公表と処罰
授業終了後、俺は授業の妨害をした5人を念動魔法で拘束したまま、校庭に建てられているオーダーの詰所に連れ込んだ。
総合学園出張所とも呼べる詰所には、メモリア支部のオーダーが1週間交代で常駐し、総合学園内の見回りはもちろん、身分の高い学生の警護や問題行動を起こす学生の捕縛、事情聴取なんかも担当してくれている。
学園内の問題なんて、普通に考えたらオーダーが出張るようなことじゃないかもしれないが、レベルや魔法があるヘリオスオーブだと教師より強い学生も普通にいるし、そういった連中に限って教師を下に見るから、下手をしたら学園の存在意義が無くなってしまいかねない。
実際連れ込んだ5人は、問題行動のオンパレードだったらしいからな。
本来なら退学にしたいんだが、今のところ授業も妨害っていうより興味がないみたいだし、今日だって強くなりたいっていう気持ちが暴走して他の学生の邪魔をしたっていう感じか。
それでも秋の魔物討伐実習の問題行動もあるし、他の学生への脅迫っていう事実もあるから、今回はオーダーとともに最終勧告を行って、次に何か問題を起こしたら問答無用で退学だな。
ああ、今回の脅迫に授業妨害については、罰金として5,000エルっていう処罰に落ち着いた。
学園の敷地内の寮生活をしている関係上、謹慎や停学っていう処罰は行いにくい。
部屋を抜け出す方法はいくらでもあるし、こっちも確認が難しいからな。
それに2年になればギルドに登録して、学園内のギルド主張所で依頼を受けて生活費なんかを稼いでもらうことになってるから、こっちの方が罰としては効果があるだろう。
「以上が今回の罰則だ。さっきも言ったが、次に何か問題を起こしたら、今度こそ退学だからな」
「はい……」
退学の場合、当然だが授業料の返還は無い。
それに加えて、ギルド未登録者はギルド登録が難しくなり、ギルド・レジスターの場合でもライセンスの特記事項欄に退学になった理由が記され、ブラックリスト入りすることになる。
どっちも信用を失い、何より生活に支障が出るし、その結果盗賊に身をやつされてしまうことも考えられるから、退学っていう処罰はできればしたくない。
とはいえ脅迫行為は普通に犯罪だから、これが本当に最後の恩情になる。
「それとだ、お前達が敵視しているラウスだが、あいつは先日、フリューゲル獣公国公女アウローラ殿下との婚約が、正式に成された。同時にあいつのライセンスも、近日中に公表される」
「えっ!?」
まあ驚くよな。
学園はある種の閉鎖空間だから、外部の情報は入手し辛く、それもあってラウスとアウローラ殿下の婚約は知られていない。
だけど情報は大切だし、情報操作や洗脳教育なんかを防ぐために、教師だけじゃなくオーダーやギルド出張所でも、大まかな情報は手に入れられるようになっている。
とはいえテレビや新聞なんかがある訳じゃないから、どうしても口頭になるのは避けられない。
これに関しては、何か考えた方がいいかもしれないな。
「だからって訳じゃないが、先に教えておくぞ。あいつはレベル67のエンシェントウルフィーだ。それに加えてスリュム・ロード討伐戦にソレムネ戦役、リネア会戦にも参加して大きな功績を上げ、
「「「……!?」」」
さすがに言葉もないか。
リネア会戦はまだ1年も経ってないし、ソレムネ戦役やスリュム・ロード討伐戦なんて2年近く前の話だからな。
しかもそれに参加して功績を上げてたってことは、その時点で最低でもハイクラスには進化している必要がある。
事実、スリュム・ロード討伐戦ではG-Nランクのアイシクル・タイガーやP-Rランクのフリーザス・タイガーの討伐を任され、ソレムネ戦役終盤のクラーゲン会戦ではアントリオン・クイーンやアントリオン・プリンセスの討伐も成し、リネア会戦ではAランクのレッド・ドラゴンやOランクのバーニング・ドラゴンとも戦っている。
だからこそラウスは、最年少でオーダーズギルドにアウトサイド登録し、Eランクオーダーにまでなっている訳だ。
「ハッキリ言って、ラウスのライセンスを公表する必要性は皆無だった。むしろ他国の貴族が何をしてくるか分からないから、デメリットしかないだろう。にもかかわらず今回公表したのは、アウローラ殿下との婚約が正式に結ばれたこと、そしてお前達の無知を諫めることが理由だ」
「「「……」」」
俺のセリフに俯く5人だが、今までのことがあるから反省してるとは思えないし、むしろラウスがエンシェントウルフィーに進化してるのに、なんで自分達はハイクラスへの進化すらできてないんだって考えてる可能性すらある。
今までの態度から、信頼性は著しく低いな。
「更にレベッカとキャロルの2人もエンシェントクラスに進化しているし、ユーリとアリアだってハイクラスだ。身近にこれだけ実力上位者がいたっていうのに、お前達は気付かず、それどころか下に見ていた。そもそもの話、未成年の時点で優秀だなんだともてはやされてても、何年もしてから立場が逆になったりなんて話は、枚挙にいとまがない。自分の力だけじゃなく、相手の実力を理解し、認めることができなきゃ、ハンターとして大成なんてできっこないに決まってる」
対人戦の機会はそうそうないが、その相手っていうのが魔物っていう場合はハンターなら日常茶飯事なんだから、自分の力を過信し、逆に相手を見くびるなんて、遠からず死ぬ未来しか見えないしな。
「だがそれじゃあ、総合学園を作った意味が無い。だから今回も罰金で済ませて、お前達の矯正を第一に考えている訳だ。ああ、先に言っておくが、不必要にラウス達に接触することも禁止だからな。これも罰則の1つだから、破れば相応の処罰が科される」
MARSの開発と合わせて、総合学園開校の理由の1つだからな。
無茶な狩りをして命を落とすハンターっていうのは、さりげなく多い。
不慮の遭遇っていう不可抗力も少なくないし、比率的に見るとこれが圧倒的に多いみたいだが、その次に多いとされているのが自分の実力を過信し、格上の魔物を狙って返り討ちにされたっていう場合だ。
特に後者の場合、かなりの確率で自分達以外のレイドを巻き込むし、最悪の場合は町や村が襲われてしまうことだってあり、事実それで多大な被害を受けてしまった村もいくつか存在している。
この5人だって、秋の魔物討伐実習の際に、西の森の奥にあったゴブリンの集落に手を出してしまい、ゴブリン・キングを怒らせたっていう前科があるな。
本来なら国家騒乱罪の適用すら考えられる重罪だが、俺達がすぐに討伐したために被害が無かったこと、まだ学生であることが考慮されて、今回限りということで罰金刑で済んでいるが。
ああ、あとこれも伝えておかないとだな。
「それからもう1つ。既に他の学生達には通達されているはずだが、来月にフロート迷宮で実習を考えている。お前達も希望するなら参加して構わないが、今回みたいな騒ぎを起こしたら即退学だ」
フロート迷宮はフロートから徒歩で2時間ほどの距離にある、全18階層の攻略済み
深層でもGランクモンスターまでしか出ず、
メモリアからだと、船でフロートまで行って、そこから徒歩か獣車での移動が一番早いが、それでも日帰りできる距離じゃないし、せっかくの
だから
実習なんだから普通に野営させろと思わなくもないが、参加者は騎士・狩人学科希望者のほぼ全員になるだろうと予想されているし、セーフ・エリアで野営ができないことも考えられる。
そうなると、騎士・狩人学科希望は100人近い数だったはずだから、セーフ・エリア内ならともかくセーフ・エリア外だと、万が一の場合は守り切れないだろう。
それにこちらは授業の一環であっても、普通に
だから夜番も慣れていないことも踏まえて、そういったトラブルを軽減するためにも多機能獣車を使い、野営とかもしっかりと体験してもらうことになった。
俺達は同行しないが、ラウス達は学生だから参加するぞ。
あとはオーダーの人選だが、サブ・オーダーズマスターのダートが来るかもしれないって話はチラッと聞いたな。
ところがこの5人からは、あまり嬉しそうな感じがしない。
まあレベル30超えてるし、フロート迷宮なら第10階層辺りまでなら普通に行けるだろうから、大人数で行くのは逆に勉強にならないか。
とはいえ、大人数での行動が無い訳じゃないし、行軍とかじゃ普通にある話でもあるから、リッターにとっては必須とも言える授業だろう。
もちろんハンターだって、アライアンスに参加する場合は必要になる。
アライアンスに参加できるハンターは基本ハイクラス以上になるし、合金が出回りエンシェントクラスが増えたことで、アライアンスそのものが組まれる機会が減ってはいるが、それでも団体行動は学んでおいて損はないと思う。
「目標階層はまだ未定だが、多分10階層までになると思う」
初心者向けと言われているフロート迷宮だが、実際第10階層まではCランクまでで、稀にBランクモンスターが出ることがあるらしい。
Sランクモンスターは15階層以降で、Gランクモンスターなんて最深層になる第18階層にしか出ないって話だ。
もちろん進化されることもあるから絶対じゃないが、それでも攻略されてからは一度もそんな事態は報告されてないから、しっかりと管理されてるってことになるんだと思う。
そしてだからこそ、学生達にとっても最適な
もちろん油断は禁物だし、Iランクでも上位の魔物になると、レベルによっては単独討伐どころか返り討ちに合う可能性が高い。
特にウルフ種は、Cランクに匹敵する個体も生まれやすいな。
フロート迷宮はそういった魔物の生息域も決まっているから、対策はしっかりとされてるしイレギュラーも起こりにくい。
それもあって、初心者向けとして人気が高い
「フロート迷宮、それも第10階層までですか……」
「不満か?」
「いえ、私は
タイガリーの少女ハンター ウィスタリアは、
まあ
「そうか。ああ、実習の前に
「はい!」
授業の一環とはいえ、初めて
当然ではあるが、倒した魔物は倒した者の物になる。
TランクやIランク、あとはCランクも倒せるとは思うが、頑張れば今回の罰金分は賄えるはずだ。
とはいえ、この5人は崖っぷちでもあるから、焦って勝手な行動をしないとも限らない。
同行予定のオーダーやラウス達に、しっかりと監視を頼んでおかないとだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます