王妃の急病と試作通信具
バトラーズギルドでルミナさん、アリス、ローレル、フィレとの契約、マリサさん、ヴィオラ、ユリア、エオスとの契約変更、そしてユニオン・ハウスの管理をお願いするCランクバトラー3人とも無事に契約が終わった。
Sランク1人、Bランク1人、Cランク2人と正式に契約し、ユニオンへの加入まで行ったからなのか、新しく契約するCランクバトラーは短期のままで、次に契約する場合は別のバトラーをお願いしたいとオルキスさんに頼まれてしまったが、バトラーズギルドの事情もあるし、少し無理を聞いてもらった気もするから、3人のCランクバトラーとの契約内容は、Cランクバトラーの限界になる3ヶ月になっている。
その後でプリスターズギルドに寄ってマリサさん達のインベントリ登録を行い、ハンターズギルドで午前中に狩った魔物の解体依頼にアプリコットさんのウイング・クレスト加入手続きを無事に終えた。
後は契約した4人をアルカに案内するだけなんだが、マリーナにアプリコットさん用のクレスト・ディフェンダーコートも頼まないとだな。
採寸は終わってデザインも決まってるんだが、アプリコットさんはヒーラーって事で、武器を持つつもりはないらしい。
だけどプリムの実母で俺にとっても義母って事になるんだから、良からぬことを考える馬鹿どもに狙われる可能性は否定できない。
だからどうするかを悩んだんだが、Gランクモンスターの魔石を天魔石に加工して、両肩と両腰の計4ヶ所に装備させてみようと思う。
装甲板を上手く使えば、天魔石を付けてる事も気付かれないで済むだろう。
星球儀と比べると魔石のランクが2つ下がってしまうが、アプリコットさんの安全を守るためにも、過剰なまでの魔法を付与させる所存だ。
バトラー4人の分は仕立てないが、代わりにバトラーズ・ウェアを用意するし、武器もこっちで製作する予定になっている。
ルミナさんのコートは、仕立ててもいいかもしれないけどな。
「ママ―!」
「こら、ユニー。申し訳ありません、ユニーのお世話をお任せしてしまって」
「いえ、ユニーちゃんは素直で手も掛かりませんし、私達にとっても、良い予行演習になりますから。きゃあっ!」
「も、申し訳ありません!」
なんていうリディアだが、ユニーはいきなりリディアのスカートを捲りやがった。
あ、今日は黒なんですね。
クレスト・ディフェンダーコートなら下着が見えないようにスパッツみたいなのも穿いてるんだが、今日は普段着だからな。
じゃねえよ!
3歳だから悪意は無いんだろうが、ルミナさんも平謝りだな。
「子供のやる事だし、多少は大目に見るわよ。それと、この銀杏殿がバトラーの宿舎になるわ。2階と3階は個室だけど、3階はエオスとルミナの部屋になるから」
マナがバトラーの宿舎になる銀杏殿の案内をしている。
4つある副殿は、外観はもちろんだが、部屋割りも微妙に異なっている。
1階は渡殿に繋がる玄関や広いリビング、厨房に応接室があり、2階は客室、3階は主人が使うような大きな部屋で、4階は眺望風呂だ。
だが銀杏殿はバトラーの宿舎になる事が決まり、3階の改装が行われている。
主にルミナさんとユニー親子のためではあるんだが、サブチーフ・バトラーが一番良い部屋を使ってるっていうのも問題だから、3階の大部屋は家族で使えるような、マンションみたいな感じの間取りに変更し、それを3部屋用意してみた。
現時点で子供がいるのはルミナさんだけだが、他のバトラーも子供が出来るかもしれないし、子持ちバトラーと契約する事もあるかもしれないから先に手を打っておいたわけだが、3部屋じゃ足りないかもしれないのが問題か。
だから近い内に2階も改装して、同じような間取りの部屋にするつもりだ。
「こ、こんな所に住めるんですか?」
「お空に浮かぶ島とは伺っていましたが、こんな凄いところだったなんて……」
ローレルとフィレが、思いっきり尻込みしてるな。
客室は30平米ぐらいだが、住み込みで働く使用人の部屋としては広いかもしれない。
改装後は2部屋を合わせる予定だが、一部だけにしておくべきか。
「トイレは各階にあるから、それを使ってもらう事になるわ。4階は眺望風呂っていうお風呂になってるから、好きに使ってね。ああ、もちろん湯殿も使ってもらって構わないから」
「は、はい……」
「ありがとう、ございます……」
風呂の事も驚いてるな。
ヘリオスオーブじゃ、一般家庭では風呂は用意できない。
魔導具で水を用意すればいいんじゃないかって思うだろうが、風呂に使うような量を用意するのは大変だし、お湯を沸かす必要もあるから、手間だけじゃなくコストも掛かるって事で、貴族や豪商でもなければ持ってないんだよ。
ウォッシングっていう
それでも週に一度は、大きな宿なんかが、有料ではあるが風呂を解放してるから、入浴っていう文化はあるし、温泉街なんかも存在してるって聞いている。
そういや、ヘリオスオーブの温泉には行った事なかったな。
アミスターとリベルター、バリエンテにもあるみたいだから、余裕が出来たら温泉巡りも良さそうだ。
「部屋が決まったら、本殿2階のリビングに来てくれ。フラムとマリーナが、バトラーズ・ウェアの採寸をするために待ってるから」
「かしこまりました」
バトラーが仕事に使っているバトラーズ・ウェアは、ウイング・クレストでも専用で仕立てる事になっている。
完成するまでは今使ってる物をそのまま使ってもらうが、仕立て終わればそれが正装になる。
だから採寸は必須だ。
問題は、ユニーの服をどうするかなんだよな。
フラムは仕立師を目指してるから、練習のためにユニーの服を仕立ててもらうってのはアリかもしれんが。
布を織るには機織り機とかが必要だが、ヘリオスオーブには魔法がある。
昔は機織り機を使ってたそうだが、和服っぽい服を手早く作りたかったサユリ様が、頑張って奏上したんだそうだ。
おかげで布の用意が簡単になったから服の値段も下がり、逆にバリエーションが増えるきっかけにもなったから、最初は仕立師とかに文句を言われたそうだが、需要が増えてからは掌を返されたって言ってたぞ。
まあドローイングと同じくセンスが問われる魔法だから、俺やエドは苦手なんだが。
「クラフターも面白そうよね。私も登録してみようかな?」
「面白いっちゃ面白いけど、やり始めると止まらなくなりますよ?」
真子さんもクラフター登録をしようかとか言い始めたが、調理に裁縫以外でも出来る事は多いし、
それに真子さんは絵心があるから、是非ともクラフター登録をして、俺の刻印具に入ってるゲームの武器とか防具とかをドローイングで描き写してもらいたい。
フラムやマリーナのドローイングも綺麗で正確なんだが、2人は刻印具の操作が出来ないからな。
「少し考えるけどね。あ、私はこの後、ユーリ様、キャロルちゃんと一緒に天樹城に行ってくるから」
「はい?」
いや、なんで天樹城に?
というか、午前中に行ったばかりですよ?
「マルカお義姉様の体調が思わしくないようでしたから、サユリおばあ様に言われて、私達も診察をする事になったんです。大事には至らないと思いますが、それでも経験になるからと言われてしまったので」
マルカ殿下、体調崩してたのか。
だけどハイクラスは病気にほとんど罹らないはずだから、病気って訳じゃないんだろうが……。
あ、もしかして今日の狩りで無理をさせすぎたから、疲れが出たとかか?
「それも踏まえて、私達も診察をしてみるようにとの事なんです」
どうやら帰り際に言われたらしいが、多分サユリ様はマルカ殿下の診察を終えているな。
俺は全く気が付かなかったが、ユーリやキャロルも同じく気が付かなかったみたいだし、真子さんはマルカ殿下があまり前に出なかった事が気になってた程度だから、どうやって気が付いたんだろうか?
「予想は付いてるけど、こればっかりは直接確認しないと断定出来ないからね」
それでも真子さんは、予想付いてるのか。
「私も何となく分かったけど、そういう事なら大勢で押しかけない方が良さそうね」
「え?マナ様も分かったんですか?」
驚いた声を上げるラウスだが、俺もまだ分かってないぞ。
というか、女性陣は分かったって感じの雰囲気になってるんだが、教えてくれないのか?
「確定したらね。不確かな情報を広めるのもどうかと思うから」
まあ一国の王妃様だし、それは分からんでもないが。
見舞いも確定してからにしないと、余計な騒ぎになるだけだって言われてしまったら、俺としても何も言えないしな。
「じゃあ俺は、工芸殿に籠るか。もうじき通信具の試作も出来るから、ソレムネに行く前には完成させておきたい」
「確かに距離があっても話が出来る魔導具は、これからの事を考えたら必要になるわね」
「面白そうだし、俺も今は手が空いてるからな、手伝うぜ」
「おう、頼む」
エドも手伝ってくれるんなら、今日中に何とかなるかもしれないな。
「俺はレイナとセラスさんを連れて、ちょっと狩りに行ってきます」
「あ、それならあたしも行くわ」
ラウスはレイナ、セラス様と一緒に狩りで、プリムも同行するのか。
こないだのビースト・ブレインとかいうレイドの事もあるし、まだレオナス元王子側のハンターが出てくる可能性は否定出来ないからだろう。
まあピンポイントでフィールに来るようなハンターは、そうそういないとも思うけどな。
マナとミーナ、リディア、ルディア、アテナ、カメリアも行くみたいだし、問題は無いか。
「私はマリーナさんやフラムさんと一緒にルミナさん達の採寸をしてから、バトラーズ・ウェアの製作に入ります」
「私はお手伝い程度しか出来ませんから、ユニーちゃんの服を仕立ててみますね」
フラム、マリーナ、フィーナは、契約した4人の採寸をしてから、バトラーズ・ウェアの製作、フラムはユニーの服の製作か。
って事は、採寸が終わったら工芸殿に来るな。
ヴィオラとユリアはユーリ達に同行するが、エオスとマリサさんは4人の案内をしてくれるみたいだから、こっちは任せてしまおう。
予定は決まったから、みんなはすぐに行動を開始した。
俺も工芸殿に行くかな。
「ふむ、ウォータースクリーンが良い感じになってきたな」
「ああ。
「まあなぁ」
パソコンラックサイズの筐体が3台、俺とエドの前に並んでいるが、映像の天魔石を通じてしっかりと俺達の姿をウォータースクリーンに映し出してくれている。
まだ工芸殿内でしか通信状況の確認は出来てないが、通信者の魔力を使う感じになってるから、多分大丈夫だろう。
もちろんこの後、しっかりと確認するけどな。
その映像の天魔石だが、ウォータースクリーンを使う関係上、水属性の魔石が最も適している。
だが出力の問題があったため、クラテル迷宮で手に入れたシー・サーペントとグレートブレード・フィッシュというP-Iランクモンスターの魔石を使わざるを得なかった。
その魔石に
おかげで映像はかなりクリアになっているんだが、使った魔石が魔石だから、3台しか用意出来なかった。
シー・サーペントの魔石があと1個残ってるが、これは予備として置いておくべきだから、今の所はこれ以上増やせないんだよな。
音声に関しては、最近マイライトに生息しているウインド・ロックの異常種ストーム・ファルコンが3匹を狩れたから、その魔石に
最初は
「エド、俺は1番と2番を持って、適当なとこに行ってくる。悪いがここで待っててくれ」
「あいよ」
3番の試作通信具をエドに任せて、俺は1番と2番の試作通信具をストレージに収納し、アルカから下りた。
トラベリングが使えるから、通信具が使えるエリアを調べるのが楽で良い。
早速起動させよう。
「エド、聞こえるか?」
「おう、バッチリだ」
「こっちもだ。姿もしっかり見えるな」
「だな。今どこにいるんだ?」
「最初だからな、メモリアの近くにいるよ」
アルカは天樹を中心に回ってるが、フロートだと近すぎるから、最初はメモリアの近くにしてみた。
だけど問題は無さそうだな。
「ああ、アルカは天樹を回ってるから、確かに丁度良いか」
「そういう事だ。次は場所を変えてみる」
「分かった。待ってるぜ」
なかなか良い感じだな。
続いてドラグニア近くの荒野に転移したが、そこでも問題なく使えたし、ゴルド大氷河やプライア砂漠、果てはイスタント迷宮でも問題無かった。
ヘリオスオーブには電波はないが、魔力は大気中どころか水中にも満ちてるから、多分魔力さえあれば大丈夫なんだと思う。
大型だし、ストレージやインベントリに収納してると使えないから、そこを何とか出来れば完璧に近いだろう。
だけどソレムネに行く前に試作が完成したから、是非とも持っていこう。
3台あるから、俺達にヒルデ、そしてラインハルト陛下が使う事になるかな。
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