日緋色銀の武器

Side・フラム


 お昼ご飯を食べて真子さんからのお説教を受けた後、しばし休憩をとってから私達は第12階層の探索を再開しました。

 あっさりと流しましたけど、真子さんのお説教はいつも身に染みますよ。

 それでいてためになるお話もありますから、私達はしっかりと意味を噛みしめて、次の戦闘に備えています。

 ところがその決意に反するかのように、セーフ・エリアを出て1時間ほどは、魔物の襲撃がありませんでした。


「群れで襲ってくることもあるとはいえ、高ランクモンスターばかりの階層だとこういう事もあるってことか」

「差が激しすぎますけどね」


 ルディアさんとミーナさんの言う通りだと私も思います。

 ですが高ランクモンスター、それも異常種や災害種といった存在が頻繁に、それも大群で出てこられても困りますから、ある意味ではバランスがとれているのではないでしょうか?


「いや、それはどうだろうな?」

「数匹とはいえ、災害種が群れてる時点でバランスも何もないと思うわよ?」

「モンスターズランク的に仕方ないんだろうけど、地上じゃ考えられないしね」

「ああ、でもそう考えると、バランスはとれてるのかもしれないわね」


 皆さんの意見もバラバラですね。


「そういえば聞き忘れてたけど、みんな武器の調子はどうだ?」

「問題無いわよ」

「私もです」

「ボクも」


 ここで大和さんが話題を変えられました。

 クラテル迷宮の攻略に備えて、というワケではありませんが、私達ウイング・クレストの武器は日緋色銀ヒヒイロカネ製の物に更新されています。

 大和さんは日緋色刀・天照に、真子さんは魔扇・緋桜に変更済みですが、他のみなさんの武器も完成し、今回が初使用となっているんです。

 ルディアさん以外は同じデザインですから使い勝手は変わっていませんし、そのルディアさんの闘器も基本は同じなので、特に違和感なく使われていましたね。

 新しい武器はまだ大和さんの奥様や婚約者の方のみしか完成していませんが、以下のようになっています。


 プリムさんの斧槍、クリムゾン・ウイング

 マナ様の多節剣、フレアエッジ・ソード

 ヒルデ様の大鎌、スノークリスタル・クレッセント

 ユーリ様の星球儀、エレメンタル・キャッスル

 リカ様の細剣、フレアライト・レイピア

 アテナさんの槍、クリスタライト・スピア

 ミーナさんの長剣、フレアライト・ソード 盾、フレアライト・シールド

 リディアさんの双剣、ドラゴネス・ソードとドラゴネス・ファング

 ルディアさんの闘器、フレア・グラップル

 アリアさんの星球儀、グロリアスター・オーブ

 そして私フラムの長弓、フレアライト・ロングボウです。


 ラウス、レベッカ、キャロルさんの武器は瑠璃色銀ルリイロカネのままですが、こちらもエドワードさん達が鋭意製作中ですし、それが終わればクレスト・ディフェンダーコートの装甲を日緋色銀ヒヒイロカネに更新予定なんですが、日緋色銀ヒヒイロカネは製錬するのも大変ですから、今年中に終わればいいのではないかと思っています。


「使い勝手が変わってないのは、まあ当然の話だよな」

「変える意味も無いしね。ルディアは少し変わってるけど、今の方が使いやすそうだし、それはそれで問題無いんじゃない?」

「ドラグラップルも良かったんだけど、あたしの戦い方だと素材をダメにすることも多かったからね。だけどショートソードサイズとはいえ刀身があれば、首とかを斬り落とすことができるようになるし、素材を無駄にすることもないんじゃないかなって思ったんだ」


 ルディアさんは武闘士ですから、打撃を受けた部分が素材として使いにくくなってしまうことは少なくありませんでした。

 もちろんルディアさんの戦い方が悪いというワケではないですし、武闘士の方には多かれ少なかれあるお話なんですが、それでも素材として買い叩かれてしまうこともないワケではありません。

 ですからルディアさんは、狩りの際はドラグラップルの手甲側面に付けられていた腕刃を多用していたんですが、慣れないと使いにくいのは間違いありませんから、フレア・グラップルを作って頂く際に、思い切って拳の前方に剣身を伸ばして手甲剣として使うように変更されたんです。

 足甲は変わらず側刃のままですが、こちらも向きや長さが変更されていたりするので、ドラグラップルとフレア・グラップルは別物と言ってもいいかもしれません。


「フレア・グラップルの方が、ルディアの戦い方に合ってるかもね」

「爪は無くなってますけど、元々ルディアはあまり使ってませんでしたからね」


 そういえば確かにルディアさんは、あまりドラグラップルの爪は使っていませんでしたね。

 ドラグラップルの爪はフレア・グラップルの手甲剣より細く短いですし、完成した当時は固有魔法スキルマジックグランド・ソードも開発されていませんでした。

 ですからルディアさんは、爪よりも腕刃の方を多用していて、その戦い方が身についてしまっています。

 ですからグランド・ソードを使うようになってからも、爪はほとんど使われていなかったんです。

 それもあってフレア・グラップルは腕刃と爪を廃して手甲剣に変更されることになったんですが、こちらの方がルディアさんは使いやすいようで、今回の攻略でも喜々として使われていました。


「使いやすくなってるなら、それでいいさ。だけど双剣っぽい感じで使えるようにもなってるから、いっそのこと剣術を覚えるのもアリじゃないか?」

「一応基本は父さんから教わってるけど、あたしの性に合わなかったんだよね。だけどこれなら大丈夫そうだから、改めてやってみるよ。だから大和、お願いしてもいい?」


 リディアさんとルディアさんのお父様はバレンティアの侯爵であり、アソシエイト・ドラグナーズマスターを務めておられます。

 それもあってかお2人とも、昔お父様から剣術を教えていただいていたそうなのですが、ルディアさんは剣術より格闘術の方に適性があり、リディアさんも盾を上手く扱えなかったために変則的な双剣術を修めることになりました。

 お父様のフレイアス侯爵は残念がられたと聞いていますが、本人の適性に合わない戦闘スタイルは逆に命を落とすことになりかねませんから、無理に剣術を続けさせようとはしなかったんだとか。


 ですが今ルディアさんが使っているフレア・グラップルは、両の手甲にショートソードが仕込まれているため、武闘士であり双剣士でもあると言えるかもしれません。

 ですから剣術を学ぶことも、決して無駄になることはないでしょう。


「もちろんだ。と言っても手甲剣だと普通の剣術は無理だろうし、俺にはその感覚は分からないぞ?」

「わかってる。基礎は父さんに教えてもらってるから、それと大和の剣術、それとあたしの格闘術を合わせて何とかしてみるつもり」

「俺も一応格闘術仕込まれてるから、それも合わせてもいいかもな」

「そうだね!」


 ルディアさん、新しい戦闘スタイルを考えられるつもりですか。

 私も出来得る限りで協力しますが、私は弓術士ですからあまりお役に立てなさそうなのが残念です。


「格闘術か。武器が使えない状況っていうのもあるんだし、あたしも覚えようかなぁ」

「私もかな。特に私は多節剣だし、接近されたら困るし。今まではみんなのおかげで接近されることは無かったけど、今後もそうとは限らないもの」

「それなら私もです。というか弓術士の私は、マナ様より深刻な問題ですよ」


 プリムさんとマナ様も、格闘術を覚えようと考えていらっしゃいますけど、私も同感です。

 それぞれ斧槍、多節剣、長弓を武器としている私達は、接近されてしまった場合の攻撃手段が乏しく、相手によっては致命的になるでしょう。

 今までは魔物相手でも戦争でも、皆さんがいてくれたので問題は無かったのですが、今後そういった事態が起こり得ないとは限りません。

 ですから私も、今の内から格闘術を覚えておきたいと思います。


「格闘術も良いけど、短剣術辺りも覚えておいて損は無いんじゃないか?刀身は短いけど、グランド・ソードを使えばカバーできるしな」

「確かにそれはアリね。ああ、それならいっそのこと、クレスト・ディフェンダーコートに鞘ごと縫い付けておいた方がいいわ。常に身に着けておかないと、いざっていう時に使えないでしょう?」

「それは良いですね」


 真子さんの案は私達にとって盲点でしたが、クレスト・ディフェンダーコートに短剣を装備させておくのは、確かに良い考えだと思います。

 クレスト・ディフェンダーコートに装備させるとなると刀身は20センチぐらいが限界でしょうし、その程度では魔物を仕留めるのは難しいですけど、大和さんの仰る通りグランド・ソードを使えばその問題は解消されます。

 接近されてしまった場合の保険にもなりますし、体勢を立て直すきっかけにもなるでしょうから、私もできれば所持しておきたいです。


「ならエドに頼んで、日緋色銀ヒヒイロカネで打ってもらうか。とはいえ、今はラウス達の武器を打ってる最中だから、時間はかかるだろうが」

「それは仕方ないですけど、日緋色銀ヒヒイロカネじゃなくて瑠璃色銀ルリイロカネでも大丈夫ですよ」

「エレメントクラスでも瑠璃色銀ルリイロカネは使えるんだから、しばらくは焦らなくても平気だしね。ああ、それならフィアナに頼んでもいいかもしれないわね」

「フィアナって今Sランクだっけ?」

「ええ、そうです」


 フィーナさんの妹のフィアナさんは先日17歳の誕生日を迎え、無事にエドさんと結婚しました。

 そのフィアナさんはクラフターに専念しており、間もなくGランクへの昇格試験を受けられるようになると聞いています。

 クラフターは昇格することで扱える素材が増えていき、金属材も例外ではありません。

 鉄はTランクから扱えますが、Cランクに昇格すると魔銀ミスリルを、Bランクで金剛鉄アダマンタイトを、そしてSランクに昇格すると晶銀クリスタイトを扱えるようになります。

 晶銀クリスタイトを使う合金である翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネ瑠璃色銀ルリイロカネも、Sランクに昇格することで扱えるようになりますから、既にフィアナさんも使用していますし、クラフターズギルドの納品依頼でも高評価をいただいていたはずです。

 ですからフィアナさんが打つ瑠璃色銀ルリイロカネの短剣なら、十分実用的でしょう。


「ああ、それもアリだな。なら帰ったら、エドとフィアナに相談してみるよ」

「お願いね」

「おう」


 全員で話をするのも邪魔になりますから、大和さんからお話して頂く方が良いですね。


「そっちもだけど……」

「来たよ!今度はアイランド・ホエールだ!」

「1匹だけですが、真っすぐこちらに向かってきています!」


 ルディアさんが何かを言いかけたところで、展望席で見張りをしていたアテナさんとミーナさんから魔物襲撃が告げられました。

 今度もA-Cランクモンスターのようですが、1匹だけですか。

 とはいえアイランド・ホエールは全長200メートル近い巨体ですから、それだけでも十分脅威です。


「今度はアイランド・ホエールか」

「群れてないとはいえ、巨体っていうだけで厄介ね。どうやって倒す?」

「グランド・ソードでも真っ二つにするのは無理ね。これが地上ならいくらでも方法があるけど、海中となると……」

「手はあるけど、あの巨体に効くかは微妙ね」

「やってみないと分からないなら、とりあげず試してもいいんじゃありませんか?」


 巨体であっても弱点はファング・ホエール種共通のはずですから、そこを突けば倒すだけならば可能でしょう。

 ただどうやって、という問題があります。

 地上や海上なら手はいくらでもありますが、さすがに海中では手段が乏しいと言わざるを得ません。

 私は海中でも行動できますが、それでも私の武器は長弓ですし、固有魔法スキルマジックタイダル・ブラスターやアローレイン・テンペストも効果は見込めないと思います。

 高ランクモンスターは巨体を有していることも多いですから、新しい固有魔法スキルマジックを考えるようにしないと戦力外になってしまいそうですね。


 ですが今考えることではありません。

 まずはこの場を乗り切り、この階層を突破し、この迷宮ダンジョンを攻略してから、新しい固有魔法スキルマジックを開発することにしましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る