MARS実演

 披露宴が始まり、2時間近く経つ。

 その間俺達は、各々が招待客に挨拶したり挨拶されたりで、なかなか身動きが取れなかった。

 まあ、地球でも披露宴はこんな感じだし、今回は合同で開催してる分、それぞれの負担は減ってる方なんだろう。

 新郎の俺達に、次から次へと酒が注がれる訳でもないから、そう思っておきたい。


 招待客は、王族貴族は政治的な話も時折飛び出してるみたいだが、友人枠で招待した人達は若干居心地悪そうだな。

 それでもアミスターならこんな事もよくあるから、慣れてる人もいるみたいだが。


「それにしても、こんな規模の披露宴なんて、さすがに聞いた事ねえな」

「だね。まあ天帝陛下に天爵殿下、グランド・オーダーズマスターが合同なわけだから、ある意味じゃ当然だけどね」


 フィールのハンターズマスター ライナスのおっさんとクラフターズマスター ラベルナさんが、普通に飲み食いしながら、俺に話しかけてきた。

 2人とも何度か披露宴に招待された事があるみたいで、顔なじみもいるって言ってたな。


「タイミングが良かったってのもありますね。まあ、今後アルカで催すかは分からないけど」

「それは残念だけどね。話には聞いてたけど、本当に空に浮かんでるから驚いたよ」

「だな。ここを会場として提供すれば、ぼろ儲け間違いなしだろ?」


 避暑地や観光地じゃなく、披露宴とかの会場としてか。

 確かに会場使用料や宿泊料なんかは取れるだろうが、そんな事したらひっきりなしに問い合わせが来る気がするし、ハンター活動が出来なくなっちまう。


「それは考えてないな。金を稼ぐなら、魔物でも狩れば十分だし」

「お前らはそうだよな」

「エンシェントクラスが10人もいるんだし、適当に迷宮ダンジョンに入れば、それだけでひと財産稼げるからね。私としても、そっちの方がありがたいよ」


 フィールは俺達のホームタウンだから、魔物を売るとしたらフィールからになる。

 フィールのクラフターズマスターの立場からしたら、希少な素材が手に入りやすいんだから、ハンター活動を続けてほしいと思うよな。


「ミカサもそんなこと言ってたな」


 トレーダーズマスターのミカサさんもか。

 トレーダーも希少な素材で稼げるチャンスだし、そっちの方が高値が付くから、俺達が狩りをしなくなったら大打撃になるって事か。


「トレーダーズギルドといえば、プラダ村にも支部を出すんだろ?」

「支部っていうより出張所だな。いずれは支部になるかもしれんが、今はそれで様子を見るそうだ」

「もっともそれは、他のギルドも同じだけどね」


 プラダ村の港工事は順調で、既にフィール―プラダ村間は何往復もされている。

 近いうちにグラシオンまで行くそうだが、正式に開港するのは早くても来月になるだろう。

 ただプラダ村にはギルドがないから、新しく支部を作るって噂があったんだが、どうやらどこのギルドも最初は出張所で対応するみたいだ。

 ハンターズギルドやトレーダーズギルドは支部でもいい気がするが、人手の問題もあるし、村規模じゃ出張所でも出す事は滅多にない。

 だけどプラダ村は交通の要所となるから、出張所とはいえ人は多めに派遣するし、規模もそれなりに大きくなり、トレーダーズギルドは支部に近い形になるそうだ。


「船の護衛とかもあるけど、ハンターズギルドはいいのか?」

「いい訳ねえが、今のフィールを見ても分かるだろ?人手が全く足りてねえ。まあ、グラシオンやロッドピース、アクアーリオには行きやすくなるから、そこそこは集まるんじゃねえか?」


 ハンターズギルドの出張所は、フィール支部の半分程度の大きさで建造中だそうだ。

 改築も視野に入れているし、解体室も完備するそうだが、去年レティセンシアの工作員がフィールを荒らし、ハンターも大きく数を減らしてしまっているから、地元ハンターはあまり期待できない。

 港があるから集まりはするだろうが、それでもどうなるかは微妙だな。

 フィールでもルーキー・ハンターがいない訳じゃないが、人数はさほど多くないし、何よりマイライトにオークの異常種や災害種が数匹いる現状だと、育てるのも並大抵の事じゃない。

 うん、外から来るハンターに期待だな。


「それもそうか。それじゃ俺は、そろそろMARSの準備を始めるかな」

「ああ、分かった」

「楽しみにしているよ」


 一応、しばらくはフィールやプラダ村周辺で動く予定ではいるし、グラシオン行きの船の護衛もするつもりではいる。

 ハンターズギルドの常設依頼や張り出されている依頼はランク問わず受けられるが、依頼料も変更が無いから、それさえ気にしなければ俺達も受けられる。

 ランク制限は設けてるから、最低限の仕事はこなせるんだが、それでも当たり外れはあるみたいだ。

 まあ、だからこそ護衛は、指名依頼がほとんどなんだが。


 そっちばかり気にしてもどうしようもないし、今考える事でもないから、俺はライナスのおっさんとラベルナさんに軽く挨拶して、MARSの用意をする事にした。


 MARSを起動させる事を伝えると、全員が興味津々で鳥居の外までやってきた。

 動いてる魔物、それも高ランクモンスターなんて見る機会の無い人も多いし、興味があるのは分からんでもない。

 しかもMARSは、魔物の幻影を作り出す魔導具だから、仮に攻撃態勢を取られたとしても、ケガをする心配も無い。

 研究だけならそれでもいいかもしれないが、戦闘訓練に使うとなると、さすがにそれじゃ意味が無いから、そっちはまだまだ頑張ってる最中だが。


「では起動させます」


 簡単に諸注意を伝えてから、MARSを起動させる。

 テストでは何度かやってるが、他人の目がある状態で使うのは初めてだから、一応お披露目という事になるのか?


 今回起動させるMARSは試作型で、2メートル近くある置時計によく似た形状だ。

 瑠璃色銀ルリイロカネ製だから頑丈だが、試作って事でデザイン性は一切ない。

 文字盤に当たる部分には、ペンタケラトプスの魔石に属性魔法グループマジック天与魔法オラクルマジックを、可能な限り融合魔法で融合させて付与させているから、魔物の攻撃手段もそれなりに再現出来ていると思う。

 そしてその天魔石の近くに魔石をセットする事で、魔物の幻影が現れる。

 最初だからインパクトがあった方がいいだろうし、いきなりティラノサウルスの魔石を使ってみるか。


「おおっ!」

「ティラノサウルス!?」

「幻影と分かっていても……凄い迫力だな」


 M-Iランクモンスター ティラノサウルスは、数十年前にバレンティアを滅ぼしかけた異常種だ。

 だからフォリアス竜王陛下、フォリアス陛下の兄のブリッツ・ウロボロス公爵、グランド・ドラグナーズマスターに就任したハルート卿は、幻影相手だというのに警戒を緩めていない。

 これは俺の配慮が足りなかったな。


「申し訳ありません、配慮が足りませんでした」

「いえ、構いません。アロサウルスはソルプレッサ連山に生息していますから、その異常種であるならば、私達にとっても無関心ではいられませんから」


 そう言ってもらえると助かる。

 ソルプレッサ連山のサウルス種は滅多に下りてこないらしいが、全く下りてこない訳じゃないし、年に数匹は必ず討伐されている。

 特にアロサウルスは獰猛で、そのアロサウルスの異常種がティラノサウルスだから、バレンティアは討伐戦の記録を常に検討し、対策を取っているそうだ。

 だからMARSでティラノサウルスの研究が出来る事は、大歓迎なのも当然か。


「まだ試作ですから、ご覧の通り好き勝手に動いています。俺としては戦闘訓練が第一目的なんですが、魔物の生態研究にも使えるでしょうから、もう少し動きを制限させる事が出来たらと考えています」

「確かに研究にしろ訓練にしろ、今のままでは使いにくいか」

「ですが、これは凄いですよ。異常種など、間近で見る事は出来ませんから」

「そうですね。しかも幻影ですから、万が一暴れだしたとしても、周囲に被害が起きる事はありません。広さは必要になりますが、それでも魔物の研究は進みますから、対策も立てやすくなります」


 それが一番の問題なんだよな。

 高ランクモンスターは大型種が多いし、水棲種なんてさらにデカい。

 だからそのデカい魔物が、ある程度は動けるスペースの確保は必須だ。

 さらに水棲種の場合、今のMARSだと使えないという問題もある。

 試しにランス・マーリンの魔石を使ってみたんだが、地面に落ちてピチピチ跳ねてるだけで、何も出来なかったからな。

 水棲種は水の中に棲んでるんだから、地上じゃ動けないのも当然なんだが。


「ティラノサウルスはM-Iランクですから、今のMARSだとこれが限界です。ですから次は、別の魔物の幻影をお見せします」


 そう言って俺はティラノサウルスの魔石を取り外し、代わりに別の魔石をセットした。

 その魔石は、S-Nランクモンスター アロサウルスの魔石だ。

 ティラノサウルスとは同種になるから、違いも分かりやすいだろう。


「アロサウルスか」

「だけどティラノサウルスより、機敏に動いているわね」

「はい。Gランク辺りまでですが、かなり再現が出来ていると思います」


 アロサウルスはティラノサウルスとは異なり、集まった人達を見下ろしている。

 お、腕を振り上げたか。


「おおっ!」

「まさか、腕を振り下ろしてくるとは……!」

「ですが、何ともありませんね」

「ですね。幻影と分かっていても、身が竦みました……」


 サウルス種という竜種だけあって、アロサウルスの攻撃力はGランクモンスターに匹敵するし、個体によってはPランクモンスターを吹き飛ばす事も可能らしい。

 そんなアロサウルスの攻撃を、たとえ幻影とはいえ受けそうになった訳だから、驚くのは当然だ。

 さすがに無差別攻撃してくるようじゃ戦闘訓練にも使いにくいから、こちらも調整が必要だけどな。


「先程も言いましたが、まだまだ改良の余地がありますから、いつ完成するかは分かりません。ですがせっかくの機会ですから、可能な限り魔物の幻影をお見せしたいと思っています」


 なんて言ったら、歓声が上がってしまった。

 特に研究を生業としているトレーダーが凄い。

 自信を危険に晒さずとも魔物の研究が出来るようになる訳だから、気持ちは分からなくもないんだが。

 ハンターやリッターにとっても、魔物の生態を知る事は生き残る事にも繋がるから、1種でも多くの魔物を見てみたいっぽいな。

 それじゃあご期待に応えましょう。


 それから俺は、次々と魔石を交換して、魔物の幻影を作り出した。

 サウルス種はもちろんドラグーン種もリクエストがあったから、可能な限り対応したよ。

 さすがに全ての魔物の魔石を持ってる訳じゃないから、断った魔物も少なくなかったな。

 それでも皆さんの期待度はかなり高いみたいだから、頑張って開発を進めないといけない。

 ここまで期待されてるとは思ってなかったから、ちょっとプレッシャーだが、やる気も漲ってきたな。


 そのまま1時間程MARSの実演を行い、お披露目は終了した。

 その後は、また披露宴の続きだ。

 MARSが完成したら是非設置したいと各国から言われたが、開発費はもちろん製作費も凄まじい額になってるから、まずはメモリアに開校予定の総合学校のみになると伝える。

 素材は全部自前で用意したから、そこまで金はかかってないんだが、普通はそんな事は出来ないし、国が施設を用意するとなると素材は全て購入という形になるから、さすがに試算ぐらいはしている。

 そしたら10憶エルを超えてたから、かなりビビったな。

 細かい計算は省いてるから、多少の前後はあるだろうが。


 だけどここまで来たら、もう止められない。

 頑張って完成させないとな。

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