神帝の力
神帝に向かって突っ込んだ俺は、すぐさまミスト・ソリューションを発動させた薄緑を神帝に叩きつけた。
「へっ!なかなかやるじゃねえかよ!」
だが神帝は、俺の攻撃をあっさりと受け止めやがった。
ナックルダスターにもなっているナックルガード、鎌のような切っ先を持つ二又に分かれた刀身、その刀身に生えている棘と、剣とは思えない見た目をしてやがるが、ソードブレイカーとしても使えるらしく、薄緑はがっちりと絡めとられている。
「それがお前の法具か」
「そうさ。ライフ・リーパーという」
ライフ・リーパー、つまり命を刈り取るってことか。
名前からじゃ判断し辛いが、二又の刀身を持つってことは複数属性特化型っていう可能性がでてきやがった。
いや、複数属性特化型じゃなくても特定の属性に特化する特性があったりするから、そっちの可能性の方が高いか。
「ソードブレイカーとしても使えるとは思わなかったが、俺の剣を受け止めてる以上、そっちも攻撃はできないよな?」
「シャクだが認めてやるよ。しかもそっちのナイフは法具だがこの剣は違う。舐めやがってと言いたいが、使い慣れてるところを見ると、これがてめえの戦闘スタイルって訳だ」
神帝はあっさりと認め、ライフ・リーパーの角度を変えて薄緑を解放する。
ちっ、もう少しあの態勢のままだったら、マルチ・エッジのミスト・ソリューションを叩き込んでやれたってのに。
「法具があれば武器はいらねえと思ってたが、てめえの戦い方を見るとまんざらって訳でもなさそうだ。まあ世界最強の俺が、今更使い方を学ぶ意味もねえが」
調子に乗ってやがるな。
だけど今の手合わせで、こいつの剣の腕が俺より上かもしれないってわかってしまったのはマズい。
しかもライフ・リーパーはソードブレイカーでもあるから、
接近戦は避けた方が得策だが、かといって遠距離でチクチクっていうのも無理だろう。
となると、答えは1つだ!
「なら、これならどうだ!」
「なっ!」
ウイング・バーストを纏い、魔力の底上げを行う。
そしてアイスエッジ・ジャベリンを作り出し、そのまま乱射だ!
「なろっ!」
ウイング・バーストに驚いた神帝は少し反応が遅れたようだが、アイスエッジ・ジャベリンを全て防いでいる。
あれは土性B級広域対象術式ラウンド・ピラーと土性B級干渉防御系マーヴル・ゲートか。
とっさに使った以上、神帝の適性は土ってことになるんだろうが、俺は水属性だから相性が悪いな。
刻印術には、"水は火を消し、火は風に煽られ、風は土を変質させ、土は水を堰き止める"という属性相克関係があり、刻印術では氷は水属性に相当する。
逆の関係もあるんだが、基本的にはこの通りの優劣が存在しているため、水属性の俺にとって土属性の神帝は相性が悪い相手ということだ。
逆に神帝にとっては相性が良いってことになるから、経験面どころか属性的に見ても俺の不利は免れない。
氷なら多少は属性相克を覆せるんだが、完全にってのはよっぽどの力量差がないと不可能だから、今の俺だとかなり大変だ。
まあ、他にも手はあるんだけどな。
「どうやらてめえの属性は水らしいな。つまり俺とは、相性最悪ってことだ」
「そうみたいだ。単一属性法具であっても、属性の優劣からは逃れられないからな」
「分かってるじゃねえかよ。片桐が相手なら俺の方が分が悪かったが、てめえなら逆に有利だ。つまりてめえが俺に勝てる要素は、何一つねえってことだ」
勝ち誇った笑みを浮かべる神帝だが、ライフ・リーパーが単一属性型だって暴露したも同然だ。
刀身が二又である以上、おそらく真子さんのスピリット・ディッパーみたいにいずれかの属性に特化できるんだろうが、それでも土属性法具ってことが判明したのは大きいな。
「さて、それはどうかね」
確かに属性相克では俺が不利だが、絶対にっていう訳じゃない。
というか、俺の属性が水だけだと思ってるのがそもそもの間違いだ。
「がっ!て、てめえ……まさかっ!」
「お察しの通り、俺の適性属性は水だけじゃないんだな、これが」
俺のウイング・ラインをなんとかマーヴル・ゲートで防いだ神帝だが、予想外の衝撃に驚愕している。
俺の生来の適性属性には風もあるし、天空特性っていう特性もある。
天空特性のおかげで水と風の刻印術や魔法は威力がブーストされるし、風は土に強い属性だから、こっちをメインに使えば逆に俺の方が有利だ。
そこまで丁寧に教えてやるつもりは、全く無いけどな。
「ちっ、てめえも風持ちか。面倒くせえな」
だけど神帝には、不利という認識がなさそうだ。
予想ではあるが、ライフ・リーパーの二又に分かれた刀身は、メインの方が土、サブの方は火なんじゃないだろうか?
土と火は大地を意味し、大地は闇と同義でもあるから、俺や真子さんとは真逆になる。
もしそうだとしたら、俺としても面倒くさいことになるな。
「お前が風持ちを警戒してる理由はこれだろ?」
時間をかけるつもりはないから、俺はフライングを使い、空に浮き上がる。
「ちっ!やっぱりフライ・ウインドを使えたか!」
フライングは魔法だが、フライ・ウインドとは翼を使うかどうかの違いでしかない。
ウイング・バーストを習得してからは使用頻度が下がったが、ヘリオスオーブに飛行魔法が無いことは神帝も知ってるはずだから、フライングとフライ・ウインドの違いが分かっていないようだ。
空を飛ぶという意味じゃ大差ないし、間違われてても問題もないんだが。
「風性の生成者にとっては、基本となる術式だからな。土性だからって使えない訳じゃないが、お前みたいな犯罪者は試験そのものが受けられないから、お前は使えないと思ってたよ」
刻印術の多くは、試験を受けることで使用可能になる。
だけど殺傷力の高いA級、汎用性や犯罪に使われる可能性も高いB級とC級の一部は、身元がしっかりしていないと試験そのものを受けることが出来ず、刻印術師優位論者みたいなテロリストも受験資格を剥奪されている。
だから優位論者の多くはA級のみならず、殺傷力や汎用性の高いB級、C級術式を使えず、それでいて自分達には必要のない術式だと見下しているぐらいだ。
フライ・ウインドも同様で、下手に空を飛ぶと的にしかならないって考えているらしい。
俺からしたら負け惜しみにしか聞こえないし、実際その通りだしな。
「ちっ!だけどな、空の上じゃ身を守るもんは何もねえんだ。てめえがいくら早く飛ぼうが、ただの的だ!」
「そう思うんならやってみろよ」
「いい度胸じゃねえか!これを食らって、地獄に行きやがれ!」
そう言って神帝は、土性B級対象攻撃術式アイアン・ホーンと火性B級干渉攻撃術式クリムゾン・レイの積層術を発動させた。
高熱で溶けた鉄の塊が俺に迫ってくるが、スピードはさほど速くはない。
「その程度の攻撃が、俺に当たるとでも?」
俺は余裕をもって避けるが、それを読んでいたかのように溶けた鉄の塊からクリムゾン・レイが発動し、俺に迫る。
「うおっ!あっぶねえな!」
「避けたか。そのスピード、うざってえな」
不意を突かれた形だが、この程度は不意打ちでもないし、技術としては特に珍しいものでもない。
掠っちまったが、これは優位に立てたってことで油断してた俺が悪いな。
真子さんにバレたら、絶対に説教される。
「なら、こいつを食らいなっ!」
そういって神帝が発動させたのは、俺も知らない術式だった。
ドロドロに溶けた鉄の塊が雷を纏い、幾本もの剣の形を成して俺に向かってくる。
これが神帝のS級か!
「なろっ!」
受けても感電させようって魂胆が見え見えだが、数が多いから避けるのもキツい!
しかもさっきのアイアン・ホーンより速いし!
「よく避けた、と言っておこう。だけどな、てめえは既に鳥籠の中なんだよ!」
「なっ!?」
神帝のセリフに驚いて周囲を見渡すと、俺が避けたはずの剣は空中に留まっており、俺の周囲を覆っていた。
これってつまり、逃げ場を封じ、全方位から俺を攻撃しようってことじゃねえか!
しかも雷が交じってるから、剣を受け止めても感電させられるし、避けるしか手がないんだがそれも厳しい!
「これが俺の無性S級対象干渉攻撃系術式サンダーケージ・ドームだ!これを受けることを光栄に思いながら、地獄に落ちな!」
これはさすがに、出し惜しみなんてしてる場合じゃない!
俺はウイングビット・リベレーターを生成し、アイスエッジ・ジャベリンを無照準で全方位に放った。
ウイングビットは無限生成できるとはいえ、さすがに全部を撃ち落とすことはできず、3本が俺に命中した。
1本1本の威力はさほどでもないが、エレメントヒューマンの身体強化に魔力強化をあっさりと貫いてくるとは、さすがはエンシェントデーモンってことかよ。
急所だけは守ったが、左腕に2本と右足に1本、それもそこそこ深く食い込んでるな。
「なっ!まさかてめえ、双刻だったのか!?」
「ああ。あ~、痛え。とっさのことだったし、さすがに生成せずに切り抜けるのは無理だったな」
刺さった剣は刻印術で作り出したものだから、既に消えている。
傷もエレメントヒューマンの治癒力でふさがりだしてるが、痛みだけはどうしようもない。
幸いウイング・バーストの維持には影響がないし、フライングも解除されていない。
まだ痺れてるが、翼は俺の魔力で作り出したものだから、飛ぶ分に関しては問題ないのが救いだ。
「よりにもよって融合型とはな。まあいい、ここで始末すればいいだけの話だ」
戦意喪失どころか、さらにやる気になりやがった。
融合型刻印法具っていったら、見た瞬間に敵さんは絶望するって聞いてたんだけどな。
神帝は200年もアバリシアに君臨し、その間に数多の戦争も経験してるから、それぐらいで戦意喪失なんかしないってことか。
「さっきはとっさに迎撃しやがったが、何本かは直撃しただろう?なら数を増やしてみたら、てめえは捌ききれるか?」
俺に勝てるって思う根拠は、やっぱりS級か。
確かにさっきのサンダーケージ・ドームっていう術式は、初見で対処するのは厳しい術式だし、空を飛んでいる以上360度全方位を警戒しないといけない。
地上でも、鉄という土属性の術式が組み込まれているから、地面から打ち出すことも容易だろう。
つまりサンダーケージ・ドームっていう術式は、対空のみならず地上戦でも有効な術式ってことになる。
しかもA級ほどじゃないが結界にもなってるから、脱出も困難だ。
「一度見たんだ、簡単に嵌ると思うなよ!」
とはいえ、対処ができない訳じゃない。
確かに面倒だが、高速で縦横無尽に動き回れば結界が完成するまでに離脱することも可能だし、万が一閉じ込められてもさっきみたいにアイスエッジ・ジャベリンで相殺できる。
それにさっきはとっさだったから思いつかなかったが、水のA級術式を使って周囲を氷らせるとか風のA級術式で軌道を逸らすっていう手もあるな。
「そう思うんなら、食らってみるんだな!てめえの浅知恵ごとき、とっくの昔に対処済みよ!」
そら対処ぐらいはしてるだろうよ。
それも含めて、S級術式の開発なんだからな。
だが高速移動はともかく、A級術式への対処なんてできてる訳がない。
刻印術師優位論者は地球でも試験を受けさせてもらえないし、ヘリオスオーブなんて刻印術師そのものが存在してないんだからな。
そのまま俺は、ウイングビット・リベレーターの飛行アシストを使い、さっきより早く戦場を飛び回る。
「ちっ!」
神帝は苛立ちながらサンダーケージ・ドームを使ってくるが、俺に命中しないのはもちろん、結界に閉じ込めることもできていない。
空中で待機状態になるのは分かってるから、アイスエッジ・ジャベリンを放って相殺しておくことも忘れない。
よし、だんだんと痺れが取れてきた。
念動魔法で保持していた薄緑を右手に持ち直し、ウイングビットの1つを短剣として保持する。
そうしようと考えたところで、突然俺は大きな衝撃に襲われ、地面に叩きつけられた。
エレメントヒューマンってこともあって、高度十数メートルからの落下ぐらいじゃ死にはしないんだが、受けた衝撃は今まで受けたどんな攻撃よりも強烈だった。
骨が何本か折れてるのはもちろん、頭もフラフラして視線が定まらない。
なんとか空を見上げると、真紅の体をもったドラゴンが視界に入った。
よく見えないが、あれはブラッドルビー・ドラゴンか?
ってことは俺は、ブラッドルビー・ドラゴンの一撃を受けて、地面に叩きつけられたってことなのか?
薄緑を杖代わりに立ち上がろうとするが、地面に刺さらずにそのまま前のめりに倒れこむ。
なんでだと思ったら、薄緑も中ほどから折れていた。
マジかよ、これは……。
「やはりガキだな。もっと周囲に気を配っていれば、ブラッドが俺の方に向かってきてたことに気づけただろうに」
神帝が何か言ってるが、うまく聞き取れなかった。
「思ったよりやるようだったが、所詮はガキだ。ガキはガキらしく、ママのおっぱいでも吸ってな!ま、そんなことは無理だけどな!はーっはっはっは!」
勝ち誇った笑い声を響かせる神帝は、またサンダーケージ・ドームを使ってきたようだ。
幸いウイングビット・リベレーターは生成されたままだが、思考速度も鈍ってるから、アイスエッジ・ジャベリンの生成が遅い。
「神兵に告ぐ!サンダーケージ・ドームは加減しておく。あのガキの首を上げた奴には、俺から褒美をくれてやる!なんでも思いのままだ!」
神帝の宣言に釣られたのか、多数の魔族が俺を取り囲んだ。
まずい、マズい、不味い!
……あれ?
確かこの状況って……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます