バリエ迷宮調査依頼
メモリア総合学園初の魔物狩り実習は、残念ながら微妙な結果に終わってしまった。
一応学生達は数匹の魔物を狩ってたようだが、多くはゴブリンやウッド・ウルフだから、経験としては微妙だし、最深部からゴブリン・クイーンが出てきたこともあって、予定より早く狩りを終えざるを得なかったからなぁ。
幸いにも犠牲者は出なかったが、それでも俺達の調査不足もあったから、次は実習の直前にも調査をするようにしようと思う。
とはいえ、あまり過保護過ぎても問題でしかないから、いずれはオーダーズギルドやハンターズギルドに任せるつもりだが。
フェブロ・レヒストレス侯国も無事に独立したし、臣下になった地元の貴族や実力者達も、表向きはしっかりと臣従してるから、今のところ問題は起きていない。
建国して2週間だから当然ではあるんだが、それでもソレムネ貴族への信頼度は低いから、ソルジャーズギルドだけじゃなくオーダーズギルドも監察官を派遣している。
候都レヒストレスはナダル海に面していることもあって4つの街との定期船便も就航し、ソレムネ地方への物資供給も定期的に行われるようになった。
既に近隣の町や村は恩恵を受けているし、エネロ・イストリアス伯国にも届けられてるから、これから発展していくことになるだろう。
とは言っても、3国目の独立がいつになるかはまだ未定なんだが。
王候補は皆無に近いし、臣下となるとさらに微妙だから、下手したら次世代にならないと無理かもしれない。
そっちは俺にはどうにもできないから、今は出来ることをやっていこうと思う。
と言っても、今日はマナ、リディア、ルディア、アテナ、真子さんと一緒に、レティセンシア地方の調査に行く予定だが。
サキを出産して8ヶ月経ってるから、体調はもうほとんど戻ってきてるし、リハビリも済んでるんだが、狩りはフィールやフロート近郊ぐらいだったから、マナにとっては本当に久しぶりの本格的な狩りでもある。
ヒルデも来たそうにしてたんだが、9月の中頃に譲位が行われるし、今はそっちの準備にかかりっきりだから、今日は護衛としてミーナを連れて、ベスティアに行っている。
「確かバリエ山脈に、
「ああ」
天樹製多機能獣車に乗ってるから雨に打たれることはないんだが、それでも結界の外はかなり強い雨が降っている。
バリエ山脈はレティセンシア中央部から北部に聳え立つ大連山で、険しい環境に加えて常に雨が降っているため、立ち入る者はほとんどいない。
それもあって希少種や異常種もそこそこ生息していると言われているし、バリエ山脈北部の麓は魔化結晶で進化させられた魔物が集められていた地でもある。
コバルディア事変で多くの魔物を狩ってはいるが、あれで全部だとは思えないから、バリエ山脈にある
「私もそう思うけど、それでも魔物の数が多過ぎじゃなかった?私は聞いただけでしかないけど、1万近かったんでしょう?」
「はい。ただ迷宮氾濫で溢れる魔物の数は、迷宮の規模や質にも左右されると聞きますし、以前のフェルサ迷宮氾濫は、確か約2,000匹だったと記録されていますから、既に攻略された3つの
「ブルガル迷宮とロウクーラ迷宮は氾濫を起こしたことがないから、フェルサ迷宮より数が多かったってこと?」
「バリエ迷宮がいつ生まれてたかにもよるけど、多分そこも含まれるんじゃないかしら?」
マナ、ミーナ、ルディア、真子さんが、コバルディア事変における迷宮氾濫の検証をしているが、俺もそんなところじゃないかと思っている。
神帝の魔力で新しい
他にも未確認の
「バリエ迷宮って、誰が確認したんだっけ?」
「ワイズ・レインボーだ。ただワイズ・レインボーにはフラウさんしかエンシェントクラスがいないから、アビス・フォールとクレスト・ユニコーンを倒してから撤退したって聞いてる」
ワイズ・レインボーのリーダーでありエンシェントヒューマンのフラウさんは、確かレベル70代中盤だったはずだが、クレスト・ユニコーンと戦ってる最中にアビス・フォールが乱入してきたもんだから、レイドメンバーの何人かが四肢切断の重傷を負ってしまったため、そいつらを狩り終えてすぐにトラベリングを使ってフロートまで転移したって話だ。
幸いというか、ワイズ・レインボーにはハイヒーラーが2人いるから、重傷を負ったハンターも命に別状はないし、グランド・ヒーラーズマスターをはじめとしたAランクヒーラーに治療を依頼できたから、四肢の回復もできている。
それもあってフラウさんは、ワイズ・レインボー単独では厳しいとハンターズギルドに報告して、すぐに動けるハンターに依頼を出すことにしたんだが、それが俺達だったってことだ。
ちなみにワイズ・レインボーは、依頼を受けたのが俺達だって聞いた瞬間、疲れを癒すための休養期間に突入していたりする。
ここ数ヶ月無理をさせてたから、ゆっくり休んでくださいって気持ちで一杯だ。
「それにしても、本当に数が多いね」
「今度はマリン・バードか。場所が場所だからアクア・ロックが出てくるのは分かるが、それでも希少種の群れってのはどうなんだ?」
さっきから頻繁に魔物が襲ってきてるんだが、Bランク以下っていうのも多いが、稀にGランクやPランクも現れる。
今回はG-Rランクのマリン・バードが、10匹ぐらいの群れで現れやがった。
それでいてB-Nランクのアクア・ロックにS-Uランクのスプリング・ロックはいないから、ほぼ確実に現生種が神帝の魔力で進化させられたってとこなんだろう。
まあ、なんだかんだ言ってもGランクモンスターだから、俺達にとっては片手間で狩れる魔物でしかないんだが。
「はあっ!まったく、私達は大丈夫でも、普通のハンターにとっては命が危ない数よ?」
グランド・ソードでマリン・バードをまとめて3匹程斬り捨てたマナの言う通り、ハイクラスであってもGランクの群れは脅威でしかないから、このバリエ迷宮の調査どころかバリエ山脈を越えることすらおぼつかないか。
「今が特殊な状況でもありますから、いずれは無くなる問題だと思いますけどね。とはいえ、だからこそ攻略は急ぐ必要がありますが」
「それはわかるけど、今日は簡単な調査の予定だけだし、本格的に攻略するなら、準備もしないとだよ?」
「本当ならこのまま攻略したいけど、大和さんもお仕事がありますしね」
「本当になぁ」
本音を言えば、バリエ迷宮はこのまま攻略したいんだが、今回受けた依頼はバリエ迷宮の確認と浅い階層の簡単な調査だけだし、何よりたまたま予定が空いてた、もしくは後日に回しても問題ない仕事だったから受けれただけだ。
明日はデセオに行かないといけないし、明後日はフロートで会議があって、どっちも絶対に外せない内容だから、さすがに攻略までは手が回らない。
「マリン・バードも倒したし、中に入りましょうか」
「そうするか。ジェイド、悪いが頼むぞ」
天樹製多機能獣車を曳いてくれているジェイドに指示を出し、バリエ迷宮に入る。
第1階層は山岳地帯だったのはともかく、雨が降ってやがるから、いきなりやる気が削がれるな。
「山かぁ」
「それは別にいいんだけど、雨が降ってるのが面倒でしょ」
「本当にそうですね」
みんなも進む気が削がれてるが、実際雨の山は危険だからな。
幸いにも山道は整備されてるから獣車でも問題なく進めるんだが、水溜まりも多いから一歩でも山道を外れると足をとられるし、デカいのは池とか沼とかっていう可能性もあるから、迂闊に外れるのは怖い。
「何が出てくるかで、難易度が大きく変わるわね」
「この環境だと、Tランクが相手でも油断はできませんけどね」
マナの言う通り、環境に加えて高ランクモンスターがでたりすると、ハイクラスどころかエンシェントクラスでも危険かもしれないし、真子さんの言う通りTランクモンスターだったとしても、ノーマルクラスなら大きなダメージを受けるかもしれない。
いや、水中呼吸魔法は無いから、エンシェントクラスでもバランスを崩してる最中に、水溜まりに沈められる可能性があるか。
「ともかく、進んでみよう」
「ここにいても意味がないし、調査でもあるんだしね」
「何が出てくるのかなぁ」
再度ジェイドに指示を出して、第1階層を進みだす。
なかなか魔物が出てこないが、30分ほど進むと、ようやく最初の魔物が姿を見せた。
「って、スプリング・ウルフかよ」
だがその魔物は、よりにもよってスプリング・ウルフだった。
グラス・ウルフやウッド・ウルフの亜種で水属性のウルフ種なんだが、モンスターズランクはI-Nになる。
ただ水属性ウルフってことを考えると、雨が降って大きな水溜まりまでできてるこの環境だと、1つ上のCランクに相当する強さになってるかもしれない。
まあ所詮はIランクだし、俺達にとっては誤差でしかないんだが。
「最初の1匹だし、これが一番弱い魔物かもしれないから、まだ断定はできないわね」
「あ、そっか。他にどんな魔物がいるかもわからないんだから、このスプリング・ウルフだけじゃ判断できないんだっけ」
「そうなんだけど、スプリング・ウルフがいる時点で、高くてもBランクが出てくるかどうかになると思う」
スプリング・ウルフが一番強い魔物なのか、はたまた一番弱い魔物なのかは、他の魔物を見てみないことには判断ができない。
真ん中ぐらいの強さかもしれないし、真ん中より少し下っていう可能性もある。
スプリング・ウルフはIランクの中じゃ上位になるが、全体的に見れば最下層に近い魔物でしかないから、アテナの言うように現時点じゃ判断は不可能だ。
ただマナが予想してるように、Bランクモンスターがいる可能性は低いと思う。
第1階層からBランクモンスターがでてくる
実際マナの予想は正しく、次に出てきた魔物はI-Nランクのマッド・パペットだった。
泥の体を持つマッド・パペットは陶器の素材として使えるから、Iランクの中じゃそれなりに高額で買い取ってもらえるんだが、倒すと原型を留められずに泥溜まりになってしまうため、持ち替えるのが大変な魔物でもある。
液体もそうだが、ストレージやインベントリに収納する場合は、何かの容器に入れる必要があるからっていうのが理由だ。
しかも山の多いアミスターなら、マッド・パペットより質の良い泥を手に入れるのは簡単だから、買取額がそこそこするのはバレンティアやバリエンテ地方、ソレムネ地方といった、山の少ない国になる。
ちなみに魔石は、パペット種共通で土属性だ。
さらにTランクのスライムにI-Uランクのウォーター・スライムもいたから、バリエ迷宮は高階層
「とっとと突破したいとこだが、けっこう広そうだし、攻略には手間取りそうだな」
「第1階層から雨っていうオプションがついてるしね。高階層だと、確か2階層続けて同じ階層っていうパターンが多いんでしょう?」
「そう聞いてるな。だからここも、多分次は山で、何かしらのオプションがついてるんじゃないかと思う」
第1階層から雨の山岳地帯だった以上、第2階層も山岳地帯プラスαがあるに決まってる。
階層構成が同じでも天候が違うと出てくる魔物はガラッと変わるから、魔物対策だけじゃなく環境対策もしっかりしないとだ。
だけどまずは、第2階層への階動陣を探さないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます