海魔強襲

 第12階層の海中回廊攻略を開始してから、5時間経った。

 発見できたセーフ・エリアは2つあるが、残念ながら階動陣も守護者ガーディアンの間も無かったな。

 ただマッピングは、まだ半分どころか3分の1程度しか埋まってないから、第2階層や第7階層以上の広さがあるのは間違いない。


「回廊は入り組んでるし、まさか上下まであるとは思わなかったよ……」

「俺も思った。確かに深さも相当あるっぽいからおかしくはないんだろうが、実際に遭遇すると面倒なんて話じゃないな、これは」


 だけど何より面倒だったのは、普通の回廊階層とは違って、上下移動まであったことだ。

 獣車での移動だから上り坂だったり下り坂だったりなんだが、それでも立体交差になってる所が数ヶ所あったし、一番ひどいとこはジャンクションとかいう高速道路並の複雑さだったぞ。

 頭おかしいんじゃないかと思ったな。

 なのに魔物はMランクとかAランクばかりだし、Pランクは非常に稀どころかサハギンやセイレーンだけだったからな。

 それも亜人だから1つ上のランク扱いになるから、実質Mランク以上の魔物しかいないと言っても過言じゃねえ。


「お、セーフ・エリアっぽいのが見えてきたよ!」

「やっと3つ目ね。丁度いいし、お昼にしましょうか」

「そうですね」


 展望席で周囲の見張りをしていたルディアが、前方にセーフ・エリアらしき空間が見えたことを教えてくれた。

 うん、腹も減ってきてるし、ここでセーフ・エリアっていうのは正直ありがたい。


「『マッピング』。位置はマップの南東端か。けっこう端まで来たわね」

「ホントだ」


 俺も真子さんの出した地図を見せてもらうと、確かに目の前のセーフ・エリアは南東の端っこだった。

 第11階層からの階動陣はこの階層の中心にあるし、北東側から進んでいたことも考えると、これで東側はだいたい調査を終えたと思ってもいいだろう。

 北東端の一角は調査できていないが、とりあえず後回しにしよう。


「さっきの分岐を右に進めば、西側に出られそうですね」

「そうですね。ですがここが南東の端っことなると、第13階層への階動陣、もしくは守護者ガーディアンの間がどこにあるのかは、全く予想がつかないですね」


 うん、午後からは西側の調査っていうフラムの意見は賛成だし、それ以外の選択肢はほぼ無い。

 だけどミーナの言うように、第13階層への階動陣や守護者ガーディアンの間がどこにあるのかは、本当に予想ができんぞ。


「どこにあるのかは、足で探すしかないわね。って、また来たわ!今度はノーチラスよ!」


 マジかよ!

 Gランクモンスター ワイズ・オクトパスの災害種になるんだが、巻貝を背負った全長数十メートルはあろうかという巨大タコのノーチラスは、はっきり言って相手するのが面倒な魔物のひとつだ。

 さっき1匹倒したが、下手な終焉種より倒すのが手間だったからな。


 ノーチラスが背負っている巻貝は少々の魔法は弾くし、触腕も斬撃にすこぶる強い。

 しかも海の中にいやがることも相まって、俺でも触腕を斬れなかったぐらいだ。

 腹立ったから真子さんと二心融合術を行ってクラウ・ソラスとアガート・ラムを生成して、クラウ・ソラスの神話級術式マハ・ジャルグでぶった斬ってやった。

 まあそのせいで、素材としては使いにくくなっちまって、みんなから怒られてるんだが。

 さすがに今回も同じことはできないから、しっかりと倒し方を考えないとだ。


「うわ!ノーチラスだけじゃなく、クラーケンまでいるよ!」

「ワイズ・オクトパスは群れることもあるけど、さすがにそれがクラーケンやノーチラスとなると、迫力が凄いわね。というか、ノーチラスも3匹ぐらいいない?」

「いますね。しかもクラーケンより前にいますから、必然的にクラーケンの盾になってしまっています」


 面倒な……。

 こうなったらさっきは腹立ったから試さなかったが、今回は打撃系でノーチラスの殻を叩き割ってみることにしてみるか。

 その場合、武闘士のルディアと固有魔法スキルマジックメイス・クエイクを使うミーナが主戦力になるな。

 ああ、エオスのラピスライト・バルディッシュは2丁の手斧だから、エオスにも前に出てもらうのもアリか。

 ただ問題は、クラーケンもノーチラスも全長数十メートルはある巨体だから、直接通路になっているチューブに入ってくることは出来ないことだ。

 武器による直接攻撃をするなら、こっちも海中に潜らないといけないんだが、ウンディーネや水竜のドラゴニュート、ドラゴニアン以外は水中だと動きが鈍るどころか的にしかならないだろう。

 だから魔法で攻撃するしかないんだが、ノーチラスは切断系や貫通系の攻撃に耐性があり、さらに薄暗い海中ということもあって光属性の刻印術も効果が減衰されてしまう。

 当然海中だから火属性魔法ファイアマジック は使えず、刻印術と同じ理由で光属性魔法ライトマジックも使いにくいし、水中の敵に水属性魔法アクアマジックが効くはずないから、攻撃方法はかなり限られる。


「ちっ、あんま考えてる余裕もないか」

「出たとこ勝負に近いけど、対策はあるわ」

「同じく。だけど3匹同時に、しかもクラーケンを従えて出てくるとは思わなかったから、まずはクラーケンを何とかしないとかしらね」


 マナと真子さんは対策アリか。

 いや、俺もちゃんと考えてるぞ?

 だけど真子さんの言うように、さすがに複数のノーチラスが複数のクラーケンを従えてくるっていうのは予想外だったから、まずはそっちから対処しないといけないだろ?


「行きます!」


 言い訳がましいことを考えてる間に、フラムが固有魔法スキルマジックアローレイン・テンペストを放った。

 アローレイン・テンペストは水属性魔法アクアマジック雷属性魔法サンダーマジック闇属性魔法ダークマジックを融合魔法で融合させてるから、海中という環境とは相性が良い。

 とはいえ相手がM-IランクやA-Cランクとなると、さすがに致命傷には程遠い上に足止め程度にしかなっていない感じだ。

 まあ、俺達にとってはそれで十分なんだが。


「せえいっ!」


 そのノーチラスとクラーケンに対して、リディアが固有魔法スキルマジックグランダスト・ブリザードで竜巻を生み出して海流を生じさせ、土と氷の礫を叩き付けていく。

 ノーチラスは自前の殻に引っ込むことで難を逃れているようだが、そんなものを持たないクラーケンは竜巻で動きを阻害されているために避けることも出来ていない。

 いや、ノーチラスの殻も細かい傷が付けられてるし、フラムのアローレイン・テンペストの影響もあってか完全に殻に引き籠れてる訳じゃなさそうだな。


「ルディア!」

「プリムさん!」

「うん!」

「了解よ!」


 さらに真子さんとミーナが念動魔法を使って、クラーケンを1匹ずつリディアの作り出した渦から引っ張り出し、ルディアはフレア・グラップルに装備されている短剣に、プリムはクリムゾン・ウイングに雷属性魔法サンダーマジックのグランド・ソードを使って倒していく。

 通路は基本的に水で出来ているためなのか、斬り裂かれたり貫かれたりしてもすぐに再生しているし、通路内に漏れた海水もすぐに同化してるから、水浸しにならずに済んでいる。

 だからこそ大技も使えてるんだが、そうじゃなかったら戦うことすらままならなかっただろうな。


 おっと、俺も見てるだけじゃなく、ちゃんと迎撃しないとだ。

 ウイングビット・リベレーターを生成して12の翼剣をアイスエッジ・ジャベリンの核として使い、それを全てノーチラスに向けて撃ち出す。

 前回同様殻を貫くことは出来ていないが、今回はあえてアイスエッジ・ジャベリンの先端を面積の広いハンマー状にしてる効果が出ているようで、命中した箇所にはヒビが入っている。

 切断系や貫通系は効果が薄くても、打撃系なら有効ってことは確認できたな。


「やっぱり打撃系か。これが地上、あるいは海上ならミーナやルディア向きの相手なんだけど、さすがに海中だとそういうワケにはいかないのが問題よね」

「そりゃな。だけどやりようが無い訳じゃない。こんな風にな!」


 隣で見ていたマナの言う通りだが、この第12階層じゃ近接戦は厳しい。

 だけど土属性魔法アースマジック氷属性魔法アイスマジックを使えば、強烈な打撃を与えることは不可能じゃない。

 海中回廊階層だから土とかは無いが、魔法としてなら使えるという不思議現象が発生するけどな。

 まあ効果は長続きしないし、威力とかも減衰してるみたいだが。


 それはともかくとして、次に俺はグレイシャス・バンカーを海中に作り出すことにした。

 直径2メートル、長さ10メートルはあろうかという巨大な氷柱は、打撃面に幾本もの翼剣の切っ先が見えている。

 トンネル工事とかで使うような、巨大なドリルを思い起こしてもらえればいいと思う。

 俺はそのグレイシャス・バンカーに螺旋回転を加え、一番手前のノーチラス目掛けて撃ち出した。

 ターゲットにされたノーチラスは避けようとしたが、フラムのアローレイン・テンペストとリディアのグランダスト・ブリザードで動きを阻害されているため、回避運動もままならない。

 ノーチラスに命中したグレイシャス・バンカーはそのまま回転を続け、ついには殻を突き破って本体へと接触する。

 その瞬間、グレイシャス・バンカーは水中だというのに大爆発を起こし、ノーチラスの殻を内側から破壊していく。

 完全に破壊できた訳じゃないが、それでもグレイシャス・バンカーを受けたノーチラスは、ゆっくりと動かなくなり、やがて動きを止めた。


「よし!」

「なるほど、ちゃんと考えてるわね」

「そりゃそうですよ。というか真子さんも、よくこんな海中でスターライト・サークルなんて使えますね」

「確かに相性は悪いけど、本当の意味での深海じゃないしね。それに通路は普通に明るいから、言う程悪いワケでもないわよ?」


 ああ、そういえば確かにこの通路は、地下街とか並に明るいな。

 街灯とかがある訳じゃないから通路全体が光ってるんだろうが、それでも言われるまで気にしてなかったぞ。

 だけど確かにこれだけ明るけりゃ、距離の制限はあるが光属性魔法ライトマジックや光属性術式の効果も思ってるほど減衰することは無いって事か。

 その証拠に真子さんのスターライト・サークルは殻の口に直撃して、ノーチラスを殻の中から熱して仕留めてしまっていた。

 なんか美味そうな匂いが……。


「残る1匹も……うん、終わってるわね」

「やっぱり殻を砕くには打撃系だよなぁ」


 最後の1匹は、ミーナのメイス・クエイクで殻にヒビを入れ、マナのスターリング・ピアスターをヒビの中心部に突き刺して破壊、そして迅雷の翼を纏ったプリムの雷属性魔法サンダーマジックのグランド・ソードでトドメか。


「こんな階層があるとは思ってなかったけど、それでも何とかなるものね」

「階層も問題ですけど、生息している魔物の方が問題じゃありませんか?」

「大和でも斬れないとか、最初は何事かと思ったしね。まあ対策さえできてしまえば、どうってことはなかったけど」


 確かに対策って大事だよな。

 っと、まずは魔物達を回収しないとだ。

 念動魔法で海中に漂っているクラーケンとノーチラスの死体に触れて、インベントリに突っ込む。

 これで良し。


「回収も終わったぞ。腹も減ってきたし、とっととセーフ・エリアに入るとしよう」

「言いたいこともあるけど、まずはお昼ご飯よね」

「反省点もありますからね」


 俺のセリフに真子さんとリディアが続くが、真子さんの言いたいことが何なのかは分かっている。

 最初に遭遇したノーチラス相手に、俺がクラウ・ソラスのマハ・ジャルグを使ったことだ。

 実際はそんなもんを使わなくても倒せたんだが、あの時はノーチラスの後ろからメガロス・レブマっていう魔物の群れが迫ってるのが見えたから、少し焦ってたんだよ。

 プリオサウルスの災害種でA-Cランクのメガロス・レブマは、ヒレは鋭い刃に、尻尾は先端が槍のような鞭になっていて、水属性魔法アクアマジックの他に雷属性魔法サンダーマジック光属性魔法ライトマジックまで使ってきやがった。

 牙も鋭かったし、全長も50メートルはあったんじゃないだろうか?

 そんなメガロス・レブマが8匹もの団体さんでご到着とかって、普通にアホかと思うだろ?

 実際俺だけじゃなく、他のみんなもノーチラスの硬さに驚いてたところでのメガロス・レブマの襲撃だったから、少し浮足立ってたしな。

 まあだからこそ、この後全員で真子さんのお説教を受けることになってるんだが。

 なにせメガロス・レブマは、俺がノーチラスを倒してる間に真子さんのカラミティ・ヘキサグラムで全部倒されてたし。

 ピンチの時ほど冷静にっていうのは父さんにも言われてたんだが、実践するのはすげえ大変だ。

 だからこそ真子さんがご立腹なんだが。

 はい、諦めて怒られます。

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