クラテル迷宮攻略開始
Side・ルディア
4月に入り、いよいよクラテル迷宮攻略に向かう日が近付いてきた。
この2ヶ月間もいろいろあったけど、おめでたいことの方が多かったかな。
2月末に行われたメモリア総合学園の
魔物も異常種とかは出てこなかったそうだし、学生達が入ってくることは事前にハンターズギルド総本部でも告知されてたから、絡んでくるハンターもいなかったんだって。
野営の際に少し揉めたらしいけど、慣れてない子達が途中で寝ちゃったりとか、興奮して寝付けなくて翌日の移動中に寝ちゃったとか、こっちも想定内の問題しか起こってないね。
初回だし、そこは次回以降でちゃんとしてくれればいいかなって感じみたいだよ。
それから3月6日に、ローズマリーさんが無事にヒューマンの男の子を出産したんだ。
アルバートと名付けられたその子はフォールハイト伯爵家待望の跡取りってことで、お父さんになったグランド・オーダーズマスター レックスさんはもちろん、フィールのサブ・オーダーズマスターを務めているディアノスさんも大喜びだった。
もちろん甥の誕生ってことで、ミーナもね。
出産は真子はもちろん、あたし達も手伝ったよ。
8時間ぐらいかかったけど、無事に生まれてきてくれて良かったと思う。
そしてサヤさんも、同妻のローズマリーさんの出産から約3週間後の3月30日に、ラビトリーの女の子を出産した。
サヤさんの出産にはサユリ様も立ち会われたけど、出産はけっこう早くて2時間ぐらいで終わったよ。
サヤさんの子は逆子になりそうだったんだけど、真子が奏上していたブリーチングっていう魔法のおかげで無事に頭から生まれてこれたから、サヤさんもサユリ様も安堵の溜息を吐いてたのが印象的だったな。
女の子はグラスと名付けられてたけど、もちろんこの子も大喜びで誕生を祝ってもらっていたし、あたし達もちゃんと2人それぞれにお祝いを贈ってるよ。
そして4月5日は、大和とリカ様の長男アスマの1歳の誕生日だから、メモリアのプリスターズギルドで天嗣の儀式が行われた。
アスマは
特に天樹魔法は、広大な桜樹園を持つアマティスタ侯爵領じゃ必須に近い
総合学園も、3月21日から3月30日までの春期休暇が終わって4月1日から新年度が始まり、2日には入学式も行われた。
新入生は212人だけど、今年は貴族の子が9人いるみたいだ。
2年生になった1期生にも貴族の子はいるんだけど、確か王族を除くと3人しかいなかったし、全員がアミスター貴族の令息令嬢だから、特に問題を起こすこともなく、話題に上がることも無かったんだよね。
だけど新入生の貴族の子には、どうもバレンティア貴族の令息が2人、令嬢が3人いるみたいで、そのうち2人は問題のある貴族家らしいからちょっと注意が必要だってことで、教師陣が緊張してるって聞いた。
あたしは学園には関わってないから、頑張ってねとしか言えないなぁ。
2年生は本格的なギルド別授業も始まってるから、非常勤講師の真子も月に2~3回ぐらいの頻度で授業を行うことになってるみたいだ。
大和も非常勤講師ではあるんだけど、天爵でアマティスタ侯爵領領主補佐でもあるから、こっちは数ヶ月に1回ぐらいしか授業をしないんだって。
オルデン島とコバルディア跡地の宝樹島の開発計画も徐々に出来てきてるから、クラテル迷宮の攻略が終わったら会議が開かれるって話も聞いてるよ。
学園の新入生貴族が不安要素ではあるけど、入学早々にバカなことはしないんじゃないかなって思う。
だって去年の入学式で、新興国とはいえ一国の王子が退学になり、王位継承権を剥奪された上で幽閉されたっていう事実は公表されてるからね。
しかもその元王子は、幽閉されたことで体を壊して、数ヶ月前に病死したことも発表されている。
実際は病死と偽った処刑なんだけど、一般人はともかく貴族がその裏事情を知らないワケがないから、できれば大人しくしといてもらいたいよ。
そしてアスマの誕生日の3日後の今日、あたし達はクラテル迷宮へ向けて出発する。
メンバーは大和、プリム、マナ様、アテナ、ミーナ、フラム、真子、姉さん、あたし、エオスの10人だよ。
ユーリ様とアリアはまだ学園生だし、ヒルデ様とリカ様は執務があって抜け出せない。
エド達にラウス達、ルーカス達も、それぞれに事情があって動けないし、アプリコット様に至ってはノーマルクラスだから、さすがに同行して頂くのは無茶でしかない。
バトラーはハイクラスが多いんだけど、連れ出すとアルカや各地の天爵邸の管理に支障が出てしまう。
本当はエオスの同行も厳しいんだけど、戦力は1人でも多い方が良いから、無理をお願いしている状況で、マナ様専属のマリサは今回はお留守番なんだ。
だからエレメントクラス2人にエンシェントクラス8人、計10人ってことになったんだ。
まあプリムはレベル97、マナ様もレベル96だから、攻略中にエレメントクラスに進化する可能性はあるし、一番レベルの低いフラムでさえレベル84だから、終焉種の群れでも生息してない限りは攻略できると思う。
道中はエンシェントクラスの全力で駆け抜ける予定だから、さすがに子供達は連れて行けない。
だから申し訳ないけど、子供達はリカ様とフィーナ、それからアプリコット様にお願いして、バトラーにも補佐をお願いしている。
子供達は離乳食が始まってるけど、まだお乳が必要な子ばかりでもあるからね。
朝ご飯を食べてから出発したあたし達は、クラテル迷宮に入ると全員がウイング・バーストとフライングを使い、真っすぐに第2階層を目指した。
いくつかのレイドは見かけたけど、幸いにも魔物に襲われてるようなとこは無かったから、無事に第2階層に到着できたよ。
その第2階層も同じく飛んで移動することで、1時間と少しで第3階層に到着できた。
第3階層もそうなんだけど、第4階層への階動陣前にはアマゾネス・クイーンが陣取ってる場合があるから、いたら倒しておこうって話になってる。
M-Cランクモンスターだから、一度倒したら復活までにけっこうな時間が掛かるんだけど、前に倒されたのがいつかは分からないから、いるかどうかは判断が付かないんだよね。
だけどいるって思っておかないと、あたし達でも無用な被害を受けるかもしれないから、階動陣近くになったらスピードを落として、警戒しながら進んだんだ。
案の定復活してたけど、プリムがフレア・ペネトレイターで突っ込んで瞬殺しちゃったね。
完成した
ああ、あたし達の
あたしも闘器フレア・グラップルを、ちゃんと手足に装備済み。
フレア・グラップルは手甲の腕刃が無くなって拳前面の爪が収納式のショートソードの刃に変更されているんだけど、他のみんなの武具は見た目は
そのまま第4階層に入ってから、丁度いい時間だからお昼ご飯休憩をすることにしたよ。
「ここまでで3時間ちょいか。思ってたより早く着いたな」
「第2階層は広大だけど、火山それぞれに特色があるし、空を飛ぶことでそれを丸っと無視できたのが大きいわね」
思い思いのお昼ご飯を食べながら、第3階層までの行程を思い返す。
大和とマナ様の言う通り、第4階層まで最速で移動できたとしても、4時間から5時間はかかるんじゃないかって予想してたんだ。
その理由は、第2階層の広さ。
第1階層もベスティア並の広さはあるんだけど、それぐらいの広さならエンシェントクラスが全速で移動すれば数十分で踏破できる。
今日は少し吹雪いてたから1時間弱かかったけど、これぐらいは想定内。
第3階層はベスティアの街そのものに近いし、さらにはほとんど一本道だから、ここは30分ぐらいで突破できたよ。
だけど第2階層は、アウラ島の半分ぐらいの広さがある上に多々ある火山ごとに生態系が異なるから、どの火山にどんな魔物がいるかを把握していないと、空を飛ぶ魔物に襲われることがある。
実際、雪に覆われた火山にはコールド・ドレイクやアイランド・ドレイク、アイス・ロックが、砂の火山にはスカイ・スコーピオンが生息してるし、階動陣のある瀑布の火山に生息しているランス・マリーンなんかも一瞬とはいえ空を飛ぶこともできるから、水中からあたし達目掛けて飛んできたりしてたよ。
それに第2階層は様々な環境があるから魔物の種類も多く、だからこそハンターも多いんだけど、その分無茶な狩りをするハンターも少なくないみたいで、何件か助けたりもしたんだ。
「何組か救援は必要だったけど、文句を言ってくる輩がいなかったのは幸いだよね」
「だね。まあよっぽど運が無いと、ノーマルクラスオンリーじゃ第2階層どころか第1階層すら突破できないし、そもそもそんなハンターがここに来るはずないから、ハンターのモラルは高いってことなんでしょう」
「でしょうね。さて、ご馳走様でした」
「ご馳走様。あと30分ぐらい休憩したら行くとするか」
「そうですね。ここも空から行きますか?」
あ、休憩はあと30分ね、了解。
その後はどうするかだけど、ミーナの言う通り飛んでいくのが早いと思う。
だけどこの第4階層も第2階層並に広いし、陸地は階動陣がある小島しかないから、疲れても下りて休憩なんてことは出来ない。
インベントリには天樹製多機能獣車や飛空艇筐体もあるから、それを出せば問題ないんだけど。
「先に進むことを優先するから、ここも省略だな。というか、第8階層までは省略でいいだろう」
「そうね。第8階層にはロイヤル・クロウラーやインペリアル・クロウラーがいるから、今日はそこで狩りをしつつ、セーフ・エリアで野営ってことになるでしょう」
「階層の広さから考えても、それが無難ですね」
まあ、そうなるよね。
第8階層は森林階層になっていて、そこにはN-Iランクのロイヤル・クロウラーとA-Cランクのインペリアル・クロウラーが生息している。
どっちもクロウラー種で、ロイヤル・クロウラーは王絹布の、インペリアル・クロウラーはその上の帝絹布の素材となる糸を吐くから、遭遇したい魔物ランキングの上位にランクインしているよ。
高値で売れるのはもちろんだけど、何よりあたし達の普段着とか下着とかに使うから、絶対に欲しいんだ。
「私としては、シザーシェル・グリズリーの肝も欲しいところね」
「ああ、ノーブル・ポーションの材料なんだっけ」
「ええ。しかもシザーシェル・グリズリーは異常種だから、それの肝を使ったノーブル・ポーションは回復力だけならエクストラ・ポーション以上になるし、欠損の回復の条件もけっこう緩和されるらしいのよ」
へえ、そうなんだ。
ポーションの名称は、分かりやすいように回復魔法と同じ名称が用いられている。
だからノーブル・ポーションは、その名の通りノーブル・ヒーリングと同等の回復力を持っているんだけど、それでも部位欠損は素材となるグリズリー種のランクに左右されるらしい。
通常種の肝だとほとんど無理で、上位種でも治せたらラッキー、希少種の肝でようやく3割程度になるんだって。
異常種の肝を使ったノーブル・ポーションは過去にも数本程度しか出回ったことが無いらしいけど、それでも半々ぐらいの確率で欠損を治癒できるようになるらしいから、魔力が尽きそうな時の保険として、ヒーラーの真子からしたら是非とも確保しときたい素材になるみたいだ。
まあ真子はエレメントヒーラーだから、魔力が尽きるなんてことはほぼないと思うけどさ。
「贅沢を言えば災害種の肝が欲しいけど、目撃例も無いし、そこまで高望みはできないしね」
「いないとも言い切れないというか、いてもおかしくはないけどね」
まあ第8階層にはAランクモンスターも生息してるから、A-Cランクになるであろうグリズリーの災害種がいる可能性はあるよね。
なら第8階層に着いたら、クロウラーはもちろんだけどグリズリーも探してみよう。
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