赤竜飛来
第二陣が出陣してから20分ほどで、またしても魔族側に動きがあった。
レッド・ドラゴンが飛び立とうとしているらしい。
遠目ながら俺達も見ていたから、そろそろ呼ばれるだろうと思い、全員でしっかりと準備を整えてから本陣へ向かった。
「ついに動きましたね」
「ああ。だが、飛び立ったレッド・ドラゴンは5匹ほどらしい」
レッド・ドラゴンの総数は18匹と報告されてるから、4分の1程度か。
戦力の逐次投入は悪手だって聞いたことあるが、様子見も兼ねてるってことなのかもしれないな。
いや、俺達ごとき5匹でも多いって思ってる可能性もあるか。
「それは分からないが、どちらでも大勢に影響はないだろう。一度に全て投入されていたら、私達も苦戦は免れなかったが、今の段階では逐次投入でしかない。しかも当たるのはウイング・クレストという、フィリアス大陸最高戦力だ」
確かに今の時点で5匹しか投入しないってことは、逐次投入ってことになるか。
それでもAランクだし、第二陣の魔族は精鋭だって予想されてるから、苦戦どころか犠牲が増える可能性は高いな。
「その評価はともかくとして、すぐに出ますがいいですよね?」
「すまないが頼む。5匹とも落とせば、おそらく後続も出てくるだろう。いや、神帝が動く可能性も否定できない」
だな。
だけど戦況がどう動くかよりも、今は犠牲を減らすために動かないといけない時だ。
Aランクのレッド・ドラゴンが相手だし、この後のこともあるから一気に落とそう。
「了解。では出ます」
「よろしく頼みます」
レックスさんからの指令を受諾し、俺は妻達と仲間達に視線を送る。
みんな気合の入った表情で頷いてくれるから頼もしい。
俺も応えるように頷いてから、アテナとエオスに声を掛けた。
「アテナ、エオス。出番だ。悪いが頼む」
「ついに、だね。任せといて!」
「心得ております。どうぞ、お乗りください」
俺とラウス、レベッカ、キャロルはアテナに、真子さん、ミーナ、リディア、ルディアはエオスの背に乗る。
後衛となる真子さんとレベッカは乗ったままになるかもしれないが、他はフライングやスカファルディングを使って戦場を縦横無尽に駆けるつもりだ。
既に戦場じゃハンターやオーダーが使って、魔族相手に有利に戦いを進めているから、隠す必要もないしな。
「よし、それじゃあ行くぞ!」
「うん!」
「畏まりました」
全員乗ったことを確認してから、俺の合図でアテナとエオスが飛び立つ。
既にレッド・ドラゴン5匹も魔族本陣を飛び立ち、戦場に到着しているが、魔族だろうと構わず攻撃してやがる。
アミスターも何人かが吹き飛ばされているから、急がないと。
幸いというか、戦場までは数百メートルだから、アテナとエオスが全力で飛べば数秒で到達できる。
「待ってたよ!」
「遅くなりました!ドラゴンは引き受けます!」
「頼む!」
戦場に到着し、レッド・ドラゴンを引き付けてくれていたファリスさんに声をかけ、同時にレッド・ドラゴンにアイスエッジ・ジャベリンを放つ。
まずは戦場から引き離さないといけないが、可能なら数も削りたい。
「真子さん!」
「ええっ!」
さらに俺のニブルヘイムと真子さんのアルフヘイムの積層結界を展開させ、ドラゴンを上空に吹き飛ばす。
名前からして火属性のドラゴンだろうから、氷と風の結界内なら戦力は落ちるはずだ。
「このまま各個撃破するぞ!」
「はい!」
「了解だよ!」
上空に吹っ飛ばしたレッド・ドラゴンをアテナとエオスが追い、接近と同時にリディアとルディアがフライングを使って飛び降りた。
少し遅れて、ミーナとラウスもスカファルディングを使いながら空を駆けていく。
「まずは1匹!」
そして真子さんのスターライト・サークルが煌めき、無数の光がレッド・ドラゴンを貫いた。
「はああああっ!」
その隣のレッド・ドラゴンには、アテナのマグマライト・ブレスとエオスのバーストストーム・ブレスが直撃し、ミーナのメイス・クエイクで頭を勝ち割られて落ちていく。
「せいっ!たああっ!」
「やああああっ!」
少し離れたところでは、ルディアのファイアリング・インパクトを受けたレッド・ドラゴンが大きく吹き飛ばされ、待ち構えていたリディアのグランド・ソードで首を落とされた。
さらにラウスも、レッド・ドラゴンの爪をラピスライト・シールドで受け流しながらヘビーファング・クラウドを放ち、キャロルの
俺もアイスエッジ・ジャベリンを雨のように放って動きを止め、アクセリングを使って接近してグランド・ソードで一刀両断で終わらせた。
「Aランクって言ってたけど、本当にそこまで強いの?」
「ルディア、油断は禁物よ。力を発揮させないように速攻で倒したんだから、確認なんてしてないし、するつもりもないでしょ?」
ルディアがレッド・ドラゴンのランクに疑問を持っているが、リディアが窘めている。
俺も気持ちは分からなくもないが、リディアの言う通り力を発揮されると戦場が荒らされるからな。
魔族にも少なくない被害が出るだろうが、こっちの方がヤバいことになるに決まってるんだから、落とせるなら速攻で落とした方がいいに決まってる。
「ルディア、まさかあなた、油断してたんじゃないでしょうね?」
「ままま、まさかそんなこと!」
真子さんがとても冷たい笑顔をルディアに向ける。
うん、俺も怖い。
「まったく。それよりどうする?5匹とも落としたのに、残りのドラゴンは動いてないわよ?」
「あ、ホントだ」
「すぐに動くと思ってたけど、なんでなんだろ?」
真子さんに言われて魔族の陣地に目をやると、確かに残っているドラゴン達は動く素振りが見られない。
俺もラウスと同じく、すぐに動くと思ってたんだがな。
マジで何考えてやがんだ?
いや、そんなことよりも、今は魔族か。
「動かないのは気になるが、今は魔族を倒そう。同時に攻めてくるのが厄介だったんだから、来ないなら来ないで好都合だ」
「確かにね。警戒は怠れないけど、魔族は倒さなきゃならない敵だし、神帝を引っ張り出す必要もあるし、ドラゴンは後回しね」
さすがに魔族本陣に突っ込むのは、自殺行為でしかないからな。
「はいっ!」
力強い返事を返してくるキャロルだが、ちょっと入れ込み過ぎてる気がする。
故郷が襲われてるから仕方ないんだが、ラウスとレベッカにしっかりとフォローさせないといけないな。
もちろん俺もそのつもりだが。
「アテナ、エオス。2人はしばらくここで待機しつつ敵本陣の監視をしてもらいたいんだが、魔力は大丈夫か?」
まだドラゴンが多数残っている以上、アテナとエオスに竜化を解除してもらうわけにはいかない。
だけど竜化してからけっこう経つし、戦闘もこないしてるから、残魔力に不安が残る。
「うん、大丈夫だよ」
「スカファルディングを使いますので、魔力消費も最低限で済むと思います」
ところが2人は、問題ないと返してくれた。
竜化したドラゴニアンはフライングを使わずとも空を飛べるが、そのために魔力を使っている。
ホバリング状態でもそれは変わらず、むしろそっちの方が魔力を使うそうだから、スカファルディングを使うことで魔力を節約できるんならそれに越したことはないな。
「分かった。だけど無理そうだと思ったら、すぐに本陣まで撤退してくれ」
「分かった」
「お心遣い、ありがとうございます」
俺達も警戒はするが、アテナとエオスが空から監視してくれていれば、ドラゴンが動き出しても不意を打たれることはないだろう。
「よし。それじゃあ行くぞ!」
俺の合図で、みんなも眼下の戦場へ降下していく。
神帝やドラゴンも気にかかるが、今は目の前の魔族を倒さないとな!
Side・サヤ
大和君達ウイング・クレストが戦場に向かった後、私達も戦場に向かうことになった。
私はともかく、夫や同妻達はオーダーズギルドの重鎮なんだから、本当なら後方で指揮に徹しておくべきなんだけど、性分でもあるし、私もともに戦いたいと思ってるから、これでいいかな。
「オーダー、そしてハンターに告げる!先程飛び立ったドラゴンは、ウイング・クレストが抑えてくれている!ドラゴンは彼らに任せ、我々はこのまま魔族を討つ!我に続け!」
勇ましい口上を述べるのは、私の愛する夫にしてグランド・オーダーズマスターのレックス。
指揮官なのに前線に出たがるところは困るけど、エンシェントヒューマンだしレベルも78にまで上がってるから、出ると士気が全然違うのよね。
一度長期休暇を取って夫婦4人でイスタント迷宮に入って、
大和君から使用頻度の低くなってる試作多機能獣車の2号車を借りたから、移動も夜も楽だったわ。
「せやあっ!どうした!魔族とはこんなものか!?」
レックスより早く魔族を斬り伏せた同妻のミューズが、魔族を煽っている。
思ってたより手応えがないからなんだろうけど、今ミューズが斬り捨てた魔族はノーマルクラスだから、レベル76のエンシェントオーガからしたら手応えがないのは当然でしょうに。
「ミューズ、煽るのは結構ですが、油断だけはしないでくださいね?」
「分かっているさ」
マリーが軽く諫めてるけど、ミューズも本気で煽っていたワケじゃないし、何より油断なんてしてるワケがない。
それでもマリーはしっかり者だから、一言言っときたかったってとこかしらね。
「サヤ!」
「分かってる!」
そんなことを考えてる間も、魔族は次々と襲い掛かってくる。
私はレックスが盾で弾き飛ばした魔族に、結婚祝いに大和君達から貰った
バスター・トライデントは3つ又の矛を持っているけど、両側の矛はそれぞれ鎌と斧になってるから、使い勝手はハルバードに近い。
「これでも食らいなさい!」
そのバスター・トライデントを使って、私は
グランロック・ブレイザーは私がハイラビトリーに進化した際に開発した
エンシェントラビトリーに進化したことで
そのグランロック・ブレイザーの火炎岩弾の直撃を受けた魔族は、体の至る所に穴を開けて息絶えた。
魔力的にハイデーモンだったけど、グランロック・ブレイザーは十分効果的だってことね。
「相変わらず凶悪だな」
「サユリ様の知識はもちろんだけど、そこに大和君や真子も加わったからね」
「
「私の場合、育った環境が環境だったしね」
私は生まれてすぐに両親と死別して、サユリ様に引き取られて孤児院に預けられた。
だから私にとって、サユリ様は母と呼べるお方になる。
元王妃様だから恐れ多いし、照れくさくて一度も呼べたことはないけど、私にとっては間違いなく母だ。
そしてサユリ様は、大和君や真子と同じ世界出身の
私を含む孤児院の子達は、サユリ様から勉強や戦闘の手ほどきも受けているから、ヘリオスオーブの一般常識とは少し違う常識を身に着けていたりもするわ。
だからこそ私が所属していたリリー・ウィッシュはアミスター1と呼ばれてたんだけど、20代前半の若造ばかりってこともあって陰で小馬鹿にしてた連中も少なくなかったりする。
そのせいで何度か面倒ごとに巻き込まれたのよね……。
まあ、今はレックスと結婚したことでリリー・ウィッシュを抜けてるし、ウイング・クレストっていう非常識極まりないユニオンがあるから、私には関係ない話になってるけど。
「発言に困りますが、環境的には良かったようですね」
「生みの親なんて顔も知らないし、結局親戚も分からなかったからね。もっとも、サユリ様に拾われたのは運が良かったと思ってるし、その後も色々と目を掛けてもらってたから、まったく気にしてないわよ」
今更親戚なんかが名乗り出てきても、逆に本当か疑わしいわ。
サユリ様がどう思われてるかはわからないけど、私はサユリ様の娘の1人、それでいいの。
「それより、魔族の本陣が慌ただしくなってきていない?」
「ここからではわかりにくいが、そのようだな。魔族達が撤退を始めている」
「というか、コバルディア方面から何か来ていませんか?」
平地だから魔族本陣の動きがわかりにくいけど、動きがあるのは間違いないし、ミューズの言う通り魔族達が後退をはじめている。
さらにマリーの言う通り、コバルディア方面から何かが接近してきているようにも見えるわ。
まだ遠いからエンシェントクラスの視力でもはっきり見えないけど、徐々に大きくなってきてるのは間違いない。
このタイミングでっていうのは、はっきり言って嫌な予感しかしないわね。
そしてはっきりと視認できるようになると、私達は驚愕するしかなかった。
「また……ドラゴンだと?」
「このタイミングで増援?まさか神帝は、この事態を見越していたとでも言うの?」
「マズい!オーダー、並びにハンターに告ぐ!深追いはせず、その場での待機を徹底せよ!繰り返す、追撃はせず、待機せよ!」
確かにここで追撃なんて、どう考えてもマズいことにしかならない。
かといって後退はできないから、この場で待機しか選択肢が無いわね。
体色もわかるようになってきたけど、どうやらあれらも火属性のドラゴンのようだし、数も10匹以上いるわ。
神帝かアルトゥルっていう将がこの状況を見越していたのかはわからないけど、こっちからしたら最悪の事態ね。
これはさすがに、覚悟を決めないとマズい。
結婚してまだ1年も経ってないんだから、覚悟は決めるけど死ぬつもりはないけどね。
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