ドラゴニアンの入学問題

 会議前にMARSの話で盛り上がり、そこからグラシオンの再開発に話が進んだばかりか決定までするとは思わなかった。

 さすがに突然だったから実際に再開発を始めるのは先になるが、それでもグリシナ陛下は諸手を上げて歓迎してくれたから、近いうちにグラシオンに行かないといけない。

 アレグリア側も準備とか調整とか必要だから、実際に行くとしても1ヶ月ぐらいは先になると思うが。


 会議では授業内容についてはもちろん、ドラゴニアンをどうするのかという問題もあった。

 特にドラゴニアンの入学については、ドラゴニアンの奥さんの妊娠が判明したグランド・ドラグナーズマスター ハルート卿、同じくドラゴニアンと結婚する予定のフォリアス竜王陛下が熱心だったな。

 俺もアテナと結婚してるし、エオスもシングル・マザーになって俺の子を産む事を希望してるから、心境としてはフォリアス陛下やハルート卿と同じだ。


 現在未成年のドラゴニアンは10歳から69歳までで、人数は6人だと聞いている。

 ドラゴニアンの成人年齢は85歳で、5年で人間年齢が1つ加算される事になってるから、その子達を人間年齢に換算すると2歳から13歳ぐらいか。

 だから入学するのは問題無いんだが、総合学園の在学期間は4年だから、人間年齢換算だと年を取らない事になってしまう。

 つまり実年齢50歳で入学しても卒業時は54歳だから、人間年齢だと11歳にすらならないで卒業という事になる。

 実際にドラゴニアンがギルドに登録するのは、見聞を広めるための下山とほとんど同時、つまり80歳から100歳ぐらいだから、せっかく卒業しても30年近くはウィルネス山から下りられない。

 ならば卒業時に80歳になるようにという考えに行きつくんだが、そうなると卒業時はともかく、入学時の年齢が76歳、つまり人間年齢だと15歳相当になるため、10歳で入学してくる他の種族と比べると体格に大きな差が出来てしまう。

 座学はともかく実技、特に戦闘訓練ではその差は歴然だから、こちらもこちらで頭の痛い問題だ。

 そもそも人間年齢がどうとか言ってるが、実際にはその5倍も生きているし、ウィルネス山でしっかりと教育も施されている訳だから、幼く見えても見た目ほど幼くはなかったりするんだよな。

 その分のんびりと過ごしてるし、時間の間隔も少し違うみたいだから、ドラゴニアン的には数十年ぐらいすぐっていう感覚らしいが。


「でしたらドラゴニアンに合わせるというワケではありませんが、成人している方も一定数入学を認め、1つのクラスにしてしまってはどうでしょうか?」


 どうしたもんかと頭を悩ませていると、リンゼ・ジェミオス橋公が手を挙げた。


「リンゼ橋公、それはどういう意味だ?」

「はい。いずれは三王国にも総合学園を開校させると伺っていますが、それでも全ての子の入学は不可能です」

「将来登録するギルドを決めている子には、あまり意味のないことだからな」

「入学する意義を見出せない親も出てくるでしょうし、家庭の事情で入学を断念する子も出てくるかもしれませんな」


 総合学園に入学しなければ、ギルドへの登録が出来ないっていう訳じゃない。

 そもそも総合学園を開校させる理由は、子供達に多くの選択肢を示すためだ。

 どこのギルドに登録するか迷っている子は多いし、実際にギルドに登録しても思っていたのと違うって事で別のギルドに登録する子もいるらしい。

 総合学園ではギルド授業の他に読み書き計算も教えるし、一般教養や礼儀作法なんかも学べる。

 更に授業料は、卒業後にギルドの依頼からいくらかを天引きする事で返済が可能だから、入学金は少額で済む。

 だけど一般人と机を並べたくないっていう貴族、入学金を払えないっていう家庭も出てくるかもしれない。

 前者はどうでもいいが、後者は俺達としても何とかしたいと思うから、成人した後でも救済措置として入学を許可し、その人達を1つのクラスに纏め、そこにドラゴニアンも含めてはどうかというリンゼ橋公の案は、俺としてもアリだと思う。


「ふむ、悪くないな。グランド・スカラーズマスター、可能か?」

「今は手いっぱいですが、数年後を目途にという事でしたら対応しましょう」


 初年度の入学生は既に定員いっぱいだが、既定年齢に達してない子達は既に2年目の入学を親が希望しているそうだし、成人する子達も10人程入学が決まってるから、それならばって事で同じく2年目の入学を希望してる人も出てきてるって話だ。

 その上で総合学園の授業内容まで考えないといけないんだから、スカラーズギルドが手いっぱいなのは仕方がない。


「分かった。他に意見は無いか?」

「ドラゴニアンを成人クラスに入学させるのは良いと思うのですが、他の種族は4年も経てば大きく成長します。ですから成人クラスのままですと、ドラゴニアンにとっても負担が大きくなりはしないでしょうか?」

「そうですね。また年齢的に見ても、その子達と交流を育んだ方が、ドラゴニアンにとってもプラスになるでしょう。ですから3年目辺りからは、ドラゴニアンも成人クラスから抜けさせ、通常クラスに編入させるべきかと」


 アテナの双子の妹と結婚予定のフォリアス陛下と、エオスと同じく俺の子を産むためにシングル・マザーになるネージュさんが、更なる提案のために手を挙げる。

 どちらもドラゴニアンとの縁が深いからこその提案だな。


「確かにそれは言えていますね」

「ドラゴニアンの下山は、結婚も見据えていると聞く。であるならば、既に成人している者の年齢にもよるが、同世代になる子達との交流も必要だな」


 リンゼ橋公とフリューゲル獣公も、フォリアス陛下とネージュさんの意見に賛成のようだ。

 いや、室内を見渡してみると、全員が賛成っぽいな。

 ドラゴニアンの問題に端を発したようなもんだが、全員が入学できないっていうのは間違いないから、成人してからも入学できるようにしておけば、金銭的な問題や傲慢な貴族の問題もある程度は緩和できそうだ。

 その成人クラスは別の授業内容になるから、新しく考えないといけないのが問題だが。


「そうすると成人している者の入学は、ギルドに登録をしている事が最低条件となりますな」

「ですね。また成人しているからこそ、4年も通うのは逆に大変でしょう。3年、いえ、2年程勉学に励んでもらうのが無難かと思います」


 ライアー大公とティグル・バジリウス・ブルーメ獣公の言う通り、連邦法で成人している者はギルドへの登録が義務付けられている。

 これは税金の問題もあるが、戸籍としても使う事が理由だ。

 もちろん成人してもどこのギルドに登録するか決めきれないっていう人もいるから、2年の猶予期間は設けられているんだが、成人したという事は基本的に親の庇護下から離れる事を意味する。

 だが総合学園への入学には、授業料ばかりか入学金も必要になるから、ギルドに登録していなければ用意するのはかなり難しい。

 授業料はギルドの依頼料からの天引きで賄えるが、入学金は厳しいか。

 いや、それなら成人クラスのみ、入学金も依頼料からの天引きで対応すればいいんじゃないか?


「確かに入学金は20万エルと定めていますが、登録したばかりのレジスターにとっては大金です。ですから成人クラスのみ依頼料から天引きというのは、確かに行う必要がありますね」

「入学を希望しても入学金を用意出来なければ、そもそも入学が出来ないですらね。かといって他の子供達までそうしてしまっては、入学希望者が今より増える事になります。既にスカラーズギルドにとっては大きな負担となっているのですから、通常クラスと成人クラスを同列には扱えませんか」


 そう提案すると、グランド・スカラーズマスターとイザベラ・アクアーリオ橋公が真っ先に賛成してくれた。


「確かにその通りか。だが在学期間が2年となると、授業料もその分少なくなる。入学金や授業料は施設の維持や教職員への報酬にもなるのだから、そちらの方で問題が出たりはしないのだろうか?」

「そちらに関しては、領主としてある程度の補助金を出す予定です」


 リヴィエール・エス・ロッドピース獣公の疑問に、リカさんが答える。

 入学金だけで4,000万エル近くになるが、教職員となるスカラーも100人近くになるし、施設の維持費だって結構必要になるから、それだけじゃ全く足りない。

 授業料は年間200万エルだが、そちらを足しても不安が残る。

 だからリカさんは、学園の維持費をアマティスタ侯爵家で負担する事を考えている。

 施設の維持費に修理代、雑費なんかも含めると、年間1,000万エルは見ておく必要があるだろうが、幸いにも侯爵の公金は7,000万エルあり、更に領地の税収が加算されるから、3000万エルぐらいまでならアマティスタ侯爵家としても大きな負担にはならないそうだ。

 俺がいくらか負担する事も考えたんだが、今は良いとしても次代で問題になるから、リカさんばかりかマナやユーリ、真子さんからもダメ出しされたけどな。


「総合学園は教育機関でもあるが、今後も見据えると連邦天帝国としても大きな意義がある。だから天帝家としても、補助金を出す予定でいる」

 

 さらにラインハルト陛下も、金額は未定だが、毎年決まった額を寄付すると口にした。

 しかもメモリアだけじゃなく、フロートや三王国の首都に開校する学園には、必ず寄付するそうだ。


「天帝家からもですか。でしたら我々も、寄付を行った方が良いかもしれませんな」

「それについては各自に任せる。だが三公には申し訳ないが、フィリアス大陸の人口から考えても、おそらくフロート、メモリア、ベスティア、グラシオン、ドラグニア、そしてフレイドランシア天爵領の6ヶ所で、定員になるのではないかと思う。そればかりか定員に達しない事もあり得るだろうから、建設を行わない都市がでてくる可能性がある」


 確かにフロートや三王国の首都、開校を待つばかりのメモリアは分かるし、実際にフィリアス大陸の人口を考えると、多分5校か6校が限界だっていうのは分かる。

 だけどラインハルト陛下、なんでそこに俺も含まれますかね?

 いや、どこが領地になるかは分からないが、学園都市風にするのもいいかなと思ってたし、実際都市開発するとしたら総合学園は建てるつもりだったんだが。


「フレイドランシア天爵領も、ですか?ですが大和天爵は、未だ拝領していなかったはずでは?」

「ああ。今はマナとフレデリカ侯爵が妊娠中だし、ユーリも春から学園に通う。少なくとも大和君に領地を下賜するのは、ユーリが卒業してからになるだろう」


 あ、俺が拝領するのは、早くてもユーリが卒業してからになるんですね。

 数年先だって話だったが、ユーリが学園に通う事になる以上、俺はエスメラルダ天爵の婚約者として動くことを余儀なくされるし、リカさんが妊娠している今はアマティスタ侯爵領でも同様だ。

 そんな状態で領地を貰っても何も出来ないに決まってるから、よく考えなくてもユーリが卒業するまでは領地経営なんて無理だって分かるか。

 マナの領地がどうなるか分からないが、この分だと俺の方が早そうだな。


「未だ拝領していない大和天爵の領地にもという理由は、彼がMARSの開発者であり、新規開発となるために学園を中心とした街を作りやすいからですか?」

「それが一番大きいな。ラピスラズライト天爵領も考えたんだが、どちらかは既存の領地の発展を促してもらいたいと考えている。それに大和君は客人まれびとでもあるから、自領の方が考えを活かせるだろうという理由もあるな」


 そういう理由もあるのか。

 というか俺の学園都市構想は、ラインハルト陛下どころか嫁さん達にすら言ってない。

 漠然とこんな感じの都市もいいかもしれないと思ってるだけで、計画以前の話だからだ。

 なのに陛下達は、学園都市を造るべきだとお考えのご様子。

 フロート、ベスティア、ドラグニアは都市内の区画整理から始めないといけないし、メモリアやグラシオンは区画整理こそ必要ないがそれでも一部の調整は必要になる。

 だからこそ大事業になるんだが、俺が拝領する場合はゼロからの開発になる可能性が高いから、色々と融通も利きやすい。

 これはどこが領地になるかはともかくとして、マジでちゃんとした都市計画を考えておかないとマズそうだ。

 余裕が出来たら地球のどこかの都市でも参考に、色々考えてみよう。

 どっか参考にしやすくて、それでいて俺にでも分かりやすいような都市ってなかったっけかなぁ。

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