父母のステータス

Side・レックス


 大和君と知り合ってからというもの、驚かされることは珍しくない。

 単独で異常種や災害種をランク問わず討伐していたこともだが、終焉種の単独討伐は心から驚いた。

 その後何体かの終焉種を討伐しているが、慣れてしまったのかあまり驚かずに済んでいる。

 それもそれで驚きだが、彼のやることに驚いていては身が持たないからな。


 だが今回は、別の意味で驚かされてしまった。

 不意打ちだったとはいえ、大和君が瀕死の重傷を負わされ、あと一歩で命を奪われてしまうところだったのだから。

 それを救ったのが彼のご両親だというのだから、もう何と言ったらいいのか分からない。


「此度の救援、心から感謝致します」


 だが我々も救われたのは間違いないのだから、まずは感謝を述べなければ。

 どのように救われたのかもよくわかっていないが、大和君と真子さんの話では、真子さんよりさらに広域かつ精密性の高い刻印術を使い、魔族のみを狙い打ったのだという。

 そんなことが可能だとは思えないが、それを成したのが大和君のご両親というだけで、なぜか納得してしまった自分もいる。


「こちらこそ、息子がご迷惑をおかけしています」


 大和君のお父上 飛鳥殿は、理知的で冷静なお方のようだ。

 だが雰囲気だけでも、大和君以上の実力者だということが察せられる。

 歩いているだけでも隙が見出せなかったし、今も油断なく周囲を警戒しておられるぐらいだ。

 ここは大和君の世界ではなくヘリオスオーブという別世界なのだから、警戒するのも当然だが。


「とんでもありません。ご子息には、幾度も窮地を救っていただきました。今の我らがあるのは、全てご子息のおかげといっても過言ではありません」

「いえ、息子はまだ未熟ですから、そこまでのことは出来ないでしょう」


 これは誇張でもなく事実だが、お父上からしたらそうは思えないようだ。

 大和君も何か言いたそうだが、相手が相手だから何も言えなくなっている。

 先程のことも気にしているようだが、我々からしたら神帝に敗れたわけではなく、不意打ちによって傷を負わされたといった印象なのだが。


「いえ、全て事実です。正式に記録にも残されておりますし、町の人々からの評判も良いですから」


 少しはフォローしておこう。


「それで、簡単に聞きましたけど、ここは間違いなくヘリオスオーブという異世界なんですよね?」

「はい、それは間違いなく」


 母上の真桜殿は、興味津々のご様子で異世界かと尋ねてこられた。

 大和君の世界にはヒューマン以外存在しておらず、竜種もいない。

 過去にサウルス種とよく似た恐竜と呼ばれる種はいたようだが、その恐竜も絶滅して久しいと聞く。

 さらに大和君の奥方達も、人族に獣族、妖族、竜族と、4種族全て存在しているから、真桜殿としても珍しくて仕方がないのだろう。


「魔法があると聞きましたし、実際に回復魔法はこの目でみましたけど、他にもあるんですよね?」


 そう思っていたら、真桜殿が興味を持たれていたのは魔法の方だった。


「ええ、あります。数があるため説明は困難ですので、後程ご子息にお聞きいただければと思います」


 私が説明してもいいのだが、今は戦後処理の最中でもあるし、私もこの後天樹城で陛下にご報告しなければならないから、説明は大和君に任せようと思う。


「分かりました。あ、あとこれも簡単に聞いたんですけど、レベルなんていうものもあるんですよね?」

「ございます」


 何故か目を輝かせている真桜殿だが、何がそんなに琴線に触れたのだろうか?

 まあレベルについてはヘリオスオーブの常識でもあるし、飛鳥殿や真桜殿にも早めに知ってもらっておいた方がいいだろう。


「『ライブラリング』。こちらが私のライブラリーになります。おそらくはお二方も、ご自身でお使いいただけるのではないかと」

「見てもいいんですか?」

「どうぞ」


 私のレベルはグランド・オーダーズマスターに就任した際に公表されているし、特に秘匿しなければならない称号もないから、見られてもなんら支障はない。


 レックス・フォールハイト

 25歳

 Lv.81

 人族・エンシェントヒューマン

 オーダーズギルド:アミスター天帝国 フロート

 オーダーズランク:オリハルコン(O)

 ハンターズギルド:アミスター天帝国 フロート

 ハンターズランク:エメラルライト(D-E)

 天騎士アーク・オーダー、グランド・オーダーズマスター


 ドラゴンや魔族の相手をしていたからか、レベルが上がっていたようだ。

 オーダーズランクは以前から変化はないが、ハンターズランクは昇格できるな。

 フロートに戻ったら、暇を見て昇格手続きを行わなければ。


「おー、レベル81もあるんですね」

「母さん、個人情報なんだから、さすがに口に出すなよ」

「あ、ごめん。申し訳ありません」

「お気になさらず」


 無邪気な方のように感じたが、本当にそのようだな。


「妻が申し訳ない」

「いえ、私のレベルは公表されておりますので、誰でも知っています。ですので、本当に問題はありませんよ」


 飛鳥殿が申し訳なさそうに頭を下げてくださるが、グランド・オーダーズマスターやアソシエイト・オーダーズマスターのレベルは指標にもなっているから、秘匿は許されていない。

 今回はレベルが上がってしまったが、そちらについても近日中に公表されるだろう。


「えっと、こうですか?『ライブラリング』!あ、でたっ!」


 嬉しそうな顔をされる真桜殿だが、あまりにも無防備すぎる。

 私も一部が見えてしまった。

 だがその一部でも、想像を絶する情報だ。


「か、母さん……マジか、これは……」

「え、えげつないわね……」

「え?そんなに凄いの?」

「……みんなに見せてみたら、意味が分かるわよ」

「そうなの?あ、すいませんけど見て頂いてもよろしいですか?」


 そう言って無邪気にライブラリーを差し出される真桜殿だが、見た者全てが自分の目を疑ったほどの内容だった。

 この場にはエンシェントハンターも多いのだが、彼らから見ても非常識を通り越す衝撃すぎる事実だからな。


 マオ・ミカミ

 45歳

 Lv.217

 人族・アークヒューマン

 ヴァルキリー・クイーン、ヴァルキュリア、異世界の刻印術師、双刻の生成者、神器生成者、神槍の巫女、聖弓の担い手、刻印の継承者


「……は?」

「いやいやいやいや、ありえねえだろ、このレベルは!」

「レベル……217!?」

「種族もアークヒューマンって……嘘でしょ……」


 どこから突っ込んだらいいのか、本当に分からない。

 大和君のライブラリーを初めて見た時も衝撃的だったが、真桜殿は規格外にもほどがありすぎる。

 まずはレベルだが、現在ヘリオスオーブ最高レベルを更新した大和君でさえ、レベルは106だ。

 だが真桜殿のレベルは倍以上と、この時点で意味が分からない。

 種族も、大和君がエレメントヒューマンに進化したことで初めてエンシェントクラスの上があることが判明したというのに、まさかアークヒューマンという、エレメントヒューマンのさらに上と思われるクラスがあるとは思いもしなかった。

 そして称号だが、見るからに恐ろし気な称号がズラリと並んでいる……。


「そ、そんな凄いんだ、これ……」


 大和君や真子さんの説明を受けて、どれだけご自分が規格外かをご理解されたようだ。

 軽く引かれているが、ご自身のことですよ?


「ね、ねえ飛鳥、飛鳥のも見てもいい?」

「まあ構わないが……。『ライブラリング』、だったか?ああ、出たか。どうぞ」

「ありがとう。それじゃ見るね」

「わ、我々も拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」

「構いませんよ」


 怖いもの見たさでしかないが、見た者は後悔する結果になる。


 アスカ・ミカミ

 46歳

 Lv.221

 人族・アークヒューマン

 パラディン・キング、七師皇、異世界の刻印術師、双刻の生成者、神器生成者、神槍の使い手、聖剣を受け継ぎし者、刻印の継承者


 このように、奥方の真桜殿よりレベルが高かった。

 レベル100でさえ大和君が超えるまで到達者はいなかったというのに、その倍以上のレベルを誇り、さらにエレメントクラスより上と思われる種族だとは……。


「か、勝てるわけがねえ……」

「そりゃねぇ……。あ、でもまだ刻印神器を生成したままだけど、なんでなの?」

「ああ、そのことか。俺達はいずれ日本に戻るつもりだが、それまでは生成しておかないとパスが途切れて帰れなくなるんだ」

「どういうこと?」


 真子さんの疑問に飛鳥殿が答えているが、私には意味が分からない。

 いや、いずれ帰られると口にされたが、本当にそんなことが可能なのか?


「説明してもいいが、この場でするようなものじゃないぞ?」

「それもそうか。それじゃあ、あとで聞かせてもらうわ」

「分かった」


 真子さんにとっても義理と父上となられる方だが、同時に同い年の学友だったとも聞いているから、互いに複雑な感情をお持ちなのだろう。

 どちらも少しやりにくそうだ。


「レックスさん、俺達はこの後帰りますけど、後日陛下にも説明に上がります。伝えておいてもらってもいいですか?」

「それはもちろん構わないが、明日明後日と言われても困るよ?」

「さすがにそんな無茶はいいませんよ。陛下の都合に合わせますんで」


 私としては遠慮したいが、ラインハルト陛下にも報告しないわけにはいかない。

 なにせ報告しないと、戦勝報告そのものができないのだから。

 これを戦勝と呼んでもいいのかは甚だ疑問だが、襲来した魔族とドラゴンは、神帝と1匹のレッド・ドラゴンを除いて全滅している。

 魔族に至っては跡形すら残っていないぐらいだから、報告する身としては胃が痛い。


 あの時私は、アルトゥル卿と剣を交えていた最中だったが、負けはしないが勝つのも容易ではないと感じた直後だった。

 だというのに、真桜殿のトリスタンという刻印術によって、戦場にいた魔族はノーマルクラス、ハイクラス問わず、全員が光の矢の中に消え去り、死体すら残らなかった。

 当然アルトゥル卿も光に飲まれ、二度と姿を見ることは叶わなかった。

 明確な敵なのだから倒すのは問題ないのだが、それでもああも一方的に倒すことができるとは、さすがに思わなかった。


 おそらく陛下は、飛鳥殿との手合わせをご希望されそうな気がする。

 陛下も剣を使われるし飛鳥殿そうなのだから、ご希望されないわけがない。

 実際大和君とも何度か手合わせを行っているし、私とは暇さえあればといった感じだからな。

 もう少し執務に身を入れて頂きたいと思うが、現状かなりのご多忙ということも間違いないから、気晴らしという意味もあるのだろう。

 それでもレベル221のアークヒューマンの相手など、対峙すらできるか疑問だが。


「お二方も、数日中に正式に招待されるかと思います。煩わしいかとは思いますが、陛下もお喜びになられると思いますので、その際はぜひお越しください」

「ありがとうございます。天帝陛下にも、よろしくお伝えください」

「必ず」


 飛鳥殿を見ていると、大和君が礼儀正しいのは彼の教育の賜物といった感じがするな。


 だが今はそれよりも、急いで陛下にご報告しなければ。

 神帝は撤退させてしまったが、私も大和君や真子さんと同じく、決着はグラーディア大陸でつけるべきだと思っているし、おそらくは陛下も同じお考えだろう。

 1000人近い魔族に多数のドラゴンまで倒しているし、開戦前のアルトゥル卿の話が事実ならば、これほどの軍勢を用意するのはアバリシアでも容易ではないはずだ。

 特に魔族の約半数はハイデーモンだったのだから、今後も同じ数を揃えることができるかは疑問だし、できたとしても数年から十数年はかかる。

 それまでに戦力を整えることができれば、逆進攻も十分現実的だ。

 大和君も借りを返すつもりだし、真子さんもエレメントヒューマンに進化した。

 数年あれば、他にもエレメントクラスへ進化する者が出るかもしれない。


 私も進化できるかは別として、まだまだ力をつけなければと思った。

 さすがにアーククラスなどという夢は見ないし、見るつもりもないが。


 飛鳥殿と真桜殿は、この後アルカに向かわれることになるが、妊娠されている奥方達は大変だろうな。

 特にフレデリカ侯爵は、臨月間近だと聞いている。

 大事にならないよう、祈ることとしよう。

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