皇女誕生

Side・ユーリ


 メモリアの総合学校校舎が完成した翌日、私達は連絡を受け、天樹城へ向かいました。

 マルカお義姉様が深夜に産気付き、無事に女の子を出産したそうなのです。

 予定より数日遅れてしまったそうですが、母子ともに健康だと、ルーカスとライラが伝えてくれましたから、私達も一安心です。


「この子がお兄様とマルカ義姉様の子なのね。可愛いわね」

「ああ。名前はレジーナだ」


 レジーナ・レイナ・アミスターですか。

 良い名前ですね。

 兄となったレストも、嬉しそうにレジーナをあやしているように見えます。


「という事は、私のお腹の子と同い年になるのかしら?」

「総合学校の年間カリキュラムと照らし合わせると、そういう事になるな」


 現在妊娠6ヶ月のお姉様のご出産は、年が明けてすぐが予定日となっています。

 本来でしたら年下という事になるのですが、総合学校は4月から始まり3月で1年度が終わりますから、そちらに合わせると同い年という事になります。

 当初は1月始まりの12月終わりで計画をしていたのですが、その時期は真冬で地域によっては積雪で移動もままなりませんから、春にずらした形ですね。

 大和様や真子の国と同じになるそうですが、特に狙ったわけではありません。

 アミスターは積雪も多いですから、年明けの1月から開校という事になると、下手をすると学生が集まりませんから、雪が溶け、暖かくなる4月からというのは、最善の選択になると思います。


 ちなみに身重のお姉様ですが、横にもなれるサイズの大型ソファに腰を掛け、大和様の念動魔法によってソファごと運ばれているため、歩き回ってお腹の子に差し障りが出ないように気を配られています。


「という事は、レジーナ殿下だけじゃなく、レスハイト殿下も入学させるんですか?」

「そのつもりだ。王家、いや、もう天帝家だったな。天帝家はギルドに登録する前に、なるべく上位のギルドレジスターに弟子入りする事を決めるんだが、自分で探し、頼み込まないといけないから、けっこう大変なんだよ」

「そりゃ大変だと思いますけど、天帝家から頼まれたら、頼まれた方も大変じゃないですか?」


 実は大和様の仰る通り、頼む方も頼まれた方々も大変なのです。

 お父様はクラフター登録をする際、アミスター中のクラフターの情報を取り寄せ、その中からリチャード師を選び、フィールまで赴いて頼み込んだと聞いています。

 さすがに王太子の頼みということで、リチャード師も無碍にはされなかったのですが、当初は手放しで歓迎されたわけではありません。

 リチャード師は今も昔もフィールで活動されていましたから、お父様が弟子入りする条件に、お父様もフィールで過ごす事が挙げられたそうですが、当時国王だったカイトお爺様は難色を示されたんだとか。

 王太子のお父様がフロートを離れるのは、色々な問題が起こりかねませんから、お爺様の懸念も分かります。

 リチャード師をフロートに招くという案もあったそうなのですが、そちらに関してはリチャード師が頑として首を縦に振らなかったそうです。

 最終的にはお爺様が折れたのですが、それでも月の半分はフロートに戻ってくるようにと条件を付け、お父様もそれを受け入れ、リチャード師にも何とか認めていただき、無事に弟子になったそうです。


 お兄様も、ハンター登録をする前にハンターの情報を集めていたのですが、そこでマルカお義姉様と知り合ったため、トライアル・ハーツ以外の選択肢が無くなってしまいました。

 当初トライアル・ハーツは、王太子のお守りに難色を示していたそうですし、バウトもお兄様の事を妹を付け狙う悪い虫扱いしていたそうですから、お兄様の場合は登録してからの方が大変だったみたいですね。

 信頼を勝ち得てからは、マルカお義姉様との関係も祝福していただいていますし、お姉様のためにホーリー・グレイブを紹介していただけましたけど。


「そういえば、そんな話を聞いた覚えがあるわね」

「だな。なるほど、自分達は自前で情報とかを集めないといけなかったから、レスハイト殿下やレジーナ殿下には、そこまで苦労を掛けたくないと?」

「交渉の勉強にもなるし、経験と言ってしまえばそれまでだが、ギルド活動にも支障が出かねない。それに学友と切磋琢磨する事も、必要だと思っている。天帝家に生まれた以上、対等の友人は作れないだろうが、近しい者はいるに越した事はないからな」


 確かに天帝家であるというだけで、対等の友人を作るのは難しいですね。

 ですが友人は大切な存在ですし、その中から将来の伴侶が見つかる事もあります。

 レジーナは皇女ですから結婚相手ではないかもしれませんが、子供を産むためにも相手は必要です。

 いえ、まだ生まれたばかりですから、そこまで心配しなくてもいいですよね。


「あー、確かにそうですね。じゃあマナのお腹の子も、そうした方がいいのかな?」

「人脈作りにも有用だろうから、その方がいいわね」


 多数の人と触れ合うことになりますから、確かにプリムお姉様の仰る通り、人脈作りとしても悪くはありませんね。

 お姉様のお腹の子は、次期ラピスラズライト天爵となる事が決まっています。

 天帝位継承権を持つ天爵家といえど新興貴族に違いはありませんから、学校のような場で人脈を作る事は、プラスにこそなれマイナスにはならないでしょう。


「貴族としてか。聞くだけで面倒だな」

「気持ちは分かるが、こればっかりはな」


 確かに面倒ですが、これから生まれてくる子供達が健やかに、そして平和に過ごすためにも、必要な事だと思います。

 だから諦めてください、大和様、お兄様。


Side・大和


 マルカ妃殿下は出産した直後って事で、同じく生まれたばかりのレジーナ殿下と一緒に私室に戻っていった。

 あ、レジーナ殿下はアルディリーの女の子だぞ。

 生まれたばかりでも、ちゃんとふさふさしたリス耳、リス尻尾が生えてるから、ヤバいぐらい可愛かった。


 出産祝いに光絹布と王絹布5反ずつを含む魔物素材詰め合わせを持ってきたんだが、こっちはワンパターンになりつつある気がする。

 ベビー用品は過去の客人まれびとがしっかりと広めてるから、俺が何かする余地は皆無だし、レジーナ殿下が寝かされているベビーベッドは、アイヴァー様のお手製だ。

 希少素材ってことで勘弁してもらいたい。


「そういえば、レジーナ殿下の属性魔法グループマジック天嗣魔法グラントマジックって、もう分かってるんですか?」


 ここで、ふと疑問に思った事を聞いてみる。


 ヘリオスオーブの人は、生まれた事を神々から祝福してもらった証として、属性魔法グループマジック天嗣魔法グラントマジックを1つずつ授かる。

 これは異世界から転移してきた客人まれびとも同じなんだが、両親が神々を信仰していないと天嗣魔法グラントマジックを授かる事はないし、逆に剥奪されてしまう事もある。

 旧ソレムネ人はそれが顕著で、多くの人が天嗣魔法グラントマジックを剥奪され、この30年で生まれた子の多くも授かってはいない。

 稀に信心深い人が後天的に授かる事があるそうで、元棄民の一部がこのケースに当てはまる。


 レジーナ殿下は、熱心かは分からないが、ラインハルト陛下とマルカ妃殿下の娘だから、天嗣魔法グラントマジックを授からないという事はあり得ない。

 だから属性魔法グループマジックと一緒に授かっていると思うんだが、本当にまだ生まれたばかりだし、奏上魔法デヴォートマジックステータリングは本人が使う必要があるから、確認するならプリスターに頼むしかないと思う。


「生後1年を祝い、プリスターズギルドで祝福と同時に確認してもらうのが習わしだから、判明するのはそれからだな。レジーナの場合は、1歳の誕生日にグランド・プリスターズマスターが登城し、併せて祝福もして下さる事になっているが」


 そんな習わしがあったのか。

 だけど確かに、生まれたばかりの赤ん坊を連れ歩くなんて、いろんな意味で危ないよな。

 という事は、こないだ生まれたフィーナ達の弟にキャロルの弟、これから生まれてくるマナとの子も、1年経つまでは確認出来ないってことか。


「ところで大和君、フロートにフレイドランシア天爵家かラピスラズライト天爵家の別邸を建てるって話だけど、場所は決まったの?」

「ええ、決まりました。とりあえず、フレイドランシア天爵家の別邸から建てます」


 ここでエリス妃殿下が、フロートに建設予定の屋敷について聞いてきた。

 フロートは天帝国の国都であり、フィリアス大陸の中心部でもある。

 だからアミスターの貴族は、当然のように別邸として屋敷を建てている。

 使うのは年の半分どころか4分の1もないため、領地にある本屋敷程の規模じゃなく、ちょっとした豪邸程度みたいだな。


 フレイドランシア天爵家やラピスラズライト天爵家、エスメラルダ天爵家も同じく別邸を建てないといけないんだが、本格的に使う事になるのは生まれてくる予定の子供が天爵位を継いでからになるから、あまり急ぐ必要はない。

 だけど建てない訳にもいかないから、まずはアルカへの転移のためにフレイドランシア天爵家を建て、その次にラピスラズライト天爵家の予定だ。

 エスメラルダ天爵家は最後になるが、今はエスメラルダ天爵領の開発に注力しているから、資金はそちらに回すべきだという話になっている。


「確かにその方がいいかもしれないわね。土地代の事もあるから、別邸とはいえフロートで屋敷を建てようと思ったら、神金貨30枚は下らないもの」


 確かにエリス妃殿下の言う通り、フレイドランシア天爵家別邸予定地はフロートの中心部って事もあって、土地代だけで神金貨12枚掛かったな。

 さらに建材も、ハイクラスやエンシェントクラスが多く、エレメントクラスまでいるって事を考えて、木材は桜樹、金属材は瑠璃色銀ルリイロカネ、石材も最高級と言われている迷宮ダンジョン産の翡翠を使っている。

 翡翠は地上でも採れるが、迷宮ダンジョン産だと魔力強度6、硬度6、魔力伝達率7と、魔銀ミスリルすら凌ぐ性能だ。

 まあ堅いと言っても石だし、金剛鉄アダマンタイトより重いから武具には向かないんだが。

 そのせいで、試算だけでも神金貨32枚が最低額となっていて、フィールに建てたエスメラルダ天爵家本屋敷が土地代込みで神金貨17枚だった事を考えれば倍近い。


 天爵の公金は1億エル、つまり神金貨100枚だが、俺とマナは領地を持っていないって事を理由に半額しか受け取っていないから、屋敷を建てるだけで大半が吹っ飛ぶ。

 だが今までの狩りで稼ぎまくってる事もあって、それぐらいなら俺の個人資産だけでも十分賄えてしまっていたりする。


「公金を減らしているから、屋敷を建てるのはまだ先だと思っていたが、それだけ稼いでいるなら屋敷の1つや2つ、どうという事もないのか」

「溜め込み過ぎてもどうかと思ってましたから、ある意味じゃ助かってるんですけどね」


 ヘリオスオーブの貨幣を発行しているのは、驚いた事にプリスターズギルドだったりする。

 普通は国が発行するんだが、ヘリオスオーブの場合は神々という事になっていて、プリスターズギルドは代行って事になってるんだそうだ。


 ちなみに普通の高ランクユニオンは、装備品やユニオン・ハウス、調度品に獣車、嗜好品とか服に食事、さらには孤児院やプリスターズギルドへの寄付なんかで散財しているって聞いてる。

 ただ装備品に関しては合金や高ランクモンスターの素材が、獣車は多機能獣車が出回り始めたから、今までより使う機会は減ってきてるみたいだが。


 それもあって高ランクユニオンは、かなりの額を蓄財していたりする。

 いくらプリスターズギルドが発行しているとはいえ、貨幣ごとに上限があって、それ以上の発行は出来ないそうだから、高ランクユニオンのように金を溜め込んでしまうと貨幣不足に陥って、経済が停滞してしまう。

 だからある程度の散財は必要なんだが、それも難しいのが現状みたいだ。


 俺達も、今は天爵家の屋敷やら別邸やらに金を回せるが、それが落ち着いたら溜まる一方になりそうだから、マジでどうしようか、しっかりと考えないといけない。

 かといって安請け合いなんかしたら、それこそ問題にしかならないから悩ましい。


 なんかいい方法無いもんかねぇ……。

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