空間収納魔法
昼過ぎまでイデアル連山で狩りをした俺達は、予定通りフロートに戻り、ハンターズギルドで魔物の買取と、シエル様とセラス様のランクアップ手続きを終えた。
レベルも上がって、シエル様はレベル24、セラス様はレベル29になっている。
あれからもそれなりの数の魔物を狩ったが、サユリ様はシェル・グリズリーやヘビーシェル・グリズリーだけじゃなく、ファランクス・グリズリーまで手に入ったことでウキウキしていたな。
まさかもう1匹ファランクス・グリズリーが出てくるとは思わなかったし、ヘビーシェル・グリズリーとの戦闘中に現れるとも思わなかった。
まあそのファランクス・グリズリーは、レックスさんが
他にはフェザー・ドレイクやスカイ・サーペント、キラー・ワスプにストーム・ライガー、数は少ないがウインガー・ドレイクにキラー・ワスプ・クイーンも狩ったな。
S-Nランクのキラー・ワスプは、シエル様もセラス様も何匹か倒せてるから、初の実戦の成果としてはまずまずだ。
「いや、まずまずどころか、初めての成果としてはあり得ないからね?」
呆れたような視線を向けてくるマルカ殿下だが、メンツがメンツなんだから、これでも大人しい方だと思います。
「それは否定しないけどね。それにしても、本当に良いの?」
「何が……ああ、グリズリーですか?」
「ええ。シェル・グリズリーやヘビーシェル・グリズリーはともかく、ファランクス・グリズリーなんて滅多に遭遇しないんだから、大和君達も1匹は手元に置いておいた方が良かったんじゃない?」
確かにサユリ様の言う通りかもしれないが、シェル・グリズリーを3匹こっちで確保させてもらったから、それで十分だと思いますよ。
「こちらで引き取っても、私達の調合の練習で無駄にしてしまうだけですから。それでしたらサユリおばあ様に調合して頂いた方が、世間の役に立ちますよ」
実際ユーリの言う通り、引き取ったシェル・グリズリーは解体後、ユーリ、キャロル、アプリコットさんの練習台として使われる事になっている。
シェル・グリズリーの肝1つからでも50本近い数のノーブル・ポーションが作れるし、3つあるから1人1つずつって事で気兼ねなく練習も出来るから、Mランクへの昇格も早まるだろう。
「それならいいんだけどね」
「フェザー・ドレイクやウインガー・ドレイクもこっちで貰いましたから、十分ですよ」
スカイ・サーペント1匹はマルカ殿下とシエル様に、残ったスカイ・サーペントとキラー・ワスプ、ストーム・ライガーはリリー・ウィッシュにって事で、話はまとまっている。
フェザー・ドレイクはゲート・クリスタルの、ウインガー・ドレイクはゲート・ストーンの素材だから金を払ってでも確保するつもりだったんだが、今回狩った魔物の中じゃランク的にも数的にも一番下だから、本当にそれで良いのかって何度も聞かれたな。
「それにしても、これだけの人数がストレージングを使ってると、買取をお願いする時が面倒ね」
「分かるわ。ステータリングのおかげで誰が何を持ってるかは確認しやすくなったけど、それでも結構な手間だもの」
サヤさんとプリムがそんな事を言ってるが、気持ちは分かる。
ストレージングは空間収納魔法だが、収納量は使用者の魔力に比例する。
だからレベルの高い人がストレージングを使うと、町1つ分ぐらいの量は簡単に収納できるし、俺やプリムは都市並の量を収納してもまだ余裕がある。
だがそのせいで、何を収納しているかの確認が凄まじく面倒になってしまう。
俺が奏上したステータリングを使う事で、何を収納しているかは確認出来るんだが、同じ物を複数人が持ってるなんて事はザラにあるから、魔物の買取を依頼する場合は誰が持ってる魔物を出すかも考えなきゃいけない。
全部買い取ってもらえるんなら問題ないんだが、数を流しすぎると価格が暴落するから、その辺も見極めないとってことで、ハンターにとってはかなり頭の痛い問題だ。
せめてレイドやユニオン単位で、ストレージを共有出来ればいいんだが……。
「あっ!」
「ど、どうしたのよ?」
そこまで考えて、思わず声を上げてしまった。
そうだよ、ストレージングが個人用空間収納
出来るかどうかは分からないからまだ口には出さないが、やってみる価値はあるぞ。
「いや、ちょっと思い付いた事があってな。プリスターズギルドに行きたいんだが構わないか?」
「プリスターズギルドって、もしかして何か奏上するの?」
俺が直接奏上した魔法はステータリングにイークイッピングの2つだが、プリムはフライングを、真子さんはスカファルディングを、エドはメルティングを、フィーナはロッキングを奏上してるから、マナもピンときたみたいだ。
「ああ。奏上出来るかは分からないけどな」
「面白そうね。私も行ってもいいかしら?」
「私も興味あるわ」
って、サユリ様やリリー・ウィッシュも来るのかよ。
いや、別に構わないんだけどさ。
それに実際に奏上出来れば、サユリ様やリリー・ウィッシュには大きな助けになるはずだから、奏上出来れば喜んでくれるはずだ。
という事で俺達は、ハンターズギルドを後にしてプリスターズギルドに向かった。
バシオンがアミスターに復領した事で、プリスターズギルド総本部はフロートに新しく建設される事になっているが、まだ建設してる最中だ。
だから今までのプリスターズギルド・アミスター本部が、仮の総本部となっている。
俺達ばかりかサユリ様まで来たって事で、少し騒ぎになりかけたが、目的を伝えるとすぐに儀式の間に案内してくれたな。
「さて、それじゃあやるか」
奏上の手順は、既に理解出来ている。
俺は魔法の女神像の前で跪くと、目を閉じてさっき思い付いた空間収納魔法をイメージし、魔法の女神に概要が伝わるように祈りを捧げた。
「おお、光った!」
「え?ああ、これで奏上出来たって事なんですね」
「さすがに初めて見たわね」
リリー・ウィッシュはサユリ様の影響を受けているから、魔法の奏上を試した事はあるらしい。
だけど残念ながら、成功した事はない。
だから実際に成功したところを見て、感動してるみたいだ。
「どれどれ……魔法名インベントリング。分類は
驚きの声を上げるサユリ様だが、俺もどんな感じで奏上されたのかを確かめないと。
互いのストレージを合わせる事で、ストレージの容量は半分になるが、共有空間インベントリへの収納が可能になる。
インベントリの容量は、合わせたストレージ数に応じて増加する。
ストレージを合わせるためには、魔法の女神像の前で祈りを捧げなければならない。
インベントリ利用者は、ステータリングで確認可能。
ステータリングを介する事でストレージからインベントリへ移す事が出来るが、逆は出来ない。
インベントリの使用履歴、及び輩出した物は、ステータリングで登録者全員が確認可能。
「この発想は無かったわね。ストレージの容量が半分になるって事だけど、個人で使うだけならそれでも十分だし、人数が増えれば増える程インベントリの容量が増えるから、ハンターにとってはかなり使いやすい魔法だわ」
「ほ、本当ですね。しかもインベントリを使う者はステータリングで確認出来るし、魔法の女神像の前で祈らないといけないから、勝手に増やす事も出来ないし、増やしたとしてもすぐにバレるわ」
「ストレージからインベントリに移す事が出来るのも便利ね」
「履歴も、使用者だけじゃなく出した物の確認まで出来るのが良いわね」
だいたいは俺の思ってた通りになったな。
ストレージの容量が半分になるとか、登録するためには魔法の女神像の前で祈らないといけないとってのは、俺の思ってたのとは違うが、安全とかを考えるとこっちの方が良いし、サユリ様の言う通りストレージが半分になったとしても、個人で使うには十分過ぎる容量がある。
なにせストレージングを使い始めたばっかでも、民家1軒分は容量があるって話だからな。
「エド達はフィールでやるとして、ここにいるメンバーだけでも登録しておきましょう」
「賛成です」
「私達も、ウイング・クレストの後でやりましょうか」
プリムもミーナも登録する気満々だし、リリー・ウィッシュもか。
いや、使い勝手は悪くなさそうだし、これからは狩った魔物はインベントリに放り込んでおいて、買取の際に纏めて放出出来るようになるわけだから、登録した方がいいのは間違いないか。
「分かった。それじゃあやるか」
「はい」
早速俺達は魔法の女神像の前で跪いて、ストレージを合わせる事にした。
セラス様とカメリアはまだストレージングが使えないから、残念だが登録は進化してからだ。
おお、何というか、魔力が繋がってるというか、そんな感覚がするな。
「なんか不思議な感覚だったけど、これでいいの?」
「ステータリングを見てみれば分かるだろう。『ステータリング・オン』。お、インベントリっていう項目が増えてるな。中は……さすがに空か」
「登録したばかりだしね」
「じゃあストレージは……あ、これか。あ、インベントリに入りました!」
「確認したよ。ラウスが持ってたアロサウルスが3匹とプテラノドンが4匹、インベントリに入ってきた」
思ってたより便利だな、これは。
インベントリは、物を出す時しか開けないみたいだが、ストレージから直接移せる訳だから、収納する場合は個人個人でやればいい。
間違えてインベントリに放り込んでも、レイドやユニオンだから大きな問題にはならないだろうしな。
「確かにこれは便利ね。さっき狩った魔物もだけど、トラレンシアやソレムネで狩った魔物も、全部移せたわ」
「私達も、けっこうな数を狩ってたんだねぇ」
「忘れてたワケじゃないけど、まだこんなにあったとは思わなかったわね」
リリー・ウィッシュも登録終了か。
後でアイゼンさんとヴォルフさんも登録するんだろうな。
「後は獣車も、インベントリに入れておいた方が良いわね」
「ですね。誰かのストレージに入れておくと、いざという時に困りますし、場合によっては詰んでしまいますから」
確かに獣車も、インベントリの方が良いな。
俺達もだが、リリー・ウィッシュも報酬として多機能獣車を貰って使ってるから、尚更そうだな。
「あたしはライやエリスの手が空いてからだから、登録は少し先かなぁ。面白そうだから、早く登録したいんだけど」
「それはさすがにね」
マルカ殿下は、ラインハルト陛下やエリス殿下とになるが、さすがに今は登録に来る余裕はないよな。
しばらくは我慢しててください。
「マリー、ミューズ。私達は登録しておこう」
「それが良いな」
「ええ。ですが私達は夫婦ですから問題ありませんが、オーダーとしては使い方が難しいですね」
「それは確かにそうかも」
逆にレックスさん、ミューズさん、ローズマリーさんは、この場で登録か。
確かに3人は夫婦だから何の問題もないんだが、これがオーダーズギルドとしてとなると、確かに使いにくいか。
いや、別に無理して使う必要はないし、レイドやユニオンで使えれば、それで十分じゃないかと思う。
「登録解除も魔法の女神像を介すれば出来るみたいだし、アライアンスを組む事があったらその時は登録して、終わったら解除っていう流れになるんじゃないかしら?」
「ああ、確かに緊急アライアンスの場合は、その方が良さそうですね」
「でもそれをすると、別の問題が出てくるわよ?複数のハンターズレイドのインベントリがくっついたりしたら、中身がとんでもない事になりそうだもの」
あー……確かにサユリ様の言う通りだな。
それにインベントリとインベントリをくっつける事が出来るのかっていう問題もあるし、仮に出来たとしても中身がごちゃ混ぜになるから、騒動の元にもなりそうだ。
「おばあ様、説明を見る限りでは、インベントリ同士を重ねる事は出来ないようですよ」
「え、本当?あ、本当だわ。登録解除の仕方も、予想通りみたいね」
俺も人の事は言えないが、サユリ様も説明書とかは最後まで読まないタイプか。
ユーリに言われて説明を読み直すと、確かに最後の方に、インベントリ同士を重ねる事は出来ないとか、複数のインベントリを使う事は出来ないとか、登録解除の方法も記されていた。
となるとインベントリは、レイド・ユニオン用って考えておいた方が良さそうだ。
基本的にはハンター用って事になりそうだが、ラインハルト陛下達やレックスさん達みたいに夫婦で使う人も出てくるだろうから、インベントリングは
魔法の女神様も、そこんとこはちゃんと考えてくれてたようで何よりだ。
ともかくこれで、今後の狩りもしやすくなったな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます