランクになると少し厳しくなるし、Oランクだと複数人で当たらないと逆にやられるだろう。
そんな魔物が群れで、しかも前後ランクの同種と共に出てくるんだからたまらない。
だからこの階層を調査するとしたら、今いるエンシェントクラス全員を招集してやっとってとこだろうな。
国防の問題もあるから、そんなことはさすがにできないだろうが。
「で、この雲の先にあるのが浮遊島だけど、また面倒だね」
「本当ですね……」
浮遊島に到着したと思ったら、その島からは雲の通路がいくつも延びていた。
見下ろすと海上だけじゃなく、いくつかは島に延びてるようだし、別の浮遊島に延びてるのも多い。
しかも浮遊島は、見る限りだがそれなりの数があるし、けっこうな大きさもあるように見える。
目的地と仮定してる大浮遊島は見えないが、この階層の広さを考えればそれは当然だし、だいたいの位置もマッピングで予想が付いてるのが救いか。
「『マッピング』。あの大浮遊島はこの辺りだから……行くとしたらここかしら?」
「最短ルートとは限りませんが、それが無難でしょうね」
真子さんとエオスがマッピングを見ながら、進むべき道を決めている。
俺も横から見てみると、確かに2人が選んだ、右から3つ目の通路を行くべきだと思う。
だけどその前に……!
「ルートはそれで行くとしても、その前にまずは!」
「そうね!」
プリムとマナも、それぞれ武器を構えている。
この浮遊島にはフェザー・レオンの異常種でA-Iランクモンスター グリフォン・ロードが、複数生息しているようだからな。
今襲ってきているグリフォン・ロードの数は……8匹ぐらいか。
というか、1匹だけだがO-Cランクのグリフォン・シーザーもいやがる。
「またO-Cランクか。たまたま進化した個体なのか、それとも普通に生息してるのか、判断が難しいわね」
「ええ。だけど考えるのは後。この先がどうなってるかも分からないし、今回も一気に行くわよ、アガート・ラム!」
「心得た」
真子さんは生成したままのアガート・ラムに魔力を流し、スターライト・サークルを発動させた。
刻印神器によって発動しているスターライト・サークルは、スピリチュア・ヘキサ・ディッパーで使うより威力も精度も増しているが、一番増しているのは密度だろう。
光線の大きさも量も、ざっと見ただけでも倍じゃ効かない。
その光線が、次々とグリフォン・ロードを貫いている。
「スターライト・サークルを食らっても生きてるなんて、さすがはA-Iランクってとこかしら?」
「倒そうと思えば倒せるけど、みんなもやりたいでしょ?」
「お気遣いありがと。じゃあ一気にやっちゃおう!」
「賛成!」
倒すだけなら自分だけでも余裕なのに、みんなのアシストに徹することでみんなのレベルアップを図り、戦力を増強させようとか、さすが真子さんだな。
おっと、グリフォン・シーザーはリディアとルディアに取られちまってるし、このままじゃグリフォン・ロードへの攻撃も出来なくなる。
俺は急いで4本アイスエッジ・ジャベリンを生成して、一番奥にいるグリフォン・ロードに向けて放った。
アイスエッジ・ジャベリンは上下左右からグリフォン・ロードに襲い掛かり、2本が直撃。
そのままグリフォン・ロードは息絶えたが、スターライト・サークルの光の渦の中にいながら2本も避けられるとは思わなかったな。
獲物がいなくなると思って焦ったから、そのせいで狙いが甘くなったってとこか。
うん、大いに反省だ。
「姉さん!」
「任せて!」
そしてグリフォン・シーザーは、ルディアの足刃で左の翼を切断されたことでバランスを崩し、そこに
吹き飛ばされたグリフォン・シーザーに、ルディアがアクセリングとフライングを併用して追い付き、ドラゴネス・ソードに
その瞬間氷の刃と雷の刃は粉々に砕け、帯電した氷片がグリフォン・シーザーを包み込む。
そして帯電した氷片が氷の竜の顎となり、グリフォン・シーザーの上半身に噛み付く。
食われたグリフォン・シーザーは、氷の竜が消えると同時に浮遊島に落下し、動かなくなった。
リディアの新しい
何度か見ているが、今までで一番安定してる気がする。
慣れたっていうのもあるだろうけど、これは完成したと言ってもいいな。
俺とアテナの
その辺の魔物なら数匹まとめて飲み込めるんだが、さすがに巨大種相手だと、エンシェントクラスでも魔力が足りないみたいだ。
「不満そうだね、リディア」
「そりゃね。だけど
やっぱりリディアは、グリフォン・シーザーも丸呑みにしたかったか。
ドラグバイト・ブリザードで作り出す氷竜の顎は、最初に双剣に纏わせるグランド・ソードの大きさに左右されるから、そっちを何とかするのが一番早い解決策になるんだが、別々の属性をそれぞれの剣に纏わせるのってけっこう難しいんだよな。
さすがにこればっかりは、慣れてもらうしかないだろう。
「ファフニールに続いてグリフォン・シーザーまで出てきたってことは、この階層にはOランクモンスターも生息してるって思った方が良さそうね」
「そうですね。ただ遭遇率から判断すると、数は少ないかもしれません。だからといって、油断は禁物ですが」
「と言うか、海中だと1ランク上扱いになるから、既にOランク相当の魔物は出てきてるって言えるわね。それも群れてきてる」
マナ、ミーナ、真子さんが言うように、Oランク扱いになる魔物とは何度も戦っている。
だけどOランク扱いと生粋のOランクだと、魔力も強さも生粋のOランクの方が上だし、その生粋のOランクが出てきたのはこの第13階層からだ。
昨日一昨日はOランクモンスターを見なかったが、今後も出てこないとは言えないし、それどころか今日になって2匹と遭遇してるから、むしろ複数で襲い掛かってくるって考えておかないとマズい。
「休憩したいところだが、セーフ・エリアは見当たらないか」
本音を言えば一度休憩を挟みたいし、そろそろ時間も4時になるから、セーフ・エリアがあれば今日の探索は打ち切ってもいいと思ってる。
なのにグリフォン・シーザーを回収しながら周囲の浮遊島に見た限りじゃ、近くにセーフ・エリアは存在しない。
さっき過ごしたセーフ・エリアは、ここからだと1時間ほど海中に戻ったところにあるから、場合によっては今日はそこで野営になるんだが、できれば先に進んでおきたい。
「先に進むのは賛成。休憩したいのも本音だけど、いつまでもここにいたくないわ」
「グリフォンの巣な訳だしな。素材としてはおいしいけど、相手が相手だから俺達も気にする余裕はない。ただMARSのことを考えると、グリフォン・シーザーはもう1匹倒しておきたいんだよなぁ」
「そうだよねぇ」
「気持ちはわかるけど、だからって無理は出来ないわよ?この階層の魔物、Aランク平均ばっかりなんだから」
素材、というか魔石という点で見ると、Oランクモンスターっていうのは喉から手が出る程欲しい。
だけどOランクモンスターは、それが終焉種以外であっても討伐不可能とまで言われてた魔物だから、魔石を有している国は存在しない。
いや、俺達が献上してるからアミスターは持ってるんだが、それでも同種のOランクモンスターを倒したことは、オーク・エンペラーとオーク・エンプレスだけになるし、そのオーク・エンプレスの魔石は天帝国の王権の星球儀に使われてるから、余剰分というのは無かったりする。
俺が考案してフラム、ルディア、真子さんも開発に協力してくれたMARSには、是非ともOランクモンスターの魔石を使いたいんだが、最初の1つは天帝家への献上分になってるから、どうしても2つは必要になる。
だけどOランクモンスターは、出てくるようになったとはいえ単独か下位種を従えてっていうパターンでしか遭遇してないから、今のままだと俺達が使う分の魔石が無い。
だからグリフォン・シーザーにしろファフニールにしろ、もう1匹出てきてくれないかと思う俺がいる。
「それについては、先に進みながら考えましょう。MARSの改良、というかアップグレードは必要だと思うけど、現状でも特に大きな問題にはなってないんだから、焦らなくてもいいでしょう?」
「そうなんですけど、やっぱり作り手としては、改善できるなら早くしたいんですよね」
俺もフラムと同じ気持ちだが、プリムの言う通り現時点でも大きな問題が無いのも間違いない。
それにここに生息しているってのは分かったから、今回手に入らなくてもまた時間がある時に来れば、手に入れることは可能だ。
だから気持ちを切り替えて、今回は攻略を最優先にするとしようか。
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