父母との会話
父さん母さんをみんなに紹介して、晩飯も食い終わった。
今母さんは、嫁さん達と一緒に湯殿を楽しんでいる最中だ。
孫のサキも一緒だから、すげえご満悦だったな。
「大和、確認するまでもないが、お前の口から直接聞きたい。お前は日本に帰るつもりはないんだな?」
リビングで父さんと酒を飲んでると、父さんがそんなことを口にした。
俺を迎えに来てくれたって話は聞いたし、そのために父さんのカラドボルグ、母さんのフェイルノート、更にオーストラリアの七師皇夫妻が生成するエクスカリバーとカリスまで使って、俺が行方不明になった地点に転がっていた白蛇の死体を経由して、わざわざヘリオスオーブにまで来てくれたのは、俺を連れて帰るためだ。
だけど当の俺は、ヘリオスオーブで地盤を固めていたばかりか結婚し、子供までできていたんだから、父さんにも予想できていなかったんだろう。
そもそも話を聞くと、俺が行方不明になってから、地球ではまだ半年ぐらいしか経ってないらしい。
だけど俺がヘリオスオーブに来てから、間もなく2年が経とうかという頃合いだから、ここでも時間のズレが生じてしまっている。
その上で真子さんという、父さん達からすれば25年も前に行方不明になった親友まで当時の姿のままでいたんだから、予想しろっていう方が無理なんだが。
「無いよ。嫁さんに子供もいるっていう理由もあるけど、俺にはヘリオスオーブの方が性に合う。確かに天爵っていう貴族になったことで責任もあるけど、それも含めて受け入れてる」
「わかった。お前がそう言うなら、父さんはお前の意思を尊重しよう。だが二度と会えなくなるし、母さんは簡単に納得しないぞ?」
そこが問題なんだよなぁ。
父さんは俺の意思を尊重するって言ってくれたが、母さんは過保護で子煩悩だから、多分俺と一緒に帰ると信じて疑っていないと思う。
それどころか、プリム達も連れて帰ると言い出しかねない。
地球でもレベル相当の力は使えると思うが、魔法は使えなくなるし、何より嫁さんの多くは地球じゃ獣人や竜人になるから、奇異の視線に晒されるのは間違いないし、それどころか人体実験に使おうと企むバカどもが出てくる可能性もある。
そんなヘリオスオーブ以上に魑魅魍魎が跋扈する世界にみんなを連れて帰るなんて、さすがに考えてないぞ。
「母さんのことは、何とか説得するよ。俺だけじゃなく、みんなも立場や責任があるからな」
「そうだな」
説得できるかは分からないが、説得しないと連れて帰られる可能性はあるから、命がけで説得してみせる。
「それで、父さん達が帰るのって、来月の予定だっけ?」
「ああ。それまでカラドボルグやフェイルノートは生成したままだから、少し騒がしくなるだろう」
「主よ、我は指示がなければ静かなものだと思うが?」
「それはそうだが、酒を飲んでる時だけは別だろうに」
目の前の光景に、俺は少し常識を疑っている。
父さんが生成している聖剣カラドボルグが、深皿に注がれた酒を飲んでいやがるからだ。
どうやってと思うだろうが、父さんが剣先を深皿に浸すと、みるみるうちに酒が減っていってるんだよ。
剣が酒を飲むなんて、予想外にも程がある光景だ。
「否定はできぬが、毎日飲んでいるわけではないぞ?」
「まあな」
父さん達が帰るのは、丁度1ヶ月後の予定だ。
なんでも4つの刻印神器を使っても、ヘリオスオーブへの転移は父さんと母さんのみしかできず、印子も半分以上使うんだそうだ。
厳密に言えば、あと数人は連れてくることができたそうなんだが、そうすると俺を連れて帰れるか分からなくなる。
だから最小限の人数ってことで、父さんと母さんだけで来ることになったそうだ。
帰還のための印子が回復するのにかかる時間が、だいたい2週間ぐらいだと予想され、その間何が起こるかわからないから、1ヶ月見ることになったらしい。
実際ヘリオスオーブへの転移直後に、俺を助けるために3つの神話級術式を使ってくれたからな。
「そういえば坊よ、剣が折れられていたのではないか?」
「あ、俺か。ああ、折られた。明日打ってくれた人に、謝りに行く予定だよ」
突然カラドボルグに話しかけられて驚いたが、坊って呼び方は勘弁してもらいたいと思う。
だけど内容は、俺にとっても大きな問題だから、瑠璃銀刀・薄緑を打ってくれたリチャードさんに謝罪の1つはしないといけないと思ってる。
「異世界だからか、地球じゃゲームや物語に出てくるような金属が普通にあるのは驚きだな」
「剣の銘もな。主の前世にあやかっているようだが、折れた刀身を見るだけでも相応しい銘ではないか。出来ることなら、折れていない姿も見てみたかったものだ」
父さんとカラドボルグが薄緑を惜しんでくれているが、俺も同じだ。
1年半ほど愛用していたが、エレメントヒューマンに進化した今でも使えてたし、手にもしっかりと馴染んでいた。
マルチ・エッジやウイングビット・リベレーターの翼剣との二刀流も慣れてきてるところだったのに、俺の油断のせいで修復不能となってしまったのは心から悔しい。
神帝のサンダーケージ・ドームは回避に集中しなきゃ避けられなかったし、周囲を見る余裕が無かったのは事実だが、一騎打ちなんていう戯言を信じてたのも間違いないから、やっぱり油断なんだろう。
「優位論者を信じてしまったのは、確かにお前の落ち度だな。あいつらは、自分達が絶対的に正しいと信じている。約束を反故にしたり、改心した振りをしての不意打ちなど、日常茶飯事だ」
「思い知ったよ。代償はデカかったけどな」
次に対峙しても、俺は絶対に神帝の言葉は信じたりはしない。
そのために瑠璃銀刀・薄緑という、大きな代償を支払ったんだからな。
「それでいい。あとはサンダーケージ・ドーム、だったか?あのS級の対策だな。あれは大和、お前には相性が悪い。対抗するには基礎能力をさらに底上げするか、新しいS級を開発するかだ」
サンダーケージ・ドームの厄介なところは、質量のある物理攻撃だということだ。
神帝が土属性の生成者であり、生成する武装型法具ライフ・リーパーには、雷を纏わせていたことから火属性術式への適性アップ効果もあるように思う。
土から鉄を作って剣の形にし、炎と雷を纏わせて360度全方位に展開することで簡易的な結界と成し、それらを一気に対象に打ち込む。
俺もアイスエッジ・ジャベリンを使えば似たようなことはできるが、神帝の場合は纏わせた雷での感電も想定されているから、受け止めることはできないっていう利点もある。
「心配しなくても帰るまでの間、父さんが稽古をつけてやるさ。あれぐらいの術式なら、新規開発せずとも再現できる。しかも
ニヤッと笑う父さんに、思わず背筋が凍った。
サンダーケージ・ドームを再現できるのもすごいし、父さんが稽古をつけてくれるのもありがたい。
だけどそこで
いや、神帝には大きな借りがあるから、その借りを返すために力をつける必要がある。
父さん達がヘリオスオーブにいられるのは1ヶ月しかないから、
「頼む!」
一瞬躊躇したが、俺は力強く言葉を発した。
Side・プリム
あたし達は今、大和のお母様 真桜お義母様と一緒に湯殿に来ている。
お義父様は大和より少し背が高いぐらいだったけど、お義母様はマリーナと同じぐらいの小柄な方。
だけどレベルは217もあるそうだし、怒ったらとてつもなく恐ろしいって真子が言っていた。
見た目じゃとてもそうは見えないけどね。
見た目で判断するつもりはないけど、性格も少し子供っぽいところがあるようだから、誤解するバカは絶対に出てくるでしょう。
「うわあっ!すごいね、ここ!」
「でしょう?24時間、いつでも入り放題なのよ」
「羨ましい!」
真子も二度と会えないと思っていた親友と会えたことで、童心に返ってる気がするわ。
今じゃ義理の母娘っていう関係になっちゃってるけど、2人にとってそんなことはあんまり関係なさそうね。
「それにしても45歳のくせに、綺麗な肌してるわね」
「アンチエイジングには気を遣ってるからね。ヘリオスオーブに来てから、なんか印子が活性化してる気もするけど」
「でしょうね」
お義母様は45歳と聞いているけど、童顔なこともあってか20代半ばぐらい、下手したら真子と同い年にしか見えない。
実際同じ年の生まれなのに実年齢は25歳も離れちゃってるんだけど、ヘリオスオーブじゃハイクラスに進化すれば老化はほとんどしないし、エンシェントクラスになると老化そのものが起こらない。
お義母様はアーククラスっていう、エレメントクラスのさらに上と思われるクラスだから、それもあって魔力が肌年齢とかを若返らせてるのかもしれないわね。
「え?そうなの?」
「はい。わたしやユーリの曾祖母は108歳ですが、見た目は20代ですから」
「わたくしの曾祖母も、109歳ですね」
「ひゃ、100を超えてても、見た目は20代って……」
サユリ様とセルティナさんね。
確かにあのお2人は、あたしも驚くほど若々しいし、見た目通り活発な方達だわ。
女性にとって進化は、実力がつくのはもちろんだけど、何より見た目を永遠に保ち続けることができるから、憧れてる人は多いのよ。
「すごく魅かれるけど、さすがに留まるワケにはいかないからなぁ。あ、サキちゃんのお風呂、私がやってもいいかな?」
「はい、お願いします」
「ありがとう、マナちゃん」
やっぱりお義母様は、大和と一緒に帰ろうとされているのね。
あたし達にとって、ここで大和と離れるのは苦痛でしかないけど、それはお義母様にとっても同じこと。
だからあたし達から言い出すのは辛いし、ここで話すようなことでもない。
1ヶ月ほど滞在されるそうだから、それまでに何とか説得しないと。
「さすがお義母様、手慣れていますね」
「大和達だけじゃなく、知り合いの子達もお風呂に入れてあげたことあるからね」
さすがお義母様は、手慣れた手付きでサキをお風呂に入れている。
持ち運びできて水に浮くベビーバスだから、あたし達もお風呂に入ったまま使えるし、念動魔法を付与させた天魔石も使われているから、まだ首が座っていないサキを長時間支えてても疲れることはない。
長時間お風呂なんてサキの体に悪いから、そっちの方に気を付けないといけないわね。
「やっぱり女の子は可愛いなぁ」
「真桜だって娘はいるんでしょう?」
「いるけど、あの子はお転婆だからなぁ。いったい誰に似たんだろう?」
「真桜でしょ。高校時代何をしでかしてきたか、忘れたとは言わせないからね?」
「あ、あははは~」
真子と2人でサキをお風呂に入れて下さっているお義母様だけど、学生時代の話になると分が悪そうに見える。
大和も詳しくは教えてもらえなかったそうだけど、真子は学友だし、何より真子にとっては数年前の話だから、今でもハッキリ覚えてるってことか。
「あ、リカちゃん!」
「は、はい?」
「来月出産なんだよね?」
「はい、予定ではそうなっています」
真子から逃げるかのように、臨月間近のリカさんに話しかけるお義母様。
まあ、もしかしたらリカさんの出産に立ち会えるかもしれないし、新しい孫の誕生ということにもなるんだから、期待されているのかもしれないわね。
「できれば立ち会いたいけど、それまでに生まれるかは分からないかぁ」
「さすがにね。予定だと4月の中頃だけど、前後することはよくあるし、こればっかりはその時になってみないと」
「だよねぇ」
残念そうなお義母様だけど、予定日通りに出産する人はかなり珍しいらしいし、前後するにしても数日っていう場合がほとんどだから、お義母様が出産に立ち会えるかは本当に分からないわ。
「はい、綺麗になったよ、サキちゃん」
「だう~!」
体を洗ってもらったからか、嬉しそうな声を上げるサキに、お義母様が目を細められる。
「ありがとうございます、お義母様」
「私の孫でもあるんだから、これぐらいなんでもないよ」
「では私は、先に上がります。お義母様はごゆっくりなさってください」
「うん、ありがとう、マナちゃん」
お義母様からサキを受け取ったマナは、一足先に湯舟から上がった。
あたしとフラムは9月が予定だから、まだ半年もある。
だけどあとそれだけで、あたしも母親になるのか。
「リカちゃんはもうすぐだけど、プリムちゃんとフラムちゃんも妊娠してるんだよね?」
「はい、9月が予定だと言われています」
「半年も先なのかぁ。残念だけど、プリムちゃんとフラムちゃんの赤ちゃんとは会えないなぁ」
とても残念そうな顔をされるお義母様だけど、あたしも残念だわ。
だけど話をお聞きすることはできるから、しっかりと聞かせていただきましょう。
あ、大和の子供の頃の話を聞いてもいいかも。
きっとみんなも、興味あるでしょうからね。
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