迷宮の進化種

Side・真子


「なるほどねぇ。じゃあAランク守護者ガーディアンの復活までの期間が本当に半年なのかどうかは、もう一度確認に行くしかないってことね」

「誤差もあるはずですから、一度だけじゃ判断はできないでしょうけど、目安にはなるでしょうね」


 大和君達がソルプレッサ迷宮から帰ってきた日の夜の食後、私達は今日の出来事を本殿2階のリビングで話し合うことにした。


「そりゃね。だけどハンターズギルドも、なかなか上手い手を使うわね。エンシェントクラスがいるユニオンに情報を流して、適度な調査と討伐を任せるなんて。いえ、ゴールド・ドラグーンの素材は魅力的だから、競争率は高そうだけど」


 マナ様の言う通り、自主的に調査や討伐に行く分には、ハンターズギルドも報酬を出す必要が無い。

 しかもゴールド・ドラグーンは全属性のドラグーンであり、そんな魔物は現時点では他にいないから、狙ってるユニオンは多いでしょう。

 全長20メートル弱の大きさだから、1匹でも十分な量の皮材を入手できるんだけど、エンシェントクラスが在籍しているユニオンは10以上あるし、リッターにも数十人はいるから、本当にしばらくは争奪戦になりそうだわ。


「クラテル迷宮第12階層以降の魔物次第、ってとこはあるでしょうね。とはいえ第10階層は雪原、第11階層は城内階層、第12階層は海中階層だから、出てくる魔物が偏ってるのが問題かしら」

「クラテル迷宮の場合、何階層まであるかによりますよね」


 プリムとミーナが言うように、クラテル迷宮の階層次第っていうのは間違いないわね。

 第13階層以上ある場合、どんな階層なのかも問題だけど、存在していればAランクモンスターの巣になってるのは確実。

 その場合、ドラグーンの希少種や異常種はAランクだから、生息している可能性は高いと言える。


 あ、そう言えばゴールド・ドラグーンの異常種って、確認されたことがあるのかしら?


「そういえばちょっと気になったんだけど、ゴールド・ドラグーンって希少種でしょう?それの異常種っているの?」

「ゴールド・ドラグーンの異常種、ですか?いえ、聞いたことないですね」

「あたしも無いわね。マナは?」

「いるっていう噂は聞いたことあるけど、どこの迷宮ダンジョンだったかしら?アミスターじゃなかったとは思うんだけど」


 いることはいるのか。

 ドラグーンの進化って他の魔物以上に多彩で謎が多いから、確信が持てなかったのよね。


「いることはいるんだ。なんて名前なの?」

「確かエレメンタリー・ドラグーンじゃなかったかしら。噂でしかなかった気がするから、もしかしたら違うかもしれないけど」


 エレメンタリー・ドラグーンか。

 てっきり金属系、特に神金オリハルコン辺りが付くと思ってたけど、そっち系にだったとは思わなかった。

 だけど確認されてるかどうかも微妙な存在らしいし、マナ様も何年も前に聞いた噂でハンターズギルドにも記録が無いみたいだから、ちょっと不安そうね。

 ただいるとしたら迷宮ダンジョンの深層なのは間違いないから、確認するだけでも結構な時間が必要だわ。


迷宮ダンジョンは多いし、どこにいるのか全く予想できないわね」

「攻略済みの迷宮ダンジョンは除外できるけど、未攻略の迷宮ダンジョンも結構な数がありましたよね?」

「あるな。確か20近い数があったと思う」

「新しく生まれた迷宮ダンジョンも含めたら、もう少し増えるかもね」


 未攻略の迷宮ダンジョンは少なくなってきているけど、それでもまだ20近くあったのか。

 その中にはクラテル迷宮やガグン迷宮、バリエ迷宮も含まれているけど、ほとんどは高階層型の迷宮ダンジョンだったはず。

 あとは未確認、未発見の迷宮ダンジョンだけど、そっちを含めたら多分30近くにはなりそうね。


「さすがに20近くもある中から、エレメンタリー・ドラグーンがいるかどうかを調べるのって、手間どころの話じゃないよねぇ」

「さすがにね。ドラグーンって、大抵の迷宮ダンジョンに生息しているもの」

「いない迷宮ダンジョンもあるけど、それって守護者ガーディアンもPランク、稀にMランクになるかどうかってところだもんね」

「ええ。Aランク守護者ガーディアンのいるところなら確実に生息しているけど、それこそ最深層までいかないと分からないしね」


 そうよねぇ。

 迷宮ダンジョン1つを調査するだけでも数日から、場合によっては1ヶ月以上もかかるのに、それが10以上、しかも数が増える可能性まであるとなると、調べるだけでどれぐらいかかるか分かったもんじゃないわ。

 調査だけにかかりっきりになるワケにもいかないから、年単位になるでしょうね。

 さすがに迷宮ダンジョンに専念するのは無理だし、他のユニオンも依頼であっても受けないんじゃないかしら?


「ねえ大和、クラテル迷宮だけじゃなくて、ガグン迷宮とバリエ迷宮の攻略依頼も来てたよね?」

「来てるぞ。ただクラテル迷宮は若い上にハンターも多く入ってるから氾濫の危険性は低いし、ガグン迷宮とバリエ迷宮は氾濫を起こしたばかりだから、緊急性は特に高くはないが」

「ああ、そういえばそうだったっけ」


 確かに依頼されてはいるけど、明確な指名依頼っていうワケでもないし、どちらかと言うと要請って言うべきかしら。

 緊急性が高かったらとうに攻略しているか、アライアンスで攻略に挑んでるかでしょうからね。


「それに緊急だったら、ラウス達にも声がかかりますよね」

「そりゃね。ああ、それで思い出したけど、確か迷宮ダンジョン実習って明日からよね?」

「え?そうなの?」


 ええ、マナ様の言う通り、総合学園の迷宮ダンジョン実習は明日からの予定よ。

 日程は3泊4日、王族も全員参加を希望してるから、オーダーズギルドからもアソシエイト・オーダーズマスター ミランダさんが同行するわ。

 予定じゃ第10階層までだけどラウス君達もいるワケだから、異常種や災害種がいたとしても、何の問題もなく討伐してくれるでしょうね。


「王族は全員参加するのか。それって強制じゃなくて希望したのよね?」

「そう聞いてるな」


 私もそう聞いてるわね。

 変に不参加って言われると、学園内の警備や護衛を別途手配しないとだったから、これはこれで助かったわ。

 今回の迷宮ダンジョン実習に参加する学生は予想より少ない73人だけど、引率の教師が3人、護衛のオーダーがミランダさんを含めて12人、同じく護衛依頼を受けたハンターが9人の計97人だから、オーダーズギルドの多機能獣車は2台使用することになっている。

 そう考えると、人数的には丁度良いわね。

 だけどいつまでもオーダーズギルドの多機能獣車を借りるワケにはいかないし、できれば複数台より1台での移動の方が学生達の安全に繋がるから、大型の多機能獣車辺りを寄付でもしてもいいかもしれない。

 まあ、それについてはゆっくりと考えましょう。


「確か迷宮ダンジョン実習って、フロート迷宮でしたよね?」

「ええ。第10階層までの予定よ。4人もエンシェントクラスが同行するから、勝手な行動をしなければ命を落とすようなことはないでしょう」

「ラウス達のライセンスも公表されましたからね」


 うん、確かにね。

 フロート迷宮は全18階層の攻略迷宮ダンジョンで、出てくる魔物も低ランクばかりってこともあって、エンシェントクラスなら単独での攻略も容易だったりする。

 だから私達は行ったことが無いんだけど、第3階層まではIランクモンスターまでしか出ないし、第10階層でもBランクモンスターの生息数は少ない低難易度だから、新人や駆け出し向けの迷宮ダンジョンとして賑わっている。

 だから戦闘経験の少ない学生達であっても、よっぽどの無茶をしない限りは、低階層で命を落とす危険性は低いの。

 もちろん稀に進化種が出ることはあるけど、そのために護衛としてオーダーや雇われたハンターが付くわけだから、勝手な行動をしない限りは大丈夫だと言えるでしょう。

 怪しい子達はいるけど、前に大和君がきつく言い聞かせてるし、次にやらかしたら問答無用で退学だとも伝えているから、今回は大人しくしてると思いたいわ。


迷宮ダンジョン実習ってさ、結局は迷宮ダンジョンの魔物を狩るんだよね?」

「それがメインではあるわね。セーフ・エリアでの野営もあるけど、確か1日は、セーフ・エリアの外での野営も経験させるはずよ」

「ああ、レベッカがそんなことを言っていましたね。夜番はセーフ・エリアの中でも外でも必須ですけど、大した魔物はいないから寝落ちするかもしれないと言っていました」

「いや、それはそれで大問題だからな?それにレベッカには大した魔物じゃなくても、学生にとっては大した魔物だらけなんだから、もし夜番で寝落ちなんかしたら、普通にペナルティもんだからな?」


 そりゃそうでしょ。

 フロート迷宮第10階層までなんて最高でもBランク、稀にSランクモンスターが出るかどうかって話なんだから、エンシェントクラスからしたら片手間で狩れる魔物でしかない。

 だからレベッカが油断しきってるワケだけど、ノーマルクラスで更にレベルも20前後でしかない学生達にとっては、Sランクどころか個体によってはIランクモンスターでさえ脅威になる。

 セーフ・エリアの中なら襲われる心配はないけど、セーフ・エリアの外でも野営をするのなら、いくら護衛がいるとはいえ、学生達にとっては緊張で眠れない夜になってもおかしくはないわ。

 だから最大戦力の1人になるレベッカが、もし本当に寝落ちなんかしたら、大和君の言うようにペナルティを科さないと示しがつかないわ。

 それでも少々のペナルティは無意味だから、特別に考えないといけないけど。


「さすがにレベッカも理解していますから、大丈夫だと思いますよ。本当にそんな真似をしたら、どんな罰が待ってるか分かりませんからね」

「そりゃ師匠として、あたしが許さないわよ。もしそんな真似したら……さて、何をさせようかしらねぇ?」


 うん、直接の師匠になるプリムとしても、そう言うわよね。


「おっかないなぁ。でもプリムがそんなこと言ってるって知ったら、レベッカも絶対に寝ないでしょ」

「だよね。ボクだっておっかなくて、そんなことできないよ」


 そりゃそうよね。

 私だって許さないわよ。

 だけどレベッカだって、口では文句を言ってても必要なことだってことは理解してるから、夜番で手を抜くことは無いでしょう。


「あ、そういえばフロート迷宮は、確か第15階層が雪山階層になってて、スノー・ドロップがいるって聞いたことあるわ」

「マジで?」

「ああ、そういえばいるわね」


 へえ、フロート迷宮には、スノー・ドロップが生息していたのか。

 どこかの迷宮ダンジョンに生息してるのは知ってたけど、その1つがフロート迷宮だったとは思わなかったわ。


 スノー・ドロップはマイライト山脈にある常雪山に生息している鹿型の魔物だけど、雪が無いとすぐに火傷をして、素材としては使い物にならなくなるほどデリケートな魔物でもある。

 だけどお肉は、Bランクモンスターとは思えない程美味しく、冬のフィールの名物にもなっているわ。


 だというのに、フロートではスノー・ドロップの素材はほとんど出回っていない。

 その理由は、マナ様が教えてくれた。


「ただ第15階層っていう深層に生息しているし、フロート迷宮も屋内階層以外はけっこう広いわ。それに第12階層は坑道階層で獣車も使えないから、辿り着くのに日数がかかるのよ。あとその坑道階層には、各種のパペットがいるの。アイアン・パペットはもちろん、ミスリル・パペットにクリスタ・パペット、アダマン・パペットもいるわね」


 うん、アミスターは魔銀ミスリル晶銀クリスタイトの産地で、金剛鉄アダマンタイトが採れる鉱山もあるけど、それらの体を持つパペットが生息している坑道階層がスノー・ドロップが生息している雪山階層より浅かったら、そりゃそっちで狩りをするハンターの方が多いわよね。

 しかも第13階層と第14階層は屋内階層みたいだから、獣車を使うこともできないっていうのも敬遠される理由でしょうね。


「ヘイル・ディアスはいないのか?」

「スノー・ドロップ自体の生息数が少ないらしいから、ヘイル・ディアスは稀にしか見ないらしいわ。希少種のホワイト・ティアーに至っては、一度も目撃されてなかったはずだし」


 G-Rランクは一度も目撃されておらず、S-Uランクでさえ稀となると、行くとしたら本当にスノー・ドロップ狙いのみになるわね。

 さすがにそれなら、別の迷宮ダンジョンを探した方がいいわ。

 確かブルガル迷宮の深層のどこかに、ヘイル・ディアスやホワイト・ティアーがいるって話だったから。


 まあ行くかどうかは分からないし、行くとしてもだいぶ先になると思うけど。

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