バトラーとの契約

Side・ミーナ


 イデアル連山で狩りを終えた後、大和さんの提案でプリスターズギルド総本部に行くことになったのですが、そこで大和さんが、インベントリングという新しい魔法を奏上されました。

 ストレージングとステータリングを使える事が大前提の魔法ですが、それらと連動して登録した者が共有で使えるインベントリという空間収納が使えるようになりますから、ハンターにとっては是非とも覚えたい魔法です。

 私達だけではなく、一緒に来られていたリリー・ウィッシュや兄夫婦も登録していましたし、近い内にラインハルト陛下御夫妻やアライアンスに参加していたレイドだけではなく、多くのハンターズレイドが使うようになるでしょう。

 ですが予定外の事でもあったため、アルカでのお昼ご飯は少し遅くなってしまいました。

 いえ、便利な魔法ですしそれは別に構わないのですが、この後はフィールのバトラーズギルドで、ユニオン・ハウスの管理をしてくれているバトラー4人と契約を行うのですから、あまり待たせるのもどうかと思うんです。


「私も登録したいですぅ……」


 ところが本日は体調不良でアルカに残っていたレベッカちゃんが、インベントリングの登録をしたいと言いながら、成長痛で歩くのもままならない体を引きずって本殿にやってきました。


「いや、登録したい気持ちは分かるが、もう少し痛みが引いてからの方が良いんじゃないか?」

「だって面白そうじゃないですかぁ!」


 駄々をこねるレベッカちゃんですが、気持ちは分かります。

 それにレベッカちゃんのストレージにも、けっこうな数の魔物が収納されていますから、自分のストレージを整理したいという気持ちもあるのでしょう。

 あ、それでしたら、今回はアルカに残られていたエドさん達やハイバトラー達も、登録しておくべきですね。


「ならラウス達はエド達も連れて、プリスターズギルドに行ってもらえばいいんじゃない?」

「それが無難か。だけどレベッカ、無理すれば明日も大変なんだから、そこだけは気を付けろよ」

「ありがとうございますぅ!」


 そうなりますよね。


「じゃあ俺達は、バトラーズギルドに行くか」

「ええ。今日は4人を呼んで、ユニオン・ハウスで待機してもらってるし、早く行きましょう」


 ユニオン・ハウスの管理をお願いする日ではなかったのですが、今日バトラー契約をする事は伝えていますから、ルミナさんの娘さんのユニーちゃんも来ていますよ。


「それからアプリコットさん、バトラー契約が終わったらハンターズギルドに解体依頼を出しに行くんですけど、そこで加入手続きをしてもいいですか?」

「ええ、お願いね」


 プリムさんのお母様アプリコット様も、ウイング・クレストに加入される事になりましたから、その後はハンターズギルドですか。

 いえ、先程狩ったフェザー・ドレイクやウインガー・ドレイク、シェル・グリズリーの解体をお願いしないといけませんから、その方が良いですね。

 とはいえ全員で行く必要はありませんし、ユニーちゃんは先にアルカに連れてくる事になっていますから、リディアさん、アテナさん、アリアちゃんは残られますし、ユーリ様は真子さんと一緒にヒーラーズランクの昇格試験対策のお勉強、フラムさんとルディアさんはクラフターズギルドへ納品するための品の製作をする事になっています。

 ですからバトラーズギルドに向かうのは、私と大和さん、プリムさん、マナ様、ハイバトラーの4人、そしてアプリコット様となります。


「それじゃあ行くか」

「なるべく早く帰ってくるから、留守番よろしくね」

「はい」

「気を付けて行ってきてね」


 留守番をされる皆さんに見送られて、大和さんが本殿1階に設置してある、フィールのユニオン・ハウスに対応しているゲート・ストーンを起動させました。

 ゲート・クリスタルは日ノ本屋敷の入口にある鳥居近くに転移しますが、ゲート・ストーンは対になっているゲート・ストーン近くに転移します。

 ユニオン・ハウスは3階の一室にゲート・ストーンを設置していますから、転移先はそこになります。

 ですからフィールから転移する場合でも、転移先は日ノ本屋敷本殿前となるんです。

 そのお部屋に転移した私達は、ユニオン・ハウスで待機している4人のバトラーと合流し、バトラーズギルドに向かいました。

 予定通りユニーちゃんは、迎えに来たリディアさんとアリアちゃんに連れられてアルカに行っています。


 バトラーズギルドには昨日の内に伝えてありますから、すぐに応接室に通され、バトラーズマスター オルキスさんもやってこられました。

 他のギルドもそうなんですが、私達が来るとギルドマスターが出てくる事が増えているんですよね。


「お待ちしておりました。どうぞ、お掛け下さい」


 オルキスさんに促されて、私達は応接室の中央に設えられているソファに腰を下ろしました。

 ルミナさん達はこれから契約ということで、私達より後方にある椅子に座っています。


「本日はルミナ、アリス、ローレル、フィレとの契約とお聞きしております」

「ええ」


 オルキスさんに促されて、大和さんが契約内容について説明を始めました。


 今回登録するルミナさん、アリスさん、ローレルちゃん、フィレちゃんの4人は、ウイング・クレストに加入し、ユニオン・ハウスに加えてアルカの管理も行う。

 マリサさん、ヴィオラちゃん、ユリアちゃんは、それぞれマナ様、ユーリ様、キャロル様の侍女としての業務を優先。

 ヒルデ様の侍女ミレイさんも、加入時は同じ条件。

 チーフ・バトラーのエオスさんはアテナさんの侍女でもあるため、ルミナさんをサブチーフ・バトラーとして契約し、補佐を行ってもらう。

 衣食住はウイング・クレストが負担する。

 但し専用バトラーズ・ウェアは製作中のため、完成するまでは各自のウェアを着用。

 資格試験は、個人の判断に任せる。

 報酬はバトラーズランクに準じ、内容によっては増額あり。

 ウイング・クレストという特殊なユニオンに加入するため、戦闘訓練も行われる。

 武器や防具はウイング・クレストが用意するが、武器の形状については希望に沿う。

 ルミナさんの娘ユニーちゃんは、成人するまでウイング・クレストで引き取り、養育を行う。

 恋愛や結婚は個人の自由なので干渉しないが、ウイング・クレストに害を為すと判断された場合は介入する。

 脱退する場合は、それまでの働きに見合った報酬を別途用意する。


 こんな感じでしょうか。

 バトラーとしてはかなりの好条件だそうですし、ルミナさんにはユニーちゃんもいますから、これ以上の条件は無いとまで言われています。


「戦闘訓練という項目が気になりますが、ウイング・クレストの皆さんの事を考えると、仕方のないことですか」

「大丈夫だとは思うけど、馬鹿はどこにでもいますからね」


 大和さんとプリムさんを交互に見やりながら呟くオルキスさん。

 気持ちは分かりますが、先日ラウス君が絡まれたばかりですから、これは譲れないんですよ。

 ハンターでもあるルミナさんはレベル33ですから、少々の荒事は何とかできると思いますが、アリスさん、ローレルちゃん、フィレちゃんは年齢相当のレベルですから。


「それ以外は、特に大きな問題はありません。いえ、貴族でも稀に見る好条件です。これを断るバトラーはいないでしょう」


 私達の提示した条件は、Sランクバトラーでも滅多にない条件だそうです。

 Sランクバトラーはほとんど永続的な契約になりますが、ほとんどのバトラーがBランクの頃から仕えていた方と契約しています。

 ですから条件としては、最初に行った契約に色がつく程度だったりする事もありますし、資格試験に関しては契約者の希望が優先される契約がほとんどですし、子供がいる場合は、養育費としていくらか引かれる事も普通のようです。

 Gランクバトラーに昇格出来ればバトラーズギルドからの報酬額が上がりますが、働き次第で報酬を増額されるような事もあまりないと聞きます。


「じゃあ問題ないようなら、これでお願いします」

「かしこまりました。ルミナ、アリス、ローレル、フィレ。よろしいですか?」


 オルキスさんの最終確認に、4人共首を縦に振ってくださいました。

 これで4人も、ウイング・クレストに加入ですか。


「それから今まで4人に頼んでたユニオン・ハウスの管理ですけど、うちはやる事が結構あるんで、今度は3人ぐらい別に派遣をお願いできますか?」

「かしこまりました。ランクはいかがなさいますか?」

「Cランクで構いません。基本的にはルミナさんの下についてもらう事になるだろうし、派遣も週に1回にするつもりなんで」

「かしこまりました」


 座りながら一礼すると、オルキスさんは応接室に控えている職員に指示を出しはじめました。

 フィールのバトラーズギルドの登録者は200名程だそうでが、バトラーをメインでされている方はその半分にも満たないそうです。

 貴族の避暑地になっていますから、別邸を管理するために契約しているバトラーが多く、Bランクバトラーは半数近くが、Sランク以上のバトラーはほとんど全てが貴族別邸の維持管理の為に住み込みで働いています。

 貴族がフィールに来られた場合は、Cランクバトラーも短期派遣される事になるそうですが、年に一度あるかないかですから、特に低ランクのバトラーは、副業としてクラフターズギルドやトレーダーズギルドに登録しているんだとか。

 実際アリスさんとフィレちゃんはクラフターズギルドに、ローレルちゃんはヒーラーズギルドに登録していますし、稼ぎとしてはそちらの方が多いと言っていました。

 ハンターズギルドに登録しているルミナさんも同様ですね。


「只今Cランクバトラーを連れて参ります。その間にルミナの昇格手続きを行わせて頂きますがよろしいでしょうか?」

「ええ、お願いします」


 あ、やっぱりルミナさんは昇格されるんですね。

 バトラーズランクの昇格は、資格試験で取得した技能数と、派遣されている年数と経験になります。

 ルミナさんはバトラー登録をされて5年以上経っていますから、経験不足ということはないと思います。

 後は技能ですが、ハンターでもあるルミナさんは自分で狩った魔物を解体するために、魔物解体師の資格を取られたそうです。

 他には自分のバトル・ホースのお世話をするために育成師の資格を、調理の手伝いとして派遣される事が多かったため、調理師の資格を取られたと聞きました。

 ですから昇格条件は満たしているのですが、ルミナさんがSランクに昇格出来なかった理由は、ユニーちゃんという娘さんがいるため、長期契約が難しかったからです。

 貴族別邸で契約されているBランクバトラーは多いのですが、契約期間は1年ですし、期間が来ればそのまま契約終了という流れがほとんどみたいなんです。

 これは他のBランクバトラーにも経験を積んでもらうためという理由の他にも、資格試験を受けるための準備という理由もあるそうです。

 Sランクバトラーへの昇格には2つ以上の技能習得という条件もありますが、Bランクのまま長期契約をしてしまうと、資格試験の勉強をする余裕が無く、結果として昇格試験を受けられないといった事案が発生してしまう恐れがあるため、バトラーズギルドとしてもBランクバトラーの長期契約は、あまり歓迎しないんです。

 ですが私達と契約したアリスさん、ローレルちゃん、フィレちゃんは、資格試験に関しての勉強時間も確保していますから、長期契約をしても問題がないと判断されました。

 既に3つの技能資格を取得しているルミナさんは、派遣年数や経験は問題ありませんから、後は長期契約が出来れば昇格という事になっていたそうです。


「それではルミナ、ライセンスを出してください」

「かしこまりました」


 オルキスさんはルミナさんからライセンスを受け取ると、バトラーズマスターのみが使える侍従魔法バトラーズマジックを使いました。

 バトラーズ・モディフィケーショニングという、ランクを書き換える魔法ですね。

 私もリオの街でグランド・ハンターズマスターに使って頂きましたが、あちらはその場にいた全ハンターのランクを書き換えていましたから、グランド・マスター専用だったそうですけど。


「終了しました。ルミナ、これであなたはSランクバトラーです。ランクに恥じないよう、一層の努力を期待します」

「ありがとうございます、バトラーズマスター。そしてウイング・クレストの皆様、これからよろしくお願い致します」


 ライセンスを受け取り、ルミナさんは優雅に一礼され、アリスさん、ローレルちゃん、フィレちゃんも続きました。

 後は呼びに行ってもらっているCランクバトラーとの契約ですが、こちらは今までと条件は大差ありませんから、特に問題は無いでしょう。

 マリサさん、ヴィオラちゃん、ユリアちゃん、エオスさんとの新しい契約も問題無く終わりましたから、これでひと段落ですね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る