プラダの未来を
Side・ユーリ
大和さんは1時間もせずに、オーク・クイーンをはじめとした群れを全て討伐しました。
オーク・クイーンはWランクでしたが、すでに大和さんの敵ではなく、プラダに向かっての飛行中に呆気なく首を切り落とされていました。
他は通常種が19匹、上位種グラン・オークが10匹、希少種ジャイアント・オークが3匹と、群れの規模としては平均的だったと仰いました。
私も含め、ギルドマスターやオーダー、来訪していたハンターも港で対岸の様子を見ていたのですが、まさに圧倒的といった表現が最適でしたね。
ハンターズマスター ライザのみならずギルドマスター達、オーダーやハンター達も、大和さんの実力を直接目にしたのは初めてでしたから、目を見開いて驚いていましたから。
驚いていなかったのは2人、クラフターズマスター ヴェールと、プラダのオーダーズマスターに就任するカルディナです。
カルディナはフィール勤務のオーダーでしたが、いずれ男爵となって代官となるフラムと同じくここプラダ出身という理由から、オーダーズマスターに選出されました。
大和さん達と何度かマイライトに行っているため、レベルも58になっていますから、オーダーズマスターとしても十分です。
しかもカルディナは、目の前で大和さんがオーク・エンペラーを、プリムお姉様がオーク・エンプレスを倒した現場に居合わせましたから、Wランクとはいえオーク・クイーンごときでは驚くに値しないと思っているのです。
「大和天爵、お手を煩わせてしまい、申し訳ありません」
「気にしないで下さい。俺は領主代理でもあるし、春からはフィールだけじゃなくプラダの方にも顔を出すことが増えますからね」
公の場ですから、カルディナも天爵である大和さんに対して敬語を使っています。
私から見ても違和感がしますから、本人達はもっと感じているんでしょうね。
ですが大和さんの仰る通り、私は4月からメモリア総合学園に入学しますから、領主の仕事に手の届かない所も出てきてしまいます。
ですから大和さんとお姉様が、代官となってくださる予定なのです。
もっともお姉様はサキを出産したばかりですから、私以上に動きがとれなくなっていますけど。
それもあって大和さんは、今から私の代理として、フィールやプラダ、そして隣町のテュルキス公爵領領都エモシオンにも顔を出さなければならないのです。
「ああ、プラダ支部が本格的に始動したら、また訓練は付けますから」
「お手柔らかにお願いします」
大和さんに苦笑しながら答えるカルディナですが、そうなりますよね。
フィールのオーダーは、大和さんを相手にした戦闘訓練を幾度も行っており、終わった頃には立つのもやっとといった者がほとんどでした。
さらにマイライトにも出ていますから、多くがハイオーダーに進化しています。
カルディナも経験者ですから、歓迎しつつも加減してもらいたいと思っているのです。
業務に支障が出ることもありましたが、マイライトが近いこともあってオーダーのレベルアップは必要ですから、赴任するオーダーには頑張ってくださいとしか言えませんね。
「対岸に出る可能性は聞いていましたが、本当に出ると恐ろしく感じますね」
「対岸の一部は結界内とはいえ、先程のオーク・クイーンは内側に入り込んでいましたからね」
ヴェールとトレーダーズマスターに就任する男性エルフのルースの発言は、領主として聞き逃すことができません。
大和様が容易く討伐を成したとはいえ、先程のオーク・クイーンはP-Wランク、つまりOランク相当の魔物となります。
あくまでも相当ですから実際はそこまでの強さではないようですが、ハイクラスにとっては死を覚悟しなければならない魔物です。
本来であればオーダーズギルドとハンターズギルドが連携して相手をするのですから、対岸とはいえ結界の内側に入り込んでくる災害種が生息しているという事実は、町に住む民達にとってはとてつもない恐怖でしょう。
「まだ経過を見る必要がありますが、以前より数は減っています。希望的観測になりますが、このまま討伐を続けていけば、いずれは以前と同じぐらいの頻度に減るんじゃないでしょうか」
確かに大和さん達が狩ったオークの災害種の数は、100を超えています。
本来でしたら災害種がそれほどの数出現することはあり得ませんが、現在のマイライトではそのあり得ないことが起こってしまっています。
討伐を続けていれば、いずれは元に戻るのではないかと推測されていますが、大和さんが仰ったように希望的観測でしかありません。
ですから先の大討伐後の経過はしっかりと観測をしなければならず、それは領主である私の仕事になります。
既にフィールのオーダーズギルドには経過観察を命じていますが、この様子ではプラダ側にも派遣しなければなりませんね。
「それも踏まえて、監視は密に行います」
「お願いします」
いくら大和さんの戦力が突出していても、お1人で出来ることなどたかが知れています。
カルディナもそれを理解していますから、今は直接対岸の様子を見に行けずとも、常時監視を行うことで、オーダーとしての責務を全うすることを口にしました。
「マイライトの監視については、しばらくはフィール支部からもオーダーを派遣します。いずれはプラダ支部のみで行っていただくことになりますが、赴任するオーダーも半分ほどしか集まっていない現状では、さすがに人手が足りませんから」
「ありがとうございます、ユーリアナ天爵」
せっかく開港させたプラダが魔物によって滅びるようなことになるなど、許されることではありません。
既にプラダはアレグリアやリベルター地方との玄関口として機能していますし、バリエンテ地方やソレムネ地方への船も多く出ています。
おかげでエスメラルダ天爵領はもちろん、アミスターも大きな利益を上げているのですから、オーダーによる調査に監視は必須です。
「それではオーダーズマスター、今は大変かと思いますがフィール支部と連携し、マイライトの監視をお願いします」
「はっ!」
とはいえ、プラダ支部へ赴任するオーダーは、まだ全員揃ってはいません。
今は冬ですし、何よりアミスターは積雪が多い国ですから、揃うのは春になってからの予定なのです。
それまでは既に赴任している24人で、何とかしてもらわなければなりません。
「来週にでもオーダーを連れて、マイライトに行きましょうか?」
「それはありがたいですが、予定の方は大丈夫なのですか?」
大和さんをはじめとしたウイング・クレストがいるとはいえ、すぐに動けないという事情もあります。
ですから大和さんは、既に赴任されているオーダーの戦闘訓練を行おうと考えられ、カルディナも厳しい現状を打破するために頼るつもりがあるようです。
悪いことではありませんし、大和さんとカルディナが構わないのであれば、私としてもやっていただきたいと思います。
「何とかつけますよ。常にプラダにいられる訳じゃありませんから、オーダーの戦力アップは急務ですしね」
「ありがとうございます、お言葉に甘えさせて頂きます」
どうやらオーダーの戦闘訓練が行われることは、大和さんとカルディナの中では決定したようです。
オーダーには気の毒だと思いますが、プラダ、フィール、エスメラルダ天爵領、ひいてはアミスターを守るために必要なことですから、大変ですが頑張ってもらいたいですね。
「オーダーの戦闘訓練については、お2人にお任せします。せっかく港に来たのですから、トレーダーズギルドの方も拝見させていただきましょう」
「それも今回の公務の内だしな」
プラダ防衛については、私より大和さんとカルディナにお任せした方が良いでしょう。
私もヒューマンハーフ・ハイエルフに進化していますが、真子やアリアと同じく魔導士ですし、近接戦には適性がないようですから。
領主としてでしたらそちらの方がいいのかもしれませんが、向いているとも思っていませんので。
だからというわけではありませんが、本日は視察に来ているわけですから、トレーダーズギルドの方にも伺わなければなりません。
なにしろトレーダーズギルドは、プラダにある支部の中では最大の規模を誇っているのですから。
「はい。ではトレーダーズマスター、案内をお願いできますか?」
「畏まりました」
トレーダーズマスターに案内して頂き、私と大和さんはナダル海とベール湖の境にあたる位置に建設された、トレーダーズギルド・プラダ支部港湾出張所へ足を運びました。
トレーダーズギルド・プラダ支部は、支部となる建物は各ギルドと近いのですが、プラダはナダル海の要衝でもありますし、港の管理を委託している関係もあり、支部の支部とでも言うべき出張所も開設されています。
出張所はナダル海、ベール湖のどちら側の港にも近いですし、湖口を通過する船の誘導なども行っているため、常に誰かが待機しています。
船の時間を決めてはどうかという意見もあるのですが、魔物に襲われてしまえば遅れが出るのは当たり前ですし、最悪の事態となってしまえば船がやってきません。
個人所有の船に至っては、どこから船に乗るのか、どのようなルートで来るのかも分かりませんから、運行時間に関しては早々に諦めましたね。
「確か
「はい。ナビゲーショニングという、進行もしくは停止の合図を出す魔法です。停止の合図を出された側は、5分ほどですがその場から動けなくなるので、船の衝突事故は大きく減ったと聞いています。確か150年程前に、シンイチ様が奏上されていますな」
船の運航、管理もトレーダーの管轄ですから、そういった魔法があるのは知っています。
エスメラルダ天爵家で使う
もちろん自由に船を停止させてしまえば、魔物に沈められたり海賊が蔓延ったりするだけになります。
ですから、使用には制限がついており、結界内かつ船舶士という資格を持つ者のみが使えると聞いています。
シンイチ様が奏上なさっていたとは、さすがに知りませんでしたけど。
「俺が人のことを言えた義理じゃないけど、シンイチさんも色々やってたんだなぁ」
「
最初の
中でも大成したと伝えられているのがトラレンシアのカズシ様とユカリ様、バシオンのシンイチ様、アミスターのサユリおばあ様、大和様、真子の6名ですね。
バレンティアのソウヤ様を含む方々も成功を収めておられるのですが、先の6名に比べると控えめになりますし、ソウヤ様のように国に成果を盗られてしまった方もいらっしゃいます。
独占することが出来れば大きな利益になりますが、漏れてしまった場合は損害に繋がりかねませんし、事実140年ほど前にリベルター地方にあった小国が、
ですがその
「そこまで考えてた訳じゃないんですけどね。単純に自分が楽になるからっていう考えの方が強かったですし」
「ご本人としては、そんなものなのでしょうな」
確かに大和さんが奏上された3つの魔法と合金、船の推進機関についての知識、真子が奏上した魔法と医学知識は、今やヘリオスオーブにとってなくてはならないものです。
最初はご本人達はご自分の都合もあったと言っていますが、全てを公開してくださったことで、最終的には私達はもちろん市井の民達も恩恵を受けていますからね。
もちろん大和さんの世界にも、ならず者や不法者が多いことは聞いていますし、全ての方が清廉潔白だということがあり得ないのは分かっていますが、
現在存命な方は大和さん、真子、そしてサユリおばあ様の3名のみですし、今後は
願わくば大和さん、真子、サユリおばあ様が、健やかに過ごせるような世界であってほしいと思います。
そのためにも私は、エスメラルダ天爵として領地経営を堅実にこなしてみせます。
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