第一五章・総合学園開校準備

総合学校校舎完成

 ガグン大森林のハヌマーンを討伐、ラオフェン迷宮を攻略、マイライト山脈の大規模調査が終わって1ヶ月経った。

 その間、アテナとの結婚儀式を終えたり、金属材と進化の研究をしたり、MARSの開発を再開したりしてたためか、あっという間に過ぎ去った気がする。


 アテナとの結婚儀式は、予定通りウィルネス山にあるクリスタル・パレスで行った。

 ドラゴニアンと結婚する場合、基本はガイア様が神父みたいな立ち位置になるんだが、今回は娘のアテナの結婚になるから、ガイア様と同じくソウヤさんと結婚したクロートさんがその役を担う事になった。

 ガイア様もクロートさんもプリスター登録はしていないが、ドラゴニアンの結婚儀式はクリスタル・パレスで行う事も珍しくなく、またいつ行われるかも分からないから、例外的に神々から認められているんだそうだ。

 ハイドラゴニアン以上っていう条件はあるが、イエロードラゴニアンって事はハイドラゴニアンって事だから、何の問題も無い。


 ちなみにアテナは、アテナ・クリスタル・ミカミ・フレイドランシアと名乗る事になった。

 ドラゴニアンの名前は、自分の名前の他に竜化した際の竜名も入るそうだ。


 儀式の後、すぐにお披露目パーティーも行ったんだが、今回はドラゴニアンへのお披露目っていう意味が強いから、会場はクリスタル・パレスで、参加者も俺や嫁さんに婚約者、ウイング・クレストのメンバー以外は、ウィルネス山在住のドラゴニアンのみになる。

 男は俺にエド、ラウス、ルーカスの4人だけだったから、少し肩身が狭かったな。


 金属材の研究やMARSの開発は、ボチボチと進めている。

 だけどメモリア総合学校の校舎が完成し、春に開校も決まってしまったから、MARSは急いで仕上げないといけなくなってしまった。

 戦闘訓練に使えなくても魔物を身近で見る事は出来るから、最悪それでも構わないと言われているんだが、それは負けだと思ってるから、俺の中ではMARSの完成が最優先だ。

 だけど俺はフレイドランシア天爵であり、アマティスタ侯爵の夫でもあるから、視察もしなければならない。

 なのでリカさんから校舎完成の報告を受けてから2日後、俺はプリムとアリアを伴って、リカさんの案内でメモリアに視察にやってきた。


「へえ、けっこう立派な建物ね」

「ヘリオスオーブ初の総合学校って事もあるし、各ギルドも力を入れてるからね」


 総合学校は、地球の学校に似た建物と貴族屋敷が融合したような外観の5階建て主校舎、3階建てのギルド別校舎が7つ、講堂、ダンスホール、校庭、訓練場が4面、MARSを設置する予定の施設、さらに大きな食堂に寮と、かなり大掛かりな施設となっていた。


「校舎が沢山ありますね」

「正面が主校舎で、座学を受けることになっているわ。あと大和君の世界にあった、クラス分けっていう制度も検討しているの」

「つまり主校舎が、総合学校の中心部という事ですか」

「そうなるわね」


 アリアの質問に、リカさんが答える。


 主校舎は、1階に職員室や校長室、宿直室、事務室に応接室なんかがあり、教室は2階から5階になる。

 この辺りは地球の学校と大差無いな。

 2階から5階は、基本的に同じ構造になっていて、教室は10部屋ずつ用意されていた。

 1部屋30人は受講出来そうな広さがあるが、定員は各学年約200人前後を予定しているから、余る教室も出てくるだろう。

 日本でもあったし、その教室の使い道はその都度考えればいいと思う。


 ギルド別校舎は、それぞれトレーダー、クラフター、バトラー、ヒーラー、プリスター、スカラー、そしてハンターとリッターの合同校舎だが、外観はかなり差がある。

 トレーダー校舎は大きな商会に店舗がいくつか入ってるような見た目で、クラフター校舎は各種工房の寄り合い、バトラー校舎は貴族屋敷だし、ヒーラー校舎は病院、プリスター校舎は教会にしか見えない。

 スカラー校舎はMARS設置予定施設と隣接しているし、ハンター・リッター合同校舎は訓練場のど真ん中にある。

 いずれも500人ずつぐらいは入れそうな大きさだから、授業に不自由はしなさそうだ。


 講堂は、最大で2,000人程を収容出来る程の大きさだから、全校集会なんかも問題無く出来そうな感じだし、隣接しているダンスホールなんかは卒業式とかの行事にも使えるよう、こちらも500人は収容可能な広さなんだそうだ。

 トレーダーの中には芸人とか演奏者とかの芸術関係者も含まれているから、発表会に使うのもアリだな。


 校庭は主校舎への通用門も兼ねており、小さな池や水路なんかも張り巡らされている。

 規模は小さいが桜樹や薔薇などの庭園もいくつか用意されていて、ここは園芸師を目指すクラフターやバトラーの授業にも活用される予定だ。


 4面ある訓練場は、土のグラウンド、岩などの障害物が無造作に配置されたグラウンド、小さな池を有する湿地帯を模したグラウンド、射撃場のような的が配置されているグラウンドとなっている。

 ここを使うのはハンターやリッターがメインだが、共通カリキュラムの戦闘授業でも使う予定だ。

 戦えるトレーダーやクラフターだって少なくないし、移動中に魔物や盗賊に襲われる可能性はあるんだから、戦闘技術はあって困るもんじゃないからな。


 MARS設置予定施設は、巨大なコロシアムみたいな見た目をしているのが気になるが、巨大な魔物も珍しくないし、MARSが完成すれば戦闘訓練にも使えるようになる予定だし、普段はスカラーカリキュラムの受講者が研究に使うから、これでもまだ小さいような気がしないでもない。


 食堂はフードコートみたいになってて、いくつかの店がテナントとして入るような形になっている。

 これは調理師やバトラーを目指す学生の実習の場にもなってるから、街中で食べるより金額は安めに設定するそうだ。

 学生がっていうのはちょっと怖い気もするが、ちゃんと指導員もつくみたいだから、よっぽどの事がなければ大丈夫か。


 そして最後に寮を見せてもらった。

 男女別だが、ヘリオスオーブは女性比率が高い事もあって、女子寮の方が建物の数が多い。

 基本的な構造は、どちらも同じ5階建てになっていて、1つの建物に200部屋用意されている。

 男子寮は2棟、女子寮は3棟あるから、就学する学生は全員が寮住まいでも大丈夫だ。

 その代わり部屋は、ベッドと机がある程度で、広さも10平米しかない。

 トイレは各部屋に備え付けだが、風呂は男子寮や女子寮の中央に共同風呂が用意されているから、それを使ってもらう。

 メモリアに住まいを用意するのは構わないが、その場合は全て実費になるし、ギルドは王族だろうと貴族だろうと分け隔てなく扱うから、学生の内から慣れておけっていう意味もあるんだそうだ。


 普通なら、これだけの規模の施設を建造するには、地球なら何年もかかる大仕事なんだが、ヘリオスオーブには魔法があるから、作業速度は段違いに速い。

 だから僅か3ヶ月強で、無事に完成させる事ができたという訳だ。


 一通り見て回った後は、校庭の一部となっている小さな桜樹園でお茶をしながら、校舎や施設についての話し合う。


「日本の学校と似てるとこもあるけど、学校なんだしこれは当然か」

「大和君や真子の話を聞いて、大いに参考にさせてもらったもの。似てるのは当然よ」


 そういや聞かれた覚えがあるな。

 確かその時期って、披露宴の準備やリディアとルディア、真子さんとの結婚が重なってたから、そっちの方に意識がいってたし、その後はその後でネージュさんの事に迷宮氾濫まであったから、すっかり忘れてた。


「まあ、結構忙しかったしね」


 プリムが苦笑しながらフォローしてくれるが、あんまり嬉しくはない。


「まあまあ。おかげで早く完成出来たんだから、私としてはありがたいわよ」


 リカさんにもフォローされると、申し訳なくなってくる。

 ここは話を変える、というより進めてしまおう。


「寮が個室になってるとは思わなかったけど、共同部屋とか作らなくても良かったのか?」

「その案もあったんだけど、部屋割りが大変でしょう?最初は良くても、実は相性が悪かったなんて事もあり得るだろうし、貴族と同室になったりしたら相手の子は委縮しちゃうわよ?」


 ああ、そっちの問題もあって、共同部屋は見送ったのか。

 確かに性格の相性が悪かったりしたら、喧嘩になるのはもちろん、相手がハンターやリッター志望だったりしたら、怪我を負わされる可能性も否定できない。

 貴族と同室になった場合も、召使い扱いされる子が出るかもしれないし、自室でも気が休まらないなんて事になったら、勉強にも身が入らないだろう。

 それなら個室にしておいた方が、後々の問題は少なくなりそうだな。


「他にも問題は出てくるだろうけど、それはその都度対応する事にしているわ。さすがにどんな問題が出てくるか分からないから。それより問題なのは、ようやく校舎が完成したばかりだっていうのに、入学希望者が殺到している事ね」

「え?もう入学希望者が殺到してるいるのですか?」

「そうなのよ。アミスター国内だけでも、未成年の貴族子弟は全員が。高ランクレジスターの子弟も同じく。国外からも同じく、ね。人数で言えば、既に500人は超えてるわ」


 既にそんな数の募集が来てるのかよ。

 しかもその中には、トラレンシアの女王候補も2人いるんだとか。

 ヒルデの従妹に当たるんだが、トラレンシアの王位継承権は成人してから与えられることになってるそうだから、12歳と10歳のその子達はまだ候補止まりなんだそうだ。


 総合学校でも礼儀作法なんかは学ぶが、政治や統治に関する授業は行われる予定はない。

 ギルド活動に関する知識や実技を学ぶためだから、ある意味じゃ当然なんだが、王侯貴族は未成年の間から領地経営について学ぶそうだ。

 しかも学校に通ってる間は、基本的に寮住まいになる予定だから、そっちの勉強時間が取れなくなってしまう。


「う~ん、貴族学科?みたいなのも作った方がいいのか?」

「その方がいいと思うわ。完全には無理でも、ある程度道筋をつける事が出来れば、領民を疎かにする無能な領主を減らす事も出来るだろうから」


 その話を聞くと、ますます必要な気がしてくるな。


 カリキュラムは、最初の1年は基本的な座学や読み書き計算の授業が中心で、簡単な戦闘術の実習も行われる。

 2年目から、どのギルドの授業を受けるかを選択し、それに沿ったカリキュラムを組み上げることになるんだが、複数のギルドに登録する人は珍しくないから、ギルドの授業は2つまで受講可能となる予定だそうだ。

 ギルド登録は、年齢制限を設けているギルドも多いから、入学対象者は4月から翌年の3月までに11歳を迎える子が基本対象となっているんだが、数年は特に入学者の年齢を制限しない方向で話を進めているとも聞いた。


 これに貴族学科まで加えるとなると、カリキュラムを一から見直さないといけなくなるが、必要な気がするな。


「カリキュラムについてはスカラーズギルドで決めてもらうしかないけど、貴族学科を加えるんなら、ギルド学科に追加するか、別にいくつか作るかしかないんじゃない?」

「別にいくつかと言われても、簡単には思い浮かばないぞ?」


 そもそも総合学校は、登録するためのギルドについて学ぶための学校だからな。

 貴族についての問題は、俺の頭には一切無かったんだよ。


「それも含めて、本人が選べばいいのではありませんか?貴族子弟と言えど、必ず跡を継ぐわけではありませんから」

「多分アリアの言う通りになるでしょうね。貴族学科もギルド学科の1つとして組み込んで、その中から3つを受講って事で、最終的にはまとまるんじゃないかと思うわ」


 他の学科も思い浮かばないし、確かにそれが手っ取り早いか。


 2年目から受講する学科は、商業学科、工芸学科、侍従学科、治癒学科、博物学科、宗教学科、騎士・狩人学科の7つだが、そこに貴族学科を加えての8学科として、その中から3学科を専攻して、卒業まで学ぶ。

 3学科も選ぶのは大変だと思うから2学科でもいいような気もするが、覚えておいて損はないと思う。

 あと、ハンターとリッターじゃ学ぶ内容が異なるから、いずれは分かれる気もするが、素行の悪いハンターを減らすっていう意味もあるから、しばらくはこのままで行くことになるだろうな。


「バトラーズギルドとかオーダーズギルドには似たのがあるから、そこまで大変じゃないと思ってたんだけど、そんなワケないみたいね」

「そうなのよ。全部スカラーズギルドに丸投げっていうワケにもいかないから、陛下はもちろん私も参加して、連日会議の嵐だったわ」


 遠い目をするリカさんが少し怖い。

 確かに天樹城で行われた、総合学校に関する会議にも、何度か参加してるって言ってたもんな。

 移動に関しては、俺達やラウス達がトラベリングを使えるし、陛下やサユリ様の、天樹城内にある王連街屋敷に転移なんていう荒業も使えるから、陛下も遠慮なく呼び付けてたって聞いてる。


 これはルーカスやライラにも言える事だが、王連街を経由するのはいろんな意味で厳しいらしいから、早くフロートにフレイドランシア天爵家かラピスラズライト天爵家の別邸を建ててくれとも言われてるんだよな。


「お、お疲れ様です」

「まあ、そのおかげで4月からの開校には間に合うんだから、良しとしておくわ」


 開校すれば、メモリアの経済にもメリットがあるもんな。

 学割なんていう制度は用意してないが、在学中のギルド登録は推奨されてるから、休日にメモリアに繰り出す学生も出てくるだろう。

 まあ、最初に登録するのは10歳の子が中心になる予定だから、休みだからといって繰り出せるかという問題はあるんだが。

 その辺りは、あんまり過保護になっても仕方ないって事で、話はまとまってるみたいだ。


 それはともかく、メモリアの事や総合学校の事はあんまり関与出来なかったから、しばらくはリカさんの手伝いに勤しんだ方がいいかもしれないな。

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