新獣王戴冠
トラレンシアの戴冠式の翌日、俺達はアレグリア公国にやってきた。
アレグリアに来たのは初めてだが、今回来た理由は戴冠式に出席するためだ。
アレグリアは4つの島で構成されているが、一番大きなプラジア島に公都グラシオンがある。
一番大きい島と言っても、面積は150平方キロ程度と、小豆島と変わらない。
一番小さな島が宝樹と
小豆島は瀬戸内海だったっけか?
アレグリアは、島によって多少環境が異なる。
公都グラシオンのあるプラジア島は、島の3分の1程が森で覆われているし、次に大きなピエドラ島にはいくつかの鉱山があり、宝石の原石や良質な石材も掘る事が出来るそうだ。
少し離れた所にあるラゴア島は湿地帯で、トレーダーズギルドが管理している田んぼがある。
石を切り出せるのはピエドラ島ぐらいだから、アレグリアの家はほぼ全て木造で、王城や貴族屋敷はコンクリート製だったりする。
ナダル海の島国であるアレグリアは、産業が弱い。
銀は需要があるが、ピエドラ島の銀鉱山で採れるのはアミスターの総量の1割程度でしかない。
それでも船を出せばすぐリベルターだから、結構重要な輸出品の1つで、ピエドラ島では銀鉱山の開発が最も力が入れられている。
ラゴア島の田んぼから収穫できる米は、アミスターやバリエンテの米とは風味が違うため、こちらも重要な輸出品となっているが、島の規模の問題から収穫量があまり多くない。
そしてプラジア島は森があるために、木材が輸出品となっているんだが、品質に関してはバリエンテの方が高いらしく、アレグリアから輸入する利点はコストカットぐらいだ。
だからなのかは分からないが、アレグリアはコンクリートの生産と輸出を最大産業として確立させているそうだ。
ヘリオスオーブのコンクリートはセメントを使ったような物じゃなく、セメント状の水に砂状に砕いた鉱石を、魔力を使って混ぜ合わせた物らしいんだが。
その水はラゴア島で採れるし、鉱石は当然ピエドラ島で採掘している。
ピエドラ島は場所に余裕があるから、加工のための施設が軒を連ねているらしい。
本当にアレグリアの一大産業になっている訳だ。
しかもそのアレグリア・コンクリートは、粉々に砕いた鉄や銀が、魔力で混ぜ合わせる事によって高い強度を持つようになるから、城みたいな高層建築に使ってもビクともしないそうだ。
製法は他国でも知られているが、水はアレグリアでしか採れないようだから、この水も重要な輸出品になっているし、アレグリア・コンクリートの配合比は公王家の秘伝だから、他国のコンクリートはアレグリアの物程強度が高い訳じゃないみたいだな。
だから白妖城や
アレグリア・コンクリートの話になってしまったが、アレグリアの街並みは大きな港町というのが第一印象だ。
アレグリアはナダル海に浮かぶ島国だからなのか、家は和洋折衷の日本家屋に近い感じがする。
湿度が高い事が理由なんだろうな。
王城は小高い丘の上に建てられていて、敷地内には小さい池もある。
小さいといっても30平米ぐらいはあって、その池の畔に公王家の邸宅となる王宮が建てられていた。
グラシオンから少し離れている事もあって、王城や王宮からはグラシオンの街並みが良く見えるし、アクアーリオやロッドピースの街も目に入る。
その王城で、戴冠式が行われる訳だ。
戴冠式から国名が公国から獣王国に変わり、公都も獣都と呼ばれるようになるが、同時にグレイス陛下も引退を表明している。
国名が獣王国に変わるため、王位も公王から獣王と変わるし、天帝、妖王、竜王と同年代の娘が王になるべきだと
実際第3回以降は、獣王として即位する第一王女を同行させてたらしい。
ただ天帝の戴冠式では、まだ第一王女は即位してなかったから、グレイス陛下が参列せざるを得なかったそうだ。
「本日よりアレグリア公国はアレグリア獣王国と名を変え、栄えあるアミスター・フィリアス連邦天帝国に参加し、フィリアス大陸の明日を担う国となる。故に王位も、第一王女であり王太子でもあるグリシナ・アレグリアが継ぐべきと考え、此度の戴冠式に臨むものである」
跪いているアレグリア第一王女グリシナ・アレグリアの頭上に、グレイス陛下が王冠を被せながら演説を行う。
「これよりはこのグリシナが、アレグリア獣王国の獣王となる。グリシナ、後は任せたぞ」
「はい、母上。ただいまより私、グリシナ・アウラ・アレグリアは獣王として、この国のみならず、フィリアス大陸の為に身を粉にして働く所存です。皆も私のためではなく民の為に、そしてこの大陸に住まう人々の為に、より一層力を尽くしてほしい」
グリシナ陛下も立ち上がり、決意を述べる。
本来アレグリア公王家にミドルネームは無かったんだが、バリエンテの獣王位を継ぐ形にもなっているし、天帝を諫める三王家として名を連ねることにもなっているため、グレイス陛下とラインハルト陛下が共同で考案したそうだ。
「新獣王グリシナ・アウラ・アレグリアよ。その決意、しかと耳にした。この王錫を手に、民のため、フィリアス大陸のために力を尽くしてくれ」
「ありがたくお受けいたします、天帝陛下」
ラインハルト陛下から、
グリシナ陛下は恭しく受け取っているが、バレンティアのフォリアス陛下やヒルデも同じ感じだったな。
手渡されたはレイナード・プレザは長杖だが、キャロルのラピスライト・ロッドと同じく仕込み杖となっている。
刃は当然のように
天魔石には結界魔法以外にも念動魔法やシールディング、
まあエクストラ・ヒーリングは付与出来なかったから、ノーブル・ヒーリングになってるんだが。
アレグリア獣王は、トラレンシア妖王やバレンティア竜王と同様に天帝を諫める役割を担っているから、王権はもう1つある。
そのもう1つの王権は、ラインハルト陛下でもグレイス陛下でもない、別の人物が手渡す事になっている。
「グリシナ・アウラ・アレグリア新獣王陛下、即位、並びに戴冠、心より祝福させて頂く。同時に我が国の王位を受け継いで下さり、深く感謝申し上げる」
その人物とは、誰であろうバリエンテ最後の獣王、ギムノス・バジリウス・バリエンテ陛下だ。
既にバリエンテは分譲独立し、息子のティグル・バジリウスがブルーメ獣公国の獣公として即位も済ませ、ティグル・バジリウス・ブルーメとなっているから、元陛下と言うべきか。
獣王はバリエンテ連合王国建国時からの王位だが、そのバリエンテ連合王国が消えてしまった今では使われる事のない称号でもある。
それを惜しんだギムノス陛下は、同じ獣族が王位に就いているアレグリアに話を持ち掛けた。
グレイス陛下もそれを受け入れ、アレグリアの王位は公王から獣王となり、国名も獣王国と改めたのが経緯になる。
さらにグレイス陛下は、獣王を継ぐ事になるからと、王権の授与をギムノス元陛下に持ちかけられた。
最初は固辞していたギムノス元陛下だが、新王となるグリシナ陛下にも嘆願されたため、最終的には承諾し、王権となる盾を携えている。
「この盾の獅子のように勇ましく悠々たる王として、この国のみならず、フィリアス大陸を見守って頂きたい。故にこの盾は、リオン・クリスタと名付けられている」
「感謝致します、ギムノス陛下。陛下より受け継いだ獣王の名に恥じぬよう、邁進する所存です」
リオン・クリスタは獅子を模した盾だが、獅子が選ばれたのは獣族にはいない種族である事、獅子は竜に並ぶヘリオスオーブ最上位の魔物であるが理由だ。
アレグリア王家は代々ウルフィーらしいから狼にしても良かったんだが、今後も必ずウルフィーが王位に就くとは限らないし、その証拠にグリシナ陛下の妹はドラゴニュートだ。
だからアレグリアは獅子を、バリエンテ地方の5ヶ国は獣族6種族全てをモチーフにした王権となっている。
王錫レイナード・プレザも、獅子が天魔石を咥えているデザインになっているぞ。
そのリオン・クリスタをギムノス元陛下から受け取ったグリシナ陛下は、先に受け取っていたレイナード・プレザを内側にある窪みに嵌め込んだ。
レイナード・プレザは長杖だから、片手直剣のように腰に佩く事は出来ない。
だがいざという時は剣としても使えるようになってるから、リオン・クリスタにコネクティングとロッキングで接続が出来るようになっている。
盾の先から杖が伸びてる感じになるが、グリシナ陛下はその状態からレイナード・プレザの刀身を抜き放った。
刀身は細見だがサイズ的には普通の片手直剣だから、リオン・クリスタを構えながらでも十分に抜ける長さだ。
「改めてこの2つの王権に誓おう。私は新たな獣王として、このアレグリア獣王国、そしてアミスター・フィリアス連邦天帝国のために尽くす事を。だが私は、王位に就いたばかりの若輩者だ。皆の協力が必要になる。天帝陛下、先代公王陛下、そして最後の獣王陛下のご意思を継ぐためにも、私に力を貸してくれ!」
グリシナ陛下がそう述べた瞬間、謁見の間に歓声が起こった。
アレグリアは貴族が少ない国だから、各町や村の有力者も招待されている。
そういった人達が、グリシナ陛下に賛意を示した形になるな。
「ありがとう」
謝辞を述べると、グリシナ陛下はレイナード・プレザを納刀し、玉座に腰を下ろした。
「以上で私の戴冠式は終わった。だがアレグリアの体制は、一部を除いて変更はない」
グリシナ陛下の言う一部とは、ランサーズギルドの事だ。
ランサーズギルドやセイバーズギルド、ドラグナーズギルド、ソルジャーズギルドは、半年交代でグランド・マスターかアソシエイト・マスターがフロートに詰める事になっている。
だからアソシエイト・マスターは2人に増員されているんだが、グランド・マスターがフロートに詰めている際に何かあった場合は、アソシエイト・マスターがギルドのトップとなって采配を振るう事にもなってしまう。
だからアソシエイト・マスターには明確な序列が設けられていて、グランド・マスターの代理となれるアソシエイト・マスターはコンフォーム・マスターと呼ばれるようになった。
オーダーズギルドの総本部はフロートだからコンフォーム・マスターはいないが、セイバー、ドラグナー、ランサー、ソルジャーズギルドには存在していて、セイバーとソルジャーは現アソシエイト・マスターがコンフォーム・マスターに任命されている。
先日始動したドラグナーズギルドでコンフォーム・ドラグナーズマスターに任命されたのは、フレイアスさんの推薦を受けた近衛竜騎士だったな。
「公国騎士団はバリエンテ獣騎士団と統合され、ランサーズギルドとして新たに発足した。総本部はフロートに置かれるが、実質的な本部はグラシオンとなっている。既にバリエンテ地方はもちろん我が国でも始動しているが、改めて皆に紹介させてもらいたい。グランド・ランサーズマスター、コンフォーム・ランサーズマスター、そしてアソシエイト・ランサーズマスターだ」
グランド・ランサーズマスターは公国騎士団団長の女性ハイヒューマン シャルロット・イグレーヌ。
コンフォーム・ランサーズマスターは獣騎士団団長の男性アルディリー ゲオルグ・アイヒヘルツェン。
アソシエイト・ランサーズマスターは元グランド・オーダーズマスター トールマン・ブレイアルス。
以上3名が、ランサーズギルドのトップ3となっている。
後で聞いた話じゃ、トールマンさんがランサーズギルドに出向って事で、シャルロットさんもゲオルグさんも恐縮してしまって、グランド・ランサーズマスターやコンフォーム・ランサーズマスターへの就任を辞退しようとしてたらしい。
それはともかくとして、ランサーズギルドが初めて公の場で紹介された事で、再び謁見の間は歓声に包まれる事になった。
アレグリア、アミスター、バリエンテの騎士団のトップが一堂に会した形でもあるから、そりゃ歓迎されるわな。
最後にグリシナ陛下は、王太子の指名も行われた。
任命されたのは御年9歳のグリシナ陛下のご子息で、第一王子となったデイヴィッド・アレグリア殿下だ。
次代の獣王は、アレグリアにとっても数十年振りの男性王となるらしい。
とはいえ正式に王太子として指名されるのは、デイヴィッド殿下が成人してからになる。
だから今回の指名は仮の物だが、アレグリアは譲位と同時に次代の指名を行うのが伝統だから、グリシナ陛下もその伝統に則った形だな。
無事に戴冠式も終わり、後は晩餐会が執り行われる。
俺達も参加だが、さすがに連日だから厳しくなってきているんだよな。
だけどこの場で文句なんて言える訳もないし、今日を乗り切れば後は明日のリヒトシュテルンで終わりだから、しばらくは晩餐会に出る事もないだろう。
「甘いわよ、大和」
「そうだよ。まだ大切なのが残ってるじゃん」
「あ……」
忘れてた訳じゃないが忘れてた!
今の今まで延び延びになってたが、俺達の結婚披露宴がまだだったんだ!
しかもエドやレックスさん、ルーカスにダートも巻き込んでるし、ラインハルト陛下もシエル様と結婚したばかりだから合同になるだろう。
しかもレックスさんも巻き込んだという事は、リリー・ウィッシュも漏れなく参加って事になるから、アイゼンさんとヴォルフさんも追加されるんじゃないか?
となると主役側だけでも50人近い人数になるから、招待客ともなると500人は超えるんじゃないか?
いや、下手したら倍の1,000人はいくかもしれない。
「さすがに招待客は厳選するわよ。だってお兄様もレックスも、フロートで披露宴を行わない訳にはいかないんだから」
「大和もね。大和の場合は、トラレンシアでもしなきゃいけないし」
ヒルデと結婚した以上、そうなるよな。
となると……どうしたらいいんだ?
いや、明日明後日に催す訳じゃないし、準備なんかも含めたら1ヶ月は余裕があるはずだ。
それまでに、何か打開策を考えなければ!
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