プラダのギルド支部
レッド・ドラゴンという未知の竜種が、レティセンシア皇国皇都コバルディアに降り立った。
しかもAランクという高ランクモンスターで、さらにアバリシア神国が隷属させている可能性が高いときたもんだ。
アバリシアからの空輸はもちろん空襲も警戒しなきゃならないから、連邦天帝国は連日対策のための会議を開いたりと慌ただしい。
俺も同様で、数日おきに天樹城に登城し、ラインハルト陛下やオーダーズギルドとの会議でてんてこ舞いだ。
だがアバリシアの侵攻がほぼ確定だったとしても、普段のお仕事が無くなる事は無い。
むしろこんな事態だからこそ、日々の仕事は重要となり、手を抜く訳にはいかなかったりする。
今の俺の仕事はヒルデやユーリ、リカさんの補佐や代理だから、手を抜くなんて出来るはずもないんだが。
今日は来訪者が増えてきた事もあって、各ギルドが正式にプラダに支部を作る事になったから、そのための打ち合わせだ。
出張所は既に稼働してるが、どこのギルドも出張所だけあって小さいから、この際って事でフィールより一回り小さい規模にするってグランドマスター達が張り切ってるんだよ。
特にトレーダーズギルドは、アミスターへの玄関口って事で、港の一部に出張所まで作る計画だからな。
既に着工に入ってるから、打ち合わせより視察がメインになるか。
プリスターズギルドだけは小さな神殿を建立していて、既にプリスターズマスターも着任してるから、特に何かするって事はないみたいだが。
「これはユーリアナ天爵、大和天爵。ようこそいらっしゃいました」
「ご苦労様です」
「工事は順調のようですね」
ユーリと一緒に最初に来たのはバトラーズギルドで、出迎えてくれたのはバトラーズマスターに就任する男性オーガのブレイクさんだ。
プラダではバトラーの需要が少ないんだが、代官邸の管理に何人か雇ってるし、アミスターの玄関口って事もあって貴族のお付きで来訪するバトラーも増えてきている。
だけどプラダから1日足らずでエモシオンに行けるから、ある意味じゃフィールより賑わっていたりする。
登録者が多いって訳じゃないから規模としては一番小さく、春に総合学園が開校するから養成所も無いんだが、それでも訪れるバトラーは多くなってきてるから、対応できるであろう最低限の大きさになってるらしい。
いずれは手狭になるかもしれないが、バトラーにとってはその程度は不都合にならないから、手早く開業するためっていう理由もあるか。
「予定では1週間後に完成と伺っていますが、この分では問題無さそうですね」
「はい。養成所が無いため登録者を増やす事は出来ませんが、ユーリアナ天爵が治められているフィールも近いですから、総合学園へ入学しない者はそちらにお願いする事になります」
ああ、そこも考えてたのか。
確かに総合学園に全てのバトラー希望者が入学する訳じゃないし、そもそも出来ない。
特にバトラー一択っていう子も少数ながら存在してるから、その子達は入学せず、直接バトラーズギルドに登録するだろう。
そうなるとバトラーズギルドの養成所に入る事になるんだが、プラダはその養成所を建てていない。
だからバトラー登録を希望する者は、領都となっているフィールに回して、人材の育成のみならず増員も考えてたのか。
プラダからフィールまでは船で4時間も揺られてれば着くし、ハンターやオーダーも護衛として同乗してるから、陸路より危険は減ってるそうだし、道中のトラブルが起きても大事になりにくいな。
「希望者はフィールへ、ですか。領主として、ありがたいと思います。領民となるかはともかくとしても、バトラーが増えれば街に活気も出てきますから」
「そうであって欲しいと願います」
フィールはさほど大きな街じゃないが、バトラーの多くは貴族の別邸や別荘の管理に雇われている。
さすがに掛け持ちしてるバトラーはいないが、それでも普段の仕事は屋敷の維持や管理がメインだから、夏や冬でもなければ特に仕事は多くない。
だけどユーリが領主になった事で、文官として派遣された貴族の子弟がバトラーを雇うようになってから、買い出しや騎獣の世話なんかの仕事が増えてきており、フィールのバトラーズギルドは喜びながらも人手不足に陥っていた。
だからフィールのバトラー養成所に人が増えてくれば、数年後にはバトラーの数が増えるって事にもなるから、バトラーズギルドの人手不足もある程度は解消されるだろうし、運営もスムーズになるだろう。
同じ領内のプラダ支部と連携して、互いに人材を派遣するっていう手段も取れるようになるな。
その結果、街に多少なりとも活気が出てきて、経済的にも上向きになって税収も増えるって事か。
間違ってるかもしれんが、だいたいはそんな認識でいい気がする。
「全てのギルド支部の完成後になりますが、代官も交えての懇親会を予定しています。その際は是非ご参加下さい」
「ありがとうございます」
懇親会か。
一応2月の頭に予定してるんだが、アバリシアの動き次第じゃ延期になるかもしれないんだよな。
俺やマナ、フラムも参加予定だが、場合によっては欠席って事もあり得る。
だけどプラダのギルドマスター達との懇親会なんだから、面倒だと思うがそれでも参加したいと思う。
フィールのギルドマスター達とは親しくしてるから、プラダのギルドマスター達ともいい関係を築けたらって思うよ。
その後も少し話をしてから、俺達は次にクラフターズギルドに向かった。
クラフターズギルドはバトラーズギルドと大差無い規模だが、これはプラダの規模を大きくしてしまったら、フィールを訪れる人が減るからという理由だ。
だからプラダのクラフターズギルドは、プラダの人達の生活を優先する事が決められたんだそうだ。
エスメラルダ天爵領の事を考えてくれてありがたいと思うが、ギルドにとっても領都より周辺の町が発展するっていうのは避けたいそうだから、大なり小なりはあれどどこの貴族領でも似たような事をしているとユーリに教えてもらった。
うん、真面目に領地経営の勉強した方がいいな、これは。
クラフターズギルドは既に大半が出来てる事もあって、改めて懇親会に招待するって話をするだけで終わってしまった。
あ、クラフターズマスターは女性ラミアのヴェールさんって人で、元々はフィールの鍛冶部門にいた人だ。
リチャードさんの弟子の1人でもあって、アイヴァー様の姉弟子に当たる。
俺も何度か会った事あるが、正直クラフターズマスターになるとは思わなかった。
だけどラミアって事で魔力は多く、フィールの鍛冶部門では
クラフターズマスターに就任すると、自分の作業に時間を割きにくくなるから、実際になりたいって人は多くないんだよな。
「アルの奴、今度会ったら覚えてろよ」
という捨て台詞を聞きながら、俺とユーリはハンターズギルドに向かった。
俺も知らなかったんだが、ヴェールさんはグランド・クラフターズマスターのエドの親父さんの奥さんの1人でもあるキャサリンさんの妹だから、エドにとっては叔母さんって事になるそうだ。
だから今でも気さくな関係を続けていて、この程度のやり取りは日常茶飯事らしい。
まあアイヴァー様とも罵り合いに発展する事があるって話だし、まだこっちの方が現実的だよな。
そしてハンターズギルドだが、ここはフィールより少し小さいぐらいか。
ベール湖はもちろんナダル海にも出られるし、対岸はすぐにマイライト山脈だ。
特にマイライトには異常種や災害種も少なくないから、戦力は多い方が良い。
「ですがプラダに来るハンターは、最近ではメモリアに向かう者も出てきていますから、拠点と考えている者は少ないのが現状なんです」
という理由で頭を抱えているのは、ハンターズマスターに就任するハイハーピーのライザさん。
プラダは元々村だった事もあり、ハンターは登録していた村人だけだった。
ナダル海に面していた村とはいえ、港が出来たのは本当に最近だから、プラダには子供が少ないっていう事情もある。
フラム、ラウス、レベッカはプラダの出身で、暇があればよく顔を出しているから戦力としては問題ないんだが、だからといって拠点にしてくれるようなハンターがいるかは別問題だ。
「厳しいのは承知していますし、今はフィールのハンターに依頼を出す事で凌いでいますが、いずれ足りなくなるのは目に見えています。ですからフィールのハンターズマスターと相談し、定期的にフィールのハンターを派遣して頂く事になるでしょう」
「大和天爵達もおりますから、少々の事は対応可能です。プラダは港町として整備していきますし、いずれは大規模な漁業も考えていますから、場合によってはそちらの町から派遣してもらう事も検討を願いたいと思います」
「それはもちろんです」
俺達ウイング・クレストはフィールを拠点にしてるから、当然何かあれば協力するんだが、人数的には少し辛いか。
ユニオンとしては大きい方で、戦力としては過去に類を見ない程だが、それでも30人ぐらいだから、数が必要な場合は厳しいな。
「ウイング・クレストがおられるとはいえ、お忙しい方々ですから、どうしても人手は必要になります。厳しいとは思いますが、お力をお貸しください」
「もちろんです。魔物を狩る事がハンターズギルドの存在意義でもあります。ウイング・クレストの方々のお力も必要ですが、なるべくお手を煩わせないよう鋭意努力致します」
ユーリもライザさんも、気を遣ってくれてるのがありがたい。
他の街ならともかく、エスメラルダ天爵領はマイライトに囲まれてる上に、レティセンシアが魔化結晶なんてもんを使いやがったせいで、異常種や災害種が生まれやすくなってしまっている。
合金を使ってるハイハンターなら何とかなるだろうし、何とかならなくても逃げるぐらいはできるだろう。
だけどノーマルクラスだと、逃げることすら難しい。
俺達もマイライトの様子は注視しているが、それなりの期間離れることもあるから、大変だと思うけど是非とも協力をお願いします。
「よろしくお願い致します。それと今後の……」
「お話し中失礼します!ハンターズマスター、対岸にオーク・クイーン率いる群れが現れました!」
「なんですって!?」
ユーリが懇親会の話を切り出そうとしたところで、職員から緊急報告が上がった。
プラダの対岸は湖口を広げるための護岸工事がされているから、以前より数倍の広さになっている。
結界もあるから、以前よりプラダは安全になっているんだが、結界は災害種には効果が薄いし、さらにその災害種なら幅100メートルぐらいある湖口だろうと飛び越えることは不可能じゃないから、対岸の監視はオーダーズギルドが担ってくれている。
ただオーダーズギルド・プラダ支部はまだ建設中だから、派遣されてるオーダーはそれほど多くなく、オーク・クイーン率いる群れが相手だと荷が重いだろう。
「言ったそばから出てくるとはな。この時期に群れとは珍しいが、麓に集落でも作ってたか。ユーリ、ちょっと行ってくる」
「はい、お気をつけて」
俺は散歩にでも行くかのような気軽さでユーリに声を掛け、そのまま建設中のハンターズギルドを出ていく。
「や、大和天爵!お1人で行かれるのですか!?」
「ええ。群れってことですけど、あの辺りの集落も前に一掃してますから、数は多くても50もいないでしょう?」
「そ、それは……どうなの?」
「オーダーズギルドからの報告では、30匹前後だそうです」
そんなもんだろうな。
以前エンシェントクラスを擁するユニオンの多くに、マイライトの山狩りを依頼し、3,500匹以上のオークを間引いているし。
しかもプラダも開発中だったから、そっち方面は重点的に行っているため、万が一新たな群れや集落ができたとしても、数は多くはないだろうって予想はしていた。
「それぐらいなら俺1人で大丈夫ですよ」
「お気持ちは分かりますが、大和さんはヘリオスオーブ初のエレメントクラスでもありますし、終焉種討伐の実績もお持ちです。ですからその程度の数でしたら、ご心配には及びません」
呆気に取られてるライザさんと職員さんだが、災害種が率いる群れともなれば、30匹程度であっても普通なら町が滅びかねない大災害だ。
だけど俺にとっては今更な相手でもあるから、ちょちょいと行って狩ってこようと思う。
万が一油断なんかして、それが真子さんの耳に入ったりしたらとんでもないことになるから、そこだけはしっかりしとかないとな。
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