迷宮の災竜

Side・プリム


 第13階層の攻略を始めてから、もう2日も経ってしまった。

 この階層、他の階層はもちろん他の迷宮ダンジョンと比べても広すぎるわ。

 丸2日探索を行っているけど、マッピングはやっと半分ちょっと埋まったぐらいだし、下りてきた初日に見えていた大浮遊島も今は見えないし。

 浮遊島はいくつか見えるし上陸した島もあるけど、全域がセーフ・エリアになってる島もあれば、逆に魔物が所狭しと生息してる島もあったわね。

 海中も海中で、第12階層と同じく通路が縦横無尽に張り巡らされているのはいいんだけど、まさか本当に海底にまで通じていて、しかも海底都市なんて言える町並みが広がってるとも思わなかったわ。

 その海底都市の一部はセーフ・エリアになっていたけど、大半はサハギンとセイレーンの棲み処になっていたけどね。

 それと海上にも、ちゃんと陸地はあったわよ。

 ソルプレッサ迷宮第7階層みたいな群島だったけど、島ごとに環境が異なっているかと思えば、環境が混在してる島もあったりと、なかなかバラエティに富んでいたわ。

 ただ生息してる魔物は、どの島でも大差なかったわね。

 まあ生息してる魔物はAランクばかりで、最低でもMランクだったりするから、それも当然の話なんだけど。


 だけどそのおかげで全員がレベルを上げているし、あたしとマナもエレメントクラスに進化することが出来た。

 他のみんなもレベル90以上になってるから、何日か籠っていれば進化出来るでしょう。

 実際ミーナ達も、アバリシアへ進軍するまでにはエレメントクラスに進化したいって考えてるわ。

 ただ今回は難しいし、他の迷宮ダンジョンの攻略も依頼されてるから、ここに来るとしてもだいぶ先になると思う。


「なかなか面倒ね。どうする?」

「どうするも何も、進むしかないだろ。面倒なのは事実だけど」


 あたし達は今、野営した全域がセーフ・エリアになっている小島の上から、改めてこの階層を眺めている。

 この小島は4本の海中通路に3本の海上通路が通じているんだけど、あたし達は昨日の夕方、海中通路の1本からこの小島に上陸したし、海上通路もどこに繋がってるかは見えていたり予想ができていたりする。

 残り3本の海中通路が、多分未踏破区画に繋がっているだろうということ以外、全く分からない。

 なにせ海中通路は、場所によりけりではあるんだけど、海底にまで届いているのもあったから。

 まさか海底を獣車で進むことになるなんて、さすがに思ってもいなかったわ。

 まあ、それを言ったら海中もなんだけど、あたし達だって泳いだことぐらいはあるから、海の中がどんな感じなのかは、一応想像は付く。

 だけど海の底ともなると、本当に想像も出来なかったから驚いたわ。


「海上通路だと、あっちの島か。一応未踏破区画だけど、その先がどうなってるかは予想しやすいわね」

「まあ、地図の端だしな。だけどどんな島なのかは気になるし、そんなにデカくもなさそうだから、まずはあの島に行ってみよう」

「マッピングも埋まるし、選択肢は1つ潰せるしね」

「海に潜ってしまえば海上の様子は確認し辛くなりますから、見えるところからというのは賛成です」


 調査も兼ねてるし、まずは海上から探索か。

 あたしもそうするべきだと思うし、誰からも反対意見は出なかったから、今日はあの島を探索して、その後でまた海の中かしらね。


 朝ご飯を食べたあたし達は、海上通路を進み、件の島に上陸した。

 その島は予想通り小さく、しかもマップの南西端だったから、ようやくこの階層の広さが、完全にじゃないけどある程度は予想が出来るようになったわね。


「だいたいでしかないけど、少なく見積もってもアウラ島の半分はあるわね、これ」

「第4とか第12階層とかも広かったけど、さすがにそこまでじゃなかったもんね」

「ええ。ここまで広い迷宮ダンジョンなんて、聞いたこともないわよ」


 アウラ島の半分ということは、トラレンシアの生活圏と同じぐらいの広さということになる。

 ゴルド大氷河もトラレンシアの国内ではあるんだけど、雪と氷に支配された極寒の世界であり、数年前までスリュム・ロードが君臨していたこともあって、開発どころか調査もロクに出来ていないから生活圏とは言えない。

 そんなに広大な迷宮ダンジョンはあたしも聞いたことないし、そもそも存在してなかったはずだから、いかにクラテル迷宮が規格外な迷宮ダンジョンかがよくわかるわ。


「確かに規格外だけど、それは後でだ。今は……!」

「そうね!」


 大和の言う通り、今はそんな考察をしている場合じゃない。

 なにせこの島は小さいとはいえそれなりの大きさはあるし、なによりドラグーンの災害種が生息していたんだから!


「ランクはO-C、種族名はファフニールか……!」

「何属性か分かりにくいけど、災害種っていうだけで厄介だよ!」


 全くね!

 ドラグーンは体色で基本属性が何か判別できるけど、それ以外の属性が使えないワケじゃない。

 と言うか、希少種以上は最低でも1つは基本属性以外の属性が使えたりする。

 ちなみにエニグマ島をねぐらにしていた終焉種ニーズヘッグは、漆黒の体だったから基本属性は闇なんだけど、それ以外だとブレスに火属性が混じってるのが確認できたぐらいね。

 お義父様があっという間に倒してしまったから、他は一切不明なのよ。


 そして目の前のファフニールだけど、体色は黒ずんだ黄色?茶色?

 ともかくそんな感じだから、多分基本属性は土でしょう。

 問題は他に使ってくる属性が何かなんだけど、こればっかりは戦いながら模索するしかない。


「全属性ってことはないと思うけど、それに近いでしょうね」

「なら、全属性だと思っておけばいいだけだ!下手に探りながら戦ったりしたら、どんな被害が出るか分かったもんじゃないからな!」


 確かにね。

 O-Cランクは終焉種O-Aランクを除けば最上位のモンスターズランクになるし、しかもそれがドラグーンともなれば、下手な終焉種より強力でもおかしくはない。

 そんな魔物相手に加減なんてできないし、何より調べながら戦うなんて無理だわ。

 だから短期決戦で倒して、MARSを使って調査をした方がいい。

 MARSはAランク以上の魔物は使えないけど、それは戦闘訓練にであって、魔物の見た目とか能力とかを調べるぐらいなら使えるらしいから。


「アガート・ラム、お願い!」

「心得た」


 真子は刻印神器を生成すると同時にミーティアライト・スフィアを発動させ、ファフニールを閉じ込めた。

 元々Aランクモンスターでさえも動きを封じ、瞬時に倒すことのできるミーティアライト・スフィアは、アガート・ラムで発動することによって終焉種にすら大きなダメージを与える。

 事実ファフニールは、ミーティアライト・スフィアによって左の翼をズタズタにされている。


「クラウ・ソラス、行くぞ!」

「承知」


 さらに大和はクラウ・ソラスを6つの短剣に分離させ、アイスエッジ・ジャベリンを放ち、右前足と右後足を破壊する。

 さらにあたしは熾炎の翼を纏ってセラフィム・ストライカーを放ち、それにマナがスターリング・ピアスターを重ねることで、熾炎と召喚獣の力を宿した槍となる。


 これがあたしとマナの積層魔法マルチプルマジックゲイラヴォルよ。

 真子から教えてもらったヴァルキリーの1人を魔法名にさせてもらったわ。


 だけどそのゲイラヴォルはまだ使い慣れていないから、ファフニールの体ではなく左前足を貫き落とすことしかできなかったのが残念だわ。


「ルディア!」

「分かってる!」

「アテナ!」

「うん!」


 さらにリディアとルディアの積層魔法マルチプルマジックエクストリーム・ディザスターが左の翼と左後足、そして頭部に凍傷と火傷を同時に負わせ、大和とアテナの竜響魔法レゾナンスマジックグランバイト・イラプションの牙が地面に引き摺り落とす。


「ミーナさん!」

「はい!」


 そしてミーナとフラムの積層魔法マルチプルマジックマルチストーム・ブレードがファフニールの首を斬り落とすことで、戦いは終わった。


「先制攻撃が決まったのもあるけど、真子のおかげで思ったよりあっさり倒せたわね」

「刻印神器を使ってくれたっていうのも大きいわね」


 確かにね。

 ファフニールはあたし達に攻撃してくることもできなかったけど、それは真子のミーティアライト・スフィアがファフニールの動きを止めてくれたからで、だからこそあたし達は遠慮なく攻撃に集中できたわ。

 特にあたしとマナ、リディアとルディアの積層魔法マルチプルマジックは、何度か使ってはいるけど、ここまで格上相手に使ったことはなかったからね。

 特にリディアとルディアのエクストリーム・ディザスターは繊細で、2人が全く同じ魔力で魔法を使わないとバランスを崩してしまい、魔法として成立しないどころか発動中でも効果が消失してしまう。

 戦闘中にそんな微細な魔力調整をするなんてとんでもない話だし、普通なら不可能に等しいんだけど、リディアとルディアは双子だからなのか、その辺の調整はそんなに苦労せずにやってるのが凄い。

 実際エクストリーム・ディザスターは、同威力の火属性魔法ファイアマジック氷属性魔法アイスマジックを使い、対消滅だかなんだかの力を利用してるって聞いた。

 確かA級刻印術のマーキュリーっていうのと同じだって話だけど、あたしにはチンプンカンプンだったわ。


「それもあるけどさ、エレメントクラスが4人になってるから、総合火力が段違いになってるのも大きいよね」

「ああ、それは確かにな」


 ああ、確かにアテナの言う通り、それもあるわね。

 エンシェントクラスでも終焉種と戦えるっていうのは証明されてるけど、エレメントクラスはそのエンシェントクラスより魔力も攻撃力もワンランク上だから、相手がOランクとはいえ災害種なら、上手くすれば今回みたいな一方的な戦い方も出来る。


「ただ倒せたのはいいけど、素材としては、特に革材としては微妙になってるわね」

「あ~、確かに」

「仕方ないといえば仕方ないけど、次はもうちょっと何とかしたいわね」

「それこそ余裕があれば、だな」


 ほとんど一方的に倒したファフニールだけど、素材として使えるかと問われると微妙としか言えない。

 全長100メートル以上の巨体だけど両の翼はボロボロになってしまってるし、爪は前足後足合わせても2本ぐらいしかまともなのが残っていない。

 頭部に至っては凍傷や火傷が酷くて、眼球や牙、舌は使い物にならないわね。

 それでも戦いを長引かせると何が起こるか分からないし、しかもO-Cランクっていう最上位に近い魔物が相手ともなればあたし達もケガじゃ済まないかもしれない。

 素材と命、どっちが大切かと聞かれたら、そんなものは後者に決まってるんだから。

 だけどあたしとマナもエレメントクラスに進化したし、リディアとルディアもクラテル迷宮攻略に成功したら進化出来るかもしれない。

 もちろんミーナやフラム、アテナ、そしてエオスも可能性はあるし、今回進化できなくても次回以降ということはあり得る。

 みんなが進化できれば、今より安定して戦えるようになるから、ファフニールが相手でも素材を気にしながら戦えるようになるでしょう。

 あたしの希望的観測だから実際には分からないけど、エレメントクラスの魔力はエンシェントクラスを凌駕しているし、強化魔法による身体・魔力強化の度合いも更に大きくなるから、あながち間違いでもないと思う。


「収納完了。ここは何もなさそうだし、セーフ・エリアに戻って休憩するか」

「いきなりO-Cランクなんてのが出てきたんだし、休憩っていうのは私も賛成」

「あたしも。この先も気を張らないといけないのは分かってるけど、いきなり全開で戦うことになっちゃったしね」


 それはあたしも同感。

 ただでさえこの階層は強力な魔物ばかりだし、ついにはO-Cランクなんていうのまで出てきたんだから、この先にも生息している可能性は否めない。

 だから少し休んでから移動した方が、精神的にも魔力的にも安全に繋がるわ。


 誰からも反対意見は出なかったから、あたし達は一度セーフ・エリアに戻り、30分ほど休憩をすることにした。

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