国際会議
クラテル迷宮でラインハルト陛下とマルカ殿下がエンシェントクラスに進化した2日後、再びフロートで会議が開催された。
前回参加したギムノス獣王にライアー大公、ウルス議員、カタリーナ議員、グランド・マスター達は継続して参加だが、今回はバレンティアのフォリアス竜王とハルート王子、アレグリアのグレイス・アレグリア公王、リベルター橋上都市の議員も5名が参加している。
アレグリア公王が女王だったのは知らなかったが、20年以上も王位に就いているから貫禄があるし、実年齢43歳なのにハイウルフィーだからすげえ若く見える。
ソレムネとレティセンシアを除く国の要人が集まった事もあって、正式に
連邦国家になったら、参加国は年に一度の参加を義務付けるらしい。
「書状を拝見しましたが、思っていたよりも大事になっていたのですね」
「とはいえ、望ましい事でもある。我がアレグリアも、ソレムネの嫌がらせは受けていたからな。ギャザリング殿がおられるから軍事衝突は起こらなかったが、この先どうなるかは分からなかった。そのソレムネが滅び、アミスターを中心とした連邦国家を樹立し、フィリアス大陸を1つに纏めるという案には、私も賛成だ」
フォリアス陛下とグレイス陛下も、連邦国家への参加は前向きに検討しているらしい。
前回の内容を書状に認めて渡してはいるんだが、どっちかの国は渋るんじゃないかと思ってたから、少し意外に感じる。
「バリエンテとリベルターは、それぞれが王爵や公爵、橋上都市代表の分割統治になるが、トラレンシア、バレンティア、アレグリアは現状で構わないと思っている。特にバレンティアは、ようやく落ち着きが見えてきたと聞いているから、下手に分譲し、独立を促す訳にはいかないだろう?」
「そうですね。むしろ連邦に参加する事で、反対する貴族の権力を削ぐ事ができますから、最初は混乱するでしょうが、長くは続かないでしょう」
東西に分裂する危険性があったバレンティアだが、俺達に絡んだナールシュタットが反乱を企てていた事が発覚し、実家のニズヘーグ公爵家は改易され、一族は処刑されている。
その影響で、ナールシュタットに付き従っていたバレンティア東部の貴族達は権力や影響力を徹底的に削がれ、降爵どころか改易された貴族家もあるそうだ。
貴族の勢力が強かったバレンティアだが、徐々に竜王家の勢力が東部にも進出しているし、貴族家の次男以降に爵位と領地を与えて権力も強めているから、強権を見せびらかす貴族も以前の半分以下になり、減税もされた事で一般人の生活にも余裕が出てきているとも言っていた。
その上でアミスターを宗主国とする連邦国家に参加となれば、そんな事をする貴族は絶滅し、バレンティアがますます発展するだろうって考えてるみたいだ。
まあ、実際には貴族の意識改革もしなきゃだから、数十年はかかるだろうが。
「アレグリアは貴族も少ないから、大きな問題は起こらないだろうな。むしろギャザリング殿が亡くなった後どうなるかが怖かったから、この提案は渡りに船だ」
アレグリアにとっては、そっちの方が問題か。
グランド・ハンターズマスターは200歳を超える高齢だから、失礼な話いつポックリと逝かれてもおかしくはなかったりする。
エンシェントクラスの寿命は約250年だと言われているが、エンシェントクラスまで進化出来た人は過去の歴史を紐解いても十数人程度だから、絶対という訳じゃない。
Oランクオーダー、ジャンヌ・キルシュリヒトのように、戦場で命を落とす場合だってあり得るんだからな。
「バレンティアもアレグリアも、乗り気のようですな」
「法はアミスター準拠だが、そちらの方が都合が良い。特に王族や貴族のギルド登録が必須となれば、意識改革は進むだろう」
「バレンティアも同様です。さらにこちらは、兄上から口にして頂いた方が良いでしょう」
「では失礼する。かの愚竜王が
確かにバレンティアで、そんな話を聞いたな。
ソウヤ・トマリは
今から90年程前にヘリオスオーブに転移してきたらしいが、そこはバレンティアのウィルネス山付近だった。
ガイア様と出会ったのは偶然らしいが、紆余曲折の末にソウヤさんはウィルネス山にあるドラゴニアンの城クリスタル・パレスに住まう事になり、クラフターとして活動すると同時にガイア様と結婚し、現在はウィルネス山の防衛を担っている3人のハイドラゴニアンとの間にも子供を成している。
最終的にはAランククラフターにまで昇格しているんだが、ソウヤさんが開発した新技術は、当時バレンティアを治めていた竜王や貴族に目を付けられ、クラフターズギルドから製法の多くを買い占められ、独占されてしまった。
のみならず、ソウヤさんの身柄すら狙っていたらしい。
当然ドラゴニアンがそんな真似を許すはずがないんだが、その愚竜王や馬鹿貴族はドラゴニアンの隷属まで考えて、実践に移す直前だったから始末に悪い。
当時の王太子が愚竜王を退位に追い込み、馬鹿貴族達も処罰したから危機は免れたが、独占する事になってしまった魔導具に関してはクラフターズギルドに製法を戻す事も出来ず、国際的な信用を失墜させ、孤立しかけていたようだ。
「だがバレンティアがアミスター主体となる連邦に参加する事になれば、製法の独占も意味を為さなくなる」
なるほど、同じ国になるんだから、確かに製法を独占するメリットが無くなる。
皆無って訳じゃないんだが、ソウヤさんは遺言で代替の魔導具の開発を後世に託していたし、クラフターズギルドも開発に成功したら、クラフターズランクの無条件昇格を明言しているぐらいだからな。
「なるほど、つまり現在バレンティアが独占している魔導具の数々を、再びクラフターズギルドを通じて全国民が使えるようになるという事か」
「ええ。ソウヤ殿の開発した魔導具は確かに優れていますが、バレンティアが独占してしまっている事もあり、性能的には当時の物と変わりません。いえ、ソウヤ殿の開発した魔導具より性能的には劣っていると聞いていますから、製法を公開すれば、遠くない内に改良が加えられるでしょう。それは民達にとって、プラスにこそなれマイナスになるような事ではありません」
竜王家にとって、ソウヤさんの魔導具の製法公開は悲願でもある。
もちろんそれだけで参加を決めた訳じゃないだろうが、理由の1つなのも間違いないと思う。
「リベルターは、橋上都市を首都とした小国として独立と伺っておりますが、放棄せざるを得ない都市もありますし、議員を辞したいと口にしている者もおります。その土地をどうするかが問題ですね」
一通りバレンティアとアレグリアについての意見が出尽くした後、テメラリオ大空壁の麓にあり、テメラリオ迷宮が最も近い橋上都市グランレーヴェ代表のアイスリヒト・グランレーヴェ議員が口を開いた。
20ある橋上都市の内、7都市が復興も出来ない程破壊され、内2都市は代表の議員が命を落としている。
さらにフォーマルハウトは代表だったグスタフがリベルターという国を自らの利益のために裏切っていたため、放棄される事も決まったそうだ。
これで再建する橋上都市は10都市となるんだが、その中の2都市の代表が、連邦国家案を聞いて引退を表明したらしい。
高齢だっていう理由もあるが、リベルターを守れなかった責任も感じているからって話だ。
「飛び地にする意味もないから、近隣の都市国家に併合というのが無難だろうな」
「それしかありませんか。ということはリベルターは、8つの都市国家に分裂する形になります」
ラインハルト陛下の言うように飛び地を管理させる意味も理由も見当たらないから、それが無難というか、それしかないよな。
立地的に領地が増えない都市も出てくるみたいだが、代表達はあまり気にしていない。
税収による利益は発生するが、統治の面倒さと天秤にかけてまでとは思ってないようだ。
「8つですか。ではリベルター地方の8ヶ国、バリエンテ地方の5ヶ国と、13人の王が新しく誕生する訳ですね」
「そうですな。統治方法については各国に任せるとの事ですが、リベルターのような議会制を用いてもよろしいのですか?」
「統治に関しては、なるべく口を出さないようにするつもりだ」
とはいえ放置というのも問題でしかないから、アミスターから大使を派遣し、監視、というか監査を常に行う事にも決まった。
大使と違って外交を担う訳じゃないから、名称は少し変わる事になるとも言ってたな。
そっちも大事だが、もっと大事なこともある。
「ところでラインハルト陛下はエンシェントエルフに進化されたようだが、やはり初代天帝は陛下が?」
「そうなる。というか、そのために進化させられた面もあるからな。今更イヤだとは言えない」
「まあ確かに。むしろラインハルト陛下以外の方が天帝に即位されても、納得はできませんからな」
ライアー大公の言う通りだ。
だから一昨日はクラテル迷宮に行って、ラインハルト陛下がエンシェントエルフに進化出来るように頑張ったんだからな。
とはいえラインハルト陛下は、レベル66になるまで進化出来なかったから、予想よりも時間掛かったんだが。
ちなみにエリス殿下もレベル59に、サユリ様もレベル60になってるし、妊娠中のマルカ殿下に至ってはレベル62のエンシェントラビトリーに進化までしちまったぞ。
シエル様はレベル28、セラス様はレベル32になってるんだが、急性魔力変動症が怖いから、ペースは落としてもらっていた。
そこまでレベルは上がってないから、まあ大丈夫だろう。
「当然ですね。それで、新しい国名は決まっているのですか?」
「正式決定した訳ではないが、いくつか候補がある」
新しい国名は、当然だが必要になる。
俺達も考えるように言われたから案を出したしな。
ちなみに俺が考えた国名は、アミスター・フィリアス連邦天帝国だ。
アミスター及びフィリアス大陸国家連邦による天帝国、って真子さんに言われたが、そこまで長ったらしい名前を考えたつもりはなかったし、そんな国名あるのかよって思ったが、地球でも実在してるって言われてしまった。
知らんかったぞ、そんな事。
「ふむ、どれにするか、悩みますな」
「ですがこの国名が、フィリアス大陸の未来を表しているように感じますね」
「同感だな」
「うむ。他の名も悪くないが、意味としてもこの国名が優れていると言える」
ところがライアー大公、フォリアス竜王、グレイス公王、ギムノス獣王が選んだのは、俺が考えた国名だったりする。
「ふむ、ではこれで決定ということでよろしいか?」
「異議はありません」
「同じく」
「私もだ」
「我も同意する」
ギャー!
マジでそれに決まりなんですか!?
いや、他の国名だって分かりやすくて良いじゃないですか!
「では私の戴冠式から、国名を変える事になる。同時に連邦天帝国成立の宣言も行うつもりだが、構わないだろうか?」
「無論です」
「我らも出席させていただくべきであろう」
「そうだな」
詰めるべき話はまだあるが、4月に予定されてるラインハルト陛下の戴冠式で宣言も行う事に決まったか。
本来ならその戴冠式でアミスター国王として正式に戴冠するはずだったんだが、フィリアス大陸を統べる天帝としての即位と戴冠に変わる事になるな。
それまでにバリエンテとリベルターは国境を決めて、君主もどうするかを決めないといけない。
トラレンシアやバレンティア、アレグリアだって、正式に参加するかどうかを公表しなきゃならないから、あと1ヶ月ちょっとの時間でどこまで出来るかだな。
いや、出来なくてもやるしかないんだが。
俺達も出来る限りで手伝えるように頑張りますか。
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