双子竜人の戦い

Side・リディア


 私とルディアの前には、スライムの群れがいます。

 数は30程ですが、はっきり言って厄介です。


「また面倒なのがいっぱいじゃない!もう!」


 ルディアが憤っていますが、私も気持ちは分かります。


 スライムはTランクモンスターで、子供でも素手で倒す事が可能な魔物です。

 ですがスライムは、ヘリオスオーブ随一と言われる程の種類があり、通常種こそTランクですが、上位種はI~Sランク、稀少種はS~Pランクまで幅広く、異常種のヒュージ・スライムはM-Iランク、災害種のキング・スライムはA-Cランクだったりします。

 キング・スライムは迷宮ダンジョンで目撃例があるだけですし、終焉種は不明ですが、稀少種以上のスライムは物理攻撃が効きにくいため、状況によっては逃げるしかない事も珍しくありません。


 そのスライムの稀少種以上が、私とルディアの目の前に大量にいるワケですから、厄介な上に面倒なんです。


「ビッグ・ポイズンスライムにビッグ・メタルスライム、ビッグ・ウインドスライムも面倒くさいけど、なんでキング・スライムがいるのさ!」

「それは私も聞きたいけど、いるんだから仕方ないじゃない」

「そうだけどさ……!」


 スライムの場合、上位種は○○スライム、稀少種はビッグ・○○スライムと呼称されています。

 メタルスライム系は硬いとはいえ、比較的物理攻撃が通りやすいので対処しやすいですが、ポイズンスライム系は迂闊に攻撃すると毒をもらってしまいますし、ウインドスライムのような属性スライムは対応する属性魔法グループマジックを使ってくるので厄介です。

 さらにビッグ・スライムは5メートル程もある巨体でこちらを取り込もうとしてきますし、力も強いですから、体内に取り込まれてしまったらそのまま消化されてしまいます。


 ですがそれらより面倒で厄介なのは、A-Cランクのキング・スライムの存在です。

 スライムの異常種や災害種は1種しか確認されていませんが、そこまで進化すると全てのスライムの能力を獲得すると言われており、事実過去に出現したヒュージ・スライム討伐戦では、討伐隊が一度全滅しているそうです。

 大きさこそビッグ・スライムと変わりませんが、スライムとは思えない程多彩な攻撃をしてきますし、力も相当強いですから、触手で掴まれたりしたら、エンシェントクラスでも危険だと言われていますね。


「幸いアイススライムはいないから、可能な限り氷らせるわ」

「お願い。あたしじゃ相性が悪すぎるから」


 物理攻撃が効きにくいビッグ・スライムが多数ですし、その上のキング・スライムまでいますから、武闘士のルディアにとっては天敵と言えます。

 双剣士の私にとってもそうなんですが、実はアイススライム以外のスライムは、氷属性魔法アイスマジックに弱いという弱点があります。

 スライムの体は水っぽい何かで核を覆っているため、その水っぽい何かを氷らせてしまえば攻撃も出来なくなりますし、体も脆くなりますから、氷属性魔法アイスマジックの使い手がいれば、スライムは比較的狩りやすい魔物とも言えますね。

 核を壊さない限り死なないですが、氷らせてしまえばどうとでもできますから。


 ですが、アイススライムは氷の体を持っており、氷属性魔法アイスマジックに耐性も持っていますから、この戦法は通用しません。

 それ以外のスライムでも、稀少種までは大丈夫なのですが、異常種は獲得した能力の中に氷属性魔法アイスマジックも含まれますから、こちらも無理です。

 事実ヒュージ・スライム討伐戦では、氷属性魔法アイスマジックの使い手が多かったにも関わらず、氷らせる事は出来なかったと伝わっています。


 ヒュージ・スライムでさえ氷らなかったのですから、その上の災害種であるキング・スライムが氷り付く道理はありません。

 それでもビッグ・スライムを気にしなくてよくなりますから、私もルディアも動きやすくなります。


「ルディア、キング・スライムの足止めはお願い!」

「分かってる!」


 ルディアにキング・スライムを任せ、私は固有魔法スキルマジックグランダスト・ブリザードを放ちました。

 天嗣魔法グラントマジック結界魔法を組み込んでいますから、一度閉じ込めてしまえばPランクモンスターまでなら逃がさない自信があります。

 事実ビッグ・スライム達は、私のグランダスト・ブリザードから逃げようと動いていますが、徐々に動きが鈍くなってきています。


 私のグランダスト・ブリザードは改良を加え、水属性魔法アクアマジックで作り出した水刃で竜巻を作り、氷属性魔法アイスマジック土属性魔法アースマジックで作り出した礫をぶつける魔法です。

 エンシェントドラゴニュートに進化した際に授かった天嗣魔法グラントマジック融合魔法で融合させていますから、威力も精度も以前の比ではありません。

 一拍遅れて氷のエーテル・ブレスを吐くと、竜巻は徐々に氷っていき、そこに氷と土の礫、水刃が絶え間なく命中していますから、少々氷属性魔法アイスマジックに耐性がある程度では、防ぐ事も出来ません。

 ビッグ・スライム達は、次々とその体を氷り付かせ、体ごと核を撃ち抜かれて落ちていっています。

 こちらはこれで片付きました。

 残るはキング・スライムだけですね。


 そのキング・スライムは、陸空問わず動き回っているルディアに触手を伸ばしていますが、捕まえる事は出来ていません。

 あ、ルディアが触手に向かって、ファイア・アームズを使って攻撃しましたか。


「硬っ!何これっ!?」


 ですがルディアの拳は触手を砕く事は出来ず、逆にルディアが驚いています。

 って、危ない!

 一瞬動きを止めてしまったルディアにキング・スライムの触手が巻き付きかけたところで、私の氷属性アイスマジックのグランド・ソードが間に合いました。

 なんとか切断出来ましたが、ルディアが驚くのも無理もない硬さでしたよ。


「ありがとう、姉さん!」

「驚くのは分かるけど、動きを止めないで。それに異常種でさえ全てのスライムの能力を獲得してるって言われてるんだから、キング・スライムもそうであってもおかしくないわ」

「だったね」


 とはいえあの硬さは、並の硬さではありませんでした。

 考えられるとしたらメタルスライムと同じ鉱物系スライムですが、鉄や金、魔銀ミスリル金剛鉄アダマンタイトの体を持つスライムもいるそうですから、そのいずれか、おそらくは魔銀ミスリル金剛鉄アダマンタイトではないでしょうか?

 いえ、ルディアのドラグラップルも、私のドラグ・ソードとドラグ・ブレイカーも、それぐらいならあそこまで硬さを感じませんから、その上、神金オリハルコンという可能性もありますね。


「ルディア、キング・スライムの触手は、神金オリハルコン並と思っておいて」

「うわあ、面倒だなぁ……」


 気持ちは分かるけど、そこは口に出さないで欲しかったわ。


 とはいえ、戦力を過小評価なんてしてしまえば、こちらの身が危なくなりますから、過剰評価になろうと、最上級を想定しておくべきです。


「ルディア、私じゃキング・スライムに有効的な攻撃を繰り出すのは難しいから、トドメはお願い!」

「分かってる!」


 気を引き締め直し、私はドラグ・ソードに刀身を短くした氷属性アイスマジックのグランド・ソードを、ドラグ・ブレイカーには竜精魔法エーテル・チェインを組み込んだ固有魔法スキルマジックショック・ブラストを纏わせました。

 双剣士であっても左右の剣に違う魔法を纏わせるのは難しいのですが、私は何とか会得しました。

 アクセリングの思考加速が必須ですから乱戦には向きませんけど、相手がキング・スライムとはいえ、1匹だけなら大丈夫です。


「たあっ!」


 私はドラグ・ソードを振るい、キング・スライムの触手を片っ端から斬り落としていきますが、斬っても斬ってもキリがありません。

 そのうち避けるだけでは間に合わず、ドラグ・ブレイカーで触手を受け止める事になるのですが、それこそ私が待っていた瞬間です。


「!!??」


 ドラグ・ブレイカーと触手が接触した瞬間、触手が弾けました。

 理由はショック・ブラストが発動したからです。

 固有魔法スキルマジックショック・ブラストは、攻撃を受け止めた際に融合魔法で融合させた風属性魔法ウインドマジック氷属性魔法アイスマジック雷属性魔法サンダーマジックによって、刀身から雷氷を飛ばす魔法です。

 エーテル・チェインも組み込んでいますから、私が溜め込んだ魔力に比例して、雷氷の数は多くなります。

 無防備になりがちな攻撃の瞬間に、カウンターで無数の雷氷が襲い掛かるわけですから、たとえダメージが無かったとしても大きな隙が出来るはずです。

 別にドラグ・ブレイカーではなく盾に使っても問題ない魔法なんですが、私は双剣士ですから、盾は使いません。

 ウイング・クレストで有効に使えるとしたら、盾を使うミーナさんとラウス君ぐらいでしょうか。


 それはともかくとして、私の目論見通り、キング・スライムは予想外の衝撃を受けて、動きを止めています。

 その隙を逃さず、私はグランド・ソードの刀身を大きくして、真横に薙ぎ払いました。

 さすがに両断は出来ませんでしたし、核も無事ですが、キング・スライムを大きく吹き飛ばす事に成功しています。


「もらったああああああっ!!」


 そこにルディアが、新固有魔法スキルマジックアサルト・ブレイザーを纏わせて待ち構えています。

 エーテル・バーストを纏い、火属性魔法ファイアマジック雷属性魔法サンダーマジック風属性魔法ウインドマジックの融合魔法を拳に纏わせる事で、一撃の威力を上昇させる魔法です。

 一撃加えたら効果が消えてしまうため、連撃となっているファイアリング・インパクトと同時に使う事は出来ませんが、命中すればM-Cランクモンスターでさえ一撃で倒す事が出来ます。

 事実ルディアは、クラテル迷宮に生息していたM-Cランクモンスター メガ・クエイクを、一撃で倒していますから。


 アサルト・ブレイザーを纏ったルディアの一撃は、私が吹き飛ばした勢いのまま、キング・スライムの核を貫きました。

 体長5メートルもある巨体ですから、ルディアの体がキング・スライムの体内に取り込まれたようにも見えますが、ルディアの拳はキング・スライムの体も突き抜けていましたから、傷一つ負っていません。


「ふう。やっぱり面倒だったね」

「氷ってくれたら簡単だったけど、それだったらもっとランクは低かったでしょうしね」


 それでも倒せたワケですから、良しとしておきましょう。


「ただ、あれだけ苦労しても、魔石しか取れないってのは痛いよね」

「解体しなくても良いのは楽だけど、さすがにね」


 スライムから取れる素材は、魔石のみです。

 スライムは核を壊すと消滅しますが、代わりに魔石が残ります。

 ですから討伐証明にはなりますし、魔石はTランクの物でも利用価値があるんですが、それでもA-Cランクのキング・スライムを倒しても手に入るのが魔石だけとなると、さすがにやるせない気持ちが沸いてきますね。

 しかも、属性スライムは対応している属性の魔石を残しますが、他のスライムは水属性で、キング・スライムも例外じゃありませんから尚更です。


「ルディア、魔石は後で拾おう。ほら、来たよ!」

「え?あっ、そうだった!」


 キング・スライムの魔石を拾って、少し脱力しているルディアに注意を促すと、慌てて振り向きました。

 忘れてたワケじゃないと思いたいです。


「今度はアバランシュ・ハウルとアイシクル・タイガーか。ゴルド大氷河じゃ戦わなかったけど、ここで戦う事になるとは思わなかったなぁ」

「確かにね。気になる事はあるけど、今は迷宮氾濫を何とかしないといけないから、そっちは後で考えよう」

「うん!って、気になる事って何?」


 迷宮氾濫だからといって、異常種どころか災害種も多過ぎる事よ。


 っていうか、後でって言ってるんだから、今は考えないで!

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