第一三章・披露宴に向けて
各国の戴冠式
ラインハルト陛下の戴冠式も無事に終わり、アミスターの国民にも連邦天帝国建国が宣言された。
ヘリオスオーブ初の統一国家ってことで、戴冠式後もどこの街でもお祭り騒ぎが続き、トレーダーズギルドは屋台なんかも出していたな。
連邦天帝国首都であり中心都市でもあるフロートも活気にあふれ、祭りが続いていたし、レティセンシアを警戒しているシンセロやポラルでも、小規模ながら祝いの酒とかが振る舞われたと聞いている。
俺達は戴冠式の翌日にフィールに帰ってきたんだが、フィールは天爵となったユーリが領主を務める街になったし、アソシエイト・オーダーズマスターを務めていたミーナの父ディアノスさんがサブ・オーダーズマスターに就任した事もあって、歓迎ムードも凄かったぞ。
ディアノスさん、ミーナの実母アンナさん、レックスさんの実母エルミナさんは、レックスさんが借りていた屋敷に居を移している。
ただディアノスさんは子爵に叙爵されたから、近い内にフィールにフォールハイト子爵家別邸を建設するそうだ。
フロートの屋敷はレックスさん、ローズマリーさん、ミューズさん、サヤさんが使っているが、こちらも本屋敷を建てるとかって聞いてる。
子爵の公金は3,000万エルだが、ディアノスさんはアソシエイト・オーダーズマスターを5年務めていたし、ハンターとして狩りにも行ってたから結構な額を蓄財していて、子爵としては広めの屋敷も建てられるんじゃないかってミーナが言っていた。
ここ数日で、各国も次々と戴冠式を終え、ドラグナーズギルドやランサーズギルドも正式に始動している。
最初はバレンティア竜王国とグランレーヴェ橋公国で、次がヴァルト獣公国とデネブライト橋公国、ヴァーゲンバッハ橋公国が戴冠式を行っていて、その次はトラレンシア妖王国とパルセノス橋公国、ペイシェス橋公国、シュタイルハング獣公国が行う予定だ。
その次に予定されてるのはアレグリア獣王国、ブルーメ獣公国、ホルン獣公国、アクアーリオ橋公国で、最後にリヒトシュテルン大公国、ジェミオス橋公国、フリューゲル獣公国が戴冠式を行う予定だな。
ラインハルト陛下はシエル様と結婚した関係で、リヒトシュテルンと三王国の戴冠式に参列する予定になっている。
俺達も三王国の戴冠式には出席予定だが、他にもヴァルトとリヒトシュテルンにも参加した。
ヴァルト獣公に即位するのはプリムの従姉ネージュ・オヴェストだから、ちゃんとの即位を見届けたぞ。
という訳で、俺達が出席した戴冠式の様子を紹介しようと思う。
最初の戴冠式は、天帝が即位してから2日後だった。
バレンティアは竜国から竜王国へと国名を変え、グランレーヴェ橋公国は三公国の中でいち早く戴冠式が行われた。
バレンティアの戴冠式では、フォリアス陛下の父になる前竜王が戴冠の役を担い、王権はガイア様とラインハルト陛下から手渡された。
その後、ハルート王子が正式に王位継承権を放棄し、グランド・ドラグナーズマスターとして任命され、リディアとルディアの父フレイアスさんも、アソシエイト・ドラグナーズマスターとして任命されている。
さらに連邦天帝国への参加をフォリアス陛下が公式に口にした事で、今まで竜王家に非協力的な態度を取っていたバレンティア東部の貴族達が力を失った。
連邦天帝国の法はアミスターの法が適用されるから、自領で勝手な行いは出来なくなったし、何かあればドラグナーどころかオーダーやソルジャーなんかも派遣されてくるからな。
連邦天帝国への参加に反対して挙兵しようとした貴族も数家いたらしいが、そっちはロクに兵が集まらず、それどころかあっさりとドラグニアに密告されて、纏めて改易されたらしい。
バレンティアでは領地を持つのは公爵と伯爵、子爵のみで、侯爵は政治家として、男爵は代官や役人としての仕事をしている。
だからなのかは分からないが、ハルート王子とフレイアスさんは侯爵に叙爵され、他にも竜騎士団長クラスが数名男爵に叙されたな。
爵位に関しては各国が管理する事になってるが、侯爵が領地を持ってないとは思わなかった。
その次の日は、ヴァルト獣公国とデネブライト橋公国、ヴァーゲンバッハ橋公国が戴冠式を行った。
ヴァルト獣公国のネージュ獣公陛下はプリムの従姉だから、親族として参列させてもらうことになった。
アプリコットさんにとっても姪になるから、当然のように同行してもらっている。
ネージュ陛下の希望で王権はプリムが授ける事になったが、突然の話だったからプリムは戸惑ってたな。
ヴァルトに限らず、ホルン獣公国以外の国にはヘッド・ギルドマスターが存在していなかった。
ホルンはバリエンテ中央府セントロを首都としているから、ギルドはそのまま継承される。
だが他の12ヶ国は、話が上がってから独立までの期間が短かったため、ヘッド・ギルドマスターを用意できたギルドと用意できなかったギルドがある。
ヴァルトはヘッド・ハンターズマスターこそ着任しているが、他のヘッド・ギルドマスターはまだらしいから、戴冠式で宝冠を用意したのはヴァルトのプリスターズマスターだった。
ヘッド・ギルドマスターを任命するのはギルドの上層部だから、人選とかの問題もあって簡単にはいかないって事なんだろう。
「即位おめでとう、姉様」
「ありがとう、プリム」
ヴァルトの公城は建造中だから、しばらくネージュ陛下は、オヴェスト王爵時代からの屋敷に住まう事になっている。
戴冠式後に屋敷に招かれた俺達は、改めてネージュ陛下に即位の祝辞を述べた。
特にプリムは本当に嬉しそうで、尻尾も大きく振られている。
あ、ヴァルト獣公国の獣公として即位したネージュ陛下だが、ネージュ・オーヴ・ヴァルトと名前が変わったぞ。
「でも本当に今更だけど、あなたが即位しなくて良かったの?」
「ええ。あたしはハンターだし、今じゃフレイドランシア天爵夫人なんて肩書まであるわ。ただでさえ大和はエスメラルダ天爵領とアマティスタ侯爵領の面倒を見なきゃいけないのに、数年後にはフレイドランシア天爵領とラピスラズライト天爵領まで加わる。更にヴァルトまでなんて、さすがに倒れるわよ」
ヴァルトはプリムが獣公として即位してはどうかという案が、目の前のネージュ獣公本人から出されていた。
だがその提案がされた時期は、俺に天爵位と天帝位継承権を与えるという案が浮かんだ時期とほとんど同じだったため、採用される事は無かった。
万が一採用されてたりなんかしたら、プリムはヴァルト獣公として国家運営を行う事になるから、俺も王配として手伝う事になるのは決定的だ。
エスメラルダ天爵領にアマティスタ侯爵領の事もあるから、マジで倒れるぞ。
採用されなくて一安心だよ。
「聞くだけで大変そうだものね。でも私も、困ってる事があるのよ?」
「分かってる。ネージュ姉様はまだ独身だから、子供をどうするかでしょう?」
「そうなのよ。獣公として即位した以上、子を成す事は最優先事項になってしまったわ。今までもそうだったけど」
ネージュ陛下は未だ独身で、婚約者もいない。
婚約者候補は何人かいたが、間の悪い事にシュトレヒハイト達が反乱を起こした頃でもあったから、その話も立ち消えてしまったそうだ。
だけど獣公として即位してしまった以上、次代の獣公は必ず必要になるから、ネージュ陛下は国家運営もだが、子を成す事が最優先事項になっていると口にした。
「で、その相手に大和をって事?」
「あなたには悪いと思うけど、結婚したいというワケじゃないの。だから退位しても、私はオヴェストから離れるつもりはないわ」
ところがネージュ陛下は、子供の父親に俺を指名してきなさった。
しかも俺とは結婚するつもりはなく、退位後もオヴェストに住まうとも仰っておられる。
「さすがにあたしだけの判断じゃ決められないから、この話は持って帰らせてもらうわよ?」
「勿論よ。だけど無理にとは言わないから」
「分かったわ」
そんな感じで話が進んでしまったんだが、初代ヴァルト獣公が独身のままというのも外聞が良くないからって事でしばらくは様子を見るが、ネージュ陛下のお眼鏡にかなう相手が見つかれば紹介、見つからなければ俺の子を産んでもらうって事に決まってしまった。
なるべくお相手を見つけるようにしないと、さすがにそろそろ……。
そして戴冠式から4日経った今日、俺達はトラレンシアの戴冠式に出席するため、ベスティアにやってきている。
先日ラインハルト陛下に天爵位を貰った俺だが、ヒルデとも正式に結婚したからトラレンシア王配でもあるという奇妙な状況になっている。
だから戴冠式では、俺も王配として参加させられてしまった。
衣装はアーク・オーダーズコートだったが、俺が
ちなみに俺の役は、伴侶でもある女王に王権となる大鎌クイーンズ・シックルを手渡す事だった。
星球儀もあるが、そっちはラインハルト陛下が手渡してたな。
こんな時ぐらい前女王でもあるお母さんを呼び寄せたらどうかと思ったんだが、退位して妖爵となってしまうと、一部の例外を除いて国政には一切携われなくなるため、戴冠式に参加しても任せられる役目が無いんだそうだ。
それでも両親ともに参加してくれてるそうだから、ちゃんとご挨拶はさせていただいた。
戴冠式が終わった後、俺達は久しぶりに、
「グランド・セイバーズマスターもヴィーゼさんが就任したけど、ブレザーさんはどうなるんだ?」
「ブレザーにはロイヤル・セイバーを任せる事になっています」
予定より早かったが、グランド・セイバーズマスターもブレザーさんからヴィーゼさんに代替わりしている。
当初の予定じゃブリュンヒルド殿下の即位に合わせてだったんだが、連邦天帝国への参加と同時にした方が良いだろうって考えられた事が理由だな。
だからデセオに派遣されていたヴィーゼさんも、呼び戻された上で任命されている。
前グランド・セイバーズマスターとなったブレザーさんは、ロイヤル・セイバーズマスターになるようだ。
ヒルデはエンシェントヴァンパイアだから護衛は無くても問題ない実力があるが、ブリュンヒルド殿下は進化していないから、妹の事を考えての任命でもあるんだろうな。
「他も順調に戴冠式が終わってるわね」
「明日はアレグリア、ブルーメ、ホルン、アクアーリオか。アレグリアはあたし達が行くけど、他は誰が行くんだっけ?」
「ホルンはお父様、アクアーリオはお爺様、ブルーメはサユリおばあ様ね」
三王国の戴冠式は俺達のみならずラインハルト陛下も参列したが、三公国の方はアイヴァー様やサユリ様、カイト様が名代として参列している。
実際今日も、パルセノスの戴冠式にはアイヴァー様が、ペイシェスにはカイト様が、シュタイルハングにはサユリ様が参列された。
そういえば戴冠式で、初めてカイト様に会ったな。
サユリ様の息子でアイヴァー様の父、ラインハルト陛下やマナ、ユーリの祖父になるエルフの先々王陛下だ。
以前サユリ様に聞いてたように、髭が無い以外は長老エルフと言われても納得出来る風貌の穏やかな人だった。
なんで髭が無いのかだが、エルフにヴァンパイア、ラミア、ウンディーネ、ドラゴニアンは髪の毛以外の体毛が存在していないからだ。
逆に獣族は、背中とか腕とかも体毛で覆われているから、処理が大変らしい。
それはともかく、カイト様は御年82歳だが、足腰はかなりしっかりしている。
退位してからはトレーダーとして行商を続けていたそうだから、それが理由なんだろうが、それでもハイクラスに進化してる訳じゃないから、ラインハルト陛下やサユリ様はもちろん、マナやユーリもおとなしくしとけばいいのにとよく口にしていた。
「カイトお爺様はもうお歳だから、明日でお役御免らしいけどね」
「明後日はリヒトシュテルン、ジェミオス、フリューゲルの3国ですから、ジェミオスにはお父様が、フリューゲルにはサユリおばあ様が行かれる予定ですしね」
そんな話だったな。
だからカイト様が出席した、あるいはする予定の戴冠式はアクアーリオとペイシェスのみだ。
「さすがにお疲れになってましたけど、落ち着いたらまた行商に出られるんでしょうね」
「でしょうね。お爺様のみならず、マルガリタお婆様も嬉々として同行されてるんだから。なんであんなに落ち着きがないのかしら?」
マルガリタ・レイナ・アミスター様はカイト様の奥さんで、オーガの元王妃様でもある。
カイト様にはもう2人奥さんがいたんだが、ここ数年で亡くなられているから、今はマルガリタ様と2人で行商に出ているそうだ。
マルガリタ様は一番年下だったらしいが、それでも76歳という高齢だな。
アミスター王家の伝統らしいが、退位した元国王はギルド活動に全力で打ち込めるから、本当に死ぬ寸前まで頑張る人が多いらしい。
ちなみにラインハルト陛下やマナ、ユーリと血縁関係は無いが、マルガリタ様には子供が出来なかったそうで、実の孫のように可愛がってもらっているんだそうだ。
「元気で良いんじゃないか?王位に就いてた反動みたいなもんもあるんだろうから、本人がやりたいならそれでいいと思うし」
「そうなんだけどね。お爺様もお婆様も、無理をされないといいんだけど」
ああ、マナの心配はそこか。
だけど移動中に魔物に襲われる事は珍しくないから、多少の無理は仕方ないんじゃないか?
ちゃんと護衛にハンターを雇ってるし、オーダーが付く事もあるらしいから、そこは大丈夫だと思うが。
なんか戴冠式の話をしてたはずなのに、いつの間にかカイト様、マルガリタ様の話になってるな。
まあ、それだけ心配だって事なんだろう。
一度ぐらいは、護衛に付いてもいいかもしれないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます