メモリア総合学園入学希望者
レジーナ皇女が生まれてから1週間、ラインハルト陛下からの呼び出しを受けて、俺、プリム、アテナ、エド、フィアナ、ラウス、キャロル、セラスは天樹城に向かった。
「来てもらって悪いね」
ラインハルト陛下の執務室に入ると、エリス妃殿下とシエル妃殿下、そして驚いた事にリカさんが出迎えてくれた。
何でリカさんがここに?
「いえ、大丈夫です。ご用があると伺いましたが?」
「ああ、実は来春開校する総合学園についてなんだ。フレデリカ侯爵、頼む」
「畏まりました」
総合学園の事?
いや、確かに総合学園はメモリアにあるから、領主のリカさんから話すっていうのは分かるけど、それなら別に天樹城じゃなく、アルカでも問題無いと思うんだが?
「知っての通りメモリア総合学園は4年制で、各学年200名前後が定員となっているんだけど、入学希望者は昨日の時点で538名となったわ」
その話は前にも聞いたな。
正確な内訳は覚えてないが、確か成人してる人が半数近くを占めてたはずだ。
「538名中、ギルドに登録して活動もしている者は136名、年が明けると成人となる者は179名、残りの223名はギルド登録もまだの未成年となるわ。年齢は現在9歳から15歳と幅広いけど、入学はこの223名にする予定なの」
ギルド登録済みかつ活動までしてる136名は、まあ入学が見送られるのは仕方ない。
来年成人を迎える者もほとんどがギルド登録済みらしいし、総合学園は子供が入学する事を前提としているから、こちらも申し訳ないが見送る事も理解出来る。
残った子達が入学ってことだが、予定より少し多いが初年度だし、それぐらいは何とかなるんじゃないかとは思う。
驚いたのはその中に、王族が7名もいる事だ。
トラレンシアからはルシア・ミナト・トラレンシア殿下12歳、ディアナ・ミナト・トラレンシア殿下10歳、アレグリアからはデイヴィッド・アレグリア殿下10歳も入学するらしい。
残り4名は、三公国からになるんだそうだ。
「早速王族も入学するのね。まあ想定はしてたんだし、いずれはレストやレジーナも入学するんだから、特に問題ってワケじゃない気がするけど?」
俺もプリムと同意見だ。
特に三王国の3名は、年齢的にもピッタリだしな。
「三王国や三公国に関しては、私もそうだと思う。だけど問題なのは、来春に独立する予定のソレムネ地方の小国なのよ」
春にソレムネ地方で小国が独立する?
それは初耳だな。
「え?もう独立させるんですか?」
「思ってたより早えが、大丈夫なんですか?」
ラウスとエドも驚いているが、俺も早過ぎるんじゃないかって気がするな。
「その疑問はもっともだし、まだ確定じゃない。実際中部地方は、数年は無理だな。だが1つだけ、独立させても問題が少ないと思われる地方がある」
実際ソレムネ中部地方は半年ぐらい前に貴族が反乱を起こしたし、東部は連合軍の行軍路だった関係でいまだ人手不足だ。
南部と西部はプライア砂漠が広がってる関係で、特に西部に町はなく、南部も収めている貴族は2家だけだったりする。
その南部地方は、比較的マシだって話は聞いてるが、それでも統治している貴族の片方は反逆罪だかで処罰されてたんじゃなかったか?
「いや、南部ではなく、北部の方だ。ヒルデからも評判の良かった領主がいただろう?」
「ああ、そういやいましたね」
ソレムネ北部地方は、確か7つの領地があって、その内の3人は中央部の領主達と共に反旗を翻し、ヒルデによって処刑されている。
残り4人の領主は、特に反抗的でもなく、さりとて恭順している訳でもなかったはずだ。
その中の1人は、領民からの評判は良く、領地経営もしっかりとしているし、棄民も出していない。
ソレムネ国民だけあってその領主も
俺は行った事ないが、ヒルデは何度かその領主と面会していて、高い評価を与えてたな。
「ああ、その領主だ。他の3人は、棄民に対する扱いは他のソレムネ貴族と変わりなかったこともあるが、だからこそ彼を小国の王として独立させ、取り潰した3つの領地も任せてみてはという案があるんだ」
その貴族の領地と取り潰された貴族の領地は隣接してるからという理由もある、とラインハルト陛下は続けた。
なるほど、ということはその国の名前を考えるのを手伝えと、そういう事か。
「いや、それもあるが、まだ続きがあるんだ。フレデリカ侯爵、頼む」
そなの?
「はい。その領主、クエルボ・イストリアス伯爵には子供が2人いるんだけど、跡継ぎとなる男子が今12歳なの。その子の入学を、クエルボ伯爵は希望しているのよ」
そっちが本題なのか。
とはいえ、いずれはソレムネも総合学園に入学してもらう予定だったんだし、それが独立予定の領主令息って事なら初年度入学でも問題無いと思うけど?
「問題なのよ。クエルボ伯爵は問題無いんだけど、入学希望の長男は、ちょっと問題が多い子なの」
「そうなんですか?」
「ええ。領民を見下しているのはもちろん、この世の全ては自分のためにある、って思ってる子なのよ。どうもクエルボ伯爵が宛がった教育係が生粋のソレムネ人で、偏った教育を施してたみたいでね。クエルボ伯爵が気が付いたのは最近になってからだから、跡取り息子の性根を入れ替えるためにも、入学させたいって事なの」
それはまた……。
リカさんの話を聞くと、クエルボ伯爵には4人の妻がいて、そのバカ息子は3番目の妻の子供になるようだ。
長男って事もあって、次期イストリアス伯爵って事になってはいるんだが、イストリアス伯爵家はソレムネ貴族としては珍しく棄民を虐げない家でもあって、周辺に領地を有している貴族とも折り合いが良くなかった。
そのためか、クエルボ伯爵の初妻と2番目の妻は、配下となる陪臣家出身だそうだ。
ところが2人の妻は、結婚後10年経っても妊娠しなかったため、イストリアス伯爵家存続に黄色信号が灯ってしまった。
そこで嫁いできたのが3番目と4番目の妻で、中央部に領地を有する貴族の令嬢とその侍女になる。
イストリアス伯爵家は密かにトラレンシアやリベルターと密貿易を行っていたようで、ソレムネ貴族の中では羽振りも良く、帝王家でも迂闊に口を出せない程の資産や軍事力を持っていたため、乗っ取りも視野に入っていたらしい。
そして思惑通り、3番目の妻となる貴族令嬢が男子を出産したため、その令嬢の実家は大いに沸いたんだろうな。
「ところが戦争でソレムネは滅んだし、その令嬢の実家も反乱を企てたって事で取り潰されてるから、無理にその長男を跡継ぎに据える必要は無くなった。それでも自分の子供って事に違いはないから、入学させて性格を矯正しようって事ですか?」
「そうなるわ」
溜息を吐いてエドに答えるリカさん。
面倒くさいってレベルの話じゃないだろ、それは。
「まさかリカ様、ウイング・クレストの未成年も何人か入学させ、その者を監視、もしくはその者から生徒を守れと?」
「そうなのよ!」
眉を顰めて口を開いたキャロルに、リカさんが満面の笑みで答えた。
イヤ、マジで?
というか総合学園は、王侯貴族だろうと平民だろうと身分差はなく、むやみやたらに権力を振りかざすようなら処罰が加えられるはずでしょ?
「初年度から退学者を出したくないという意味もあるが、次期イストリアス伯爵の矯正に成功すれば、ソレムネ地方の統治に光明が差すからな。まあ無理に成功させずとも、次男は初妻や2番目の妻の教育が良いため、品行方正に育っているから、跡取りに困る事はないが」
「つまりその長男は、矯正できたら儲けものっていう、一種のお試しで入学してくる訳ですか」
「そうなる。無論、クエルボ伯爵にはそう伝えているし、退学処分になろうものなら継承権を剥奪する事も了承させている。小国とはいえ、そのような者が王位に就けば、どうなるかは分かり切っているからな」
つまりそのバカ息子を矯正できればそれで良し、出来なくてもイストリアス伯爵家は弟が継ぐことになると。
果てしなく面倒な話だな、それは。
「ラウス、どうだ?」
「俺ですかっ!?」
話を振ると、ラウスが飛び上がらんばかりに驚いた。
なんでラウスも呼び出されたのかと思ったけど、ラインハルト陛下もリカさんも、ラウスに入学してもらいたいって事なんだろう。
「話の流れからすると、ラウス達が入学って事になるだろうよ。年齢だけならフィアナやアリアもアリだが」
「あとはユーリだが、さすがに天爵の仕事をしてるからな。それにラウスとレベッカはエンシェントクラス、キャロルも時間の問題だから、何か問題が起きたとしてもどうとでも出来るだろ?」
「力技過ぎますよ!というか、別の問題が降りかかってくるじゃないですか!」
エンシェントクラスにケンカを吹っ掛けるバカはいないと思うが、ラウス達は未成年だから、搦め手で報復をしてくる可能性はゼロじゃない。
まあ、その場合は俺達が出ていくだけなんだが。
「こちらから無理を頼んでいる以上、支援はするさ。それにラウス君には、そのラルヴァ・イストリアスの監視だけじゃなく、王族の護衛も頼みたいんだ」
ああ、そっちの意味もあったのか。
入学予定の王族は7人で、ほとんどが王太子や公太子でもある。
立場上狙われる可能性もあるからリッターズギルドも護衛を派遣する予定ではいるが、護衛は入学する訳じゃないから常に傍にはいられない。
その点ラウス達が入学すれば、クラスはどうなるかは不明だが、傍にいてもおかしなことはない。
しかもラウスとレベッカはエンシェントクラス、キャロルも進化目前と言えるレベルだから、護衛としては十分過ぎる。
護衛対象の方が多いから常にっていうのは無理だが、同じ校内にいるってだけでも抑止力になるだろう。
さらに万が一の場合は、俺達ウイング・クレストが出張る事も可能になるしな。
「君達が入学する意味はないと分かっているが、初の総合学園であり、王族や貴族の権利は通用しない。それでも無理を通そうとする輩は出てくるだろうし、オーダーも常駐させるとはいえ、基本子供の方が多い施設だ。初年度から大きな問題は避けたい。そうなると、信頼できる者に入学してもらう事が一番なんだ」
それで真っ先に白羽の矢が立ったのがラウスって事か。
確かに信頼出来るし、実力もエンシェントクラスって事で不足はない。
その上未成年だから、普通に入学も出来る。
入学する意味があるのかっていう問題はあるが、護衛メインって事を考えればいいし、住まいも寮じゃなくアマティスタ侯爵家って事にしとけば、夜はアルカに帰って来れるな。
「……どんどん外堀埋めていきますね」
「そうでもないだろ」
「まあ、理由は理解出来ますけど。ですが私は、来年成人を迎えます。確か先程、成人を迎える者は今回の入学を見送ると仰っていましたが、構わないのですか?」
「もし入学してくれるのなら、何人かは入学を許可するつもりよ」
まあ、そうするしかないよな。
「そういう事でしたら、私は構いません。興味もありますし、せっかくですからトレーダーの勉強をするのもいいかもしれませんし」
キャロルはヒーラーズギルドとハンターズギルドに登録しているが、入学したらトレーダーの勉強もしてみるつもりか。
確かに護衛とはいえ、常に張り付いてる訳じゃないし、せっかく入学したのに勉強もせずっていうのもどうかと思うから、本人がやりたいっていうならその意思を尊重しよう。
「ああ、そっか、勉強できるんだったっけ。なら俺も、オーダーの勉強しといた方がいいかも」
キャロルのセリフに納得したような顔をするラウスだが、それはちょっと待とうや。
「いやいや、お前はアウトサイドとはいえ、
「だからこそですよ。まあ騎士科は実戦とかもあるだろうから、そこが問題ですけど」
エドの言うように、ラウスは
だけど外部協力者扱いのアウトサイド・オーダーでもあるから、騎士の心得なんかは無い。
ラウスとしては、それを覚えておきたいって事みたいだ。
オーダーはハンターと合同授業になるから、当然のように戦闘訓練や実戦もあるんだが、そこは俺も問題だと思う。
まあ、それぐらいなら、大した問題でもないんだが。
「教師が誰になるかはまだ正式に決まっていないが、君達の事は学園やスカラーズギルドにも伝えておく。特に騎士・狩人学科には確実に伝えておかないと、とんでもない事になりかねないからな」
最悪、俺やラインハルト陛下、グランド・オーダーズマスターが出張るっていう可能性もあるしな。
だけどラウスとキャロルは入学に前向きだし、ラインハルト陛下もリカさんも一安心って感じだ。
押し付けた感じ、とはちょっと違うが、俺もラウス達をフォローできるようにしておこう。
あっと、アルカに戻ったら、アリアにも聞いてみないとだな。
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