妻達の自己紹介
Side・マナ
真子が慌ててアルカに帰ってきたから何事かと思ったけど、話の内容は衝撃的なものだった。
ガイア様の予知夢通り、大和が魔族に囲まれたという顛末はもちろんだけど、何より衝撃だったのは、その大和を救った2人のヒューマンの正体。
まさかそのヒューマンが大和のご両親だったなんて、予想しろっていう方が無理だわ。
しかもレベルも200オーバーって、最初は何の話かと思ったじゃない。
真子から話を聞いた私達は、フィールやデセオで執務中のユーリやヒルデ姉様も急いで呼び戻し、大和達の帰還に備えた。
真子も説明してからすぐにポラルに戻ったけど、けっこう慌ただしかったわね。
「なんか、すっごく緊張してきたわ」
「わたくしもです。お会いしたいと思ってはいましたが、本当にお会いできるとは思いませんでしたから」
「別の世界にお住まいですからね」
プリムもヒルデ姉様もリカも、ものすごく緊張しているわね。
私やユーリ、フラム、アリアもだけど、ヒルデ姉様の言う通り大和のご両親とお会いできるなんて、思ってもいなかったわ。
そもそもどうやってヘリオスオーブに来られたのかっていう疑問もあるけど、真子が聞いた話だと刻印神器っていう、最上位の刻印法具を使ったって話ね。
簡単にしか聞けてないから、後日ちゃんとお聞きするとも言っていたけど。
「サキちゃんは……よく眠っていますね」
「ええ。おじい様とおばあ様になる方達だから、サキとも是非会って頂きたかったんだけど、起きる気配がないのよ」
私と大和の娘サキは、生後2ヶ月を過ぎたところ。
だから1日のほとんどは寝ているんだけど、この様子じゃしばらくは起きないでしょうね。
「失礼します。大和様方がお戻りになられました」
「分かったわ」
本殿2階のリビングで待っていたら、ルミナが大和達の帰還を報せてくれた。
みんなもだけど、私もすごく緊張してきたわ。
「外見は日本の城だが、中身は西洋風なんだな」
「空に浮かぶお城って、これこそ異世界って感じだよね」
話し声が聞こえてくる。
大和のお父様は落ち着いた感じがするけど、お母様は無邪気に喜ばれてる感じね。
「ただいま」
「お帰りなさい。無事で良かったわ」
大和の姿を見て、私は心から安堵した。
ケガはもちろん、瑠璃銀刀・薄緑まで折られたって聞いてたから、話を聞いた時は心臓が止まるかと思ったし、臨月間近のリカなんて切迫早産の恐れまであったぐらいだった。
だけどお義父様とお義母様が現れ、大和を助けてくださったと聞いて、安心したと同時に別の意味で驚いたわ。
「聞いてると思うけど、一応紹介するよ。俺の父さんの飛鳥と、母さんの真桜だ」
「お、お初にお目にかかります。大和様の初妻、プリムローズと申します。種族はフォクシーになります。プリムとお呼びください」
こんなガチガチに緊張してるプリムなんて、初めて見たわ。
私も気持ちは分かるけど、初妻でなくて良かったと心から思える瞬間ね。
「初めまして、大和の父 飛鳥です。こちらは妻の真桜。大和から話は聞いていますが、まさか本当に……」
「お嫁さん多いよね。しかも獣人とか竜人だけじゃなく、エルフや人魚までいるって、異世界ってすごいなぁ」
お義父様が驚かれるのはわかるけど、なんでお義母様はのほほんとされているのかしら?
聞いた時はものすごい剣幕で大和に詰め寄ったって聞いてるんだけど、説明されて納得でもされたの?
「既にお会いしている者も、改めてご紹介させていただきます。こちらのエルフがマナリース、天帝陛下の妹君で、ラピスラズライト天爵を拝命しております。腕に抱いている子は、先日生まれたマナリースの娘で、サキと申します」
「マナリース・ミカミ・ラピスラズライトと申します。マナとお呼びください。お会いできて、娘サキともども嬉しく思っています」
妻達の紹介は初妻の役目だけど、自己紹介をしなくていいワケじゃない。
だから娘のサキと一緒に自己紹介させていただいたんだけど、お義母様は私の腕の中にいるサキに興味津々のご様子。
お二方にとっても孫になるんだから、興味があるのは当然だけどさ。
「この子がサキちゃんか。あ、エルフなんだ」
「はい。生まれてくる子は、両親のどちらかの種族がほとんどですので」
稀に両親両方の特徴を持つハーフが生まれるけど、数百人に1人って言われてるから、多いようでいてそんなに多くはないわね。
「あとで抱かせてね?」
「はい、もちろんです」
孫を抱きたいと思うのは当然だし、お義母様は大和を含めて3人の子を産み育てていらっしゃるんだから、私も有意義な話を聞けそうだわ。
「こちらのヴァンパイアは、ヒルデガルドと申します。トラレンシア妖王国妖王陛下でもあらせられますが、縁あって私どもと同じ夫を頂くこととなりました」
「ヒルデガルド・ミカミ・トラレンシアと申します。お見知りおきくださいませ」
「じょ、女王様、ですか?」
「これはご無礼を」
「い、いえ、お顔をお上げくださいませ。わたくしは既に女王としての実権は妹に譲っております、名ばかりの存在ですので。わたくしのことは、ヒルデとお呼びくださいませ」
ヒルデ姉様はまだ譲位していないから、身分はトラレンシア妖王のままになる。
譲位予定はあるけど、ソレムネ地方がもう少し安定するまでは代官を続ける予定でもあるから、実際の譲位はまだ先ね。
「ほら真桜、興味あるのはわかるけど、後がつっかえてるから、少し我慢してね」
「あ、そっか。ごめんなさい」
真子に諭されて素直に頭を下げるお義母様だけど、確か私のお母様より年上だったはずよね?
見た目は20代前半ぐらいだけど、性格的にもっと幼く感じるのは気のせいかしら?
「あ、いえ、とんでもありません。それでは紹介を続けさせていただきます。こちらのエルフ ユーリアナは未成年のため、まだ婚約者という立場ですが、先のマナリースの妹になります」
「お初にお目にかかります。ユーリアナ・エスメラルダと申します。皆様からは、ユーリと呼ばれております。大和様やお姉様と同じく、兄より天爵位を拝命しております。今はフィール、プラダという町を治める領主として、日々励んでおります」
本来ならユーリもアリアも、成人すると同時に大和と結婚する予定だったんだけど、総合学園に入学することになったから、卒業するまで結婚することは出来なくなっている。
アリアの方が1つ年上なのに結婚は同時だってガイア様の予知夢ででていたそうだから、どうしてなのか疑問だったけど、卒業と同時にっていうことになるなら、確かに2人同時になるから、思わず納得しちゃったわね。
「同じくこちらのエルフ フレデリカは、ユーリアナとは別の領地を治めている侯爵です。彼女は間もなく臨月を迎えます」
「フレデリカ・ミカミ・アマティスタと申します。私のことはリカとお呼びください」
リカの予定日は丁度1ヶ月後だから、もしかしたらお義父様とお義母様も出産に立ち会えるかもしれないわね。
予定日より早まることもよくあるらしいから、できることなら立ち会って頂きたいわ。
「既にご挨拶させて頂いていると聞いていますが、改めてご紹介致します。ドラゴニアンのアテナ、ヒューマンのミーナ、双子のドラゴニュート リディアとルディアです」
順番的にアテナ、ミーナの次はフラムになるんだけど、リディアとルディアも既にご挨拶はしているって聞いてるから、少し変則的だけどここでまとめて紹介ってことになる。
挨拶済みだから、軽く頭を下げるだけにとどまってるけどね。
「そしてこちらのウンディーネが、フラムと申します」
「は、初めまして。フラム・ミカミ・フレイドランシアと申します」
緊張して少し噛んじゃったけど、気持ちは分かるわ。
「こちらのラビトリー アリアは、先のユーリと同じ婚約者となります」
「アリアと申します。よろしくお願いいたします」
なんかお義母様の視線が、アリアの耳にいってない?
真子もそんなところがあったけど、どちらかと言えば真子はプリムの尻尾に魅了されてるから、個人の嗜好ってことかしら?
というかお義母様、初めてお会いしたばかりでなんですが、もう少し慎みを持たれた方がよろしいのではないでしょうか?
初対面の人に失礼極まりないから、口には出さないけどさ。
「最後に真子です。ご友人だと伺っていますからご紹介の必要はないかもしれませんが、彼女も正式に婚姻を結んでいますので、ご紹介させていただきます」
「マコ・カタギリ・フレイドランシア、今はそう名乗っています。よろしくお願いしますね、お義父さん、お義母さん」
「真子にお義父さん、お義母さんと呼ばれる日が来るとは……」
「夢にも思ったことなかったよね……」
まあ、同い年の学友って話だし、普通は考えないわよね。
「生まれた年は同じだけど、私の実年齢はまだ22にもなってないからね。さすがに親子ほども年が離れるなんて、私も思わなかったけど」
「それはそうなんだがな……」
「違和感もだけど、なんか背中がむず痒いよ」
「2人とも、義娘に向かってひどい言い草ね」
違和感ぐらいは感じてるだろうけど、親友同士だからなのかものすごく気安く接してる真子が凄いと思う。
「ああ、失礼。丁寧な紹介、ありがとうございます。思ってもいなかった展開に驚いていますが、これからも不肖の息子をよろしくお願いします」
「はい!」
私達の一番の心配は、お義父様とお義母様がヘリオスオーブに来られた理由だった。
誰がどう考えたって、息子である大和を探しにきたという理由しかあり得ない。
だからもしかしたら、大和は自分の世界に帰ってしまうんじゃないか、そう考えてしまうのは当然の話になる。
だけどお義父様は、多分だけど大和を連れて帰ろうとはなさらない気がする。
もちろん葛藤はあるだろうけど、大和の意思を尊重してくださる、そんな雰囲気が察せられた。
だからこそ、先程のセリフにつながってると思いたい。
「もう堅苦しい挨拶は終わりでいいんだよね?」
「終わったけどさ……真桜はもうちょっと緊張感持った方がいいわよ?」
「持ってるもん!」
私のお母様より年上のはずなのに、妹のユーリより幼く感じるわね。
もちろん性格なんだろうから、何かスイッチが入ったらガラッと変わられるんじゃないかとも思うけど。
「はいはい。あ、リカ様、お疲れでしょう?お部屋までお連れしましょうか?」
「ありがとう。でも大丈夫よ。せっかくお義父様やお義母様とお会いできたんだから、もっとお話ししたいしね」
臨月間近のリカはあまり無理をさせたくはないけど、ここで無理に部屋に返したりなんかしたら、そっちの方がストレスになりそうよね。
「臨月が近いと聞いていますから、無理はしないでくださいよ?」
「ありがとうございます、お義父様。ですが体調は安定していますので、しばらくは大丈夫です」
「それならいいですが……」
お義父様は心配性というか、気を遣っていらっしゃるのが丸わかりね。
でもお気遣いは嬉しいし、人柄が良いのも分かる。
「ああ、我々相手に、そこまで畏まった態度はいらないですよ。普段通りにしてください」
「ありがとうございます、お言葉に甘えさせて頂きます」
お義父様がそう仰って下さり、プリムが甘えさせてもらったことで、窮屈な言葉遣いからは解放されることになった。
緊張もしてたけど、相手がお義父様とお義母様ってこともあって、私達も普段よりすごく気を遣ってたのよ。
だからそう仰って下さって、すごくありがたく思えるわ。
「じゃあ紹介も終わったってことで、軽食でもどうだ?」
「そうしましょうか。お義父様やお義母様には珍しくないと思うけど、食材はヘリオスオーブ独特のはずだから、楽しんでいただけると思うわ」
「ほう、それは楽しみだ」
「何を使ったのか、楽しみだなぁ」
お義父様とお義母様が来られるって聞いたから、急いで準備させてもらったわ。
選んだ食材はゴールド・ドラグーンにクラウドレス・ディアーと、私達も滅多に食べない高級品。
ゴールド・ドラグーンはまだ少し残ってるけど、クラウドレス・ディアーはこないだ大和が買ってきた分しかないから、量がかなり少ないのが難点かしらね。
お野菜はトレーダーズギルドが管理している畑から採れた物だけど、そちらも一級品を用意してるから、ご満足いただけるんじゃないかと思う。
夜は夜で、しっかりしたお料理にお酒も用意するから、楽しんでいただきたいわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます