新たな爵位と家名

Side・真子


 デセオにヒルデ様の様子を見に行った私達は、急遽天樹城に向かう事になった。

 ヒルデ様は大和君やマナ様、ユーリ様が大変な事になるって言ってたけど、詳しくは教えてくれなかったのよね。

 だけどお2人とも王妹になるし、ユーリ様なんて王位継承権一位、大和君はそんなお2人と結婚、婚約してるんだから、忙しくなるのは当然か。

 3人が忙しくなればウイング・クレストの活動にも支障を来す恐れがあるから、私達も無関係じゃいられないわ。


 そう思って天樹城の王家専用サロンで話を聞くと、予想とはだいぶ違った結果が待っていた。


「嘘でしょ……」

「私にフィールを……」

「なんで俺まで……」


 マナ様、ユーリ様、大和君が絶望的な顔をしながら頭を抱えている。

 ラインハルト陛下からこないだの国際会議サミットの話を聞かせてもらったんだけど、そこで問題になったのは、議題にもなっていた天帝位継承権について。

 ラインハルト陛下はアミスターの王位継承権をそのまま移行させるつもりだったんだけど、他国の要人がそれに異議を唱えてきた。

 そして意見を聞いたところ、ラインハルト陛下やラライナ宰相の思惑以上の良案が出たって事で、すぐにその案を採用したんですって。


「言いたい事は分かりますけど、なかなか思い切った事をしますね」

「マナとユーリは私の妹だし、大和君はその夫であり、ヘリオスオーブでも有数の実力者だからな。まあ継承権を与えた理由の1つに継承者数の水増しがあるから、そこまで大事という訳ではないよ」

「いや、俺にも爵位と領地とか、十分大事でしょう!」


 なんて叫ぶ大和君だけど、確かに大事ね。

 天帝位継承権で問題になったのは、アミスターに2つある公爵家の存在。

 天帝はラインハルト陛下が初代になるから、ラインハルト陛下の子孫が代々継承するのが望ましい。

 公爵家は初代アミスター国王陛下の血族でラインハルト陛下とも縁戚関係だけど、天帝として即位するには血が離れすぎている。

 だから当主と長子のみが名を連ねるに留まり、ラインハルト陛下のご子息レスハイト殿下が即位した暁には継承権を返上し、以降天帝位継承権を有さない事に決まったんですって。


 当のレスハイト殿下はまだ3歳になったばかりだから、継承権が与えられる10歳までは名を連ねる事が出来ないし、即位するのは早くても成人してからになる。

 その間にラインハルト陛下に万が一があれば、継承権一位のユーリ様が即位する事になるけど、公爵家の人は名を連ねてる事に意味があるそうだから、実質的な継承者がいなくなってしまうと危惧されていた。

 だからマナ様の継承権を復活させ、同時にマナ様の夫でありユーリ様の婚約者でもある大和君にも継承権を与え、さらに生まれた子にも母親より上の継承権が与えられるんですって。


 さらに3人には、公爵位より上になる天爵という爵位が与えられ、ユーリ様にはフィールとプラダ村というアミスター北部の王家直轄領が与えられる。

 マナ様は子を成す事を優先してもらうけど、こちらもいずれは領地が与えられるし、大和君も天帝位継承権保持者って事で、こっちも領地がどうとかって話になってるみたいね。


「大和君に与える領地だが、残念だがまだ決まっていない。スカラーズギルドやMARSの事があるから、なかなか難しくてね」

「……嫌な予感しかしねえ」


 3人共文句を言いたくて仕方ないんだけど、国際会議サミットで正式に決まった事らしいから、今更何を言っても取り消される事は無い。

 国際会議サミットを欠席した代償だって陛下は言ってたけど、代償にしちゃ大きすぎるんじゃないかしら?

 いえ、確かに出席してれば反論なり反対なりは出来たから、間違ってるワケじゃないかもしれないけど。

 ちなみに天爵という爵位はギムノス獣王の案で、天樹を仰ぐ天帝に連なる貴族って事になるそうよ。


「もちろんウイング・クレストの活動を邪魔するつもりはない。文官は派遣するし、大和君やマナに領地を与えるのは数年は先になるだろう。最悪、代官に丸投げしても構わないさ」

「それはそれで問題でしょう。そんな事したら、他の貴族から何を言われるか分かったもんじゃないわ」

「いや、俺だけじゃなくマナにもって、普通に俺が死ぬんですが?」


 そりゃ代官に領地運営を任せて自分は何もしないなんて、普通に継承権剥奪どころか爵位剥奪案件ね。

 与えられる領地がどこになるかは分からないけど、マナ様の場合は子供がある程度大きくなってからになるから、しばらくはユーリ様の補佐をしながら、フィールの統治に協力する形になるか。

 だけど、問題になるのは大和君ね。

 大和君にも領地が与えられるそうだけど、既に大和君はアマティスタ侯爵領とも無縁じゃないし、ヒルデ様がデセオに着任してる以上、そっちだって気にしてる。

 デセオはいずれ手が離れる事になるけど、それでもマナ様、ユーリ様、リカ様が貴族としてそれぞれの領地を治める事になるから、自分の領地まで加わると、大和君は4つの領地運営に携わらなければならなくなる。

 しかも飛び地で。


「アルカとトラベリングがあるだろう?」

「……」


 確かにアルカのゲート・ストーンやゲート・クリスタルに転移石板、奏上魔法デヴォートマジックトラベリングと、移動手段には事欠かないわね。

 それでも将来的に4つの領地を所有って事になると、小国どころかアレグリアすら上回る規模にならない?

 いえ、子供達が跡を継げば問題ないんだけどさ。


「後は家名だが、これは私の戴冠式で下賜という事になる。ユーリへの拝領も、その折になるな」

「ですがフィールには領代がいますし、アーキライト子爵の任期は今月いっぱいまでですから、あまり遅くても問題になりませんか?」

「既に後任の子爵を含む領代には通達してある。フレデリカ侯爵とソフィア伯爵はユーリが赴任するまでフィールに留まるが、その後はユーリに引継ぎを行い、自領に帰る事になった。ただフレデリカ侯爵は桜樹の伐採時期だし、ソフィア伯爵もバトル・ホースの出産が重なってるそうだから、夏まではアーキライト子爵も残ってくれるそうだ」


 フィールの領代にも、既に話が伝わってるのね。

 だけどアマティスタ侯爵領は春から夏にかけて桜樹の伐採と植樹が行われる時期だから忙しく、トゥルマリナ伯爵領も牧場のバトル・ホースが出産を行う時期だから、そっちに人手が取られてしまう。

 自領の事だし、どちらもアミスターにとっては重要な産業だから、今月末で任期満了になって領地に帰るアーキライト子爵が夏までフィールに残り、補佐をしてくれる事にも決まったらしい。

 もちろんフレデリカ侯爵とソフィア伯爵も、同じ時期までは残ってくれるそうよ。


「そっちも準備万端って事ね」

「それはそうさ。戴冠式までもう1ヶ月も無いんだ。早期に決められるようなら、即断しなければ」


 今日は3月23日で戴冠式は4月15日だから、確かに1ヶ月切ってるわね。

 ちなみに今日は私の誕生日でもあって、21歳になりました。

 別にどうでもいいわよね。


「それは否定しないけどね」

「ではお兄様、わたしがフィールを治めるのは、戴冠式が終わってからで良いのですか?」

「早い方がありがたいから、明日からでも構わないぞ。領代も、首を長くして待っているそうだからな」


 正式に拝領するのが戴冠式でだから、事前に話を伝えておく事もあるし、逆に急すぎて領地に到着するのが遅くなるって事もあるから、その辺はケースバイケースって事みたいね。

 今回の場合、書類上じゃ戴冠式の日からユーリ様が領主って事になるけど、実質的には今日から着任って事になるそうよ。

 さすがに今日はもう遅いから、明日からって事になると思うけど。


「それと家名だが、こちらも正式に名乗ってもらうのは戴冠式からになる。マナにはラピスラズライト、ユーリにはエスメラルダ、大和君にはフレイドランシアの名を用意した」

「え?ライ兄様、それは……」

「2人の馴れ初めは聞いているからな。その上で大和君が客人まれびとという事を考慮し、この家名にさせてもらった。もちろんプリムだけじゃなく、他の者も名乗ってくれ」


 これはちょっと意外だったわ。

 ラインハルト陛下が考案された家名は、瑠璃色銀ルリイロカネ翡翠色銀ヒスイロカネ、そして日緋色金ヒヒイロカネのヘリオスオーブ読みになるラピスライト、エメラルライト、フレアライトが由来になっている。

 日緋色金ヒヒイロカネは日本の伝説の金属だけど、大和君が合金開発の際に名前を出したそうだから、ラインハルト陛下もご存知みたいね。

 その日緋色金ヒヒイロカネとプリムの家名ハイドランシアを合わせてくるとは、さすがに思ってもいなかったわ。


「ありがとう、ライ兄様」

「礼は不要だ。悪いとは思ったが、これなら大和君も断らないだろうと思ったのも間違いないからな」


 そっちの意味もあったのか。

 だけど確かにこの家名なら、大和君も拒否しないわね。


「計算ずくですか。確かにその通りだけど」


 でしょうね。

 ということは、大和君はフレイドランシア天爵家の初代って事になるから、戴冠式で正式に家名を下賜されてからはヤマト・ミカミ・フレイドランシアって事になるのか。

 マナ様はマナリース・ミカミ・ラピスラズライトって事になるけど、夫婦別姓は貴族とかじゃそれなりにいるそうだから、マナ様もユーリ様も特に気にしてはいない。

 プリム、ミーナ、フラムは大和君と結婚済みだから、3人も名前が変わるわね。

 私を含めた他の子も、結婚後はユーリ様以外はフレイドランシアを名乗る事になりそうだわ。

 いえ、夫との合意があれば別姓でも良いんだから、ちょっと大和君に相談してみよう。


「それから4回目の国際会議サミットだが、これは3日後に開催される。今度は出席するか?」

「遠慮しますよ。王権の星球儀も作らないといけないし、MARSの事もありますから」

「星球儀という事は、クラテル迷宮では良い素材が手に入ったのか?」

「ええ、入りました。ちゃんと献上用の魔物もあります」

「驚くわよ?」

「ほう、それは楽しみだな」


 ラインハルト陛下も深層に高ランクモンスターが生息してる事は予想してたそうだけど、さすがにロイヤル・クロウラーやインペリアル・クロウラーの事は予想外だったようで、凄く驚いていた。


「ロイヤル・クロウラーどころかその上まで……。インペリアル・クロウラーという名だったのは初めて知ったが、これはとんでもないな」


 ラインハルト陛下とマルカ殿下もエンシェントクラスに進化してるし、エリス殿下も近いでしょうから、グランシルク・クロウラーとオアシス・スパイダーも献上が決まったわ。

 魔石も、アミスター王家とトラレンシア王家が所有してない物はアミスター優先で献上するけど、残りは私達が所持するし、素材も同様。

 だけど解体には時間が掛かるから、献上品よりも王権に使う素材を優先してくれとも言われたわね。


「MランクどころかAランクもそれだけ狩れたという事は、MARSの開発も再開出来るという事か」

「そのつもりです。だけどその前に、通信具を改良しようと思ってます」

「通信具を?今でも十分素晴らしい魔導具だと思うが?」


 ヒルデ様やマナ様も言ってたけど、ヘリオスオーブで遠距離通信が可能な魔導具は、大和君が開発した通信具が初になる。

 今までは従魔、召喚獣に乗るか手紙を括り付けた鳥を使うかしか方法が無かったんだけど、どちらも魔物に襲われてしまう可能性は低くないから、連絡が出来なかった事もよくあったそうね。

 実際、大和君とプリムがフィールを救ったっていう連絡は鳥を使ってフロートに報せたそうだけど、こっちは運良く辿り着けていたって聞いてる。

 逆にメモリアでオーダーが無法を働いていた件は、鳥が魔物に捕食されてフロートまで届いてない可能性があったから、信頼できるハンターに依頼を出した直後だったって話ね。


 だけど通信具を使えば瞬時に相手と連絡を取る事が出来るから、情報伝達速度は比べ物にならないぐらい早くなった。

 クラフターズギルドには製法のみを広める魔導具があるそうだけど、あれは厳密には魔導具じゃないらしいし、本当に製法以外の用途じゃ使えないそうだから、ちょっと違うわね。

 あと奏上魔法デヴォートマジックトラベリングを使うっていう手もあるけど、トラベリングはエンシェントクラスでなければ使えないそうだし、かなり難易度が高い魔法でもあるから、過去のエンシェントクラスでも習得出来た人はかなり珍しかったらしいわ。

 確かシンイチさんとエリエール様は使えたけど、カズシさんとジャンヌ様、Oランクハンター ブラストさんは使えなかったって話じゃなかったかしら?


「いや、俺も満足してたんですけど、地球の通信機と比べると足りないものが多かったんです。例えば誰からの通信だったのかとか」

「そんな高性能なのか」

「確かにそうなんですが、みんな当たり前のように使ってるんで、逆に気付かなかったってのもあります」


 確かに留守録とか不在着信とかナンバーディスプレイとか、あって当たり前の機能だから、私も今まで気付かなかったのよね。

 メールやグループチャットの方が活用されてたからっていう理由もあるけど。


「それは凄いな。では大和君は、最低でもその不在着信という機能は付けておきたいと?」

「正確には着信を報せる魔導具を作ろうかなと。身に付ける事が出来れば尚良いですね」


 ああ、大和君はそっちの考えなのか。

 私は留守録機能を付けたらいいんじゃないかと思ってたけど、確かにそっちの方が着信があった事は分かりやすいし、ラインハルト陛下が動けなくてもエリス殿下やマルカ殿下、シエル様が対応すればいいだけだわ。

 だけど通信の魔力波?をさらに小型の魔導具にも飛ばそうって事なんだから、かなり大変だし、私も何か良いアイディアがないか考えてみましょう。

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