極光の白虎

Side・アテナ


 バリエ迷宮第1階層はすごく広かった。

 調査をしながらだったからっていう理由もあるけど、抜けるだけで6時間もかかるなんて思わなかったよ。

 それだけ時間をかけても、第1階層の地図は半分ぐらいしか埋まってないから、多分小国並の広さがあるんじゃないかな?

 だから第2階層は、雪山地帯ってことしか確認できなかったんだ。

 時々吹雪くし、山も第1階層より一回り高い標高1,000メートルだったから、獣車が使えることが唯一の救いだってみんな言ってたよ。


 フロートのハンターズギルド総本部に報告をしてからアルカに帰ったけど、グランド・ハンターズマスターも頭を抱えてたなぁ。

 モンスターズランクは低いけど環境は厳しいし、この分だと階層はかなり広くて深そうだから、攻略するのに何日かかるかわかったもんじゃないって言ってた。

 バリエ迷宮のある場所も、現時点じゃ高ランクモンスターが闊歩してるから、並のハンターどころかハイハンターでも命の危険が大きい。

 だからボク達に、早急に攻略できないか打診されたんだけど、攻略にどれぐらいかかるか分からないし、大和は仕事の予定が詰まってるから、行けるとしても来月の妖王陛下の戴冠式の後の数日ぐらいしか無理だと思う。

 だからエンシェントハンターに依頼を出すって言ってたけど、ちょっと前に迷宮攻略したばかりだから、こっちもすぐっていうのは難しいんだろうなぁ。

 さすがに申し訳ないと思ったみたいで、大和は時間が出来たら調査に行くことを約束してたけど。


 その次の日、ボクとマナ様、ミーナ、リディアは、真子と一緒にクラテル迷宮に行くことになった。

 実は昨日、白雪がオーロライト・タイガーっていうのに進化したんだ。

 バリエ迷宮に入る前に多くの魔物を狩ったんだけど、その中にはA-Cランクモンスター オーシャンハウル・グランドもいて、それを白雪が単独で倒しちゃったんだよ。

 白雪はP-Rランクモンスター スノーミラージュ・タイガーだったんだけど、オーロライト・タイガーはM-Iランクモンスターになる。

 特殊進化してる個体は1つ上のランクに相当するって考えられてるから、異常種に進化したことを考えると、白雪はOランク相当になると思う。

 薄い緑がかった白い毛皮に黒の縞々が入ってるその姿は、体長も5メートルと本来の異常種や災害種に比べると小さいけど、A-Cランクのレオ種すら正面から倒せる力を持ってるし、何より白雪はエレメントヒューマンの真子の召喚獣だから、Oランクが相手でも力負けしないかもしれない。

 さすがにO-IランクとかO-Cランクとかは無理だと思うけど。


「それにしても、特殊進化したM-Iランクモンスターか。オーシャンハウル・グランドを倒したところも見たけど、とんでもない召喚獣になっちゃったわね」

「それには同意ですけど、私も意識してたワケじゃないですよ?」


 そりゃ意識して召喚獣を進化させるなんて、さすがに無理だもんね。


「それはそうよ。だけど楓ばかりか白雪まで進化しちゃったんだから、また真子の固有魔法スキルマジックの強度が増すわね」

「ああ、フィールド・コスモスですね」

「ええ。自分だけで使っても終焉種を防ぐのに、更に召喚獣の魔力が加わったら、絶対に破れない障壁になるわ」


 召喚魔法士は、召喚獣の魔力や魔法を自分のものとして使うことができる。

 だから同じレベルであっても、召喚魔法士とそうでない人の間じゃ魔法の威力が違うし、魔力の制御も楽になるって聞いた。

 真子は召喚獣の魔力を使った固有魔法スキルマジックは作ってないけど、既に使ってる固有魔法スキルマジックを少し改良するだけで、問題なく召喚獣の魔力を使えるようになるから、ミーナとマナ様が言うフィールド・コスモスの強度も、今まで以上に強力になるし、もしかしたら攻撃魔法を重ねることもできるようになるかもしれない。


「あ~、そのこと、完全に忘れてたわ」

「え?」

「忘れてたって、召喚獣の魔力を使えることをですか?」

「ええ。元々私が楓と契約したのは、刻印術を使ってる間の護衛と攻撃回避のためっていう理由が大きいの。だけどそれって、だいたいみんながやってくれてるでしょう?」

「そりゃ真子さんの援護が有るのと無いのとじゃ、全然違いますからね。ああ、だからですか」


 ああ、なんで真子が召喚獣との固有魔法スキルマジックを作ってないのかって思ったけど、特に必要が無かったからなのか。


「なるほどね。確かに真子は自分で何でもできるから、必要性が薄かったってことか。楓も白雪も陸棲種だし、空も飛べない。逆に真子は、エレメントヒューマンに進化したことで必要に応じて翼を生やせるし、ウイング・バーストまであるから空中戦を多用する。戦いの相性の問題もあったのね」

「スカファルディングを使えば召喚獣でも空を走れますから、言い訳でしかないんですけどね」

「そもそも私達の援護なんてなくても、真子さんが攻撃を受けたことなんてありませんからね」


 あー、空中戦ができるかどうかっていう問題もあったのか。

 ミーナはブリーズに乗ってる時、スカファルディングを使って空を走らせてるけど、そのスカファルディングを使ってるのはミーナだし、ブリーズの進行方向だけじゃなく回避しても落ちないようにそこそこ広い範囲で使ってる。

 だからブリーズが落下したことは一度も無いんだけど、ミーナは騎士姫オーダー・プリンセスの二つ名が示すように騎士でもあるから、魔物と戦う場合は、相手が何であれ近付かないといけない。

 もちろん牽制の魔法も使うけど、牽制だからこそスカファルディングに集中できるって言えると思う。


 だけど魔導士の真子がそれをやると、刻印術や魔法の制御にも影響が出てきてしまうから、下手をすると自分が攻撃を受けちゃうし、召喚獣ごと落下っていうこともあり得てしまう。

 だから真子は、召喚獣の背に乗る時は、絶対に空を飛ばないんだ。

 とは言っても、真子が魔物の攻撃を受けたことなんて無いし、そもそも接近されたことも一度も無いんだけどさ。

 っと、魔物がこっちに来てるから、お話は一度中断だね。


「ん?ああ、来たわね。あれは……アイス・ウルフか」

「群れてこそいますけどホワイト・ウルフもいますから、白雪の力を試すには不足ですね」

「まあね。とはいえ、今日は白雪の力試しに来てるんだから、面倒でも白雪に頑張ってもらわないといけないんだけどさ。ね、白雪?」

「ガウッ。ガアアアアッ!!」


 一声鳴いた白雪は、こっちに襲い掛かってこようとしているアイス・ウルフ達に向かって咆哮を上げた。

 それを聞いたアイス・ウルフ達は、完全に委縮してしまっている。


「ガウアアッ!」


 そして白雪はアイス・アローを周囲に作って放ち、あっという間にアイス・ウルフ達を殲滅してしまった。


「アイス・ウルフやホワイト・ウルフが相手だと、何の参考にもならないか」

「そりゃねぇ」


 ホワイト・ウルフはC-Uランク、アイス・ウルフでさえB-Rランクなんだから、M-Iランクの白雪にとっても取るに足らない相手だよね。


「この分だと、第2階層でも白雪の相手には足りなさそうですね」

「スピノサウルスがいるかどうかで変わりそうね」

「ああ、そういえばいましたっけ」


 ボクも忘れてたけど、そういえば第2階層にある岩壁と溶岩の火山には、P-Rランクモンスター スピノサウルスが生息してるんだっけか。

 希少種だから生息数は多くないけど、それでも常時2,3匹はいるって話だし、更に白雪は、昨日まではスピノサウルスと同じP-Rランクモンスターだったから、丁度良い相手って言ってもいいよ。


「じゃあこの先の階動陣じゃなくて、一番奥の階動陣を使うの?」

「その方が結果的に速く到着できるし、この階層はハンターも多いから、そうしましょうか」

「明日はマナ様もミーナさんもお仕事ですから、その方がいいですね」


 だね。

 明日マナ様はフィールで、ミーナはフロートでお仕事があるから、今日は日帰りの予定なんだ。

 異常種に進化した召喚獣は白雪が初めてじゃないけど、実際に戦える召喚獣は初めてみたいだから、確認は早い方が良い。


 そう決めたボク達は、最奥にある階動陣に向かった。

 魔物の襲撃もあったけど、BランクどころかCランクモンスターもいたから、逆に面倒に感じたなぁ。


 そんな感情を抱きながら、ボク達は第2階層に到達した。


「相変わらず、この火山は人気が無いわね」

「GランクどころかPランクまで出てきますからね。素材としては美味しいですけど倒せるかどうかは別ですし、他の火山と比べてもワンランク上の魔物も多いです」

「コボルトの集落も至る所にありますから、ハイクラスでも油断は出来ない危険地帯ですしね」


 この岩壁と溶岩の火山に生息してる魔物は、サウルスも多かったっけ。

 その中でコボルトだけは劣るんだけど、迷宮ダンジョン内だから1つ上のランク相当になるし、異常種が生まれることもある。

 その上で集落を作ってるんだから、こっちも甘く見てたら命がいくつあっても足りないよ。


「さあ、早速見えたわよ。あれはメガロサウルスね」

「みたいね。まあ階動陣近くが縄張りなんだし、いて当然なんだけど」

「ですね。それじゃあ白雪、お願いね」

「ガウッ!」


 真子の指示に従って、白雪はアイス・アローを放ちながら、まっすぐにメガロサウルスに向かっていった。

 メガロサウルスも白雪に気が付いて、火属性魔法ファイアマジックで迎撃している。

 わわ、白雪のアイス・アローが相殺されてるってことは、あのメガロサウルス、もしかしてPランクでも倒せちゃうやつなんじゃない?


「へえ、これは都合が良いわね」

「はい。白雪の氷属性魔法アイスマジックを相殺できるということは、おそらく1つ上のランクの魔物が相手でも倒せると思います。環境の問題もあると思いますけど」


 マナ様もリディアも、ボクと同じ考えってことは、多分ミーナと真子もだよね。

 とはいえ、白雪は牽制目的でアイス・アローを使ってるだけだし、もうメガロサウルスの懐に入っている。

 迎え撃つためにメガロサウルスが爪を振りかざし、白雪も自分の爪を合わせた。

 その瞬間、メガロサウルスの体が後方に弾け飛び、白雪はその隙を逃さずに首筋に牙を突き立てる。

 首を噛み千切られたメガロサウルスは、力無く地面に横たわり、僅かに体を動かした後、二度と動かなくなった。


「けっこうあっさりだったね」

「モンスターズランクも2つ違うし、そもそも上位種と異常種だしね」

「スピノサウルス相手なら少し違うと思うけど、今の戦いぶりを見る限りじゃ危なげなかったし、結果が変わることは無さそうだわ」

「そんな感じもしますね」


 実際オーシャンハウル・グランドを、単独で倒してるからね。

 スピノサウルスが相手でも、そんなに違いはないだろうって、ボクも思うよ。

 その予想が正しいって証明するかのように、白雪はメガロサウルスだけじゃなくマグマ・スパイダーを簡単に倒してたし、1匹だけいたスピノサウルスも同じだった。

 空を自由に飛ぶプテラノドンやファイア・ドレイクにはちょっと手間取ったけど、こっちも無事に倒している。


「まずまずの結果ね」

「まずまずどころか、十分過ぎる結果でしょ」

「そうね。異常種に進化すると、ここまですごいのか」


 まずまずとか言いながら満足そうな顔をしている真子を見ながら、マナ様が羨ましそうな顔をしている。

 同じ召喚魔法士だし、マナ様は積極的に召喚獣の魔力を使ってるから、すっごく魅力的に見えるんだろうね。

 マナ様の召喚獣はスター・ルビー、ウォー・ホース、フロスト・バードの3匹で、いずれも通常契約の個体で希少種にも進化済み。

 そのマナ様もレベル91だから、エレメントエルフに進化できれば、多分召喚獣達も引っ張られて進化するんじゃないかなって思う。

 進化は人間にとっても召喚獣にとっても簡単なものじゃないし、今のマナ様はお仕事が忙しいから、狩りに行く時間は取りにくいけど、それでもいつか進化できるんじゃないかな?

 ドラゴニアンは召喚魔法も従魔魔法も使えないから、そこは羨ましいな。


「さて、それじゃあ今日は帰りましょうか」

「明日はお仕事ですしね」

「ホントにね。まあ、ユーリのためでもあるし、サキやアスマにサツキ、プリムとフラムのお腹の中にいる赤ちゃんのためでもあるから、頑張ってお仕事しないとだわ」


 あ、もう帰るんだ。

 だけど今日の目的は白雪の力の確認だし、けっこうな数の魔物も狩ってるから、確かに今日はこの辺りが引き際かもしれない。

 明日はみんなお仕事だし、無茶をして疲れを残しても仕方ないから、確かに帰った方が良いか。

 ボクは特にやることないから、明日はユニーと一緒にサキちゃん達や従魔の面倒を見てようかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る