狩人姫と翠玉竜の戦い
Side・マナ
私は今、エオス、召喚獣のルナ、スピカ、シリウスと共に、多数の魔物と戦っている。
私がエンシェントエルフに進化した恩恵もあるのか、ルナもカーバンクルからスタールビーという稀少種に進化したわ。
体の大きさは変わらないけど尻尾が三叉になってるし、額の宝石もより紅くなったから、進化した事はすぐに分かった。
10年以上も一緒にいるから、ルナが進化した時は凄く嬉しかったわ。
スピカはスリュム・ロード討伐戦でウォー・ホースに進化しているから、私の召喚獣で進化していないのは、アイス・ロックのシリウスだけになる。
だけどエンシェントクラスに進化した召喚魔法士は、その魔力を召喚獣にも与えている事になるから、召喚獣の進化も早くなると言われている。
しかも召喚魔法士は、召喚獣の魔力も自らの物として使う事が出来るから、召喚獣の進化はそのまま自身の強化に繋がるわ。
さらに私は、エメラルド・ドラゴニアンのエオスと竜響契約を結んでいるから、攻撃力は召喚魔法士随一と言っても過言じゃない。
真子も召喚魔法士ではあるけど、彼女は魔導士としての戦い方を好んでるし、刻印術師でもあるからちょっと違うのよね。
「マナ様、あの群れの中にシャドー・ハイドとラーヴァ・クロコダイルを確認しました」
私達が相手をしている魔物は、ヴァイパー種やリザード種が多い。
今もエオスが、二丁の手斧ラピスライト・バルディッシュを振るい、マグマ・クロコダイルを倒している。
そのエオスが、群れの中に異常種がいるのを確認した。
「シャドー・ハイドとラーヴァ・クロコダイルか。ラーヴァ・クロコダイルはともかく、シャドー・ハイドは厄介ね」
ラーヴァ・クロコダイルは、フロートの北東にあるアコルダール迷宮の
今のエンシェントクラスなら、単独でも十分倒せるでしょう。
溶岩を操るP-Iランクのクロコダイル種だけど、討伐数が多いからこそ対策も周知されているわ。
逆にシャドー・ハイドはM-Iランクのヴァイパー種で、強力な毒を持っているし、音を一切立てずに移動する魔物だから、姿を見失うと見つけるのも一苦労も二苦労もするわ。
しかも毒はノーマルクラスなら即死確実で、ハイクラスでもすぐに動けなくなる程だから、エンシェントクラスであってもすぐに治療しないと、命に関わるわね。
「エオス、一気に行こうと思うけど、大丈夫?」
「問題ありません。では申し訳ありませんが、少し時間を稼いでいただけますか?」
「分かってるわ」
ドラゴニアンが竜化するためには、魔力を集中させる必要がある。
そのため乱戦では、すぐに竜化する事が出来ない。
だけど乱戦状態なら、竜化すれば戦況を覆す事も十分可能だから、ドラゴニアンが竜化する際は、竜化する時間を稼ぐ事になる。
ノーマルドラゴニアンの竜化は命懸けになるけど、ハイドラゴニアンやエンシェントドラゴニアンならそこまでのリスクはないから、エオスやアテナにはよく竜化してもらっているわ。
そのエオスに竜化してもらうために、私はスピカの背でラピスウィップ・ソードを構え直した。
「はあああっ!」
数が多いから討ち漏らしも多いけど、それでも私達の目の前にいた魔物は倒せているから、これならエオスが竜化する時間も十分稼げるわ。
それでも油断は禁物だし、ヴァイパー種の毒は通常種でも厄介だから、次にスターリング・ピアスターを作り、前に突き出す。
「お待たせ致しました」
スターリング・ピアスターを突き出した直後に、エオスが竜化し、エメラルドドラゴニアンの姿になった。
エンシェントドラゴニアンに進化した事で、竜化した姿も30メートル近くにまで大きくなっているけど、魔力はさらに増しているから、見ているだけでも心強いわ。
「ええ。それじゃあエオス、一気に行くわよ!」
「かしこまりました」
スピカに跨ったままエオスの背に乗り、スピカから降りる。
そのタイミングでエオスが竜精魔法エーテル・ブレス、
エンシェントドラゴニアンに進化した事で、エオスは
バーストストーム・ブレスは以前から使っていた
その証拠にGランクのマグマ・クロコダイルとシャドー・ヴァイパーは、あっさりと消し炭になったわ。
「エオス、そのままよ!」
そのバーストストーム・ブレスに向けて、私はスターリング・ピアスターの先端を突き刺す。
その瞬間、バーストストーム・ブレスは小さくなったけど範囲は広くなり、ランス程のサイズの光弾が無数に飛び交いだした。
ドラゴニアンとの竜響契約は、召喚契約とよく似ている。
エオスと竜響契約を結ぶ際に、召喚魔法士との竜響契約はドラゴニアンにとって憧れとまで言われたわ。
その理由は、お互いの魔力が強化されるだけじゃなく、互いの魔力を合わせる事で、高威力、広範囲の魔法を繰り出す事が出来るから。
竜化はエンシェントクラスに進化しようとドラゴニアンにとっての切り札に違いないし、竜化した際に受けたダメージは人化した際にも持ち越され、最悪の場合はその傷が元で命を落とす事もあるから、ドラゴニアンにとって強力な攻撃を可能とする召喚魔法士との竜響契約は、自身の生存確率を上げるためにも大きな意味を持つ。
だからこそ私は、竜化したエオスに負担をかけないように、大和やプリム達にも協力してもらって、ようやく完成にこぎつける事が出来た。
それが竜響契約を結んだ者だけが使える
威力の底上げは勿論、バーストストーム・ブレスを雨のように広範囲に吐き出すスターバースト・ブレスは、次々と魔物達に突き刺さり、その命を断っていく。
今回はランス程度の大きさにしたけど、やろうと思えばもっと大きく太くも出来るから、巨大な魔物が相手でも大きなダメージを見込めるわ。
私達はエンシェントクラス同士だから威力も規模も大きいけど、ノーマルクラス同士でもハイクラス以上の威力と規模になるそうよ。
ラーヴァ・クロコダイルやシャドー・ハイド、クリムゾン・ヴァイパーも、みるみるうちに体に光の棘を生やしていっている。
無音で移動するシャドー・ハイドも、周囲事攻撃されてしまえば、移動も何もない。
「エオス、もういいわ」
「かしこまりました」
私の合図で、エオスがブレスを止める。
同時に突き刺さっている光の槍も消えていき、命の灯が消えている事も確認できた。
「実戦で使ったのは初めてですが、使いどころが難しいですね」
エオスの意見に、私も同意だわ。
「ええ。素材としてはほとんど使い物にならないわ。全く使えないワケじゃないけど、これは買い叩かれるわね」
ラーヴァ・クロコダイルやシャドー・ハイド、クリムゾン・ヴァイパーは穴だらけだし、マグマ・クロコダイルとシャドー・ヴァイパーに至っては全身焼け焦げてるから、少なくとも皮素材は使い物にならないわ。
「多少なりとも使える部位はありますから、今回はそれでよしとしましょうか」
「そうですね。それに今回は迷宮氾濫の鎮圧が目的ですから、素材がどうこうと言える余裕はなかったでしょうし」
それもあるわね。
町が滅ぶかの瀬戸際だったんだから、素材の良し悪しを気にしてたら防衛なんて出来ないわ。
「エオス、続けていくわよ!」
「かしこまりました」
だけどそんな事を考える間もなく、またしても魔物の群れが襲い掛かって来た。
今度はライトニング・モスとG-Uランクのクラック・パンサーか。
本来ならパンサー種は群れないから、他の魔物と同時に攻めてくることはあり得ない。
だけど迷宮氾濫の時だけは、そのあり得ない事が起こってしまう。
天敵同士のはずの亜人でさえ、徒党を組んで襲ってくるぐらいよ。
「参ります」
「ええっ!」
私達はライトニング・モスとクラック・パンサーの群れに、スターバースト・ブレスを放った。
ライトニング・モスは飛んでいるけど、スターバースト・ブレスの範囲は私とエオスの視界全てだから、どれほど高速で移動しようと、無数の光の槍から逃れる術はない。
と思ってたんだけど、1匹のクラック・パンサーが飛び上がって回避した。
翼が生えてるじゃない。
「1匹だけ、Wランクが混じっていたようですね」
「ええ。しかもあいつ、クリフ・パンサーだわ。異常種のWランクって、また面倒なのが……」
Wランクは魔物の翼族のような存在だから、翼は余剰魔力で物質化された物になる。
その翼で身体能力や魔力を強化しているから、同じランクの同種族と比べても1つ上のランクに相当するわ。
しかも自在に空を飛べるから、実際にはさらに1つ上に感じるかもしれない。
異常種は1つ上、Wランクはさらに1つ上相当だから、M-Iランクのクリフ・パンサーの場合だと、Oランク相当になってしまうわ。
「面倒だけど、やるしかないわね」
「私はこのまま、バーストストーム・ブレスで牽制します」
「ええ、お願いね。シリウス!」
「ギャア!」
ライトニング・モスとクラック・パンサーは、既にスターバースト・ブレスで息絶えている。
だけど後続の魔物の群れも見えてるから、クリフ・パンサーは手早く倒さないといけないわね。
私はシリウスを呼び、その背に乗ると、ラピスウィップ・ソードを構え直した。
「エオス、ルナとスピカをお願いね!」
「お任せください」
まだ背に乗っているルナとスピカをエオスに任せると、私はシリウスに上昇するよう命じた。
って、あれ?
シリウスの魔力が増えてる……って、進化してるじゃないの!
「シリウス、いつの間に進化したの?」
「ギャア!」
ついさっき?
スターバースト・ブレスを使った直後って事?
全然気付かなかったわ。
だけど進化してくれたのなら、私にとってもありがたいし心強い。
アイス・ロックが進化すると、G-Rランクのフロスト・バードになる。
それだけでも十分な戦力なんだけど、召喚獣は召喚魔法士の魔力の影響も受けるから、エンシェントエルフの私の召喚獣達は、1つ上のランク相当になっているの。
つまりフロスト・バードに進化したシリウスの魔力は、P-Rランク相当という事になる。
P-Rランクの従魔、召喚獣は、大和のジェイド、プリムのフロライト、真子の白雪、そしてセルティナ様のクラールしかおらず、その上は過去も含めて存在していない。
シリウスの実ランクはG-Rだけど、実質的には1つ上だから、私が使える魔力も上がったし、シリウスが使える魔力も同様。
つまりさっきまでと同じ魔法を使っても、威力や強度は数段上がるという事になる。
そんな私を援護するかのように、クリフ・パンサーに向けてエオスのバーストストーム・ブレスが襲い掛かった。
「やるわよ、シリウス!」
「ギャアアアッ!」
軽く背中を撫でてから、私はラピスウィップ・ソードに私の
刀身は巨大な氷で覆われ、その刃から放たれた無数の氷の粒が風に乗ってクラック・パンサーの体を捕らえ、渦を巻きながら収束し、巨大な竜巻となる。
その風と氷の竜巻に向けて、私はラピスウィップ・ソードを振り下ろす。
身動きが出来ないクラック・パンサーは、その一撃を避ける術を持たず、そのまま両断されて地面に落ちた。
「ありがとう、シリウス。でも、ゆっくりしてる暇は無いわ。私はまたスピカに乗るけど、上からの援護をお願いね」
シリウスに声を掛け、エオスの所に戻ってもらう。
少し悲しそうな声で鳴かれたけど、シリウスもスピカの背中に乗って戦うのが一番効率が良いと分かっているから、素直に従ってくれる。
だけど無事に進化出来たんだから、全て終わったらたっぷりと労わってあげないとね。
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