絶望の援軍

Side・真子


 飛び立ったレッド・ドラゴン5匹を倒し、地上に下りて魔族と戦っていた私達だけど、まさかこのタイミングでコバルディア方面から増援が飛来するとは思わなかった。

 飛来したドラゴンはレッド・ドラゴンのようだけど、クエスティングを使ったワケじゃないから正確にはわからない。

 もちろん確認できる距離になったら確認するけど、イヤな予感しかしないわ。


「まさかここで、援軍が来るとはな」

「想定外だよね。いくらエンシェントクラスが多いからって、無制限に戦えるワケじゃないんだから」

「だな」


 大和君とルディアの言う通り、エンシェントクラスの力は強大だけど、その強さは魔力があってこそだし、その魔力も体力も有限なんだから、物量に押されてしまったらやられてしまう可能性も否めない。

 しかも相手は魔族だし、エンシェントクラスに匹敵する魔力を持つハイデーモンが相手だと、それだけで体力だけじゃなく精神力も消耗するから、長時間の戦闘は難しい。

 さすがにここまでくると、手段を選んでる余裕はなさそうだわ。


「フィールド・コスモスを使えば本陣も含めて包囲できるけど、あれは防御用だから、ドラゴンを落とすのは厳しいのよね」


 私が使う固有魔法スキルマジックフィールド・コスモスは、直径1キロ以上の範囲を覆う巨大な結界で、町を覆っている儀式魔法アルターズマジックプロテクト・フィールディングより強固な結界でもあるんだけど、だからこそ攻撃力はかなり低い。

 魔法やS級術式を重ねることはできるけど、その分処理に集中しなきゃいけなくなるから、私自身が無防備になってしまう。

 最大の切り札でもあるミーティアライト・スフィアを使うっていう手もあるけど、それだと本陣か援軍かのどっちかになるだろうし、合流されると処理に集中しなくちゃいけないから、これも使いにくい。

 アテナやエオスは私を乗せてたら戦闘に集中できなくなるし、ミーナやラウス君に護衛してもらうのも、戦場のど真ん中じゃ厳しいでしょう。


「もしかして神帝って、援軍を待ってたのかな?」

「その可能性は高いでしょう。こちらの戦力を把握していたとは思いませんが、30年前の親征では神帝の油断によってアミスターは勝利を収めたとも言われています。神帝は傲慢な男だとも言われていますが、同じミスを繰り返すほど愚かではないでしょうから」


 キャロルの言う通りでしょうね。

 神帝の正体は刻印術師優位論者だと予想してるけど、30年前の親征では自身の油断から刻印具を破壊され、撤退を選ばざるをえなかった。

 刻印術師優位論者はテロリスト扱いされてるバカの集まりだけど、学習能力が無いワケじゃないから、私も過剰とも思える戦力を集め、徹底的にこちらを潰すつもりだと思うわ。


「つまりこの場にいる魔族は、一部を除いて捨て石で、本当の精鋭はあっちってことですか?」

「でしょうね。どれぐらいの数がいるかは分からないけど、全てハイデーモンだと思っておく必要があるわ」


 グラーディア大陸のエンシェントクラスは神帝のみだったはずだから、エンシェントデーモンはいないと思うけど、絶対じゃないから警戒はしておかないといけないわね。


「ってことは、さっきあたし達が倒したレッド・ドラゴンも、力の弱い個体だったってこと?」

「そうなるだろうな」


 レッド・ドラゴンどころかバーニング・ドラゴンでさえも、ランク以下の力しか持ってなかった個体で間違いないわね。

 そうでなかったら、バーニング・ドラゴンを見捨てるなんて考えられないもの。

 私達にとっては嬉しくもなんともない情報だけど、だからといって顧みないワケにはいかないから、理解しておかないと命取りになるわ。


「合流阻止……は、無理か」

「無理ね。出来るなら率先してやるけど、さすがに神帝の目の前で行動不能にはなりたくないわ」


 合流阻止はできなくもないけど、魔族本陣の前まで出る必要がある。

 だけどそこまでいけば魔族も全力で迎撃してくるし、ドラゴンだって動くに決まってる。

 さらに神帝の目の前っていうことにもなるから、さすがに動けなくなったら命が危ないわ。


「合流を見てるだけって、歯がゆいですね」

「同感だ。それに神帝が出てくる可能性も高くなってきたから、俺は戦線から離れることになるだろうな」


 それも問題ね。

 援軍が到着したことで、神帝も出陣する可能性は上がった。

 どれほどの魔族が追加されるかは分からないけど、飛来したドラゴンは10匹以上いるから、最低でも500人は増えるとみておく必要がある。

 しかもその全てがハイデーモンの可能性まであるから、いくらエンシェントクラスでも無傷じゃすまないし、下手したら命を落とすかもしれないわ。

 なのに唯一のエレメントクラスである大和君が離脱となると、こちらの戦力ダウンは避けられない。

 だけど神帝はエンシェントクラスじゃ抑えられないって言われてるから、大和君に抑えてもらうしかないわ。


「下りたか。あのドラゴン達は……バーニング・ドラゴン4匹にレッド・ドラゴン8匹か。また面倒な」

「アテナとエオスの魔力も、最後まで持たないですね」

「それどころか、ちゃんと離脱できるかも怪しいよ」


 大和君がクエスティングで確認すると、Oランクのバーニング・ドラゴンが4匹も交じってることがわかってしまった。

 確かにこれじゃ、アテナとエオスの魔力が持つわけないし、離脱が難しいなんて話じゃないわ。


「わかってる。最悪の場合は、トラベリングかゲート・クリスタルを使ってもらうしかないだろうな」


 確かにそれしか手が無いけど、その暇があるかも疑問だわ。


「あとは早期にドラゴンを落としてもらうしかないな。あの援軍が全部ハイデーモンだったら厄介どころの話じゃないが、それ以外に方法が無い気がする」


 それも確かにね。

 大和君との二心融合術が成功してたら問題無かったんだけど、結局成功どころか兆しすら見られてないから、本当にできるか疑問に感じてきてるぐらいだわ。

 多分これで中盤に入ったってことになるんだろうけど、序盤の有利を一気にひっくり返されたわね。

 だけどないものねだりしても仕方ないし、出来ることを全力でやるしかない。

 神帝に気取られないようにエアー・スピリットしか生成しなかったけど、ここに至って戦力の出し惜しみは死活問題になる。

 スピリチュア・ヘキサ・ディッパーの完全生成どころか、風車を回すことも視野に入れておかないといけないわ。

 だけど不利になったからって、負けるつもりは一切ないわよ。

 さあ、来なさい。

 スピリチュア・ヴァルキリーの名の由来、しっかりと教えてあげるわ。


Side・ファリス


 魔族の援軍が確認された時点で、魔族は本陣に後退し、私達も追撃は行わなかった。

 指揮官に禁止されたという理由もあるが、エンシェントデーモンたる神帝がいる魔族本陣への追撃なんて、さすがに私達の手には余るからね。

 だけど増援として現れたドラゴンにはOランクのバーニング・ドラゴンが4匹もいたし、8匹のレッド・ドラゴンは全てがコンテナを抱えていたから、魔族も400人ほど増えた計算になる。

 しかも悪いことに、増援の魔族は全てがハイデーモンだと予想されるから、いくらエンシェントクラスが30人近くいるとはいえ、さすがに分が悪いのは否めない。


「一度退くのも手だが、魔族を勢いづかせるだけか」

「だろうね。しかも私達の後ろにはポラルがある。1人でもハイデーモンの突破を許したら、それだけでポラルは壊滅だよ」


 エンシェントクラスに匹敵するハイデーモンは、単独でもハイクラス以上の戦闘力を持つ。

 実際にはハイクラスとエンシェントクラスの中間ぐらいなんだが、それでもノーマルクラスじゃ対抗できないから、1人でも突破されてしまったら、本当にポラルは壊滅するだろうね。


「撤退もダメ、かといってこっちから突っ込むのも自殺行為、残ったのは迎撃だけど、さすがに分が悪いな」

「ソレムネどころかハヌマーン相手でも、ここまでひどい状況じゃなかったですよね」

「だな。マジでヤバいぞ、これは」


 ライアス、クラリス、バークスが冷や汗を流しているけど、私も同じく背筋が冷たい。

 しいて言えばオーク・エンペラー、オーク・エンプレスと対峙した時と同じ感覚だけど、状況はあの時より悪い。

 戦力はあの時より上だけど、それは相手にも言えることだし、こちらの最大戦力のウイング・クレストも数人が妊娠離脱しているからね。

 特にマナ様、プリムちゃん、フラムちゃんの離脱は、本当に痛いよ。

 だけど妊婦を戦場に連れ出すのは非常識なんていう話じゃないし、戦闘中に悪阻とか起きたら致命的どころの問題じゃないから、痛くても離脱は仕方ない。


「結婚して1年も経ってないのに、これは本当に色々と覚悟しとかないといけないか」

「ええ。そうならないように立ち回るつもりだけど、覚悟だけはしておきましょう」


 クラリスとサリナが悲壮な覚悟を決めてしまったけど、気持ちは私もよくわかる。

 ソレムネから帰ってきてすぐにバークスと結婚した2人だけど、エンシェントクラスには進化できていない。

 こんなことになるなら進化させとくべきだったと思うけど、今更言っても始まらないか。


「若いもんがそんな覚悟を決めるもんじゃねえ、って言いたいが、さすがにこの状況じゃな」

「そうよね」


 ホーリー・ブレイブ最年長のライアスとシーラも、覚悟を決めた顔をしているな。

 この2人はまだレベル50中盤だが、経験は私達の中で最も多いから、私達も頼りにしているんだけどね……。


「ドラゴンの数が多い以上、ウイング・クレストだけじゃ対処しきれねえ。それに大和は、多分神帝に当たるだろう。戦力不足は否めねえけど、俺達にも声掛かるんですかね?」

「それもあり得るけど、多分レックス達がドラゴンに当たることになると思う」


 バークスの感じてる通り、大和君は出てくるであろう神帝の相手をしてもらうことになる。

 そうなるとただでさえ減っているウイング・クレストの戦力が、更に減ることになってしまう。

 真子がいるとはいえ、真子は近接戦向きじゃないし、強力な魔法なり刻印術なりを使うと大きな隙を晒すことになるから、護衛という意味でもレックス達オーダーの方が向いている。

 レックスはもちろん、奥さんのローズマリーにミューズ、サヤもエンシェントクラスだから、戦力として不足はないしね。

 ハンターを動かすとレイド丸ごとってことになりかねないから、その点から見てもレックス達の方が動きやすいと思うよ。


「どうやら動くようだな」

「だね。どうやら予想通り、ハイデーモンが多い」


 隊列を組んだ魔族達だけど、前衛は先程の第二陣がそのままのようだ。

 どうやら本当に捨て石だったらしいな。

 その後ろに援軍が配置されているようだけど、感じる魔力は明らかにハイデーモンだし、中にはエンシェントクラスに匹敵するほどの魔力もいくつか交じっている。

 同じハイクラスでもレベルによって魔力は明確に差が出るから、魔族もそうであってもおかしくはないんだが、本当にエンシェントクラス並の魔族が出てくるとはね。


「ドラゴンも動くっぽいな。戦力がそろったことで、全軍で押し潰そうってことかよ」

「厄介な」

「だけど迎え撃つしかないんですよね?」

「ないね」


 逃げれるものなら逃げたいけど、さすがにそれはできない。

 大手を振って歩けなくなるし、信用も失うから仕事にも支障をきたすからね。

 しかも私とクリフはエンシェントクラス、バークス達もハイクラスだから、逃げたっていう時点でフィリアス大陸で生きていけなくなるよ。


「総員に告げる!魔族が増えようと、全て迎撃することは変わらない!だがドラゴンの数が増えたこともあり、私達はウイング・クレストの援護に向かうことになる。よって地上の指揮は、ポラルのオーダーズマスター アーベント卿に一任する。彼の指揮に従い、魔族を迎え撃ってもらいたい!」


 やっぱりレックス達はドラゴンの迎撃に当たるか。

 それは予想してたし、地上の指揮をポラルのオーダーズマスターに任せるのもわかる話だ。

 当然私達には異論は無いし、他のハンターやオーダーも同じだ。

 ここで揉める理由もないし、時間もないからね。


 さあ、ここからが本番だ。

 相手が魔族であれドラゴンであれ、私達は負けるわけにはいかないし、こんなところで死ぬつもりもない。

 限界まで戦うよ!

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