飛空艇第1号完成
オルデン島、そしてブライン山脈の簡単な調査を終えた後、俺はフロートに赴き、ラインハルト陛下からフレイドランシア天爵領として認めてもらった。
ラピスラズライト天爵領もコバルディア跡地にできた、宝樹のある島でほぼ確定したんだが、どちらも開発を始めるのは、早くて春、遅くても2年後になる。
周辺地域の調査はもちろん魔物の討伐も必要だから、少なくともそれを何とかしないと開発なんてできないしな。
現在レティセンシア地方は全土が天帝直轄地となっていて、だからこそ早く何とかした方がいいんじゃないかって気もするとはいえ、連邦天帝国としても開発や復興で人手不足だから、仕方ない話でもあるんだが。
フレイドランシア天爵領は、オルデン島とその周囲にある小島2つの計3島となる。
小島はオルデン島の半分以下の大きさしかないが、島間の距離が数十メートル程度しか離れていないため、橋を架けて3島を繋ぎ、1つは学園用に、1つは農地や放牧地として活用しようと思う。
だがラピスラズライト天爵領は、領都となるコバルディア跡地以外はまだ決まっていない。
エスメラルダ天爵領とフレイドランシア天爵領が子爵領並の広さということを考え、ラピスラズライト天爵領も同程度にしようと陛下は考えているんだが、場所がレティセンシア地方ということもあって、どのように領地を設定するかが決めきれないようだ。
特に急ぐ訳でもないし、開発はコバルディア跡地から始めればいいだろうから、そこは陛下にお任せだ。
あ、でもコバルディアに一番近いフェルサ迷宮は、ラピスラズライト天爵領に組み込んでもらいたいな。
そんなこともあって、11月になって2日過ぎた。
昨日の夕方に連絡が来たから、今日は学園生を除いたウイング・クレストの全員が、ベール湖畔にあるクラフターズギルドの造船所に足を運んでいる。
学生達は残念そうな顔をしていたが、学業優先なんだから仕方がない。
「わあ!これが艇体なんですね!」
「船体より一回り大きいけど、こっちの方が安定性が高そうね」
俺達の前には、全長40メートル、幅12メートルという、中型船並の大きさを持った船がベール湖に浮かんでいた。
見た目は天樹製獣車で使っていた船体と大差ないが、両側面には折り畳まれた翼も見える。
空を飛ぶ際はその翼を広げ、付与してあるフライングを起動させることで浮かび、ハイドロエンジンと併設しているエアロエンジンを使うことで、空でも水上でも自在に進むことが可能だ。
「デッキ下は遊戯室に大浴場、それにトイレでしたっけ?」
「ラウンジやプールもあるぞ」
「大浴場は湯殿みたいに、複数のお風呂を用意しているわ」
艇体は多機能獣車のオプションであり、客室などは本体にある。
だから艇体のデッキ下はデッドスペースで、実際船体の方は物置として使ってるんだが、さすがにそれはスペースの無駄遣いでしかないから、今回は色々と考えてみた。
まず大浴場は、スーパー銭湯のように打たせ湯や泡風呂、ジェットバス、サウナを用意した。
天樹製多機能獣車にも大浴場はあるが、そっちは洗い場と大きな浴槽を置いてあるだけだから、使い分けもできるだろう。
ラウンジは漫画喫茶とかのオープン席みたいな感じだが、イスは大きめのソファなのでゆったり座れる。
あとはソフトドリンクや軽食でもあればいいんだが、それは定期便とかが就航した場合に活用してもらえばいいだろう。
そして遊戯室だが、ラウンジに併設してあるそこは、既にヘリオスオーブにも浸透しているビリヤードやトランプにチェス、それからパターゴルフコースがある。
個人的にはボーリングレーンを作りたかったんだが、金属製のボールが進化した者の魔力強化に耐えられないこと、ノーマルクラスでも身体強化魔法フィジカリングを使えば重量を度外視できること、そして何より凶器としても使用できてしまうことから、残念ながら製作を断念したんだよ。
遊戯室はボーリングレーンの設置もする予定だったから、その分が空きスペースになってるのが気になるところだな。
いつかボーリーングレーンも作りたいもんだ。
そして目玉となるプールだが、小さいとはいえウォータースライダーも3つ備えた、完全な遊戯用として用意してみた。
フットサルコートと同じぐらいの広さがあるから、艇内としては十分な広さだと思う。
本音を言えば、屋外に作りたかったんだけどな。
「うん、問題ないわね」
「ですね。ありがとうございます、マランさん」
「こちらこそ、いつも楽しませてもらってるわ」
クラフターズギルド・フィール支部ビークル部門チーフのマランさんには、試作多機能獣車の製作時からお世話になっているが、今回も文句なしの出来に仕上げてくれた。
毎度のことだが、本当にありがたい。
「あとは試乗だけど、多機能獣車が無かったこともあって簡単にしか試せていないわ。それでも、特に問題は無かったと思うけど」
「なら、この後で乗ってみますか?」
「いいの?」
「初の商用型ですし、本体は俺達が使ってましたからね」
中型船並の大きさの艇体だが、ブリッジやコックピットは多機能獣車だから、それが無いと少し浮かせるぐらいしか確認ができなかったはずだ。
本当なら多機能獣車本体も預けるか、数日おきに持ってくるぐらいはしないといけないんだろうが、俺達が使ってる天樹製多機能獣車は先日まで大改装を行っていた。
だけど一昨日、ようやく改装が終わって、そのタイミングで艇体が完成したっていう連絡が来たもんだから、今の今まで本体と艇体を接続させたことはなかったりする。
だから本当に過不足なく仕上がっているかは、クラフターにとっても気になるところのはずだ。
ちなみに多機能獣車本体は、桜樹と
内部もいくつかのスペースに区分けしてミラーリングを付与させてあるから、以前より、特に中庭は720平米と、倍近くの広さになったぞ。
まあその中庭の3分の1は、プールになってるんだが。
「ありがとう、それじゃあお言葉に甘えさせてもらうわね」
「ええ。あ、その前に天魔石を取り付けないとか」
「そっちは交換するだけだし、すぐに終わるわ」
操縦の天魔石は、ハイドロエンジンだけじゃなくエアロエンジンにも対応させた新しい物を用意したから、交換しないと何もできない。
だけど交換した後に少し調整するだけだから、本当にすぐ終わる。
それが終わったら動作確認をして、それから試乗だ。
造船所はベール湖にあるから、このまま乗り出して、そこから飛行っていうのがベストかな。
Side・プリム
マランさん達乗造部門の人達も乗ってもらったのを確認してから、大和が交換が済んだ操縦の天魔石に魔力を流した。
するとベール湖に浮かんでいる天樹製多機能獣車が、ゆっくりと動き出す。
初めて満天の下に姿を現した飛空艇は、そのまままっすぐに進み、徐々に速度を上げていく。
「おお、船体より調子良いぞ」
「ハイドロエンジンは何度も作ってるから、初期型と比べると魔力効率も取水量も増えてるからね」
「ああ、なるほど」
ハイドロエンジンは噴き出した水の勢いを推進力としている機関だけど、そのためには一度水を取り込む必要がある。
大和が開発した初期型は、実はその水を取り込む力が少し弱くて、起動させてからしばらくは速度が出せなかった。
だけどクラフターズギルドは、その初期型ハイドロエンジンに改良を加え、取水量の増加に魔力効率のアップまで成功させていたようで、初速が増してるのはもちろん、天魔石を使うための魔力も以前の半分ほどで済むようになったそうよ。
だから大和も驚いたのよ。
「作った後は、全部クラフターズギルドに丸投げしてたからなぁ。エアロエンジンもだけど、これはちょっと反省しないとだな」
「大和君も忙しいし、技術の進歩はクラフターズギルドの存在意義でもあるから、そこまで気にしないでも大丈夫よ。次々と新しい技術を持ってこられると、それはそれで追いつかないけど」
確かにクラフターズギルドが発展させた技術は、今では一般にも広まっているぐらいだからね。
過去の
次々と新しい技術を持ち込まれるから、てんてこ舞いだったっていう話も残ってるけどね。
マランさんもそれを心配してる感じだけど、実際に多機能獣車や飛空艇、合金にハイドロエンジンやエアロエンジンまで大和が持ち込んだようなものだから、かなり大変になってるみたいよ。
あと、まだ本人には打診してないけど、大和はフレイドランシア天爵領のクラフターズマスターに、マランさんを引き抜きたいって考えてるわ。
マランさんは多機能獣車製作の第一人者になってるし、フレイドランシア天爵領はオルデン島っていうナダル海に浮かぶ交通の便の悪い島の予定だから、船が無いと話にならない。
だけど多機能獣車は、オプションで船体を用意することができるから、貴族や裕福なハンター、トレーダーなら用意することは不可能じゃないわ。
そこにマランさんがいてくれれば、造船の街として栄えさせることも可能かもしれない。
だから大和は、マランさんを引き抜きたいって考えてるの。
「さて、それじゃあそろそろ行きますかね」
「いよいよね」
大和がエアロエンジンに連動している操縦の天魔石に魔力を込めると、両側面の翼が広がり、エアロエンジンが起動する。
すると多機能獣車はほとんど真上に浮かぶかのように浮かび上がり、エアロエンジンによってゆっくりと前進していく。
翼にはフライングを付与してあるから、奏上したあたしとしても感慨深いわね。
「やっぱり試作と比べると、安定感が全然違うな」
「だけどあれを持ち込んでくれなかったら、完成にはあと数年はかかっていたでしょうね」
あたしも乗ったから言えるけど、確かに最初に完成した試作は、アルカという無風状態の場所で乗ったにも関わらず、安定度がいまいちだった。
お義父様とお義母様に乗って頂くための急ごしらえだったから仕方ないんだけど、その後でしっかりと改良してあるし、それにはマランさんを始めとしたクラフターはもちろん、ライ兄様も乗っている。
だけどその改良型試作飛空艇よりも、この完成型は安定度が大幅に増しているし、離陸の際の揺れもほとんど感じられなかった。
試作を持ち込んだとはいえ、たった数ヶ月でここまでの物にしてくれるなんて、さすが一流のクラフターは違うわね。
「ただ問題はねぇ……」
「ああ、それはどうにもなりませんでしたか」
「ええ。相性の問題もあるから仕方ないんだけど、できれば今後は風属性の魔物を使いたいわ」
「いずれはこれもそうするつもりですから、その際はまたお願いします」
「喜んで引き受けさせていただくわ」
そんな完成度の高い飛空艇なんだけど、だからこそ目立ってしまうのが翼の挙動が時々不安定になってしまうこと。
この艇体の翼はオーシャンハウル・グランドの革を使っているけど、陸棲種かつ水属性の魔物っていうこともあって、どうにも相性がよくないみたいなの。
それでも火属性や土属性に比べると全然マシらしいんだけど、空を飛ぶなら空を飛ぶ風属性の魔物が最適っていう答えも出てるから、大和としては近いうちにどこかの
候補としてはソルプレッサ迷宮第7階層のドラグーンだけど、クラテル迷宮第7階層の空中回廊もアリね。
だけど、これで艇体も完成した。
次は天帝家の艇体を作って、その後は商用艇の予定も入っている。
しばらくはクラフターも忙しくなるわね。
あたし達としても、アテナやエオスの負担を減らすことができるから助かるわ。
さて、せっかくだし展望席に出て、外の景色を楽しむとしましょうか。
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