父と入学式

 月日が経つのは早いもので、本日4月3日はついにメモリア総合学園の入学式を迎える。

 ウイング・クレストからも、ユーリ、アリア、ラウス、レベッカ、キャロル、セラス、レイナの7人が入学するが、密かに護衛任務も受けてるから、大変だが頑張ってくれと思う。


 その入学式だが、本来なら領主であるリカさんが挨拶を行うんだが、臨月ってことで外出は禁止されてしまっている。

 なので代理として、俺が挨拶しなけりゃならなくなってしまった。

 前からその話は聞いてたし、リカさんが身籠ってるのは俺の子なんだから、代理としてっていうのは仕方がないし、当然だと思ってる。

 それでも挨拶なんて、さすがに勘弁してくださいっていうのが正直な心境だ。

 しかも父さんと母さんまで出席するとか言ってるから、マジで心臓バクバクしてるぞ。


 ところが俺の入学の挨拶の直後、予想外でありながらも予想通り、バカがバカをやらかしてくれた。

 ヘリオスオーブ初の総合学園ってこともあって、各国の王も出席してるってのに、何を考えてこんなことしでかしやがったのか、マジで頭の中身を見てみたい気分になったな。

 とはいえ、俺としては気分悪かったんだが。


「俺は現天帝の末妹たるユーリアナ・エスメラルダを婚約者とし、次期天帝となることを、この場を借りて宣言する!」


 これが例のバカ息子、ラルヴァ・イストリアスの発言だ。

 ユーリとの婚約だけでも腹立たしいってのに、まさかの次期天帝宣言までしでかすとは、想像すらしてなかったぞ。

 ラインハルト陛下達も呆気に取られてるし、クエルポ伯王に至っては真っ青になって、今にも倒れそうだ。

 とはいえ、放置は害にしかならないから、さっさと捕まえるとしよう。


「な、何をする、無礼者!」

「無礼は貴様だ。いつ、どこで、誰が、貴様ごときを次期天帝に定めた?そもそも貴様は、エネロ・イストリアスの王太子ですらない。そんな貴様が、いったい何の権限があり、先程のような戯言を口にした?」


 俺が念動魔法でバカを捕らえたことで、ラインハルト陛下も我に返ったようだ。

 とはいえ、顔も言葉もすげえ冷たいが。


「ち、父が俺を王太子に任命しなかったのは、エネロ・イストリアスのような小国ではなく、フィリアス大陸そのものを支配するに相応しいと思ったからに違いない!であるならば、俺が次期天帝であるのは当然ではないか!」

「思い込みも、ここまでくれば病気だな。クエルポ伯王、其方が唆していないことは分かっているが、さすがにこれは処罰を免れぬぞ?」


 俺もそう思う。

 何かしら問題を起こしてくれると思ってはいたが、さすがに入学式で寝言ほざくとは予想外もいいところだ。

 しかもここには各国の王達も列席しているから、言い逃れも出来ないしな。

 完全に巻き添えになったクエルポ伯王は気の毒だが。


「……承知しています。ラルヴァよ、この場で正式に貴様を廃嫡し、縁を切る。いや、貴様だけではなく、マグノリアとミーシャも同様だ。本来ならば隔離塔へ幽閉するところだが、このような場でそのような戯言を口にしたのだから、処刑は免れんぞ?」

「なっ!?」


 クエルポ伯王に告げられて驚愕の表情を浮かべて絶句するバカ王子だが、本当に自分中心に世界が回ってるんだな。

 ユーリが俺と婚約してることは知られてるし、何より次期天帝になると宣言したってことは、王位簒奪に加えて国家反逆罪ってことにもなるんだから、当然のことだろうに。


「クエルポ様!なぜ私達まで、離縁の上で隔離されなければならないのですか!」

「当然だろう?そもそもラルヴァがこのような愚物になってしまったのは、お前とミーシャの教育の結果だ。このような愚物に国を任せるなど、滅亡どころかさらなる災厄にしかならん。だからこそ、お前達にも責任を取ってもらう」

「よく決断した、伯王。レックス」

「はっ!この者達を国家反逆罪で捕らえよ」

「「「はっ!」」」

「な、何をするの!?」

「は、離しなさい!」

「無礼者!俺が天帝となった暁には、貴様らは一族郎党死刑だ!」


 クエルポ伯王の決断を支持したラインハルト陛下がレックスさんを促し、バカとその母親2人はオーダーに取り押さえられ、会場から連れ出されていった。


「皆、せっかくの晴れの日だというのに、このようなことになってしまい、すまないと思う。だが見てもらったように、たとえ王家であろうと、身勝手な態度は認められはしない。此度の件は教訓として戒め、これからの学園生活を送ってもらいたい」


 予定外ではあったが、バカの排除は確定していたから、近いうちにこうなることもわかっていた。

 だからラインハルト陛下はもちろん各国の王達も、あまり動揺はしていない。

 逆に学生達は、何が起こったのかわからないって顔してる子も多いな。

 これに関しては、本当に申し訳ないと思う。

 見せしめにはなってるだろうが、これからの学園生活を楽しみにしてた子達も多いだろうから、何かケアはしといた方がいいかもしれない。

 帰ったらみんなと相談してみよう。


Side・ラウス


 少し緊張しながら入学式に出席していた俺達だけど、まさかの事態に緊張なんてすっ飛んでしまった。


「ユーリ様、大丈夫ですか?」

「あまり気分はよくないですね」

「無理もありませんよ。話には聞いていましたが、まさかラルヴァ・イストリアスが、あそこまでの愚物だったとは思いませんでしたから」


 アリアさんとキャロルさんがユーリ様を気遣ってるけど、気分を害するのは当然の話だ。

 大和さんと婚約してるユーリ様だけど、そのことは誰でも知ってるぐらい有名なんだ。

 当然クエルポ伯王陛下もご存知なんだけど、まさかそのバカ息子がユーリ様を婚約者にした上での次期天帝宣言をするなんて、誰が予想できるんだろう?

 大和さんやヒルデ様から、ラルヴァ王子が更生することは天樹が折れてもあり得ないって言われてたけど、今日ようやくその意味が理解できたよ。


「あの愚物のことは忘れましょう。覚えていても、良いことは何もありませんから」

「ですねぇ」


 俺も、セラスさんとレベッカの言う通りだと思う。

 ただ俺達が入学したのは、ラルヴァ王子から各国の王子王女殿下方を護衛するっていう目的もあったんだけど、そのバカは入学式で早々にやらかしてくれたから、退学は間違いない。

 そうなると、俺達が入学した意味が無くならないかな?


「ああ、それは大丈夫でしょう。確かに私達、特にラウス、レベッカ、キャロルの3人はそうですが、早々に問題を起こすことは分かっていました。お兄様は、遅くとも2ヶ月かからないだろうと予想されていましたから、早くても何も問題はありません」


 じゃあ本当に、このまま学生になってもいいってことか。


「聞いてはいたが、君達も大変だな」

「だよね。だけどあの子がいなくなっても、園内を自由に動ける護衛っていうのは大切だよ。私達も経験あるからね」

「そうなんですか?」


 入学式は保護者と一緒に参列することになっている。

 だからキャロルさんのご両親になるドナート・ベルンシュタイン伯爵とクラリッサ夫人、レイナのご両親になるダスクさんとリーナさんも一緒に並んでいるんだけど、レベッカの姉のフラム姉さんは妊娠してるから、今回は欠席だ。

 あとセラスさんのご両親はリヒトシュテルン大公家だから、招待された王族席にいらっしゃるよ。


 だけど俺は天涯孤独の身だから、両親はおろか兄弟姉妹もいない。

 だから本来なら、俺は婚約者のみんなとご家族が身内になるんだけど、何故か飛鳥さんと真桜さんがおれの両親役として名乗り出てくれてたりする。

 俺は大和さんの弟子だからなんだろうけど、まさかお2人が俺の両親として出てくれるとは思わなかったから、正直ちょっと緊張してる。

 というか、本当になんで俺の両親役として参列してくれてるんだろう?


「俺達にとっても、兄や姉って呼べる人はいるんだ。学生の間はその人達が、影ながら守ってくれていたんだよ」

「当時は神器生成者だって公表してなかったし、狙われることも多かったもんね」


 意外な話を聞けてしまったけど、まさか飛鳥さんと真桜さんが狙われてたことがあったなんて。

 だけどお2人が生成する刻印神器は、確か数人しか生成できないって話だから、狙われるのも当然といえば当然か。


「まあ、そんな危険はないって話だし、気楽に構えててもいいだろう」

「今から力入れてたら、卒業まで持たないしね」


 それは確かに。

 俺達が王族の護衛だっていう話は、護衛対象の王族しか知らない。

 俺達も勉強するからっていう理由もあるけど、園内にはオーダーも巡回してくれてるから、よっぽどのことがあっても対処可能なんだ。

 ただ学生じゃないから、授業中とか寮内は理由がないと入れない。

 だから俺達が入学して、近くでも護衛できるようにってことになったんだ。

 まあ、その最大の原因となったラルヴァ王子が早速退場したから、あんまり必要があるとも思えないんだけどね。


「それであの王子様だけど、本当に処刑されちゃうの?」

「されると思います。子供とはいえ、天帝位の簒奪を口にしていましたから」

「そっか。可哀そうだと思うけど、どうにもならないんだよね」


 真桜さんはちょっと悲しそうな顔をしてるけど、こればっかりは覆らないと思う。

 更生の余地があれば別だったかもしれないけど、あの様を見る限りじゃ無理だって感じられるし、更生したところで伯王位に就くことはできないんじゃないかな。

 それに、万が一更生した振りなんかしてたら、迷惑を被るのは市井の人達なんだから、禍根を断つっていう意味もあると思う。


「はい。元は伯爵令息ですが、民を顧みていませんでしたから、いずれは処罰されていたでしょう」

「早いか遅いかの違いか。あの王がどう感じるかはわからないが、逆らっても自分が処罰されるだけじゃなく、今度こそ家族まで巻き込むとなると、さすがに二の足を踏むだろうな。だがそれでも、行動を起こしてしまうのが親っていうものだ」


 飛鳥さんは冷静に、クエルポ伯王の動向を分析している。

 今回のことだけでも、イストリアス伯王家取り潰しには十分な理由なんだけど、陛下達はクエルポ伯王を高く評価しているから、ラルヴァ王子の廃嫡だけで済ませている。

 だけどそれを不満に思って挙兵したりなんかしたら、次は間違いなく取り潰しどころか家族全員処刑となる。

 ただそれでも、自分の実の息子が処刑ってことになると、どこかでしこりやわだかまりが残る可能性はあるかもしれない。

 だからこそ、挙兵までいかずとも足を引っ張る行動をしたり、小さな反抗をしたりすることがある。

 飛鳥さんは、それが気になってるみたいだ。


「なるほど、確かにその可能性はありますね」

「ラルヴァ王子をどうするかは、お兄様が判断を下されるでしょう。ですがお義父様のご懸念は、必ずお伝えします」

「余計な老婆心かもしれないがね」

「とんでもありません」


 クエルポ伯王は聡明な人だから、そんなことはないと思いたいけど、留意しておくべきことでもあると思う。


「それで、これで入学式って終わりでいいの?」

「はい。この後は、教室で簡単な説明があります。その間親族の方は、園内を見学していただくことになっていたはずです」

「ああ、そういえばそう聞いていたな」


 この後俺達は、事前に決められていた教室に向かい、明日からの授業について説明を受けることになっている。

 一応俺達や王家の方々は同じクラスになってるけど、これは例の王子様への対策だったから、本来なら別々になってたはずなんだ。

 その王子様、入学式で早々にやらかしてくれたから、あんまり意味もないんだけど、今更クラスは変えられないからね。

 2年目からは専門学科の授業が加わるから、クラス替えもないんだけどさ。


 その説明もあるから、しっかりと受けないとね。

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