アバリシアへの疑問

「ここに集いし勇士達よ、時は来た!これより我々はコバルディアに赴き、魔族という世界の敵に堕ちた皇王を討つ!そのためには、其方達の力が必要だ!」


 天樹城の麓にある広場で、ラインハルト陛下の演説が行われている。

 今日はいよいよコバルディアに赴き、皇王を含む全ての魔族を滅ぼす日だ。

 リッターズギルドから選ばれた精鋭達はもちろん、ハンター達も多く参加するこの戦いが終われば、フィリアス大陸は本当の意味で統一されることになる。

 とはいえ、現在のレティセンシアは魔物、それも異常種や災害種が蔓延ってる危険地帯だし、神帝の魔力で終焉種に進化してる魔物もいると言われているから、皇王を倒しただけじゃ真の平和には遠い。

 だからレティセンシアは、しばらくの間は封鎖されることになるだろう。


「これより出陣する!各人、割り振られた獣車に搭乗せよ!」

「「「はっ!」」」


 おっと、どうやらラインハルト陛下の演説も終わったか。

 それじゃあコバルディアに行くとしますか。


 あ、言い忘れてたけど、今回参加するリッターはこんな感じになってる。


 オーダーズギルド

  エンシェントオーダー6名

  ハイオーダー57名

  ノーマルオーダー32名

 セイバーズギルド

  ハイセイバー24名

  ノーマルセイバー9名

 ドラグナーズギルド

  ハイドラグナー13名

  ノーマルドラグナー6名

 ランサーズギルド

  ハイランサー35名

  ノーマルランサー21名

 ホーリナーズギルド

  ハイホーリナー8名

  ノーマルホーリナー10名

 ソルジャーズギルド

  ハイソルジャー41名

  ノーマルソルジャー14名


 以上276名、内ハイリッター173名、エンシェントリッター6名だ。


 ホーリー・グレイブ

  エンシェントクラス3名

  ハイクラス9名

 グレイシャス・リンクス

  エンシェントクラス2名

  ハイクラス10名

  ノーマルクラス4名

 ファルコンズ・ビーク

  エンシェントクラス4名

  ハイクラス6名

 セイクリッド・バード

  エンシェントクラス1名

  ハイクラス10名

 リリー・ウィッシュ

  エンシェントクラス2名

  ハイクラス13名

 ウイング・クレスト

  エレメントクラス2名

  エンシェントクラス5名


 さらに以上71名、内ハイクラス49名、エンシェントクラス16名、エレメントクラス2名のハンターが加わるため、総勢347名となっている。

 ソレムネとの戦争よりハンターの数が少ないが、迷宮ダンジョンに入ってて連絡の取れないレイドも多いし、最大の理由は今回は激しい戦闘は無いと予想されているから、参加レイドはウイング・クレストを除いて5つまでと上限が決められていることだ。

 エンシェントハンターも増えてるから、戦力的にはなんら不足もないっていうのも理由だな。


 ウイング・クレストからの参加者は俺、真子さん、ミーナ、リディア、ルディア、アテナ、エオスだけとなっている。

 プリムとフラムは妊娠中だし、マナとリカさんは出産して半年も経ってない。

 ヒルデは妖王だから今回の参加は見送るしかなく、ユーリ、アリア、ラウス、レベッカ、キャロルは、さすがに学園を休ませてまで参加させる意味は見出せなかったし、レイナとセラスはまだ進化できてないから、同行させるのは厳しい。

 エド達もクラフターだから、こちらも参加させる必要は感じられなかった。

 ハイヒューマンのカメリアは参加させても良かったんだが、エド達やユーリ、アプリコットさんの護衛も必要だから、バトラー達と一緒にそっちを任せている。


 それにしても、本当にエンシェントクラスが増えたな。

 オーダーズギルドにはあと7人いるし、ハンターも同じぐらいいるから、全部で50人ぐらいになるのか?

 それでいてまだ進化できそうな人も少なくないから、フィリアス大陸が統一されてなかったら戦力バランスが完全に崩れてマズいことになってたんじゃないだろうか?

 実際ソレムネの滅亡は、それが一因になってるようなもんだし。


「今日でレティセンシアも終わりかぁ。でも大変なのって、この後だよねぇ」

「だねぇ。統治の必要はないけど、魔物への警戒は他の地域の比じゃないから、調査とかも頻繁にしないといけないだろうね」


 フロートの外に移動中にアテナとルディアがレティセンシアの今後を話し合っているが、確かに統治とは別の意味で大変だよな。


「進化した終焉種って、どれぐらいいるのかは分かってないんだっけ?」

「今も進化してる魔物がいるかもしれないから、さすがに調べきれないわよ」


 アテナの疑問に答えるリディアだが、俺もそう思う。

 神帝の魔力によって新たに進化したと思われる終焉種は、現在判明しているのはコボルト・エンペラーとケートスの2種で、どちらも父さんと母さんによって討伐されている。

 だが他にもいるっていう神託はアリアに下っているし、神帝の上陸地点がコバルディアってことを考えると、レティセンシアを滅ぼした後でも終焉種に進化してしまう魔物が、複数体いてもおかしくはない。

 さらに言えばコボルト・エンペラーはバレンティア、ケートスはトラレンシア近海に生息していたから、他の場所でも進化している魔物がいる可能性はあり得る。

 個体によってはエンシェントクラス数人で討伐可能だが、同じ終焉種でも強さには大きな差があるから、俺や真子さんに討伐依頼が回ってくることも増えるんじゃないかと思う。


「終焉種って、確か元になった魔物のランクで考えればいいんだっけ?」

「そう言われてるけど、あくまでも基準の1つだし、進化してからの時間が長ければ長いほど魔力が馴染んでるだろうから、絶対じゃないと思うわよ?」


 終焉種のランクは例外なくO-Aランクだが、全てが同じ強さっていう訳じゃない。

 実際俺やプリムが倒したオーク・エンペラーとオーク・エンプレスは単独で討伐できたが、オークと同じランクのアントリオンの終焉種アントリオン・エンプレスは、俺1人じゃ倒せなかっただろう。

 さらにスリュム・ロードも、何十年もかけて傷を回復させていた上に妊娠中だったってことが影響しているのか、モンスターズランクじゃ下になるハヌマーンの方が手強く感じたな。

 これは終焉種だけじゃなく、異常種や災害種、果ては通常種にも言えることだ。

 個体差によっては1つ上のランクを凌駕することもあるから、モンスターズランクは目安ではあるが、絶対っていう訳でもない。

 迂闊にモンスターズランクを信じてしまうと、手痛いしっぺ返しを食らうこともよく聞く話だ。


「あー、そういう事なのかぁ」

「だからこそ俺とプリムが倒したオーク・エンペラーとエンプレスは、進化した直後だって言われてるんだからな」


 あの当時は俺もプリムもエンシェントクラスに進化した直後でもあったから、今考えたらよく単独討伐できたもんだと思うよ。


「終焉種に関しては、今後も継続して調査を行うことになるだろう。レティセンシアのみならず、他地域でも進化している可能性があるのだからな」

「ですね。というか調査するだけでも命懸けですし、どこに生息してるかの予想もできませんから、ハンターには今まで以上に注意してもらわないといけないですよ」

「それしかないんだが、犠牲が出るのは避けられん。今まで無警戒だった地域が、突如として危険地域になるのかもしれないんだからな」


 俺達の獣車に同乗しているラインハルト陛下も、進化しているであろう終焉種の問題は頭が痛いみたいだが、俺も気持ちはわかる。

 本当にどこに生息している魔物が進化するかもわからないし、それが人里近くだったりしたら本気でヤバいからな。

 しかもその可能性はゼロじゃないし、都合よくエンシェントクラスが近くにいるとも限らないから、最悪の場合は村や町が壊滅なんてこともあり得てしまう。

 本当に面倒な事態だ。

 マジで神帝のクソ野郎、ヘリオスオーブを滅ぼすつもりなんじゃないかと思わずにはいられない。


「そういえば、確か真桜殿が、グラーディア大陸の異常性に疑問を持たれていたな」


 ここでラインハルト陛下が、ある日母さんが呈した疑問を口にした。

 そういえばそんなこと言ってたな。


「言ってましたけど、あれはグラーディア大陸っていうより魔物についてでしたよ?」


 母さんの疑問は、グラーディア大陸に生息しているレッド・ドラゴンについてだった。

 レッド・ドラゴンはAランクモンスターだが、進化しているかどうかを表すサブランクは表示されなかった。

 これは同じグラーディア大陸の魔物であるバーニング・ドラゴンとブラッドルビー・ドラゴンにも言える。


「それだけで、十分にグラーディア大陸が異常だと言えるさ。他の魔物を見ていない以上断言はできないが、何らかの秘密があるのは間違いないだろう」


 確かにラインハルト陛下の仰る通りだが、それが何かと言われたら、さっぱり予想がつかない。

 何かあるのは間違いないが、それを知ろうと思ったらグラーディア大陸に行かないといけないから、謎が解けるとしても先の話になるだろう。


「簡単に行けないし、行くとしても相応の準備は必要ですからね。だけど何か秘密、というか謎があるってのは、俺も同意見ですよ」


 その秘密だか謎だかについては、アバリシア側も気が付いてない可能性があるからな。

 グラーディア大陸にはヒューマン以外の種族はおらず、治癒魔法ヒーラーズマジックや回復魔法もないらしいことは分かっている。

 というより、魔族は天与魔法オラクルマジックが一切使えないから、奏上魔法デヴォートマジックすら使えない。

 一般人レベルでもアバリシア正教っていう、フィリアス大陸とは真逆の宗教を信仰してるから、全く使えないだろう。


 ……ん?

 そういえば、アバリシアっていう神は、どこから出てきたんだ?

 ヘリオスオーブでは神々は実在していて、神託も時折下っている。

 しかも父なる神を含む13人には明確に役割があるから、プリスターズギルドに参加しているどの宗教でも、伝えている教義は似たり寄ったりだ。

 なのにアバリシア正教は、図ったかのように正反対の教えだし、それどころかアバリシアこそが真なる父なる神だと言い切ってるぐらいだ。

 これって普通に考えると、侵略者ってことだよな?


「大和、どうしたの?」

「あ、いや。ちょっと気になったことがあってな」


 突然考え込んだ俺に、ルディアが声を掛けてくる。

 思わず考え込んでしまったが、これはそれだけの内容なんじゃないかと思う。


「む……。言われてみれば、確かにどこから出てきたのか分からないな」

「そうよね。神々が実在してるのに架空の神を祭り上げるなんて、それこそ神罰が下ってもおかしくないはずだわ。それなのにアバリシア正教は、その架空の神を祀り上げてしまっている。もちろんどこかから現れたっていう可能性もあるんだけど……」

「それならば、神々もなんらかの動きはみせている。だがアミスターはもちろんプリスターズギルドでも、そのような話は一切ない」


 ラインハルト陛下と真子さんの言う通り、神々にとってもいつの間にか現れた神ってことになるよな。

 それでいてアバリシアに神罰なんてものが下ってないのは、前回前々回の襲撃を見れば明らかだ。

 もしかしてアバリシアっていう神も実在していて、そいつがグラーディア大陸に神託を下すなり降臨するなりしているからこそ、フィリアス大陸とグラーディア大陸じゃ魔法どころか魔物の生態すら異なってるのか?


「それはないと言いたいが、現状を鑑みる限りでは否定できないな」

「というより、その可能性は大いにあるでしょうね。それならモンスターズランクが中途半端なのも、一応は納得できるわ」


 自分で言っておいてなんだけど、俺も心から納得してる訳じゃない。

 一応の説明がつくっていうだけなんだよな。


 だけど多分、これが母さんの言いたかったことなんじゃないかと思う。

 直接的な検証はできないけど、考えるだけならいくらでもできるし、これがアバリシアの謎につながるんじゃないかっていう気もするから、これからもしっかりと考えていく事にしよう。

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