海中回廊階層

Side・リディア


 クラテル迷宮第8階層へは、第4階層からも飛んで移動を続けた結果、5時間弱で到達することができました。

 海洋階層の第4階層と浮遊群島の第7階層は第2階層以上の広さですから時間が掛かりましたが、それでも1日で第8階層まで来れるということは、クラテル迷宮での素材狩りが行いやすくなるということですから、私達にとっては大歓迎です。


 その第8階層では、日が沈むまでの間にお目当てのグランシルク・クロウラー26匹、ロイヤル・クロウラーを12匹、インペリアル・クロウラーも2匹狩れましたし、シザーシェル・グリズリーを3匹、そしてグリズリーの災害種でA-Cランクモンスター サイスシザー・ファランクスも1匹狩る事が出来ました。

 サイスシザー・ファランクスは無数の鎌が生えた両肩の甲羅から光と氷、そして水の防御膜を生成します。

 防御膜は鎌状で攻撃に反応して砕けるんですが、すぐに新しい防御膜が生成され続けるため、突破するのはエンシェントクラスであっても大変です。

 甲羅から生えている鎌は相手に向かって飛ばすこともできて、それでいてすぐに新しい鎌が生えてくるんですから面倒でした。

 しかもグリズリー種自体が防御力の高い魔物であるため、災害種のサイスシザー・ファランクスは投げ付けてきた鎌も相当に硬く、大和さんの攻撃を以てしても壊すことは出来ませんでしたからね。

 倒した後は壊せるようになりましたが、それでも神金オリハルコン瑠璃色銀ルリイロカネに匹敵する強度や硬度を持っていましたから、上手く加工することができれば補助武器として使えるかもしれません。


 その後は第9階層への階動陣があるセーフ・エリアまで進み、そこで野営をすることになりました。

 セーフ・エリアには誰もいませんでしたし、ここまで来れるハンターは少ない上に顔見知りばかりですから夜番は立てていません。

 時間も時間でしたし、実際誰も来ませんでしたからね。


 そして翌日、午前中は第8階層で狩りをし、お昼ご飯を食べてから第9階層へ移動しました。

 第9階層にはエンシェントクラスであっても危険な毒を吐くデス・クリムゾンが生息していますから、今まで以上に周囲への警戒をしなければいけません。

 ですから第8階層より狭い階層ですが、3時間以上の時間をかけて突破しました。

 もちろん道中では、そのデス・クリムゾンはもちろん、他の魔物も数匹ほど狩っています。


 そして第10階層ですが、以前私達はこの階層を少し探索しただけで帰っていますから、地図はリリー・ウィッシュとホーリー・グレイブが踏破しハンターズギルドに提供したマッピングの物を購入しています。

 第1階層と同じ雪原階層ではありますが、環境的には第10階層の方が厳しく、氷河や雪山、大きなクレバスもありますね。

 魔物もAランクモンスターとMランクモンスターの割合がほぼ半々近くになっていますから、環境的にも魔物的にも既存の迷宮ダンジョン以上の難易度になっているようです。

 時折吹雪いて視界が真っ白になることもありましたから、完全竜化したエオスに獣車を抱えて飛んでもらわなければ、誰かがはぐれてしまったかもしれません。

 生息している魔物が強力ですから、私達も移動中は全方位を警戒していたのですが、魔物にとっては吹雪は慣れているものですから、吹雪の中からでも攻撃をしてくるのも厄介でした。

 幸い真子さんとミーナさんがが獣車ごとエオスに結界を張ってくださっていましたし、大和さんのソナー・ウェーブという探索系の刻印術も水属性の術式ということもあって吹雪の中でも問題なく使えていましたから、完全な不意打ちを受けずに済みましたね。

 ですが私達もかなり気を張りましたから、第11階層への階動陣があるセーフ・エリアに到着した後は、周辺で少し狩りをしてからその日は休むことにしたんです。


 翌日、朝ご飯を食べてから第11階層へと進みました。

 聞いていた通り白妖城を模した城内階層でしたが、全体的に広くなっているようです。

 通常の広さでは狭く、ハンターとしても生息している魔物としても戦いにくいですから、おそらくそれが理由なのだと思います。

 生息している魔物は、事前情報通り亜人、それも異常種と災害種のみでしたが、全ての亜人が生息しているワケではありませんでした。

 生息していた亜人はゴブリン、コボルト、ワルキューレでしたね。

 最上位はM-Cランクのワルキューレ・クイーンですが、迷宮ダンジョン内ということでA-Cランク扱いになるので、逆にS-Iランクでしかないゴブリン・プリンスやゴブリン・プリンセスが異質に感じました。

 ですが、これも事前情報通りでしたが、白妖城モチーフの階層だけあって、広くなっているとは言っても屋外階層程広いワケではありません。

 第10階層からの階動陣は白妖城の入り口でしたが、第12階層への階動陣は謁見の間でしたから、1時間と少しで踏破できています。


 そしてホーリー・グレイブとリリー・ウィッシュが即座に撤退を選んだという問題の第12階層ですが、確かに第2階層の瀑布の火山に近い感じがしますね。

 ですが回廊以外の全てが海で透明度も低いため、いつどこで魔物が襲撃してくるかが分かりにくいです。

 回廊も、どうやらかなり複雑に入り組んでいるようですから、これはもう海中回廊と言ってもいいかもしれません。

 獣車での移動はできるようですから、それが救いでしょうか。


「聞いてはいたけど、本当に面倒ね」

「ええ。水の透明度が低いのも、リディアの言う回廊になってることを考えれば当然だわ。だけどだからこそ、すっごく面倒だわ」

「ここからは地図もないし、手当たり次第に進むしかないな。今夜は最悪、セーフ・エリアの外での野営も覚悟しとかないとだ」

「本当にね」


 そうですね。

 AランクどころかOランクモンスターすら生息している可能性があるこの階層での、セーフ・エリアの外での野営は私達でも避けたいところです。

 ですから先に進むのはもちろんですが、セーフ・エリアの捜索がより優先度が高いと言えます。


「ともかく、進みましょう。今回は攻略が最終目的ですけど、調査のためでもあるんですから」

「そうだね。どんな魔物がいるのかなぁ?」


 ミーナさんとアテナの言う通り、いつまでもここでまごついているワケにはいきません。


「ならこの階層は、獣車で進むことにするか」

「けっこう入り組んでるみたいだし、地図がない状況での高速移動ははぐれる原因になりかねないものね」


 私もそう思いますし、他の皆さんからも反対意見は出ませんでしたから、大和さんはインベントリから多機能獣車を取り出しました。

 普段でしたらジェイドも召喚するんですが、今回は場所が場所ですから、フラムさんの従魔のリドセロス フロウに引いてもらうことになりました。


「大変だけどお願いね、フロウ」


 フラムさんのセリフに頷いたフロウは、ゆっくりと獣車を引きながら進み始めました。


「通路はしっかりしてるし、視界が悪い以外は瀑布の火山と同じね」

「その通路が、まさか透けてるとは思いませんでしたけどね」

「瀑布の火山でも、通路は土で出来てたものね。だけどこの海中回廊は、水を固めた通路って感じがするわ。かといって氷らせてるワケでもないし、迷宮ダンジョン独特の通路って思っておくべきかしら」


 プリムさん、フラムさん、真子さんの仰る通り、第12階層海中回廊は本当に独特です。

 海の中を走る回廊というだけでも前代未聞ですが、通路も下が透けています。

 周囲の水より色が濃くなければ、通路があることすら分からなかったかもしれません。

 まあその場合でも回廊になっていることは分かりますから、おそらく問題無く進めたと思いますが。


「確かにね。回廊階層は他の迷宮ダンジョンにもあるけど、ここは極め付けだわ。クラテル迷宮の深層っていう事を考慮しても、最難関だと言ってもいいんじゃないかしら?」

「洞窟回廊という似たような回廊もありますが、生息している魔物が自在に動けることを考えますと、確かにマナ様の仰る通りでしょう。本当に厄介です」

「あ~、そうなるのか~」

「それってどういう……ああ、そっか。洞窟だと地中に住む魔物が出てくるけど、それって魔物が地面を掘って進むし、洞窟そのものが魔物の動きも制限するんだっけ」


 マナ様とエオスのセリフに、アテナ以外の皆さんは顔を顰められました。

 そのアテナも理解できなかったのは一瞬でしたし、すぐに洞窟回廊との違いに気付いています。


「ああ。それに地面を掘り進む魔物ってのは、それなりの数がいることはいるが、そこまでランクが高くない。もちろん高ランクもいるが、体もデカいから襲ってきてもすぐに分かるし、撃破もそんなに難しくはないな」

「ケイブ・ドラグーンなんて、その最たる例よね」


 確かにケイブ・ドラグーンはそうですね。

 洞窟内という閉所での戦闘になりますが、厄介なのは逃げ場のないブレスや尻尾での薙ぎ払い攻撃ぐらいです。

 なにせ私達は耐えられても、獣車は壊されてしまう可能性が高いですから。

 ところがその攻撃さえ防ぐ、もしくは阻止してしまえば、閉所という空間が逆にケイブ・ドラグーンの動きを阻害することになります。

 爪を振り下ろそうとしても腕が上げられなかったり、牙を剥いて噛み付くために一度首を引いて勢いをつけようとしてもできずスピードがでなかったりと、なかなか踏んだり蹴ったりな状況なんです。

 もちろんケイブ・ドラグーンは地下に生息する魔物ですから、それぐらいは大きな問題にはならないのかもしれませんが、私達にとってそれは致命的な隙でしかありません。

 他にも大型の地中生息種はいますが、どれも似たような問題を抱えていることが多いです。


 ところがこの海中回廊階層だと、洞窟の壁の代わりが海水となり、それは海棲種にとっては障害になることはあり得ません。

 それどころか全方位のどこからでも襲い掛かってくることができますし、能力も十全に使うことが出来ますから、私達にとっても気は抜けません。

 唯一の救い、と言っていいかは分かりませんが、大和さんが得意としている探索系の水属性刻印術が使いやすいため、索敵が地上階層より高精度で行えることでしょうか。


「この階層にドラグーンが生息してるとすると、水棲系のドラグーンになる上にモンスターズランクも上がってるってとこか」

「それに加えて環境が完全にドラグーンの味方になるわね。モンスターズランクによっては、あたし達もダメージを受けるわよ」

「ええ。だから最優先事項は、セーフ・エリアの捜索ね。こんな環境で野営なんて、さすがにやってられないわ」

「同感だ。今日はこの階層で過ごすことも考えておこう」

「分かりました」


 大和さん、プリムさん、マナ様が、改めてセーフ・エリアの捜索を最優先に掲げ、今日はこの階層の調査を優先することも決められましたし、誰からも反対意見は出ませんか。

 いえ、それは当然ですね。

 セーフ・エリアはその名の通りの安全地帯で、Oランクモンスターすら入ってくることは出来ないと言われています。

 今のところ迷宮ダンジョンでOランクモンスターが目撃されたことはありませんが、Aランクモンスターが入ってこれないことは確認されていますし、それが異常種や災害種であっても同様ですから、おそらくはOランクモンスターどころか終焉種でも入ってこれないでしょう。

 ですから安全に過ごすことが出来ますし、窮地に陥ったとしても態勢を整えることはもちろん、安全にエスケーピングを使っての離脱も可能になります。

 ですから迷宮ダンジョンに入る者にとって、セーフ・エリアの存在はすごく重要なんです。


「この階層がどれだけの広さかにもよる……来たわね!」

「あれは……なんだ?『クエスティング』。プログナトドン?モササウルスの異常種か!」

「それが3匹とか、さすがにクラテル迷宮の深層だけあるわね」

「ええ。だけど、まずは倒すとしましょうか!」

「はい!」


 第12階層で初の魔物がモササウルス種の異常種になるM-Iモンスター プログナトドン、それも複数ですか。

 第8階層以降は異常種や災害種でも群れていましたから、この階層もそうだということなんでしょうね。

 それでは改めて気を引き締めて、この階層の攻略を行うことにしましょう。

 まずはプログナトドンの討伐からですね!

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