密林の女王
クラテル迷宮第3階層を進んでいる俺達だが、貴族街に入った辺りでまたしても出現する魔物に変化があった。
第3階層にはいってすぐからセーフ・エリアまではホブ・ゴブリンやレッドキャップ・ゴブリン、ゴブリン・プリンスにゴブリン・プリンセスだったが、セーフ・エリアを抜けるとガルム、テラ・ガルム、ステラ・ガルムに変わった。
ガルムは一般住宅が立ち並ぶ辺りまでは普通に出てきたんだが、貴族街に近付くたびに出現頻度が下がってきたから、貴族街に入ったら別の魔物が出てくるんだろうと予想していたが、まさにその通りになったな。
しかもそれが、本当にアマゾネスだったりしたから、予想が的中したとはいえ全く嬉しくねえ。
「ホントにアマゾネスがいたわね」
「この階層、性格悪いね」
「他の地区は調査してないから何とも言えないけど、入口にゴブリン、出口にアマゾネスって、確かに性格が悪いわよね」
俺達はアマゾネスを狩りながら貴族街を進んでいるが、貴族街は東西こそ広いが、南北はそこまでじゃない。
だから狩ったアマゾネスの数はそれほど多くはないんだが、だからといって予想が的中したところで嬉しくもなんともない。
マナ、ルディア、真子さんの意見に、俺も全面的に同意だ。
第3階層は全市街地階層で、ベスティアの街を模している。
だから建物の中に入る事も出来るようになってるんだが、その建物はほとんど全部が魔物の棲み処と言っても過言じゃない。
しかも建物は、高ければ5階建てなんてのもあったから、亜人はそれを利用して遠隔攻撃を仕掛けてきやがった。
その亜人も、第2階層から下りてきてすぐに上位種、希少種、異常種のゴブリンが、北区にある貴族街に入ると通常種、上位種、希少種、異常種のアマゾネスが出てきやがったからな。
「魔物の方はガルムしか確認できてませんけど、ベスティアの広さを考えたら、他にも何かいそうですね」
「でしょうね。多分だけど、区画ごとに縄張りが決まってるんじゃないかしら?」
「あり得ますね」
フラム、プリム、ミーナの言うように、亜人以外で確認出来たのはガルム種のみだ。
だからこの階層の調査を行うなら、他の魔物がいると思っておかないと、余計な被害を被ることになるだろう。
魔物の縄張りは区画ごとだろうっていうのがプリムの予想だが、俺もその通りだと思う。
特に西側にあるプリスターズギルドに南東のスラム街、北東の一般住宅街には、確実に魔物の縄張りがあるんじゃないかと思う。
「それについては、また今度調査しよう。それよりも問題なのは……」
「ええ。城門前にいる個体、あれってクイーンじゃない。門番みたいなのはいるかもしれないって思ってたけど、それが災害種っていうのは予想してなかったわ」
ヘリオスオーブの
次の階層に行くための階動陣は、例外なくセーフ・エリアにある事が理由だ。
セーフ・エリアは、従魔・召喚獣といった例外を除き、Oランクモンスターすら入る事は出来ないから、階層ボスみたいなのは、仮にいたとしても階動陣前で戦うような事はない。
だが目の前で俺達を待ち構えているアマゾネス・クイーンは、どう見ても階動陣の前に陣取ってやがる。
正確には階動陣があるセーフ・エリアの前になんだが、そんな事をする魔物なんて聞いた事ないし、記録にもない。
「どうしますか?といっても、倒すしかないんですが」
「ですね。この階層の調査をするだけなら無視するのも手ですが、ああまで堂々と待機されていると、例え無視したとしても攻撃を仕掛けてくるような気がします」
「だよねぇ」
だなぁ。
「ええ。正面からアマゾネス・クイーンと戦った場合、どこから増援のアマゾネス達が出てくるのか、隙を付いてセーフ・エリアに入れるのかといったことも検証出来るでしょうから、これも調査という事になるわ」
マナの言う通りだな。
階動陣のあるセーフ・エリア前に陣取ってるのはアマゾネス・クイーンだけだから、隙を付いてセーフ・エリアに飛び込む事は可能だろう。
だが周囲の貴族邸からアマゾネスがわらわらと出てくるのは間違いないだろうし、何よりアマゾネス・クイーンの隙を付くのはかなり難易度が高そうだ。
アマゾネス・クイーンはM-Cランクモンスターになるが、
いや、元々災害種は2ランク上相当と言われているから、目の前のアマゾネス・クイーンは終焉種に近い存在になってるかもしれない。
そんなアマゾネス・クイーンが多数のアマゾネスを従えるとなると、少数精鋭でも相手をするのは厳しいものがある。
少数で行くとしたら、右手の多節剣と左手の槍を掻い潜り、一瞬でもいいから不意をついてセーフ・エリアから引き離し、その隙に飛び込むぐらいしかないんじゃないだろうか?
幸いなのは、アマゾネス・クイーンはヒューマンやエルフと同じような体格だから、巨体に物を言わせるような攻撃はしてこないことか。
その分スピードはあると思うが、大きく吹き飛ばす事が出来ればいけると思う。
災害種を吹き飛ばすような攻撃なんて、ハイクラスでも合金製の武器がないと厳しいか。
「大和さん、私とフラムさんにやらせてもらえませんか?」
さあやるか、と思ってたら、突然ミーナがそんな事を言い出した。
フラムと2人でって、アマゾネス・クイーンをか?
「はい。Oランク相当の魔物を相手に、どこまでやれるか試してみたいんです」
「お願いします」
2人して頭を下げてくるが、どうしたもんかね。
ソレムネ行軍中にエンシェントクラスに進化したミーナとフラムだが、異常種や災害種との戦闘経験が無い訳じゃない。
というよりクラーゲン会戦で戦ったP-Cランクのアントリオン・クイーン、G-Iランクのアントリオン・プリンセスとは2人も戦ってるし、倒してもいる。
「先に言われちゃったかぁ」
「残念だけど、私達は次の機会にしましょう」
どうしたもんかと悩んでいたら、ルディアとリディアが残念そうな顔をしながら呟いた。
君達もですかい。
「いいんじゃない?本当に危なくなったら、すぐに手を出せばいいんだし」
「リディアとルディアもだけど、ミーナとフラムも相性が良いんだし、エンシェントクラスにも進化してるんだから、Oランク相当とはいえ亜人に遅れをとるような事はないでしょう」
同じレイド、ユニオンに所属していても、個人個人による相性は存在する。
性格的なものだったり戦闘スタイルだったりと理由は色々あるが、ミーナとフラムは性格的にも戦闘スタイル的にも合致しているらしく、ユニオンに参加した直後から連携を高めるための訓練も欠かしていない。
ウイング・クレストでコンビといえばミーナとフラム、リディアとルディアだが、リディアとルディアは双子の姉妹っていう理由が大きいし、双剣士と武闘士っていう組み合わせでもあるから、偶に連携ミスが起きてたりもする。
それでも致命的なミスって訳じゃないから、大した問題じゃないんだが。
「分かった。じゃあ俺達は、他の屋敷から出てくるであろうアマゾネスの相手だな」
どれだけの数が出てくるかは分からないが、やるしかない。
Side・ミーナ
私はフラムさんの援護を受け、真っすぐにアマゾネス・クイーンに向かいました。
「はあああっ!」
先制とばかりにメイス・クエイクを振るいましたが、アマゾネス・クイーンは左手の槍で受け止め、右手の多節剣で反撃をしてきました。
ですがそれは想定内ですから、私はシルバリオ・シールドと
「ギャラアアアアアッ!!」
互いに距離を取ると、アマゾネス・クイーンは右手の多節剣を鞭のように振るい始めました。
マナ様と手合わせをしたことが何度もありますから、多節剣については私もそれなりに知っています。
ですがアマゾネス・クイーンの多節剣は、驚いた事に刀身がそのまま伸びて鞭のようになっていました。
反射的に
全方位から襲い掛かってくるアマゾネス・クイーンの剣はフィールディング・プロテクションで何とか防げていますが、隙が見当たりませんし、一瞬でも気を抜けば破られてしまいそうな気配があります。
そこにフラムさんが矢を射掛けて牽制してくれてましたが、アマゾネス・クイーンは左手の槍を器用に回転させ、全て落としてしまいました。
「厄介な……!」
フラムさんも同じように感じたのか、矢や魔法から
アローレイン・テンペストはフラムさんが適正を持つ
フラムさんの魔力次第ですが、矢は槍のようにも針のようにもなりますから、いかにアマゾネス・クイーンといえど全て防ぐ事は出来ないでしょう。
「ミーナさん!あれをやりましょう!」
アローレイン・テンペストを使いながらフラムさんが声を上げます。
あれですか。
何パターンか試してみましたが上手くいかず、一度も成功していないのですが、あれをやるんですか?
いえ、悩んでいる暇はありませんね。
「わかりました!お願いします!」
「はい!」
私はシルバリオ・ソードにメイス・クエイクと結界魔法を展開させると、そのシルバリオ・ソードに向かってフラムさんがタイダル・ブラスターを放ちました。
タイダル・ブラスターを受け止めたメイス・クエイクは、フラムさんの融合魔法で1つになり、メイスから大剣へと変化していきます。
成功です!
その喜びを脇によけ、私は大剣を振るいました。
大剣は融合魔法で1つになったメイス・クエイクとタイダル・ブラスターだからなのか、剣を振るうと雷雨の矢だけではなく溶岩の矢も飛び出したので驚きましたが、驚いているのはアマゾネス・クイーンも同じのようです。
多節剣では防ぎ切れず体中に矢が刺さっていますし、槍も針状になった矢が回転を通り抜けたせいか、徐々に勢いが弱くなってきています。
さらにフラムさんが、もう一度アローレイン・テンペストを放たれましたから、いかにアマゾネス・クイーンといえど、完全に動きを封じられました。
「たああああっ!」
その隙を逃さず、私は大剣となったシルバリオ・ソードを、縦に振り下ろします。
その大剣の一撃はアマゾネス・クイーンの左肩に命中し、左半身を断ち切る形になりました。
災害種といえど、体を両断されては生きてはいられません。
肩口から両断されたアマゾネス・クイーンは、そのまま倒れ、命の灯を消しました。
「やった……。やりましたよ、フラムさん!」
「はい、やりました!」
まだ大和さん達が戦っている最中だというのに、私とフラムさんは、抱き合って喜びました。
ですが喜んでばかりもいられません。
「フラムさん、行きましょう!」
「はい!」
周囲に視線を送ると、100では足りない数のアマゾネスがいました。
いえ、ほとんど倒れていますから、動いている数だけですと20匹にも満たない数でしょうか。
倒れている個体はアマゾネスやウェヌス・アマゾネス、ヴァルゴ・アマゾネスだけではなく、アマゾネス・プリンセスもいますから、下手な集落より遥かに戦力があったんですね。
ああ、そういえばアマゾネスは森に生息していて、木々を利用して身を隠したり攻撃したりしてくるんでした。
ですからここは市街地ですから、アマゾネスの特性が薄れてしまい、戦力ダウンしていたのかもしれません。
密林の女王としては、この市街地階層は不本意な場所だったんでしょうね。
ですが同情はありません。
もしそんなことをしてしまえば、逆に私の方が命を断たれてしまう結果になったでしょうから。
気を取り直して、私はシルバリオ・ソードとシルバリオ・シールドを、フラムさんもラピスライト・ロングボウを構え直し、大和さん達の援護に向かう事にしました。
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