白狐姫と戦女神の戦い
Side・プリム
大和達が魔物に向かっていく最中、あたしはフロライトに跨ったまま、この場から動かなかった。
理由はただ1つ、広域刻印術を使い、魔物達を結界に閉じ込めている真子を守るため。
本当はあたしも前に出たいんだけど、真子を1人にするワケにはいかないから、仕方ないけど理解しているわ。
その真子はバトル・ホースの楓に跨り、スノーミラージュ・タイガーの白雪も近くに控えているから、そうそう魔物の攻撃を食らう事はないんだけどね。
「ごめんね、プリム。もうちょっとしたら完了するから、そしたら少し前に出ましょう」
「気にしないで。真子のおかげで。ミステルに魔物を逃がさないで済んでるんだから」
「さすがに全部は無理だけどね」
なんて言ってるけど、真子は結界を展開させる際、探索系の刻印術も使って、異常種と災害種は確認している。
そいつらは全て結界の中に閉じ込められているけど、他の魔物はそうじゃない。
それでも30匹ぐらいかしらね?
あえて見逃した魔物の中にはPランクも何匹かいるけど、ほとんどはGランクだし、Sランクも少なくないから、ハイハンターやハイランサーなら何とか出来るはずよ。
「異常種も災害種も、けっこうな数がいるんだっけ?」
「いるわね。ミステルの前で大和君が倒したアビス・パンサーも、3匹確認したわ」
他にもさっき確認したアバランシュ・ハウルが数匹、サウルスの災害種もいるみたいだし、ドラグーンも確認している。
あたし達が戦った事のない魔物もいて、合わせると異常種が約50匹、災害種も約20匹いるらしいわ。
異常種が数匹っていうのは過去にもあるけど、これほどの数は例がないから、どれだけガグン迷宮が放置されていたかがよく分かるわね。
「ガグン迷宮は放置気味ではあったけど、それでも入るハンターはいたって聞いてるわ。なのにこんな事態になったワケだから、ラオフェン迷宮の方もマズい事になってるでしょうね」
「でしょうね」
ソレムネ地方にあるラオフェン迷宮は、確認されてこそいたけど、中に入るのは近隣の町の兵士ぐらいで、それも浅い階層だけだった。
さらに存在も公表されていなかったから、ソレムネ人でも知らない人は多い。
いつ生まれたのかは定かじゃないけど、ここ数年ってところでしょう。
何度か迷宮放逐を行っているから、ラオフェンの近くには異常種もけっこうな数がいたんだけど、そのラオフェン迷宮もついに迷宮氾濫を起こす事態になってしまった。
あたしの予想でしかないけど、ガグン迷宮の氾濫より酷い事になってる可能性は十分あるわ。
「しかもラオフェンは、結界の修復がされてないはずだから、犠牲者も多くでるでしょうね」
「あたし達がこっちに来てるから、オーダーズギルドはラオフェンに行きそうね」
現在ラオフェンに向かっているエンシェントクラスは、グランド・ソルジャーズマスターのデルフィナさん、グレイシャス・リンクスのスレイさん、ブラック・アーミーのシーザーさんの3人。
もしガグン迷宮氾濫と同規模だとしたら、いくらあの3人でも不利は免れない。
だけどオーダーズギルドがラオフェンに派遣されるとなれば、さらに数人はエンシェントクラスの派遣が叶う。
グランド・オーダーズマスターのレックスさんはローズマリーさん、ミューズさん、サヤさんと結婚してるから、向かうとしたらこの4人になるでしょうね。
アソシエイト・オーダーズマスターのミランダさんはフロートに残るか、ミステルに派遣される可能性もあるわ。
さすがにライ兄様が出張ってくる事はないでしょうけど。
「とはいえ予想でしかないから、なるべく早く片付けて、あたし達もラオフェンに向かうべきね」
「同感。よし、終わったわ。行きましょう」
「もう終わったの?さすがね」
早いに越したことはないけど、本当に早いわね。
今あたし達の周囲を覆っている結界は、真子が開発した
真子が得意としているアルフヘイムに、真子の
召喚獣の魔力も使っているおかげで結界の広さは最大展開すると半径1キロと、とんでもなく広い。
A-Cランクでも破れないから、街を覆っている結界プロテクト・フィールディングより強度が上と、とんでもない性能になってるわ。
しかも後で他の刻印術を追加で重ねる事も出来るから、汎用性も高いっていうおまけ付き。
そのフィールド・コスモスを展開させた真子の合図で、ようやくあたしも前線に繰り出した。
「白雪、向かってくる魔物以外は相手にしないでね。楓は攻撃を避ける事に専念して」
「ガウッ!」
「ブルッ!」
白雪と楓に、無理をしないように真子が指示を出す。
楓はともかく、白雪なら何とでもなりそうなんだけどね。
っと、来たわね。
あれはG-Rランクのライトニング・モスじゃないの。
「なんでようやく前に出たと思ったら、蛾の相手をしなきゃならないのよ……」
真子が嫌そうな顔をしているけど、そんなに?
ライトニング・モスは真子が言うように蛾の魔物だけど、元々はBランクのパラライズ・モスっていう魔物で、バリエンテ地方じゃありふれた魔物になる。
羽から麻痺毒となる鱗粉をまき散らすんだけど、魔力が高い程効果が薄くなるから、大して脅威じゃないわ。
素材はその鱗粉ぐらいだけど、羽は鉄に近い強度と硬度があるから、Bランクの中じゃ高値で買い取ってもらえる方ね。
あたしも何度も狩った事があるから、別段気にならないわ。
ライトニング・モスは稀少種になるけど、基本的には変わらない。
ただ
「白雪、やっちゃって!」
「ガウッ!ガアアアアッ!」
真子の命を受けた白雪が、ライトニング・モスに向かっていくつもの氷柱を放った。
何匹かには直撃したけど、避けた個体の方が多いわね。
「楓、追撃!」
「ヒヒイイイインッ!」
間髪いれずに、楓がライトニング・モスの真下から、土の槍を生やして追撃をかける。
こっちはほとんどが直撃を受けてたけど、楓がCランクのバトル・ホースって事もあって致命傷には遠い。
「目の前から消えなさい!」
トドメとばかりに、真子が
真子は
一対の扇である魔扇・瑠璃桜は合わせれば盾にもなるんだけど、真子はこうやって飛ばして使う事が多いから、こんな
ああ、あとは生成した刻印法具スピリット・ディッパーに接続して、斧みたいに使う事もあるか。
接近戦は苦手だけどフィジカリングやマナリングがあるから、相手によっては使いやすいって言ってたし、すごく気に入ってるわ。
「制御がめんどい!これが終わったら、念動の天魔石を取り付けないと!」
乱戦だと、一瞬でも気を抜いたら致命的になる。
なのに真子は、今までずっと念動の天魔石を使わずにいたんだけど、これほどの数の魔物、しかも多くがGランク以上となると、さすがに無理が出てきたか。
念動魔法はヒューマンやドワーフ、オーガに使い手が多く、ハイクラスに進化すると2つ目、エンシェントクラスに進化すると3つ目の
なのに真子は、エンシェントヒューマンに進化した今でも、念動魔法は授からなかった。
そんな人もいるけど、珍しいケースなのは間違いないわ。
「さすがに4つ目は無理だから、そうするしかないでしょうね」
「
苦笑しながら同意すると、真子が贅沢な事を言い出した。
気持ちは分かるけど、種族専用の
「分かってる、ただの愚痴よ。大和君やミーナを見てると、すごく便利だからついね」
その気持ちもよく分かるのよね。
ウイング・クレストで念動魔法を授かっているのは、大和、ミーナ、アテナ、ヒルデ姉様、ラウスの5人。
魔物の死体を回収するのはこの5人のいずれかになってるんだけど、念動魔法で軽々とインベントリに収納してるから、あたしも使ってみたいと思った事は何度もある。
念動の天魔石を使うっていう手もあるんだけど、低ランクの魔石だとすぐに魔力が尽きてしまうから、エンシェントクラスの念動魔法を付与させる意味がない。
やるとしたら最低でもPランク、可能ならそれ以上の魔石じゃないとダメらしいわ。
「そっちはこれが終わってから考えましょう。ここにはMランクどころかAランクもいるから、あたし達が使う分の魔石は確保できるでしょうし」
「そうね。って、また来たの?」
ライトニング・モスを一掃した真子だけど、視線の先には別のライトニング・モスを群れがいた。
2匹程大きいのがいるけど、フレアリング・モスも混じってるじゃない。
「フレアリング・モス?P-Iランクで、
「ええ。あと羽は
真子は魔物の生態をよく調べているんだけど、虫系は苦手らしく、あまり手を付けていない。
それでも目を通すぐらいはしてるんだけど、本格的に調べておいた方がいいわよ?
「次はあたしがやるわ。いいわよね?」
「ええ、お願い」
あっさりと獲物を譲る真子だけど、そんなに虫系魔物が苦手なの?
あたしとしてはありがたいけどさ。
「フロライト、お願い!」
「クワアアアッ!」
あたしはフロライトの背から下りて極炎の翼を纏う。
そしてフロライトに、援護を頼んだ。
一声上げたフロライトは、周囲に炎の羽をいくつもつくりだして、そのまま撃ち出した。
それを確認してから、あたしはフレア・ペネトレイターで一気に加速する。
フレアリング・モスが
しかも虫系魔物は、
たまに例外がいるけど、フレアリング・モスはそうじゃないから。
そのままフレア・ペネトレイターで突っ切ると、フレアリング・モスはもちろんライトニング・モスも、体を燃やしながら地面に落ちていく。
フロライトの炎の羽に貫かれて息絶えてる個体もいるし、P-Iランクぐらいなら熾炎の翼じゃなくても大丈夫そうね。
最近は慣れてきてるから魔力消費も抑えられているんだけど、それでも熾炎の翼を長時間使うのは難しい。
極炎の翼は、以前メインで使っていた灼熱の翼並の魔力消費で使えるから、状況によって使い分けが大事って事ね。
本当なら熾炎の翼ももう少し使いこなしたいんだけど、馬鹿みたいな数の魔物がいる中で魔力切れなんて起こしたら、普通に死ぬしかなくなる。
それに使い分けも重要だから、上手く切り替えられるようにしておかないとだわ。
「まだ来たわ。ホンット、いい加減にしてよね!」
なんか真子がキレだしたけど、あたし達の方に向かってきてる魔物は見事なぐらい虫系オンリーだった。
虫が苦手な真子にとっては、かなり辛いわね。
だけどたとえ苦手だろうと、この場にいる以上は倒す以外の選択肢は存在しない。
大変だけど、頑張ってねとしか言えないわ。
もちろん、あたしも頑張るけどね。
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