第一七章・家族の絆
父の提案
父さんと母さんがヘリオスオーブにきた翌日、俺はフィールにあるアルベルト工房に足を運んだ。
何故か父さんと母さんも一緒だが、リチャードさんはエドの祖父でもあるから、挨拶したいって言われたら納得するしかない。
さすがにリチャードさんも驚いてたが、無事に父さんと母さんの挨拶も終わったから、俺はストレージから折れた瑠璃銀刀・薄緑を取り出し、謝罪した。
「これはまた、見事に折られたもんじゃな」
「すいません、丹精込めて打ってくれたのに……」
「武器は壊れるもの。むしろお前さんは丁寧に使ってくれてたんじゃから、ここまで使ってもらえて、剣も喜んでるじゃろう」
そう言ってもらえて、少し気持ちが楽になる。
だけど薄緑が折られたのは、俺の油断も一因だからな。
今まで一緒に戦ってきた大切な相棒でもあるんだから、俺としても喪失感は大きい。
「無理だと思いますけど、やっぱり修復は……」
「思ってる通りじゃ。刃毀れ程度ならともかく、ここまで綺麗に折れちまったらどうにもならん。継ぎ合わせるぐらいはできるが、観賞用ぐらいにしかならんよ」
やっぱりか。
「それでも構わないんで、お願いできますか?」
「お前さんの趣味でもあるし、そこにこいつも加えようってことか?」
「ええ。愛刀ですし、あとできるとしたらそれぐらいだと思うんで」
壊れた武器を使っての戦闘なんて、命に差し支えがでるどころの問題じゃない。
だけど俺の初の愛刀でもあるんだから、たとえ使えなくなっていても、せめて神棚に飾るぐらいはしておきたい。
「それは構わんよ。お前さんのとこなら、こいつ1本増えても問題ないだろうし、そこまで愛着を持ってくれてるんなら、こいつも悪い気はしないじゃろうからな」
「ありがとうございます」
フィリアス大陸1の鍛冶師との呼び声高いリチャードさんに頼むのはどうかとも思ったが、薄緑を打ってくれたのはリチャードさんだし、俺以上に熟知しているはずだ。
だから頼むとしたら、リチャードさん以外に考えられない。
「だがそれはそれとして、お前さんの武器の問題が残るじゃろう?そいつはどうするんじゃ?」
「今エドが、
薄緑のことはそれでいいとしても、俺の武器をどうするかという問題が残っている。
エレメントクラスに進化している俺には、
幸い
だからエドが、薄緑に使われた技術を使って、俺の刀を打ってくれている最中だ。
「なるほど、今のエドなら、お前さんの満足のいく剣を打てるじゃろう」
リチャードさんも孫を評価してくれているが、実際エドの実力はかなり上がっていて、たまに納品している
ウイング・クレストでも、エドが打った武器はみんなが使ってるし、評判も良い。
だから俺の満足がいくような刀も、エドなら打ってくれるだろう。
「それなんですけど、
ところがここで、母さんが口を挟んできた。
「
「不確かな情報だけど、エニグマ島には
できることならニーズヘッグを倒してエニグマ島を解放し、調査したいとも思ってるんだが、万が一失敗しようものならアレグリアはもちろん、隣接しているアクアーリオやシュタイルハング、ソレムネ地方へも被害が出てしまう可能性が否めない。
薄緑があれば考えなくもなかったが、失ってしまった今ではさすがに無謀だとしか言えないぞ。
そもそも
「それはそうだろうな。だが母さんの言いたいことは、その
「
折れた薄緑に代わる武器を作るためにニーズヘッグに当たるなんて、本末転倒どころの話じゃないだろう。
「ならそのニーズヘッグとかいう竜、父さんが倒そう」
「へ?」
「ニ、ニーズヘッグを、か?」
突然父さんがそんなことを言いだしたが、確かに父さんなら倒すことは可能だろう。
221という化け物じみた超高レベルだし、カラドボルグを常時生成中でもあるから、フェルグスを使えば簡単に倒せる気がする。
だけどそこまでしなくても、
「お父さんがこんなこと言う理由はね、これがあるからだよ」
そう言って母さんがカバンから取り出したのは、1本のナイフだった。
それ、確か
フィアナが試しで打ったやつだ。
だけど刃毀れがひどいのはもちろん、柄もひび割れてないか?
「お父さんもヘリオスオーブの武器に興味があってね、今朝工芸殿っていうとこに行ったんだ。マリーナちゃんとフィアナちゃんが案内してくれて、色々見せてくれたんだけど、お父さんもお母さんもアーククラスっていう種族?だから、使えるとしたらこれだけだって言われちゃったんだよ」
それはそうだ。
普通ならそれで十分なんだが、俺がエレメントクラスに進化してしまったことで、ウイング・クレストとしては事情が変わってしまった。
幸いエレメントクラスでも、
「マリーナちゃんに言われてお父さんが魔力を流したんだけど、そしたら急にこうなっちゃったんだ」
「マジで?」
だが
「つまり父さんがそんなことを言い出した理由は、いずれ俺もアーククラスに進化できるかもしれないから、その前に
「何年先になるかは分からないがな。だがその剣を超えるとなると、それぐらいしか手はないだろう?それにお前と共に過ごせるのも、あと1ヶ月程なんだ。これぐらいはさせろ」
マジでか。
いや、確かに父さん達は、来月日本に帰ることになる。
その後は、二度と会うことはない。
だから最後に、息子である俺のために、エニグマ島を解放してくれるっていうのか?
「あ、ありがとう」
エニグマ島の解放は、俺もいずれはと考えていた。
だけど早いならそれに越したことはないし、本当に
特にエニグマ島のあるアレグリアは、諸手を挙げて歓迎してくれるだろう。
エニグマ迷宮にオリハルコン・パペットがいる以上、フィリアス大陸のどこかに
「世間一般とは、随分とかけ離れた親子の会話じゃな。よりにもよって終焉種、その中でも最も手強いと言われてるニーズヘッグを倒すなど、普通なら夢物語もいいところじゃぞ?」
ですよねぇ。
リチャードさんが呆れるのも当然だが、父さんのレベルに腰に佩いているカラドボルグを見れば、いくらニーズヘッグでもあっさりと狩られるんじゃないかって気がしないでもない。
「大和に出来ることなら、飛鳥に出来ないワケないですから」
母さんのセリフには物申したいが、実際に俺にできることで父さんにできないことは、ゲームぐらいしかない。
俺のS級術式ミスト・ソリューションだって、父さんのS級術式ミスト・インフレーションの劣化版でしかないからな。
「じゃあ天樹城に招待された後で、予定を作るよ」
「わかった」
あと数日先になると思うが、父さんも母さんも天樹城に招待されることになっている。
天樹自体はアルカからも見えているし、2人とも世界を支えるほどの巨木に驚いていたが、その天樹の一角が城になってると知ってさらに驚いていた。
地球じゃ樹木をくり抜いた建造物なんて存在してないし、その樹木が天を衝くほど巨大だなんて、想像の埒外だからな。
だから父さんも母さんも、天樹城に行くことは楽しみにしていたりする。
「まあ、もしエニグマ島が解放されて
「飛鳥なら大丈夫ですから、期待しといてくださいね」
「真桜、少しは落ち着け」
エニグマ島からニーズヘッグが消えて、
聞いた話でしかないが、
それでもGランククラフターは多いから、しばらくは取り合いになるんだろうな。
それにしても、相変わらず母さんは父さんに対する無茶ぶりが凄いな。
実際父さんなら、ニーズヘッグぐらい歯牙にもかけない気がしないでもないが、いつ行くかもわからないんだから、迂闊に期待値を上げさせるのもどうかと思うぞ。
それもこれも、父さんのことが好き過ぎて仕方ないからなんだが。
「ああ、それとこいつじゃが、今は仕事が立て込んでおる。すまんが1週間ほど時間をくれ」
「わかりました」
薄緑の刀身を接合しても、戦闘に使うことはできない。
だから時間が掛かっても、大きな問題にはならない。
むしろ1週間でやってくれるなんて、逆に申し訳なく思う。
「それじゃあ俺達は、ハンターズギルドにも寄るんで」
「わかった。気をつけてな」
この後俺達は、ハンターズギルドにも寄る予定でいる。
ハンターズマスターを務めているライナスのおっさんには日頃から世話になってるから、そっちにも挨拶したいって言ってるんだよ。
もちろん他のギルドにもなんだが、俺がメインで活動してるのはハンターだから、まずはハンターズギルドからってことだ。
フィールの移動にはフレイドランシア天爵家の獣車を使い、ジェイドに引いてもらっているんだが、ヒポグリフも地球にはいないから、母さんがすげえ喜んでたな。
御者はアリスとフィレが務めてくれているが、今回は家族水入らずでって言われてるから、今は獣車で待機しつつ、ジェイドの相手をしてくれている。
今日はずっとそんな感じだから、しっかりと感謝して労わらないとな。
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