攻略予定と王侯寮建築
Side・ユーリ
2月になりました。
フィールやプラダの拡張工事は順調に進んでおり、既にフィールは以前の1,5倍以上の規模になっています。
プラダの方も、既に小さな村であった面影はなく、今では海路を結ぶ重要拠点となっており、常に人で賑わっています。
プラダからフィールに足を運ぶ者はさほど多いワケではありませんが、フィールは鉱山の街であり、同時に鍛冶の街でもありますから、訪れるハンターは増えているようですね。
とはいえ、それだけでは領地の特色としては弱いですから、領主としては他にも何か考えたいところです。
ですが今は、別の問題を優先する必要が出てきました。
「クラテル迷宮の攻略、ですか?」
「ああ。ホーリー・グレイブとリリー・ウィッシュが合同でクラテル迷宮の攻略に挑んだんだが、第12階層に到達した時点で諦めたそうなんだ」
第12階層まで到達していたとは、さすがはホーリー・グレイブとリリー・ウィッシュですね。
ですがそんな彼らをもってしても攻略を諦めるような階層があるとは、さすがに驚きです。
「そうなのですか?」
「ええ。第11階層は白妖城を模した階層で獣車も使えないそうなんだけど、生息している魔物は異常種や災害種のみとはいえ亜人だけだし、何よりそんなに広くないそうだから、踏破に時間はさほどかからなかったらしいわ」
クラテル迷宮第3階層がベスティアを模した階層ですから、トラレンシアの王城たる白妖城を模した階層があってもおかしくはないのかもしれませんが、それでも第11階層という深層でというのは想定外です。
魔物が亜人のみ、広さも第3階層より狭いということのようですから、それが救いではありますか。
「そして問題の第12階層だが、どうやら海中階層らしいんだ」
「……えっと、仰っている意味が分からないのですが?」
大和さんの説明は、本当に意味が分かりませんでした。
海中ということは、海の中ということでしょう。
ですがそれでは、ウンディーネや水竜のドラゴニュート、ドラゴニアンでもなければ活動できないのではありませんか?
「それについてなんだが、どうもチューブ状の通路が網の目のように走ってるらしいから、獣車での移動はできるみたいだ。第2階層の瀑布の火山に近い感じらしいぞ」
チューブ状の通路に網の目、ですか?
獣車での移動ができるのは不幸中の幸いだと思いますが、それではまったく意味が分かりません。
第2階層の瀑布の火山に近いということですから、なんとなく想像はできますが。
瀑布の火山に近いということは、海の中に入ることもできるということでしょうが、確かあまりにも深いと、圧力が凄いのではありませんでしたか?
「ああ、水圧か。確かにそれは気にしないとだが、進化してれば特に問題はないらしい。まあ場所が場所だから、水中戦を行うのはウンディーネや水竜のドラゴニュート、ドラゴニアンぐらいだと思うが」
まあ、それはそうでしょうね。
それにしても、まさか第12階層がそのような階層だったとは、さすがに考えたこともありませんでした。
そういえば、第12階層の魔物は確認しているのでしょうか?
「大和さん、魔物は何がいたんですか?」
「海棲系の3種ぐらいしか確認できてないそうだけど、PランクからMランクってとこみたいだな。フォートレス・ホエールらしき魔物もいたらしいぞ」
リディアも気になったようで先に聞いてくれましたが、モンスターズランクは思ったより低い感じがします。
もちろん全てではないでしょうし、水棲の魔物は水中にいる場合は1つ上のランク相当とみなされますから、MランクからAランク相当になり、階層に見合ったランクであるとも言えます。
おそらくですが、Aランクモンスターも普通に生息しているでしょう。
分かっていたことですが、本当に難易度の高い
「面倒な
「そうですね。その場合、第13階層以降がどんな感じの階層なのか、見当も付きませんよ」
「同感ね。生息してる魔物全てがAランクとか、下手したらOランクモンスターが普通にうろついてる階層とかも出てきそうだわ」
プリムお姉様、ミーナ、真子も頭を抱えていますが、本当にその可能性が低くないと感じられます。
もちろん第12階層で終わりという可能性もあるのですが、クラテル迷宮ができるまでは、第1階層からBランクモンスターが跋扈している
「で、大和としては攻略するつもりなのよね?」
「その方がいいだろうな。第5階層にシルケスト・クロウラーやグランシルク・クロウラーがいるからエンシェントクラスは頻繁に入ってるし、だからこそ迷宮氾濫は無いだろうけど、ここまで難易度やモンスターズランクが高いと早めに攻略しとかないと、万が一の場合が怖い」
「まあね。だけど学生達は春の長期休暇まで動けないし、ローズマリーさんの出産も近いから、時期によっては私も動けないわよ?」
「ああ、そういえばローズマリーさんの予定日が近いんだったっけか」
そうですね。
ローズマリーのお腹の子はグランド・オーダーズマスターの第一子であり、フォールハイト伯爵家待望の跡取りです。
ですがローズマリーもエンシェントオーガに進化しているため、ハイヒーラーであっても出産の立ち合いは厳しいものがあります。
ですからエレメントヒーラーでもある真子が、指名依頼という形でローズマリー、そして同妻であるエンシェントラビトリー サヤの出産に立ち会うことになっているのです。
ローズマリーは今月末が、サヤは3月末が予定日となっていますから、少なくとも2人が出産するまで真子は動けません。
大和さんと同じエレメントヒューマンの真子の不参加はかなりの戦力ダウンですから、攻略に行くとしたら2人の出産後にせざるを得ないでしょう。
「サヤさんの予定日も3月ってことは、サヤさんの出産後にってのが無難か」
「そうなるわね。出産後なら、私よりベテランのマタニティ・ヒーラーの方が適切な処置をしてくれるでしょうから」
「なら3月の末ってことで、予定を組んどくか」
「了解よ」
それが無難というより、それ以外の選択肢が無いですね。
それに3月の末ならば、学園は2週間ほどの長期休暇に入ります。
総合学園は地球の学校と同じく、季節ごとに長期休暇が設けられていますが、どの季節も2週間ほどですね。
その長期休暇ですが、時期としては7月下旬から8月上旬、10月下旬から11月上旬、12月下旬から1月上旬、そして3月下旬から4月上旬になります。
長期休暇中は地元に帰るもよし、自習に励むもよし、ギルド・レジスターはメモリアで依頼を受けるもよしと、比較的自由に過ごせます。
とはいえ、今年へ初年度ということもあって、長期休暇中であっても学園外に出ることは、一時帰省以外は認められませんでしたが。
私は領主の公務のために学園を休むこともありましたが、これは事情が事情ですので、学園長やグランド・スカラーズマスター、果てはお兄様も了承して下さっています。
「そちらはお任せになりますが、おそらく私達は参加できないと思います」
「そうなの?」
「ああ。学生は許可が無い限り、どんな立場であっても
「
私のセリフに首を傾げたプリムお姉様に、大和さんと真子が説明してくださいました。
お2人の言う通り、今は全ての学生が寮住まいをしているワケではありません。
事実、王族の方々や私達は寮ではなく、アマティスタ侯爵家から通っています。
ですがこれは、ある意味では王族の我儘と受け取られるでしょう。
私は領主としての執務がありますが、王族の方々は寮の防犯体制が不明という理由で、アマティスタ侯爵家から通っているのですから。
一応来年度から再来年度にかけて、寮に住まいを移す予定になっていますが、それも今建造中の王侯用の寮が出来てからになるでしょう。
「ああ、王侯用の寮も建造中なのか」
「ええ。夏には完成予定よ。問題なのはユーリ様だけど、緊急時や休養日に特例で外出許可が出るってことになると思う」
現在学園内にある寮はどれも同じ部屋で、王侯貴族であろうと例外はありません。
ですからバトラーの同伴もできませんし、防犯体制も、学園内のため安全ではありますが、学生の不法侵入を防ぐことは難しいのが現状です。
領内であってもオーダーが見回りを行っていますし、既に盗みに入ろうとした者が数名捕まったという話も聞いていますが、この問題は私達も軽視というか、初年度から出るとは思っていなかったため、王侯専用寮の建造は年が明けると同時に開始されることになりました。
真子の言うように夏までには完成し、その後は私達もその寮に移ることになるでしょう。
「じゃあ学生組は、卒業までは寮住まいになるのか」
「遅ればせながら、ではあるけどな。まあ、ユーリは領主だし、その護衛ってことでラウス達も週末には帰ってこれるだろうけど」
「あとは長期休暇ね。他の殿下方の護衛もあるから、毎回っていうのは難しいと思うけど」
「王侯寮にはオーダーが常駐するんだし、そこは大丈夫なんじゃない?」
王侯貴族専用となる王侯寮は、1つの部屋の中に学生本人の個室、バトラーズルーム、トイレ、お風呂も完備しており、更には1階にオーダーの詰所があります。
同伴が許されるバトラーは1人のみになりますが、フィリアス大陸の王侯貴族の数から考えて、部屋は2階から5階の60部屋程用意しているとか。
ちなみに1階はオーダー詰所以外にも、食堂や大浴場などがありますよ。
なお王侯寮という名称ではありますが、利用するには別途賃料が発生する予定になっているため、貴族以外でも利用は可能です。
確か食費込みで、1ヶ月5万エル程必要だったはずですね。
「へ~、王侯寮って言っても、別に王族や貴族だけが使えるワケじゃないんだ」
「さすがに全ての貴族が同級生ってことはないだろうし、全員が入学するってワケでもないしね」
「今はメモリアだけだが、いずれはフロートやベスティア、ドラグニアにグラシオンでも開校するし、フレイドランシア天爵領は学園都市にしたいと思ってるから、分散もするだろうしな」
「ああ、そっか」
ルディアのセリフにお姉様と大和様が続かれていますが、その場合は王侯寮の部屋が余りそうな気もします。
なので王侯寮はそういった事態も想定し、改装を行いやすいようにもなっているんだそうです。
「ということはユーリ様は当然として、アリアさんやラウス達も、その王侯寮に入ることになるんですか?」
「そうしてもらう予定だ。別に普通の寮でもいいんだが、王族の護衛ってことで入学してるからな」
そうですね。
それに王侯寮は、許可された者以外は立入禁止となりますから、不必要なラウス達への接触を減らすこともできるでしょう。
同じ王侯寮に入る貴族子弟の相手は面倒ですが、それでも全ての学生の相手をしなくて済むのは、私としても助かります。
まあその貴族子弟達も、王族に手を出せばどうなるかは分かっているはずですし、学園はその王族が相手でも容赦なく処罰を科すことは入学式で実証していますから、無茶なことをしてくる貴族は、いたとしてもそう多くはないでしょう。
もしそんな貴族がいた場合は、お兄様をはじめとした王陛下方が、喜々として攻撃されるでしょうしね。
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