降り注ぐ光

Side・真子


 多くのハイデーモンやドラゴンの相手をしながら、私は大和君と神帝の一騎打ちの様子もしっかりと確認していた。

 戦況は互角のようだけど、大和君がウイング・バーストを纏ったあたりから優位に進めだしたから、少しは安心して見れてたのに、やっぱり大和君は詰めが甘いわ。


「帰ったらお説教ね」

「お、落ち着いて、真子さん」

「そ、そうですよ。エンシェントデーモンって言われてる神帝と互角に戦ってるんですし、何より神帝の能力は不明だったんですから」


 ラウス君とキャロルが大和君を擁護してるけど、そんなことは理由にならないのよ。


「鬱陶しいわね!」


 半ば八つ当たり気味に、スターライト・サークルを放つ。

 ハイデーモンやレッド・ドラゴンを仕留めるには足りないけど、ダメージを与えつつの足止めとしては十分だから、巻き込まれたハイデーモンにレッド・ドラゴンはハンターやオーダーに次々と倒されていく。


「たああっ!あっ!」

「キャロルさん、大丈夫?」

「はい、ありがとうございます、ラウスさん」


 目の前のバーニング・ドラゴンを倒した瞬間、キャロルの魔力が増大した。

 エンシェントエルフに進化できたようね。

 ここで戦力が増えるのは、素直にありがたいわ。


「おめでとう、キャロル。だけど進化したからには、しっかりと働いてもらうわよ?」

「もちろんです!」


 エンシェントエルフに進化したキャロルは、嬉しそうにラピスライト・ロッドを構えた。

 ハイクラスってことで援護に徹してたけど、進化したことで攻撃力も防御力も跳ね上がるから、前線に加われるようになる。

 ポラルはベルンシュタイン伯爵領にあり、ベルンシュタイン伯爵領はキャロルの故郷でもあるから、魔族襲撃の報がもたらされてからは入れ込み過ぎかと思うこともあった。

 今はそんな余裕もなかったけど、進化したことで多少の余裕は出てくるし、ラウス君やレベッカと肩を並べて戦うことができるようにもなったから、これはまた気合入っちゃうわね。

 今は頼もしいけど。


「私も負けてられないわね。一気に行くわ!」


 キャロルの進化に触発されたワケじゃないけど、私もスピリチュア・ヘキサ・ディッパーの風車を回し、最大の切り札ミーティアライト・スフィアを発動することにした。

 カラミティ・ヘキサグラムとスターライト・サークルの積層術となる無性S級無系術式は、制御も大変だけどそれに見合った威力を持っている。

 相手がOランクのバーニング・ドラゴンであっても、ミーティアライト・スフィアの光が当たった瞬間魔法陣に包まれ、無慈悲に全ての属性攻撃を受けて落ちていく。

 Aランクのレッド・ドラゴンはもちろん、ハイデーモンさえも、次々とその命を散らしていく。

 処理に集中しなきゃいけないから私は動けなくなるデメリットがあるけど、それを補って余りある威力に射程だから、接近してくるのも難しい。


「えげつないですね、ミーティアライト・スフィアって」

「私の最大の刻印術だからね。ま、今のままじゃ使い勝手が微妙だから、もう少し改良するけど」


 スピリチュア・ヘキサ・ディッパーの能力を余すところなく使用するミーティアライト・スフィアだけど、改良の余地は大いにある。


「あ」

「ま、真子さん……魔力が……」


 最後のバーニング・ドラゴンを落としたところで、突然魔力が増えたような感じがした。

 この感覚、久しぶりね。


「私も進化したみたいね。ちょっと確認したいことがあるから、しばらく護衛をお願いしてもいい?」

「わ、わかりました」


 ステータリングを開き、属性と天与魔法オラクルマジックを確認する。

 どうやら授かったのは水属性魔法アクアマジックと念動魔法みたいね。

 スピリチュア・ヘキサ・ディッパーは風と水の複数属性特化型だし、念動魔法は使いたかったから、これはありがたいわ。


「念動魔法が来たわ。これで私も戦いやすくなった」

「おめでとうございます」

「ありがとう。戦場で確認なんて褒められたことじゃないけど、戦力強化になるから勘弁してね」

「以前から念動魔法を使いたいと仰っていましたよね」


 まったくだわ。

 魔扇・瑠璃桜はスピリット・ディッパーに接続して斧みたいに使うこともあるけど、スピリチュア・ヘキサ・ディッパーを完全生成している間は扇として使うしかない。

 だから念動魔法も付与してもらってるんだけど、自分の魔法じゃないからどうしても使い勝手が今一つだった。

 だけど自分で使えるようになったんなら、本当の意味で自由自在に使えるようになったってことになる。

 念動魔法は見えない手を生やすのが手っ取り早い説明らしいけど、何本でも作れるから、左右1対の瑠璃桜を別々に使うこともできるようになったわ。


「それじゃあ早速!せいっ!」


 瑠璃桜に風属性魔法ウインドマジックのグランド・ソードを纏わせ、ミサイルのように放つ。

 本当に思ったように動かせるし、スピードもかなり速い。

 ミーティアライト・スフィアの結界外にいたレッド・ドラゴンの首を、あっさりと斬り落とすこともできたわね。

 自分の手のようにっていう説明も、実際に使ってみてはっきり理解できたわ。

 かなりの速さで戻したのに、自分に刺さるかもなんていう心配はしなくてよかったし、手で持たずとも盾を展開させることもできるじゃない。


「だいたい分かったわ。それじゃあ確認はここまでにして、私は援護に戻るわ。あ、護衛ありがとう」

「はい」


 いつまでも確認してるわけにはいかないし、アテナとエオスも短時間でかなり消耗してきてるから、そろそろ撤退支援もしないといけないわね。


「ま、真子さん!大和さんが!」

「え?」


 ところがラウス君の悲鳴のような声に振り替えると、大和君がブラッドルビー・ドラゴンの一撃で地面に叩き落とされていたところだった。

 なんでブラッドルビー・ドラゴンが近付いてこなかったのかと思ったけど、神帝の援護をさせるためだったのか!

 大和君はなんとか起き上がってきたけど、あの様子じゃ左腕と左足が折れてるわね。

 しかも瑠璃銀刀・薄緑まで折られてるなんて、これはマズいわ!


「私は大和君の援護に向かうわ!」

「はい!」


 さっき神帝のS級もチラッと見たけど、あれは対空対地ともに優れた術式構成だった。

 特に空中戦を多用する大和君にとっては、あまり相性が良いとは言えない。

 初見殺しも強かったけど、一度見れば対策を練りやすいのが弱点かしらね。

 あとあの術式構成じゃ、私のスターライト・サークルで全て迎撃は可能だわ。


 そんなことはどうでもよくて、今は大和君を助けに行かないと!

 急いでウイング・バーストを纏い、フライングとアクセリングで移動しようとしたんだけど、それに気付いたのかブラッドルビー・ドラゴンが私の前に立ち塞がった。


「邪魔よっ!」


 風車の回転は止めたとはいえ、エレメントヒューマンに進化できたことで魔力は十分ある。

 私はブレスを吐こうとしているブラッドルビー・ドラゴンに構わず、ミーティアライト・スフィアを発動させた。

 ブレスを吐こうとしていた口元に命中したミーティアライト・スフィアは、そのまま体内まで光が透過し、体内の血液を含む液体を逆流させ、実体化した土の槍によって内臓をズタズタにされ、鱗を突き破った土の槍から炎が噴き出し、渦巻く竜巻によって地面に叩きつける。


 そのまま絶命したブラッドルビー・ドラゴンの回収はラウス君達に任せて、私は急いで移動を開始する。

 だけどブラッドルビー・ドラゴンの邪魔は思いの外時間稼ぎになったようで、大和君に神帝のS級術式が直撃してしまった。

 大和君はなんとか耐えていたけど、周囲はハイデーモン達に囲まれてしまっているし、今の状態じゃ空を飛ぶこともできないから、逃げ場も失ってしまっている。

 大和君が神帝のS級術式に耐えることができたのは、多分神帝が手加減して、魔族達にトドメを刺させようとしてるからね。


 でも私が全力で飛んでも、魔族の誰かが大和君に攻撃を加える方が早い。

 A級みたいな高難度の術式は、使う際に術師も一瞬のためが必要になるし、その一瞬が致命的な時間だってわかってしまう。

 それでも私が一番近くて速いから、私がやるしかない!

 絶対に間に合わせるという決意とともに、アルフヘイムを発動するために魔力を集中させる!


 だけど、その必要はなくなった。


 大和君を取り囲んでいる魔族達が、天からの光でことごとく消滅していったから。


 無造作のように見えるけど、光は大和君はしっかりと避け、魔族だけを的確に取り込んでいく。

 光に貫かれて倒れるんじゃなく、光に取り込まれるかのように消えていくなんて、さすがに私も数回しか見たことがないわ。

 というか……まさか、あれは!


「もしかして、真子?」

「え?」


 突然名前を呼ばれて驚いたけど、同時に心臓が跳ねた。

 ヘリオスオーブにきて1年近く経つから、友人知人は増えてきている。

 それでも今私を呼んだ声は、二度と聞けるはずのない声。

 信じられない思いだけど、同時に懐かしさも湧き上がってきた。

 まさか……。


「やっぱり……やっぱり真子だ!」

「ま、真桜!?え?なんで……なんで、ここに?」


 振り返った私の視界には、信じられない人が映っていた。

 私の記憶にあるより年を重ねているけどその姿には見覚えがあるし、何より左手にある弓を見間違えることはあり得ない。。

 そこにいたのは私の親友で大和君の母親、三上 真桜みかみ まおだったんだから。


「真子!良かった……生きてたんだね!」

「え、ええ、何とかね。じゃないわよ!今はそれどころじゃないの!早くしないと、あなたの息子さんが!」


 涙を流して私に抱き着いてくる親友。

 私も二度と会えないと思ってたから、また会えて泣きそうなほど嬉しい。

 でも、なんでここにいるのかとか、聞きたいことも山ほどあるけど、今はそんな場合じゃないのよ!


「そっちは大丈夫だよ。ほら」


 真桜に促されて視線を戻すと、大和君の傍らにはスーツ姿の男性が立っていた。

 真桜がここにいるってことは、あの男性が誰かは考えるまでもない。

 手にした剣にも、見覚えがある。

 あの男性は一片の疑いの余地なく、大和君の父親で真桜の夫、三上 飛鳥みかみ あすかだ。


 ここに真桜がいて、大和君のところには飛鳥君がいる。

 ということは、やっぱりさっきのは光性神話級戦術型広域対象系領域殲滅術式アンサラーに間違いない。

 飛鳥君が手にしているのは刻印神器 聖剣カラドボルグ、そして真桜も刻印神器 聖弓フェイルノートを生成しているんだから。


「さっきのって、やっぱりアンサラーだったのね。また見られるとは思わなかったわ」

「私達も、滅多に使わないからね。あ、真子。あとで状況を教えてね?」

「それはもちろんだけど……私もなんであなた達がヘリオスオーブにいるのか、是非とも教えてもらいたいわ」


 真桜も飛鳥君も地球、それも日本にいるはずなのに、どうしてヘリオスオーブにいるのかが全く分からない。

 大和君から、飛鳥君は七師皇になったって聞いてるから、日本を離れることができないはずなのに。


 だけど飛鳥君があそこにいる以上、大和君の無事は確約されたも同然。

 私は体の力が抜けていくことを、はっきりと自覚できた。

 ここが魔族との雌雄を決する戦場だってことを思い出し、慌てて気を取り直したけど。


 これがガイア様の予知夢の結末か。

 2人のヒューマンが誰かと思ってたけど、まさか飛鳥君と真桜だったとは、さすがに思いもしなかったわ。

 2人を巻き込んで申し訳ないと思うけど、ここは頼らせてもらうとしましょうか。

 息子さんが瀕死なんだから、言わなくても報復してくれると思うけどね。

 だけどそれはそれとして、大和君のダメージもかなり大きいから、急いで治癒魔法ヒーラーズマジックを使わないと。

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