候補地視察

Side・ミーナ


 今日は大和さん、プリムさん、フラムさん、アテナさん、そして私の5人で、オルデン島を訪れました。

 この島はフレイドランシア天爵領の第一候補として選定していますし、どのような島なのかも知識としては知っていますが、実際に訪れたことはありません。

 ですから今日、島の様子を見るためにやってきたんです。

 移動に関しては、天樹製多機能獣車は改装中ですから、今回は完全竜化したアテナさんに、フレイドランシア天爵家の多機能獣車を運んでもらいました。


「聞いてはいましたけど、本当にGランクが多いんですね」

「あたしにとっては手頃だと思うけど、普通のハンターにはキツイわね、これ」

「リハビリでGランクモンスターっていのも、正直どうかと思いますけどね」


 そう言いながらフラムさんとプリムさんが、次々と魔物を狩っていきます。

 産後初めての狩りでもあり、同時にお2人にとってはリハビリでもある今回の視察ですが、久しぶりの狩りだというのに容赦がありません。

 いえ、プリムさんは得意の高速戦闘をあまりされていませんから、やはりブランクは大きいんでしょうけど。


「ビッグファング・タートルにジュエル・ブル、アースフット・ホッパーやマグマ・クロコダイルまでいるのか。本当にGランクの巣だな」

「あっちにはキャナル・リノセロスもいるよ。希少種もそこそこいるなんて、本当に放置されてたんだね」


 オルデン島に生息している魔物はCランクやBランクも多いですが、Gランクも本当に多いです。

 上位種はもちろんですが、希少種まで複数生息しているとは思いませんでした。

 水棲種も多く、ナダル海では度々討伐される種でもありますが、オルデン島が出どころだったようですね。

 アミスター側ではほとんど目撃証言がありませんが、その理由はブライン山脈が魔物の移動を阻んでくれていたからなのでしょう。


「今日は視察だけど、近いうちに一掃しといた方がいいな、これは」

「そうですね。最近は異常種や災害種の目撃情報も多いですから、ここにもいないとは言い切れません」

「というか、あそこにいるわよ」

「え?どこですか?本当ですね」


 プリムさんの指した先にいたのは、全長10メートルはあろうかというほどの、巨大なバトル・ホッパー種でした。

 先程フラムさんが、G-Rランクモンスター ランドシェイク・ホッパーを倒されていましたが、それは全長3メートルほどでしたから、3倍以上の巨体です。


「トノサマバッタ?災害種か?また真子さんが倒れそうな見た目してやがるな」


 ああ、確かに虫が苦手な真子さんなら、倒れないまでも逃げ出しそうな気はしますね。

 トノサマバッタというのは分かりませんが、地球に生息しているバトル・ホッパーみたいな虫だと思いますけど。


「『クエスティング』。ディヴァウアー・ローカスト?また珍しいのがでてきたわね」

「プリム、知ってるのか?」

「名前だけはね。迷宮ダンジョンでしか目撃されたことがない災害種よ。ランクはM-Cだったかしらね」


 M-Cランクモンスターですか。

 オルデン島は長らく閉じた島でしたが、それでも物好きなハンターが上陸することはあったと聞きます。

 合金が出回る前ですから、上陸したハンターは魔物を数匹倒すのがやっとだったはずですが、それでも珍しい魔物も多いということで、けっこうな儲けになっていたみたいですね。

 ですが災害種どころか異常種の目撃情報もありませんでしたから、目の前のディヴァウアー・ローカストは神帝の魔力で進化した個体だと考えてもいいかもしれません。


「災害種、それも迷宮ダンジョンにしかいなかったやつか」

「あたしが知ってる限りだけど、討伐されたのは1回だけで、当時のバリエンテ王家に魔石は献上されていたはずよ。っと!」

「話は後でだな!」

「そうね!じゃあ久しぶりに!」


 そして言うが早いか、プリムさんは熾炎の翼を纏い、ディヴァウアー・ローカストに向かって固有魔法スキルマジックセラフィム・トルネード放ってしまいました。

 雷が轟く炎の竜巻に巻き込まれたディヴァウアー・ローカストは宙に巻き上げられ、逃げようと翅広げますがその翅はすぐに燃え尽き、なす術がないまま炎に晒され続けています。

 そしてセラフィム・トルネードの真上に到着したプリムさんは、今度はセラフィム・ペネトレイターを纏い、ディヴァウアー・ローカストを貫きました。

 まともな戦闘はほとんど1年ぶり、しかも十全に復調しているワケではないのに、あっという間にM-Cランクモンスターを倒してしまいましたか。

 さすがではあるんですけど、これは後で怒られるような気がしますよ?


「プリム!何してんだよ!」

「久しぶりに全力を出したかったのよ、ごめん」

「気持ちは分かるが、無茶はしないでくれよ?」

「ええ、後は後方支援に徹するつもり」


 大和さんも心配そうな顔をされていますが、幸いにもプリムさんの体に変調は見られなさそうです。

 難産の影響で、時々体調を崩して熱まで出してしまっていましたから、当然なんですが。

 ですがそのプリムさんも、今日はこれ以上の戦闘は控えるようです。

 後方から魔法での攻撃はするようですが、それぐらいなら大丈夫だと思います。

 それでも心配ですから、私はあまり前に出ないで、プリムさん、そしてフラムさんの近くにいるようにしましょう。


Side・フラム


 プリムさんがディヴァウアー・ローカストを倒してからさほど時間をかけずに、私達は出てきた魔物を全滅させました。

 災害種は出てきませんでしたが、異常種はダークブレス・ブルとフォートレス・タートルの2種もいましたね。

 どちらもM-Iランクですが、ダークブレス・ブルは大和さんが、フォートレス・タートルはアテナさんがしっかりと倒してあります。


「今日はここまでにしとくか」

「ええ。今日は下見だし、本格的な狩りは開発が決まってからにした方がいいわね」

「それでも異常種は2匹、災害種も1匹出てきましたからね。時々様子を見に来た方がいいかもしれません」


 ミーナさんが言うように、様子見は必須ですね。

 なにせ現在のフィリアス大陸は神帝が上陸してしまったことが原因で、異常種や災害種どころか終焉種まで生まれてしまっています。

 オルデン島には終焉種はいないようですが、それでも全て調べたワケではないので断言はできませんし、異常種や災害種へ進化する個体が増えているのは間違いありませんからね。

 ですから大和さんやプリムさんが言うように、本格的な狩りは開発を始める直前にしなければ、何度も狩りを繰り返す結果になりかねません。


「今日の成果はっと……Gランクも多いけど、SランクやBランクも多いね」


 アテナさんがクエスティングを開いて、今日の成果を確認しています。

 私も確認してみましたが、確かにBランクやSランクも多いですね。

 もちろんCランク以下の魔物もいるのですが、数としてはBランク、いえ、Sランクの方が多いようです。

 Gランクも上位種や希少種がほとんどですから、放置していたらさらに進化してしまうでしょう。

 幸いと言いますか陸棲種も少なくありませんし、水棲種も陸地が無ければ生きていけない魔物ばかりですから、ブライン山脈に阻まれていることもあって人里に被害をもたらす可能性は低そうです。


 ですがそのせいで、領地経営ができるか微妙な気がしてきます。

 定期便を就航させるとしても、アミスター側からはフィールしかありませんし、むしろアミスターよりアレグリアやアクアーリオの方が交易や行き来はしやすいです。

 ですがフレイドランシア天爵領はアミスター天帝国に属する領地になりますから、それはそれで問題になるでしょう。

 正直、これならその問題を最初から考慮されている橋上都市跡地を再開発した方が楽な気がします。


「これ、本当にトンネルっていうのを作らないと、領地経営が大変なんてもんじゃないわよ?どうするの、大和?」

「正直、俺もここまでとは思ってなかったな。だけど地形的にも立地的にも理想的だから、フレイドランシア天爵領はオルデン島がベストだとも思う。あとはトンネルを掘るか山を崩すかだけど、それはブライン山脈の様子を見てから考えるよ」


 プリムさんは元公爵令嬢で、領地経営とは無縁ではありませんでしたから、オルデン島が領地には向いていないと、最低でもブライン山脈を貫くトンネルを作らないと無理だと判断されたようです。

 勉強中の私でもそう感じましたし、どうやら大和さんもそうみたいですが、トンネルか山を崩すかは決めかねているようです。

 地面を掘る魔物はもちろん、地中に生息している魔物もいますから、そういった魔物がトンネルの中に出てきてしまったら、大惨事につながりかねません。

 ですから大和さんとしては、あまりトンネルには乗り気じゃないんですよね。

 かといって山を崩して新たな街道を作り出すのも、周囲の生態系を乱すことになりますから、作った後で何が起こるか予想が難しいです。

 それでもどちらかを選ばなければオルデン島の開発はもちろん、その後のフレイドランシア天爵領の経営にも多大な影響が出てしまいますから、大和さんはブライン山脈の様子を見てから、どちらを選ぶか決められることにしたそうです。


「それじゃあブライン山脈に……って、そういやここまでアテナに運んでもらってきたから、この後ブライン山脈までっていうのは厳しいか」

「戦闘しないでもいいなら大丈夫だよ」

「じゃあ悪いけど頼めるか?エオスを呼んでもいいんだけど、確か今日ってフロートに行ってたはずだし」

「うん、いいよ。じゃあちょっと待ってね」


 完全竜化はドラゴニアンの切札で、魔力の消耗も激しいそうです。

 ハイドラゴニアンへ進化すれば戦闘しても大丈夫だそうですが、ノーマルドラゴニアンだと戦闘は本当に命懸けなんだとか。

 それはエンシェントドラゴニアンであっても変わらず、完全竜化は1日に1度、多少魔力に余裕があっても2度が限界だそうです。

 私達は、完全竜化したアテナさんが抱える獣車に乗って、ここオルデン島までやってきました。

 そしてアテナさんは竜化を解除し、魔物狩りまで行っています。

 そのアテナさんにもう一度完全竜化していただくのは、いくらエンシェントドラゴニアンであっても大変だと思います。


「悪いな。今回は簡単な調査で終わらせるから」

「大和のおかげでレベルも上がってるから、そこまで気にしないでも大丈夫だよ。あ、でもそう思ってるんなら、今度デートしてね?」

「ああ、わかった」


 アテナさんもぬかりありませんね。

 とはいえ、大和さんと2人きりでのデートは、私達も数回しかしたことがなかったりします。

 大和さんと関係を持っている女性は妻や婚約者だけではなく、妾やシングル・マザー希望者も合わせると19人になります。

 一夫多妻が常識のヘリオスオーブでは、妻は平均して3人と言われていますし、妾を持つ男性は裕福な方のみ、シングル・マザー希望者は男性が優れた能力を持っていなければなりませんが、それらを含めても5人から6人ほどでしょう。

 ですから19人というのは、多過ぎると言っても過言ではありません。

 なので2人きりでのデートをするような時間は、なかなかとることができないんです。

 大和さんも気にしてくださっていますから、月に何度かは時間を作ってくれているんですけどね。

 かくいう私も、ミズキ出産後に2人きりでデートしていますし。

 あ、もちろんマナ様やリカ様、プリムさんもですよ。


 それはともかく、ブライン山脈の本格的な調査は日を改めるとしても、簡単な調査は必要です。

 最低でも地形の確認は必須になりますけど、できれば丁度いい場所があるといいですね。

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