コバルディアを囲う魔物達
Side・レックス
トラベリングによる転移を行い、我らフィリアス連合軍はレティセンシア皇国皇都コバルディアへと足を踏み入れた。
我々の姿を見た皇国民は、我先にと一目散に逃げ出していき、更には皇国兵達まで逃走している様を見ると、なんとも言えない気持ちになってしまうな。
「民は分かるが、兵達まで逃げ出すとはな。正直、ここまで腐っているとは思わなかった」
「私も同様です。ですが皇王城までの邪魔が入らないと考えれば、手間は省けるかと」
ラインハルト陛下の仰る通り、私もここまで皇国軍がだらしないとは思わなかった。
民を守るはずの兵が、よりにもよって民達より先に逃げ出すなど、厳罰が下されてしまっても文句の言えない大失態だ。
とはいえ、さすがに皇王城に近付けば応戦してくるだろうから、油断は禁物だな。
だがここで、コバルディアの外からの脅威が現れてしまった。
「報告!コバルディア外周を包囲していた魔物が、こちらに向かってきております!数は不明!ですが異常種、災害種の姿も確認できております!」
やはり来たか。
コバルディアは東と南がオルカ湾となっていることもあり、そちら側に魔物の姿はないのだが、陸側は多くの魔物に包囲されている。
当然ここまで転移してきた私達も、転移直後に多数の魔物に襲われた。
幸いにも私達に襲い掛かってきた魔物は、最高でもGランクだったため、すぐに殲滅することができたのだが、それでもコバルディアを包囲している数からしたら、ほんの一部でしかない。
さらに魔物は、街壁に沿うように移動してきているものも多いが、街中を突っ切るように向かってきている魔物も少なくない。
しかも報告通り、異常種や災害種の姿も多数見える上に、その内の3匹はそれすらも超えているように感じられる。
「まさか!『クエスティング』!やはりあの3匹は終焉種だ!」
災害種をも超える魔力を感じたラインハルト陛下がクエスティングを使われたことで、3匹も終焉種がいることが確定してしまった。
ファイア・バードの終焉種フェニックス、ハイド・ヴァイパーの終焉種ウロボロス、バトル・ホースの終焉種スレイプニル、この3種が、コバルディアを包囲していた終焉種だ。
今まで一度も報告が無かったのだから、このタイミングで進化してしまっていたということか。
あと1日でも早ければ、と思わずにはいられない。
「ここで終焉種3匹かよ」
「面倒な。とはいえ、こんなとこで時間かけてる暇はないわよ?」
「分かってますよ。この後も予定が詰まってるんだから、さっさと片付けましょう」
「ええ。だけどあれは使えないんだから、油断なんかしないでよ?」
「当然でしょう」
そう言って大和君と真子さんは手を合わせ、二心融合術と呼ばれる刻印術を発動させる。
一瞬の光が収まると、大和君の手には6つの刀身を持つ剣のようなものが、真子さんの背には腕のようにも見える翼があった。
何度か見せてもらったが、あれが大和君の聖剣クラウ・ソラスと真子さんの聖翼アガート・ラムだ。
「一撃で吹き飛ばしたいところだけど、まだ扱いに慣れてないから、今回は今まで通りの戦い方の延長ね」
「ということは、俺と真子さんが1匹ずつ受け持つ形になるけど、残り1匹はどうします?」
それが問題だな。
いや、3匹もいる終焉種を、2匹も引き受けてくれるだけでも十分すぎるほどありがたいんだが、それでも1匹残ってしまうのだから、誰が対処に当たるべきなのか、判断がとても難しい。
いや……誰がやるかなど、考えるまでもない事だった。
私はグランド・オーダーズマスターであり、大和君、真子さん、プリムさん、マナ様に次ぐレベルでもある。
である以上、私がやるべきだろう。
「では残り1匹は、私が抑えます。倒せるかはわかりませんが、易々とやられることはないでしょうから」
「であるならば、私達もそちらに回ります」
「私達は彼の妻ですから、それは当然ですね」
「それに大和君達ばかりに頼るのもどうかと思うから、ここいらで私達も終焉種の討伐を試してみるのもありでしょう」
そう思って名乗りを上げると、妻達まで戦うと言い出してきた。
いや、確かに妻達もエンシェントクラスなのだから、私にとってもありがたい話なのだが、大和君と真子さんが担当する終焉種を倒すまでの間攻撃を引き付けておくだけのつもりだし、魔物の数は多いのだから、そちらへの対処も必要だと思うが?
「いや、私もサヤの意見に同意する。ウイング・クレスト以外で終焉種討伐の実績があるのはファルコンズ・ビークのエルぐらいだが、その彼女も援護に徹していたし、何より本人はその功績を認めていない。それに大和君達も、常に動けるわけではないのだから、ウイング・クレスト以外でも終焉種を討伐可能ならば、討伐しておくべきだろう」
「ですね。動けなくなるだけじゃなく、前の迷宮氾濫みたいに複数ヶ所同時に現れる可能性も否定できないから、できるならやっといてもらいたいし、それがグランド・オーダーズマスターってことなら、これ以上ないでしょう」
ラインハルト陛下も大和君も、妻達の意見に賛成か。
だが大和君の言う可能性は私も否定できないから、できるかは分からないが、やってみることにしよう。
「それじゃあフェニックスは私がやるから、大和君はウロボロスね」
「あ、ズリい!俺がフェニックスをやろうと思ってたのに!」
「あのね、ハイド・ヴァイパーがどんな魔物か、忘れたワケじゃないでしょう?私じゃ苦戦どころか、下手したらやられちゃうわよ?」
「それはそうだけど……」
確かにハイド・ヴァイパーは音もなく高速で忍び寄ってくるヘビの魔物で、その性質上遠距離攻撃手段には乏しい。
だがそれを補って余りあるスピードを有している上に、一度視界から外れてしまったら、巨体であっても探すことが困難となる。
終焉種がどうかは分からないが基本的な性質が変わることはないから、近接戦が得意ではない真子さんにとっては相性が悪いと言えるだろう。
そうなると、私が相手をするのはスレイプニルになるのか。
「では私達は、スレイプニルの相手か」
「元がバトル・ホースというのは気になりますが、終焉種相手にそんなことを気にしていては、こちらが危険ですね」
「そこは割り切らないとね。それじゃあスレイプニルは、私にレックス、マリー、ミューズの4人で、やれるとこまでやってみましょうか」
「ああ。腕が鳴るな」
妻達はやる気十分だが、何故ここまで好戦的なのだろうか?
いや、終焉種の相手など、普通は望んでも出来るものではないのだし、終焉種討伐の実績は私達にとっても大きなものになる。
それに妻達もいずれは妊娠するだろうから、今という機会を逃してしまえば、次はいつになるのか、そもそもその機会が訪れるのかもわからないか。
私は覚悟を決めて、スレイプニルに視線を送った。
捻じり合って1つになった3本の角、2対ある純白の翼、そして10メートル近い勇壮な巨体、改めて見ると元がバトル・ホースとは思えないな。
だがだからといって、私達に退路は存在していない。
2年前にオーク・エンペラー、オーク・エンプレスという終焉種を見た時は、あまりの絶望感に動けなくなりかけてしまったが、今の私達はあの頃の私達とは違う。
私はディライト・シールドを構えながらディライト・ソードを抜き、スレイプニルに向かって駆けだした。
Side・サヤ
レックスがディライト・ソードを構えながらスレイプニルに突っ込むと同時に、大和君もウロボロスに向かって駆け出し、真子もフェニックスに向かって得意としている刻印術スターライト・サークルを発動させた。
真子のスターライト・サークルでフェニックスは動きを止められたし、ウロボロスも大和君が対峙してるから、こちらに襲い掛かってくる余裕はない。
他の魔物達もハンターやリッターが抑えてくれているから、私達は何の憂いもなくスレイプニルの相手ができる。
「レックス、行くよ!」
「分かっている!はああああっ!」
レックスの隣で盾を構えたミューズとともに、先制攻撃としてグランド・ソードを叩き込む。
攻撃は避けられてしまったけど、突進は止まったから良しとしましょう。
私もだた見てるだけじゃなく、バスター・トライデントに魔獣魔法と
炎と土で形作られた無数の兎がスレイプニルに群がり、翼を焼いていく。
だけどさすが終焉種だけあって、フレイムロック・ディスチャージは簡単に蹴散らされてるし、焼いたはずの翼も使用不能になったようには見えない。
それどころか翼が焼かれたことで、私に対して怒りの形相で突っ込んできてるじゃない!
「サヤ!『シールディング』!くっ!」
シールディングでスレイプニルの突進を受け流したレックスだけど、左腕は折れてしまっていた。
「ご、ごめん!『ハイ・ヒーリング』!」
「すまない」
「こっちこそごめん。終焉種にとっても翼は大事なものだって、すっかり忘れてたわ」
「私もだ」
エンシェントクラスに進化した際に授かった回復魔法を使って、私はすぐにレックスの腕を治す。
魔力消費も激しかったけど、ここでレックスが離脱する方が戦力ダウンになるし、何より私をかばったことが原因なんだから、治さないなんていう選択肢はないしね。
終焉種にとっても翼が大事だってことを忘れてたのは私のミスだけど、改めて終焉種がとんでもない存在だって理解せざるを得ないわ。
進化してからレックスが負傷するなんて、初めてなんだもの。
「よし!マリー、ミューズ!攻撃はなるべく受け流せ!あれだけの巨体だ、それだけでやられてしまうぞ!」
「見ていましたから、十分理解していますよ!」
「あの場合は仕方ないが、レックスこそ気をつけろよ!」
「当然だ!」
レックスだけじゃなくマリーもミューズもオーダーだから、しっかりと盾を装備している。
だからこそ癖で攻撃を受け止めてしまう恐れもあって、レックスが声を上げて注意を促したんだけど、さすがにレックスの左腕が折られたところを見たら、誰だって注意するわよね。
「サヤ、君は盾を持っていないんだ。不用意な攻撃は控えてくれよ?」
「分かってる。さっきみたいな醜態を二度も晒すなんて、そんな真似はしないわよ」
レックスが負傷した理由は、私が不用意にスレイプニルの翼を焼いてしまったから。
魔物の特徴を忘れるなんてハンターにあるまじき失態なんだから、二度も同じミスをするワケにはいかないわ。
それに何より、大和君のお父さんとお母さんに鍛えられたのは、レックスだけじゃないんだから!
「よし!では行くぞ!」
「ええ!」
レックスの声を合図に飛び出した私は、バスター・トライデントに土と火のグランド・ソードを纏わせ、今度はスレイプニルの角を狙った。
3本の角が捻じれて1つになってることもあってか、太いだけじゃなく貫通力もありそうだから、あれで貫かれたら命はない。
だからまずは、目に見えてわかる攻撃手段を潰す。
本当は機動力から殺すべきだけど、スレイプニルは終焉種ということで翼を持ち、実際に空を飛んでるから、そっち狙いだと翼を落とさないといけない。
もちろんそれもやるけど、そのためには角が邪魔だから、まずはそっちからよ!
「たあああああっ!ちっ!やっぱり速いわね!」
渾身の力を込めた一撃は避けられちゃったけど、その程度のことは私も織り込み済み。
私の意図を理解してくれているミューズが
これで攻撃力は下がったし、翼の守りも減ったわ!
私はそのまま空中でスカファルディングを使い、すぐさま左の翼を斬り落とす。
地上数メートルを飛んでいたスレイプニルは、翼を失ったことでバランスを崩し、そのまま地面に落下した。
それでもちゃんと足から落ちてるから、あの様子じゃダメージはなさそうね。
だけど翼を落としちゃったワケだから、これは怒り狂う。
私達は急いでレックスの下へ後退し、再度魔力を武器に纏わせる。
「『グランド・インクライン』!」
私達が後退すると同時に駆け出したスレイプニルは、レックスの
地面を盛り上げ、傾斜を作ることで突進を防ぐグランド・インクラインは、大和君のお父さんからアドバイスをもらったレックスが作った新しい
一気に傾けるんじゃなく徐々に角度をつけてるし、スカファルディングも使って実際より角度を出すこともしてるから、足元へのダメージはさりげなく大きい。
本来は土槍とかも使うんだけど、スレイプニル相手じゃ効果があるかわからなかったから、今回は倒すことを目的に使ったってことなんでしょう。
「今だ!」
その隙を逃さず、レックス、マリー、ミューズが、それぞれ最も得意としている
その一撃で右の前足と後ろ脚、翼が斬り落とされ、スレイプニルはロクに動くこともできなくなった。
「これで終わりよ!」
暴れるスレイプニルに向かって、私も新しく作り上げた
そのグランストーム・デトネイターは徐々に小さくなり、頂点で構えている私のバスター・トライデントに集束されていく。
私はそのバスター・トライデントを構え、スレイプニル目掛けて思いっきり投げつけた。
そしてバスター・トライデントは、寸分の狂いなく眉間に突き刺さり、スレイプニルはゆっくりと頭を地面に落とし、二度と動かなくなった。
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