父母と二心融合術

 日緋色刀・天照が完成した翌日、マイライトで試し斬りを行ったんだが、瑠璃銀刀・薄緑弐式より使いやすかった。

 リチャードさんが打った瑠璃銀刀・薄緑と大差ない感じだったし、そればかりか魔力を流せば流すほど強度や硬度を上げていくような感じがしたな。

 おかげで俺は、何の遠慮もなく剣を振るうことができた。


 だからなのかさらに翌日、カラドボルグとフェイルノートから、早くもお墨付きが出たぐらいだ。


「それじゃあ始めるか」

「ああ」

「ええ、お願い」


 日課となっている二心融合術だが、カラドボルグとフェイルノートにフォローしてもらうのは初めてだ。

 俺とウイングビット・リベレーターがまだ馴染んでないから、やる意味がないって話ではあったんだが、予想より早く馴染ませることができたらしい。

 だから今日、ついにと言うべきかやっとと言うべきか、本格的に二心融合術を試すことになった。


「カラドボルグ、大和のことは任せたぞ」

「承知している」

「フェイルノート、真子をお願いね」

「任されよ」


 カラドボルグが俺の、フェイルノートが真子さんのアシストを行ってくれる。

 俺もウイングビット・リベレーターを、真子さんもスピリチュア・ヘキサ・ディッパーを完全生成して、準備を整え終わった。


「よし、それじゃあ2人とも、手を合わせろ」

「わかったわ」

「こうでいいのか?」

「それでいいよ。フェイルノート、カラドボルグ」

「「心得た」」


 俺は左手を、真子さんは右手を前に出し、手を重ねた。

 そして心を1つに、今回の場合は二心融合術を成功させるために、魔力を重ねた手に集中させる。


「ほう……大和坊よ、よくやったな」

「へ?あ、ってことはもしかして?」

「うむ。新たな剣が完成したことで、其方も本来の力で戦えるようになった。それが功を奏したのであろうな」


 昨日の試し斬りに今日の狩りでも、ウイングビット・リベレーターと天照を使ったし、以前のように近接戦を多用するようになったから、それが良かったのか。


「ということは、成功させることが可能ってことか?」

「可能だ」


 いよっし!

 まだ成功した訳じゃないが、カラドボルグからお墨付きが出たのは嬉しい。


「ならカラドボルグ、フェイルノート。頼む」

「「心得た」」


 父さんの合図で、カラドボルグとフェイルノートからの魔力が、俺のウイングビット・リベレーターと真子さんのスピリチュア・ヘキサ・ディッパーへ伝えられていく。

 同時に俺と真子さんの魔力も混じり合っていくような感覚が、重ねた真子さんの手から伝わってくる。

 これが、二心融合術の感覚なのか?


「なんか、不思議な感覚ね」

「最初はそうだろうね。でもそう感じられるってことは……」

「だな。2人とも、自分の法具を見てみろ」


 父さんに促されて後ろを向くと、ウイングビット・リベレーターもスピリチュア・ヘキサ・ディッパーも、光に包まれていた。

 いや、それどころか、光の中で形状が変化していってる?


「ウイングビット・リベレーターとスピリチュア・ヘキサ・ディッパーが、1つになっていく……」

「それどころか、小さくなっていくわ……」


 真子さんの言う通り、1つになったウイングビット・リベレーターとスピリチュア・ヘキサ・ディッパーは、徐々に形を変えていく。

 輪となった光とそれを支える台座のような形状、とでも言うのか?


 やがて光が収まると、そこには翼をあしらった台座に掲げられている巨大手裏剣?が姿を現した。


「どうやら成功したようだな」

「然り」

「感謝する、カラドボルグ、フェイルノート」


 喋ったってことは、無事に二心融合術が成功したって判断できる。

 成功させたいと思って頑張ってはいたが、本当に成功させることができたとなると、なんというか感慨深いな。


「自己紹介させてもらおう。我は聖剣クラウ・ソラス」

「我は聖翼アガート・ラム。そなたらが我らの主か?」


 俺達の方を見て……るのか?

 なんとなくそんな雰囲気は察せるが、実際に表情があるわけじゃないから分かりにくいな。

 というか、クラウ・ソラスとアガート・ラム?


「クラウ・ソラスとアガート・ラムか。確かどちらも、ケルト神話の神ヌアザが使っていたな」

「そうなの?」

「ああ。ただクラウ・ソラスは長剣だったはずだし、アガート・ラムに至っては義手だ」


 母さんに説明してる父さんだが、その話は俺も知ってる。

 確かヌアザは、銀で作られた義手を使うことで、ダーナ親族の王になったか返り咲いたかしていたはずだ。

 その義手がアガート・ラムで、ヌアザが使ってた剣がクラウ・ソラスになる……はずだった気がする。

 あと、父さん達が生成する神槍ブリューナクの持ち主でもあるルーとも、親戚関係じゃなかったかな?


「剣に関しては違うという説もあるが、だいたいはそれであってる」


 父さんにそう言ってもらって一安心だ。

 だけどまさか、ブリューナクと縁がある刻印神器を生成することになるとは、さすがに思ってなかったな。

 これ、やっぱり俺達が親子だからなんだろうか?


「カラドボルグ、どう思う?」

「その可能性は否めないが、おそらくは偶然であろう」

「然り。我らが共に顕現するには、2人の生成者を要す」

「故に我らは、2つであり1つでもある」


 右腕を失ったヌアザは、義手としてアガート・ラムを用い、その手でクラウ・ソラスを使ったって話だから、そういう意味じゃ確かに2つで1つと言えるのか。


「エクスカリバーとカリスと似たような関係なのね」

「ほう、カラドボルグとフェイルノートのみならず、エクスカリバーとカリスも顕現しているのか」

「確かにしているが、そのことで話しておかないといけないことがある。大和」


 楽しみにしてたら申し訳ないが、絶対に会えることはないからな。

 そもそもの話として、ここは地球じゃないし。

 その辺のことも、一からしっかりと説明しないとだ。

 父さんに促されて、クラウ・ソラスとアガート・ラムに詳細を説明していく。

 ここが地球ではなく、ヘリオスオーブという異世界であること。

 生成した俺と真子さんは地球に帰るつもりはなく、ヘリオスオーブに骨を埋めるつもりであること。

 魔族という、ヘリオスオーブに存在してはならない敵が存在していること。

 そしてその魔族を束ねる、神帝という魔王がいることを。


「なるほど、いささか予想外の事態だが、主達の事情は把握した。それにしても、まさか転移の際に時間のズレが生じ、そのおかげで我らの生成が叶ったとはな。なかなかに面白い」

「俺達が帰らないことについては、あんまり気にしてないのか?」

「世界が異なろうと、我ら刻印神器の本質は武器だ。故にその力を振るえるのであれば、どこであろうとこだわりはせぬ。むしろ元の世界では、我らの力を活かす機会はないのであろう?」

「残念ながらな。その点では、カラドボルグもフェイルノートも、クラウ・ソラスとアガート・ラムが羨ましいだろうな」

「「然り」」

「今の地上では、我らを振るう機はない。我らに求められるは、抑止力としての役目」


 なるほどな。

 確かに地球では、刻印神器を振るう機会はほぼない。

 父さん達は昔使う機会があったそうだが、それは俺どころか兄貴が生まれる前の話だし、以降は生成こそすれど、まともに使ったことはないそうだ。


 だけどヘリオスオーブは、魔物の脅威が日常的な世界でもあるから、地球より生成する機会は多いだろう。

 父さんや母さんが見せてくれた神話級を使えば、終焉種でも容易く倒せるようだから、俺と真子さんもクラウ・ソラスやアガート・ラムを生成することは少なくないと思う。


「じゃあ私達が帰らなくても、特に問題はないのね?」

「むしろ望むところよ」


 心強い言葉だな。


「クラウ・ソラス、お前を生成した片割れは、俺達の息子だ。俺達は近いうちに帰り、二度と会うことはない。だからお前に、2人を託したい」

「なんと……カラドボルグとフェイルノートの生成者たる其方らの息子が、我を生成したというのか。そのような話は、長き人の世であっても神代三剣や王佐四剣ぐらいのもの」


 神代三剣に王佐四剣?

 初めて聞くが、なんだそれ?

 いや、神代三剣は予想つくが。


「神代三剣も王佐四剣も、表に出すことは出来ない最重要機密だ。軽々しく口にしないでくれ」

「承知しているが、ここは異世界であり、主達も帰るつもりがない以上、秘する意味もなかろう?」

「まあ、確かにそうなんだがな」


 クラウ・ソラスとアガート・ラムが教えてくれたが、神代三剣かみよさんけんは日本の天皇家が、王佐四剣おうさよんけんはブリテン島のイングランド王家が代々生成する刻印神器のことらしい。

 どの剣を生成するかは生成してみないと分からないらしいが、先代が生成した剣以外のいずれかっていうのは確定している。

 どちらも即位と同時に生成できるようになるそうだが、その姿を目にすることができるのは七師皇のみで、国のトップであっても、存在は知っていても目にする機会は皆無に近いんだそうだ。

 どちらも国政とは無縁だが象徴でもあり、現在まで続いている理由でもあるため、日本はもちろん、イギリスと合併したアメリカ、現USKIAも、絶対に廃止することはない。


 ちなみに神代三剣は霊刀れいとう 布津御魂ふつのみたま神刀しんとう 天叢雲あめのむらくも妖刀ようとう 天羽々斬あめのはばきりの3振り。

 王佐四剣は神剣マルミアドワーズ、聖剣カルンウェナン、魔剣クラレント、王剣カリブルヌスの4振りのことを指すみたいだ。

 神話とか伝説とかで聞いたことある剣ばかりだが、天皇家とイングランド王家が代々生成してたとは、さすがに思わなかったな。


「さすがに初めて聞いたわね。あ、じゃあ第3次大戦で日本に落ちそうになった核を落としたのって?」

「天羽々斬だ。世間には公表されていないがな」


 マジか。

 確かに日本に落とされた核を破壊したのは刻印神器だって噂されてるが、まさか天皇が落としてたとは思わんかったぞ。


「普通はそうだよね。それより2人とも、明日はしっかりと特性を掴んで、近いうちに実戦にも出ないとダメだよ?」

「分かってる。さすがにこのあとは予定が詰まってるけど、入学式さえ終われば時間は取りやすくなるから、それからマイライト辺りで試してみるつもりだ」


 本当ならすぐにでも試してみたいんだが、クラウ・ソラスもアガート・ラムも生成したばかりだから、どんな特性を持ってるのかもわかっていない。

 それに明日からメモリア総合学園の寮への受け入れが始まるし、入学式も3日後だから、今はちょっとした狩りでも時間が取りにくい。

 入学式では、俺も祝辞を述べないといけないからなぁ。


「マイライトもいいけど、コバルディアっていうのもアリね。というか神話級を試すなら、そっちの方がよくないかしら?」

「ああ、確かに」


 刻印神器を使うとしたら魔物、それも終焉種相手になると考えてたんだが、確かに真子さんの言う通り、レティセンシア皇都コバルディアっていうのも選択肢に入るな。

 なにせ早く滅ぼせっていう神託が下ってるし、魔族の魔力のせいで宝樹が危ないんだから、レティセンシアは早く滅ぼさないといけない。


「ああ、確か魔族ばっかりになってる国なんだっけ?」

「そうらしい。なにせこの1年、コバルディアに行ったっていうトレーダーはいないからな。住民も含めて、ほとんどが魔族になってないと生きてられないと思う」


 魔族は大気中の魔力を吸収することで、食事をしなくてもいいらしい。

 だから食材を取り扱うトレーダーの出入りがなくとも、餓死するようなことは無い。

 だがそのため、コバルディア付近にある宝樹は、父さんと母さんがやってこなければ枯れていたとまで言われている。

 先日の会戦で神帝がフィリアス大陸に上陸したこともあって、魔物が進化しやすくなったとも言われているから、早々に何とかしないといけない問題だ。


 だから余裕ができたら、クラウ・ソラスとアガート・ラムの神話級を使い、コバルディアを消滅させた方がいいと思う。


「どうするかは、陛下とも相談かしらね。あれが何をしでかすかわからないから、早くても来月になりそうだけど」


 溜息を吐く真子さんだが、俺もそう思う。

 ああ、あれっていうのはエネロ・イストリアス伯国のバカ王子のことだ。

 入学してすぐに何かやらかすって思ってはいるが、何をやらかすか全く想像がつかないし、事によっては俺まで駆り出される可能性があるから、入学式が終わっても動きにくい状況が続くかもしれないんだよ。

 だからコバルディアを落とすとしても、下手したらそれ以降になるかもしれない。

 とはいえ、あんまり放置しとくのも問題だってわかったから、陛下達とも相談して、しっかりと時間を作らないとなぁ。

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