密林の襲撃
ユーリ達の乗る船を見送ってから、俺とマナはトラベリングを使ってラオフェン迷宮に戻った。
もっともラオフェン迷宮も特に変化はなかったし、ワイズ・レインボーとスノー・ブロッサム、セイクリッド・バードも来てくれてたから、万が一また氾濫が起きても大丈夫だろう。
グランド・オーダーズマスター レックスさんもそう判断したようで、俺達はヴァルトに専念することになった。
ホーリー・グレイブとファルコンズ・ビークはヴァルトに回されたみたいだから、しばらくは協力してガグン大森林の調査だな。
ランサーズギルドからもハイランサーが10名同行するから、戦力が十分とは言えないが、最低限の調査は出来るだろう。
問題なのは、ガグン大森林の中は獣車が使えないことだ。
夜はアルカにってのも考えたが、魔物がどう動くかが全く分からないから、多機能獣車を置けるスペースを確保した上で夜営となる。
そして移動は、従魔に乗るのも手なんだが、大きく成長したジェイドやフロライト、元々大きなフロウは歩くのも難しいぐらい木々が密集してるそうだから、これは状況次第だな。
さらに下手に分散すると、万が一の際に対処できないから、まとまって行動することになった。
凡その行程を決めてから、ガグン迷宮に入った事があるエルさんのトラベリングでガグン迷宮の入口まで転移して、俺達アライアンスはガグン大森林の調査を開始した。
今回はハイランサーも参加しているため、アライアンス・リーダーはミステルのランサーズマスターで、女性ウルフィーのミナリスさんが務めている。
「聞いてはいたけど、本当に面倒なことになってるわね」
エルさんが呆れたような声を上げるが、俺もそう思う。
「だね。まさか1時間も歩かないうちに、ブラックジュエル・ブルが群れで現れるとは思わなかったよ」
カトブレパスの下位種になるブラックジュエル・ブルだが、それでもモンスターズランクはP-Rと高い。
エンシェントクラスどころかハイクラスでも討伐に時間は掛からないが、それでも20匹以上の群れで、しかも森の中ってことになると、倒すのも一手間どころの話じゃない。
「こいつらがガグン大森林に来てるってことは、カトブレパスも間違いなくいるな」
「そうね。どこにいるか分かればすぐに狩るんだけど、ガグン大森林は深いから空からでも探しにくいし、ハヌマーンを刺激する可能性も高いから、地道に探すしかないわ」
クリフさんとマナの言う通り、ガグン大森林は森が深いし、ガグン大森林の上空を飛ぶと縄張りを侵害されたと勘違いしたハヌマーンが襲い掛かってくるっていう話もあるから、空からの探索は考えられていない。
だがガグン大森林はアルカより広いのは間違いないから、全て見て回るだけでも何日もかかるし、魔物も動いているから、見つけられるかどうかも分からない。
「ともかく、先に進もう」
ミナリスさんの号令に従い、俺達は一丸となって宝樹を目指す。
だがガグン大森林は、既に生態系に影響が出始めているようで、時折魔物の死体が目に付く。
多かったのはガグン大森林に生息しているS-Uランクのグランド・コングやG-Rランクのシェイカー・コング、アマゾネスもあったが、生息していないバトル・ホースやデュエル・ホース、ジュエル・ブルの死体もあった。
「話には聞いてたけど、本当にマズいね」
「ああ。コング系にとってガグン大森林は庭だってのに、死体の数が多過ぎる」
「クエイク・コングの死体までありましたからね」
コング種の死体が多かったのはもちろん驚いたが、一番驚いたのはP-Iランクモンスター クエイク・コングの死体もいくつか見つかった事だ。
P-Iランクは異常種になり、Mランク相当の魔物とされている。
なのにそのクエイク・コングが何匹も死体になっているとは思わなかったし、その事実はクエイク・コングを倒すことが出来る魔物がガグン大森林を徘徊している証拠ってことにもなる。
俺達も異常種を含む魔物を倒しながら進んでいるが、それでも既に倒されていた異常種の存在は驚愕でしかない。
「今日はここで夜営をするとして……!?」
多機能獣車3台を何とか並べられそうな広場を見つけ、今日はそこで夜営をしようとした矢先、俺達は魔物の襲撃を受けた。
「チッ!ステラ・ガルムかよ!」
「なんでガルムが群れてるのさ!」
「いや、まだ奥から来ます!」
現れたのはP-Rランクのステラ・ガルムだが、10匹近い数の群れになっていたし、さらに奥から別の魔物も近付いてきている。
ガルム種はガグン大森林に生息していて、ステラ・ガルムはけっこう上の方の魔物だったはずだが、こんなガグン迷宮に近い場所に出るって話は聞かない。
まさかとは思うが、ガグン大森林から追い立てられてるんじゃないだろうな?
「グゴアアアアアアアアアッ!!」
「なっ!メガ・クエイクだと!?」
「しかも3匹もか!」
ステラ・ガルムに続いて現れたのは、P-Iランクのクエイク・コング、そしてM-Cランクのメガ・クエイクだった。
どちらもハヌマーンの下位種になるが、終焉種は異常種を産むと言われているから、数がいるのはまだ理解できる。
だがこいつらまでこんなとこに来てるなんて、さすがに思ってもいなかった。
というか、メガ・クエイクは速攻で倒さないとマズい。
「みんな、スカファルディングを使え!急げ!」
「な、なんで?」
「カール!大和君の言う通りにしなさい!」
エルさんの息子でハーピーハーフ・ハイドラゴニュートのカールは、最近ハイクラスに進化したばかりってこともあって、咄嗟の判断が出来ていなかった。
敬語も無視して俺がそう言ったのには、もちろん大きな理由があるんだが、迷ってる時間も惜しい。
俺はカールを念動魔法で持ち上げ、スカファルディングを使って地面から離れた。
「お、おい、大和!何すんだよ!」
「ありがとう、大和君!」
カールは俺が念動魔法を使った意味を理解出来てなかったが、エルさんはしっかりと理解してくれている。
他のみんなも、俺の言葉と同時にスカファルディングを使ってるから、怪我人も皆無だ。
「カール、下を見な」
「ファリスさん?え?下?なっ!?」
ファリスさんに言われるがままに下を見たカールは、考えてもいなかった光景に絶句した。
メガ・クエイクは
ヘリオスオーブは平面世界っていうこともあってか、地震とは無縁の世界となっている。
火山性地震はあるから、トラレンシアではたびたび起こっているんだが、それ以外だと
だがメガ・クエイクは、その地震を
町1つぐらいなら壊滅させられる規模の地震を起こすのに、自分は一切影響を受けないから、まともに正面からやり合ったら、エンシェントクラスでもなす術なくやられるだろうな。
「ステラ・ガルムは全滅か。あの攻撃を受けたら無理もねえが、大和の指示が無かったら、俺達も何人か巻き込まれてただろうな」
「クラテル迷宮に生息してたんで、早速その経験が活きた感じですね」
トラレンシアに最近生まれたクラテル迷宮第8階層に、普通に生息してやがったからな。
しかも3匹と言わず、5匹ぐらい群れてやがったし。
「その話、後で詳しく聞かせてもらいたいね」
「この場を切り抜けられたら、いくらでも」
スカファルディングを使って宙に立つことが出来ているから、こんな会話が出来ている。
奏上してくれた真子さんに、心から感謝だな。
そうじゃなかったら、マジで何人かは命を落としてただろうし、俺達だってヤバかった。
「カール、あなた、いつまで呆けているつもり?」
「え?あ、ご、ごめん、母さん!」
「謝る相手が違うでしょう?」
「ご、ごめん。大和、悪い、助かった」
エルさんに促される形で俺に謝罪の言葉を口にしたカールだが、初めてこんな光景を見たら誰だってそうなるだろ。
実際、呆気に取られてるランサーも多いからな。
「気にするな」
「それよりも今は、あいつらをどうにかしないとね」
カールに軽く手を振って返すが、今はプリムの言う通りだ。
「幸いというか、ステラ・ガルムはあの地震で全滅したから、あとはクエイク・コングとメガ・クエイクだけだね」
「こうしてればあの地震は食らわなくて済けど、だからといって対空攻撃が出来ないワケじゃないから、ねっ!」
「なろっ!」
ファリスさんとエルさんの言う通り、メガ・クエイクは地震攻撃に目が行きがちだが、対空攻撃が出来ない訳じゃない。
事実、地震で隆起した扶桑の根や剥がれた木片が次々と俺達に襲い掛かってきてるし、
「ガグン大森林だからこの程度で済んでるけど、平地だと厄介どころの話じゃないね!」
「まったくだ!そらよっ!」
ハイクラスのみんなはメガ・クエイク達の対空攻撃を防ぐのに手いっぱいだが、エンシェントクラスのみんなは会話する余裕があるな。
とはいえ、このままじゃジリ貧とまでは言わないが、倒すのに時間が掛かる。
ガグン大森林は海の下から生えている扶桑の森でもあるから、地面は存在せず、下は全て木の根だから、狩り終わったとしてもここの根はボロボロになってるだろうな。
「後の事は、終わってから考えよう!さっさと倒すよ!」
「そうしましょうか!」
「今回は貰うぜ!」
言うが早いか、ファリスさんとエルさん、クリフさんは魔力を全開にして、メガ・クエイクに向かっていった。
「やる気みたいだし、私達はクエイク・コングの相手をしましょうか」
「そうするか。あ、バークスさん達もやりますか?」
「なんかそんな雰囲気じゃなくなってきた気がするが、そうさせてもらうわ」
まあ、ファリスさん、クリフさん、エルさんの3人が、それぞれ単独でメガ・クエイクの相手をしてるどころか優勢な雰囲気だからな。
だからといってクエイク・コングを放置していい訳がないから、俺達はそっちの相手をしよう。
バークスさん達もやる気ではあるから、今回は援護に徹しようかね。
「カールはどうする?」
「俺も戦いたいが、足手纏いだよな?」
「援護はするぞ。というか、戦いたいんなら早く行かないと、獲物がいなくなるぞ?」
「え?ああっ!」
カールにどうするか聞いてる間に、メガ・クエイクは3匹とも討伐されていたし、クエイク・コングも8匹が死んでるな。
クエイク・コング3匹はバークスさん、サリナさん、クラリスさんが、プリム達が援護する間もなく倒しているし、ホーリー・グレイブとファルコンズ・ビークは2匹ずつ、それぞれ息の合った連携で仕留めている。
残り2匹はミーナとルディアが一撃で仕留めてるみたいだから、残ってるのは2匹か。
いや、1匹はホーリー・グレイブのライアスさんが、どデカいハンマーで殴り倒したところだな。
「お、俺も急がないと!」
残ったクエイク・コングに向かって、カールが慌てて突っ込んでいく。
なんとか槍の一撃を加えることには成功したが、ファルコンズ・ビークの女性ハイフォクシー ホリーさんが、ルディアと同じような刃を生やした足甲での蹴りをかまして、首を斬り落としている。
先日ハーピーハーフ・ハイドラゴニュートに進化したばかりだからなのか、カールはちょっと状況判断が弱いな。
「カール、もうちょっと早く状況を判断しないと、手痛い怪我じゃ済まないよ?」
「はい……」
案の定、ホリーさんに注意を受けてる。
実際問題、今のガグン大森林は今までより遥かに難易度が高い危険地帯になってるから、素早い状況判断が出来ないようじゃ怪我で済んだらラッキーってところだ。
奥に進めば進むほど、ヤバい状況も増えていくからな。
カールは俺より2つ年上だから、俺が口にするのは躊躇われるんだが、命が掛かってるんだから、もうちょっとしっかりと言うようにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます